青々とした海藻が森のように茂る三陸の海です。
さまざまな生き物が身を寄せ日本有数の豊かさを誇っていました。
うわ〜。
その豊かな海を巨大津波が襲いました。
いや〜すごい。
この時海の中で何が起きていたのか?震災から2か月後海に入り記録した貴重な映像です。
茂っていた海藻が流され泥に埋まる無残な海底が広がっていました。
陸上から膨大ながれきが流れ込み海の環境が一変していました。
生き物たちが住みかを追われ豊かな海が失われたのです。
津波は海にどのような影響を与えたのか。
かつて経験した事のない事態を解明しようと日本中から300人を超える研究者が集まり調査を続けています。
猛烈な勢いでさまざまなものを押し流した津波。
生き物の生きる環境を激変させていました。
更に海底の調査をしたところ大量の土砂が積もった事も明らかになりました。
魚が産卵する場所や餌場などが奪われ生き物を育む環境が根こそぎ奪われたのです。
あれから5年近く。
私たちは三陸各地の海を潜る事にしました。
がれきの撤去が進められてきたにもかかわらずいまだに壊れた防潮堤の一部が沈んでいました。
一方そのそばにはかつてのような青々とした海藻が茂っています。
生き物たちの姿もありました。
壊滅的な被害を受けた三陸の海。
かつての豊かさを取り戻せるのか。
震災から5年目津波の海からの報告です。
沖合に世界三大漁場が広がる三陸の海。
津波はいかに深刻な影響を与えたのか。
岩手県釜石沖の海底に今年5月カメラが入りました。
沖合35キロ水深550メートルの映像です。
海底は泥で覆われています。
そこには津波で流されたと見られる車のバンパーなどが沈んでいました。
魚を取る網も流されてきています。
津波の爪痕は深海にも残されていました。
津波は沖合から岸の浅瀬まで広い範囲で影響を与えました。
特に深刻な打撃を与えたのが複雑に入り組んだリアス海岸の沿岸です。
最大17メートルの津波が押し寄せ大きな被害を受けた岩手県大船渡市の越喜来湾です。
震災4か月後。
この湾の中にカメラが入った時の映像です。
水深10メートルを過ぎると津波で沈んだ漁船が見えてきました。
この湾にはさまざまながれきが流れ込み生き物にダメージを与えました。
更に潜っていきます。
津波が深い海底までがれきを引き込んでいます。
水深50メートルでは養殖のカキやホタテなどが泥に埋もれていました。
この越喜来湾で魚の生態を調査してきた北里大学の朝日田卓教授です。
調べているのはかつて多様な生き物が身を寄せていた浅瀬です。
震災後アマモという水草のそばに生息する魚の数や種類が大きく減ったといいます。
合図合図。
オッケー。
お願いしま〜す。
まず丘まで上がっちゃおう。
三陸は震災前アマモ場に住む魚の種類が全国トップクラスの多さを誇っていました。
しかし朝日田さんが調査したところ越喜来湾の魚の種類はおよそ半分に減少。
数も13分の1と大幅に減りました。
今回の大津波は多様な魚や海藻が育つ沿岸各地に甚大な被害を与えました。
78万トンのがれきが出た岩手県山田町。
アイナメやカレイが取れる場所でしたががれきが流れ込みその漁場に大きな影響を与えました。
宮城県気仙沼市。
海藻が生い茂っていましたが大量の土砂によってその環境が変わりました。
巨大な水の壁となって沖合から流れ込んだ津波。
その猛烈な力で魚や海藻を押し流してしまったのです。
1,000年に一度といわれる大津波。
専門家が想像していなかった事態が起きていました。
海底の地形を一変させてしまったのです。
震災前には見られなかった海底のあちこちに出来たクレーターのような穴。
大きさは平均で直径3メートル前後あります。
東海大学の坂本泉准教授はがれきが大量に流れ込んだためこうした事が起きたと見ています。
坂本さんが見つけた直径10メートルある最大のくぼみを取材班が撮影する事にしました。
中央には四角いものが写っています。
沖合1キロ。
水深17メートル。
土砂の影響で濁っていて視界があまり利きません。
四角く写っていたのは津波で流された堤防の一部でした。
はるか1キロにわたって運ばれこの場所に流れ着いていたのです。
周辺を見ると海底が削られえぐられています。
津波の力で地形が変わりそこにいた生き物が住みかを奪われたのです。
