2015年11月6日03時25分
安倍政権で「地方の人口減少」が議論される中で、「希望出生率」という指標が新たに出てきた。地方自治を研究する東京大学大学院教授の金井利之さんに、「地方創生」と希望出生率の考え方について聞いた。(聞き手・見市紀世子)
――安倍晋三首相が「新3本の矢」の政策に「希望出生率1・8」を掲げました。昨年から今年にかけて「地方創生」の文脈で、地方自治体が次々と数値目標を発表しています。なぜでしょうか。
「まず、国は少子化対策を自分ではやらないという意思表示です。石破茂地方創生相が6月5日に公表した『地方創生における少子化対策の強化について』の中で、〈出生率の向上には、『これさえすれば』というような『決定打』もなければ、これまで誰も気付かなかったような『奇策』もない〉と認めて、「地域アプローチ」を提唱しています。人口減少の問題に国として取り組む能力がないのか、やる気がないのかは分かりませんが、『地方創生』という政策課題にすることで、自治体や地域社会に責任転嫁したということです」
――10月発行の著作「地方創生の正体」(ちくま新書)の中で、地方自治体が人口維持や増加のために人口を数値目標に設定するのは「危ない」と指摘されています。どういうことですか。
「日本全体の人口が減っていく中で、自治体が競争して人口を取り合うわけですから、多くの自治体は結果として人口が減ります。数値目標を立てるなというのではありません。しかし、人口を指標にすると、成功すれば国やマスコミから称賛されますが、失敗すると糾弾されます。失敗してから救済を求めても、国からは無視されるでしょう。達成できない目標は立てるべきではない」
――京都府京丹後市が3月、2060年に市の人口が3割増えるという「人口ビジョン」を発表し、推計が過剰ではないかと話題になりました。
「過剰と言うと合理的に聞こえますが、むしろ無謀でしょう。ただ、あまりに無謀だと誰も達成できるとは思わない。つまり、数値目標を定めていないのと同じ効果があります。その意味で、京丹後市は国の圧力を逆手にとって、したたかだと思います。そもそも、自治体が設定した数値目標に、外野がとやかく言うことは、『大きなお世話』なのです」
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朝日新聞社会部
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