これに対して中国にとってはこの海域が太平洋に進出できる唯一の経路になる。中国の北側には韓国、日本、台湾が連なっているため、中国の戦闘機や艦艇が太平洋に出るには、事前に許可を受けるかリアルタイムの監視を受けざるを得ない。しかし南シナ海に拠点さえあれば、中国も太平洋に直行するルートを確保できる。そのためこの周辺は中国にとっても戦略的要衝となっているのだ。
過去の報道を調べてみると、中国が太平洋に露骨な関心を持ち始めたのは2006年ごろからだった。中国海軍司令官は当時、米国太平洋艦隊のキーティング司令官に「太平洋を2つに分割しよう」と提案したとの逸話が伝えられている。中国はその後08年に北京オリンピックを開催し、10年には世界第2位の経済大国になった。その中国が自分たちの「核心的利益」の6番目に上げているのがこの南シナ海だ。
2013年に習近平主席が登場すると、太平洋に対する中国の関心は一層高まった。大陸の西側に向けては一帯一路をスローガンに政策を進め、東には太平洋に進出する戦略を立てているようだ。習主席は13年にカリフォルニアで行われた米中首脳会談の際、オバマ大統領に「新しい大国関係」を提案し「広い太平洋には中国と米国という2つの大国を受け入れる十分な空間がある」と述べた。しかし習主席の発言にオバマ大統領は一切返答しなかった。習主席はその後、何度も同じ趣旨の発言を米国に向けて発し続けている。
識者らは「強大国になるには自分たちが支配できる海を持たねばならない」と指摘する。ローマ帝国は地中海を支配し、英国も地中海と大西洋を掌握して「太陽が沈まない国」になった。オスマントルコ帝国は地中海と黒海、旧ソ連は黒海、バルト海、オホーツク海を自分たちの内海としていた。