大量のがれきが流れ込むとなぜ海底に大きなくぼみが出来るのか。
沖合ではジェット機並みの速さで進んだ津波。
強力な力で水中の岩や海藻などを押し流しました。
構造物があると土砂を削る動きが生まれくぼみが出来ていきます。
この時乱流と呼ばれる水の流れが起きます。
水の勢いが強くなると乱流の力も増し海底が大きくえぐられるのです。
海底ではもう一つ生き物に大きな影響を及ぼす事態が起きていました。
震災後の映像に浅瀬から深海まで共通して映っていたものがありました。
津波によって積もった大量の土砂です。
これは岩手県の大槌湾で震災後海底の地質を調べたデータです。
湾全体に砂が堆積しその厚さは最大1メートルに達していました。
その結果浅瀬に生えていた海藻は育ちにくくなり地中にいた貝類なども厚い土砂に埋まってしまったのです。
なぜこうした事が起きたのか。
京都大学などの研究チームが解き明かしました。
大槌湾の地形を再現した実験装置です。
ここに津波を起こします。
水深が浅い場所で土砂が舞い上がります。
すると土砂が沖の方へ下り始めました。
加速しながらより深い方に流れていきます。
震災では最大時速30キロの流れが生まれ大量の土砂が深海まで広がりました。
土砂は流れ下りながらがれきや生き物を巻き込んでいきました。
想像を超える津波の働きが環境を大きく変えたのです。
少なくとも短期的には与えたと思います。
さまざまな生き物を押し流した津波。
生態系のバランスが崩れ深刻な影響が出ています。
高さ15メートルを超える津波が町の防災庁舎に押し寄せた宮城県南三陸町の志津川湾です。
影響が出ているのは津波の中で辛うじて流されなかったアラメという海藻の森です。
その茂った場所を抜けると…。
真っ白な岩肌が続いています。
海の砂漠化磯焼けです。
磯焼けの場所ではウニが大量に発生しています。
そのウニがアラメに集まっています。
アラメを食べているのです。
ウニには特殊な構造の口があります。
これでアラメを削り取るように食べているのです。
磯焼けを調査している東北大学の吾妻行雄教授です。
磯焼けを起こしているウニは少ない餌を奪い合っているため通常に比べ身が極端に少なく商品になりにくいと言います。
なぜウニは大量発生しているのでしょうか。
これは震災2年前の志津川湾の映像です。
アラメの周辺ではさまざまな生き物が共存する生態系が出来ていました。
アラメを食べるウニ。
ウニの天敵ヒトデもいます。
ヤドカリもウニの天敵です。
ウニと天敵がバランスを保っていました。
しかし津波によってこの生態系が崩れる事になりました。
震災から半年余りたった志津川湾の様子です。
岩場にいたヒトデやヤドカリはほとんど流されてしまいました。
ところが…。
ウニの中には流されず残ったものがいました。
岩の隙間などにとどまっていたのです。
残ったウニは震災半年後の秋に産卵しました。
一つのウニが産む卵の数は500万から1,000万。
天敵がほとんどいなくなった中通常とは桁違いのウニが育つ事になりました。
大量のウニがアラメを食べ尽くし磯焼けが起きているのです。
微妙なバランスで保たれていた三陸の豊かな海。
それが崩れた事で生態系に異変が起きているのです。
東日本大震災による津波で壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町に来ています。
ご覧頂いたようにあの津波は人の命や住まいを奪っただけでなく海の中にもかつてないほどの爪痕を残しました。
三陸の豊かな海の環境そのものを大きく変えてしまったのです。
私たちが初めて直面したこの事態を解明しようと多くの研究者が調査を進めています。
その結果浅瀬からはるか沖合の深海まで広範囲に津波の影響が出ている事も分かってきました。
一方5年近く調査を続けてきてもまだ分かっていない事が数多くあり底知れない津波の力が改めて実感されます。
さて津波によって大きなダメージを受けた三陸の海ですが今自然が持つ力によって回復の兆しも見えてきています。
多様な生き物が共存する生態系が一部で戻りつつあるのです。
北里大学の朝日田卓教授が浅瀬に住む魚を調査してきた岩手県大船渡市の越喜来湾です。
震災直後には魚の数が13分の1に減りました。
それが少しずつ戻ってきていると言います。
(取材者)これは何ていう種類の?
