最後の3回転ルッツは、着氷のミスで思わぬ転倒をしてしまったが、演技を終えた羽生は、満足そうな表情で天をみつめ、ペロっと一度、舌を出した。観客から歓声が続くと、それに応えるように右手を突き上げた。
「優勝よりも自分の演技ができたことの方がうれしい。ほぼ完璧だった。ファン、チーム、関係者のサポートがあってこの結果になった。存分に体を使える幸せを感じた。今スケートができることが一番の幸せです」
自己最高の194.08点をマークした羽生の笑顔が弾けた。
オリンピックチャンピオンとして迎えた2014−2015年シーズンは、腰痛でスタートが遅れ、1試合目となった11月8日の中国杯では、6分間練習中に激突して、全身5か所に大きなダメージを負い、車椅子でなければ帰国できなかった。強行出場したNHK杯でも、怪我の影響で満足な演技はできなかったが、その大怪我から、わずか1か月で完全復活。GPファイナル連覇という偉業で、遅れを取り戻したのである。
「逆境こそ楽しい」と笑う20歳は、まさに逆境を力に変えて大きく成長した。
中庭氏は、羽生の黄金時代到来を感じるという。
「課題だったフリーの後半にも勢いがありました。前半のジャンプ成功で負担が少なくなったことも手伝ったのでしょうが、課題の克服というより、ウイークポイントが見えないようにカバーしました。怪我の影響はまったく感じませんでした。完全復活と言っていいでしょう。おそらく、次の全日本では、今シーズン挑戦するプランだったフリーでの4回転3つというプログラムに戻してくるのではないでしょうか。羽生選手は、クレバーなので、無理ならば、流れの中でトリプルルッツに変えることも可能でしょうから。彼がショートでの後半での4回転、フリーでの4回転3つという新しく誰も真似のできないプログラムを完成させれば、もう世界にライバルはいなくなるでしょう。羽生選手の黄金時代と言ってもいいのかもしれない。もう誰と戦うのでなく自分との戦いが始まりましたね」
12月25日から長野で始まる全日本選手権(男子SPは26日)が次なるターゲット。そして、来年3月の上海で行われる世界選手権が今シーズンのゴール。怪我から完全復活した羽生が、いよいよ、新しいプログラムを武器に黄金時代を構築する。
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