(朝日田)これギンポの仲間ですね。
どれだけ戻ってきているのか。
今月取材班が潜って撮影しました。
港の浅瀬。
水深1メートルのコンクリートに青々とした海藻が生えています。
体長10センチほどのメジナの群れです。
更に水深5メートルの場所に行くと…アマモが密集しています。
広さはテニスコート12面分。
身を寄せる小さな魚やそれを狙う大きな魚も集まっていました。
海の中の食物連鎖を支えているアマモ場。
それが戻ってきていました。
震災4か月後の映像では大量のがれきが流れ込み泥に覆われていた海底。
その海が変わってきているのです。
この湾の魚の数も少しずつ戻ってきています。
では魚の種類はどれだけ回復しているか。
光をあてて呼び寄せおびえないよう無人カメラで撮影する事にしました。
小魚を狙って姿を現したのはエイの仲間です。
ヒラメも深場からやって来ました。
震災前このアマモ場では50種類の魚が確認されていました。
その8割ほどが回復したといいます。
撮影を続ける事16日。
生態系が戻ってきた象徴的な姿を捉える事ができました。
この日もアマモ場で撮影していました。
すると…。
何かがやって来ました。
アジの群れです。
数万はいると見られます。
体長は20センチほど。
餌を求め外敵から身を守ろうとやって来たようです。
こうした大きさのアジがアマモ場にいる事は極めて珍しい事です。
今年5月に撮影した沖合の定置網漁です。
アジやサバが大量にかかっていました。
撮影したアジは将来湾を出てこうした沖合に向かいます。
豊かな生態系が回復してきたのです。
海の豊かさはなぜここまで回復してきたのか。
東京大学の小松輝久准教授はアマモが戻ってきた事が原因の一つだと考えています。
小松さんは海に潜りアマモの量の変化を調べてきました。
震災前の志津川湾のアマモの分布です。
湾全体で60ヘクタール。
東京ドームおよそ13個分が豊かに生え生態系を支えていました。
ところが津波で一旦半分に減少。
そこから回復していくには土砂が流れ込んだため簡単ではありませんでした。
志津川湾に押し寄せた津波の強さを計算したデータです。
矢印は波の進んだ方向と強さを表します。
アマモがほとんどいなくなった場所には強い波が押し寄せていましたが一方で比較的弱い場所もありました。
そうした場所では流されずに残ったアマモがありました。
その残ったアマモが回復の鍵を握りました。
アマモには海底に根づくため地下茎があります。
この地下茎から新たに芽が出てきたためアマモの回復につながったのです。
残ったアマモが命をつないだ事で去年の段階で震災前の8割まで回復してきました。
アマモの回復は三陸の漁業の復興を後押ししています。
この地域は養殖のカキやワカメなどの日本有数の産地です。
カキは人間が餌を与えず海の中の栄養分だけで育てられています。
海の中の小さな海藻や植物プランクトンなどを食べて成長します。
カキの養殖を行う菅原博文さんです。
津波で父親を亡くし自宅も流されました。
養殖施設も全て失った菅原さん。
一つ一つ補修し震災1年半後に養殖を再開しました。
震災直後宮城県のカキやホタテなどの水揚げは激減しましたが去年までで4割から9割回復しています。
津波で環境が変わったにもかかわらずなぜ一部の海でこれほどの回復をしているのでしょうか。
志津川湾で栄養素の調査を行っている…津波によって海底の地形が変わるなど海の環境が変わった影響で栄養素も失われたのではないかと危惧してきました。
注目しているのは窒素やリンなど栄養塩という物質です。
志津川湾の生き物を育てる栄養塩。
その一部は川が源です。
雨水で土などから栄養塩が流れ出て志津川湾に注がれます。
もう一つ親潮に乗って北の海域から大量の栄養塩がやって来ます。
この親潮の恵みも志津川湾に流れ込むのです。
門谷さんが調べたところ1リットル中の栄養塩の濃度は震災後もほとんど変わっていない事が分かりました。
津波によって環境が大きく変わったにもかかわらず栄養塩を提供するシステムはほとんど失われていなかったのです。
豊かな生き物たちが戻りつつある三陸の海。
10月。
漁業者の菅原さんが待ち望んでいた季節がやって来ました。
サケ漁です。
(笑い声)この地域のサケは近くのふ化場で生まれたものがほとんどです。
しかし多くのふ化場が津波で壊滅的な被害を受けました。
稚魚は川から湾に出て北の外洋に向かいます。
回遊しながら3年から4年ほどで成長し再び生まれ育った場所に戻ってきます。
今年戻ってくるサケの多くは震災の翌年に生まれたものです。
岩手宮城で60か所あったふ化場のうち48か所が再開しています。
環境が大きく変わったふるさとの海や川に戻ってくるのか…?いました。
遡上しています。
震災後に生まれ戻ってきたサケと見られます。
産卵しています。
1,000年に一度ともいわれる津波があってもなお自然のメカニズムが息づいていました。
あの津波によって海に流れ出たがれきや積もった土砂などの量は岩手宮城合わせて1,300万トン近くと見られています。
私も震災直後の海を見た時この海が元に戻る事はないのではないかと暗たんたる気持ちになりました。
その海が今少しずつ回復しているという事実に正直驚かされます。
津波の海を撮影したカメラマンの映像には自然の持つ破壊力とそして何よりもその回復力が映し出されていました。
その大いなる自然の力には畏敬の念さえ覚えます。
三陸の人々はその海と改めて向き合おうとしているのです。
「自然にやられる事もあれば生かされる事もある」というその言葉が強く印象に残りました。
生まれて2か月のあーちゃん。
2015/10/31(土) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 東日本大震災▽“津波の海”を潜る〜三陸・破壊と回復の5年間〜[字]
東日本大震災の津波で大きな被害を受けた三陸の海。海の中で何が起き、それによって生態系にどういう影響が出たのか、その海が今どうなっているのか、水中映像で迫る。
詳細情報
番組内容
東日本大震災の津波で大きな被害を受けた三陸の海。あの日、海の中で何が起き、それによって生態系にどういう影響が出たのか、さまざまな分野の研究者たちが調査を続けている。それによると、思わぬ形で複雑に影響が出たことやその影響が今も出続けていること、一方で、場所によっては想像以上に回復しているところもあるなど、知られざるメカニズムが少しずつ明らかになってきた。さまざまな水中映像によって海の生命力に迫る。
出演者
【キャスター】鎌田靖,【語り】渡邊佐和子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:26979(0x6963)