NHK俳句 題「時雨」 2015.11.01


これでこの時間の体操を終わります。
このあともどうぞお元気で。
ごきげんよう。
「NHK俳句」司会の岸本葉子です。
第1週の選者は池田澄子さんです。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
そして今日はゲストに俳人の金子兜太さんをお招きしました。
ようこそお越し下さいました。
はいよろしく。
お二方にはご一緒なさった本があります。
こちらは池田さんが選ばれた金子さんの百句について対談なさっているんですね。
何かねひょんな事で出来てしまった本なんですけれども。
もう私素人なのに本当に思ったまんまを先生にお話しして先生もあきれられたんじゃないかと…。
金子さんはその時の印象は…?ええあのね普通の俳人と違ってね角度が違うんですよ質問の角度が。
それで「ああこの人はなかなかやる人だな」と思って感心したのを覚えてますええ。
じゃあその辺りもね今日のいろいろ読みで出てきそうですね。
うん。
さあ今日の兼題は「時雨」です。
先ほどの冒頭の池田さんの句がありました。
金子さんあちらはどう鑑賞なさいましたか?え〜っとあれは私は好きな句ですね。
好きな句ですけどね…まあ「我ら去ぬれば」…まあ「我ら去ぬれば」っていうところがいかにもこの人らしいんですけどね。
ちょっと全体が叙情に流れてる感じがするな。
池田さんにしては叙情に流れてる感じがして。
もっとこの人の句は渋いっていうか切れ味のいい句なんですけどね。
知的屈折がある句と言ったらいいかな?うん。
これなんか穏やかな句です。
穏やかな句であると。
ではその池田さんがお選びになった入選句をご紹介していきます。
池田澄子選入選九句。
まず1番です。
時雨の句っていうのはつい情緒になられてこう何か寂しく甘くなりがちなんですけれどもこの句はちょっと違うんですね。
その「時雨」というのを気象現象の一つというように捉えていて情緒的な方へいかなくて肝の据わった句だと思ったんですね。
どっしりといるこの牛の生きざまをよしとしているっていう事でその人の人間が見えてくるかなと思いました。
2番にいきます。
「しぐれきて中止」って随分のんきなのどかな…。
ね!そんなパトロールあるんでしょうか?お仲間うちで自発的にやってるようなパトロールなんでしょうかね。
時雨が来たから中止してもいいっていうのはそのご町内があんまり犯罪なんかがない平和なご町内なのかなと思いました。
何か時雨の短さをこういうふうに生かした…。
そうですね。
3番です。
朝から縁起悪いですね。
ここで朝から読むのもちょっと縁起悪いかなと思ったりしましたけど。
駅とか電車の中じゃないかと思うんですね。
みんな急いでいる。
これから一日が始まっていくっていう朝ですね。
で事故なのか自殺なのかそういう死者の思いなどには全く関係なくねこう何ですか…単なるお知らせとしてのアナウンスが入ってる。
このいわゆる風雅とかそういうところから最も遠い普通の日常が詠まれているというところがいいんじゃないかと思いました。
確かに風雅から遠いっていうのはいいね。
現代的感覚だな。
それをまた時雨と合わせたのが…。
そうそう。
それが…その組み合わせが若くて新鮮ですね。
はい。
4番です。
あの〜征きて帰らざる人は本当にたくさんいますよね。
私事ですけど私の父も征って帰りませんでした。
でこの「繊き」という漢字ですけれど普通ですと右っ側田んぼの「田」ですよね。
そうじゃないこの字を使いたかったっていうのはやっぱり何かちょっと時雨に鋭さっていうかそんなものを感じさせたのかなと思いましたね。
「時雨」と言って「征く」と言うと神宮外苑のね学徒出陣式をつい思い出しますけれども。
繊いだけではない鋭い時雨を感じているっていう心の痛みを感じました。
そうね。
金子さん戦後70年でまたこういう句がね投句されるんですね。
こういう句が出てくるとねちょっと気持ちが震えますね。
戦中派の私なんかね。
5番自由題です。
「あやまあもう」にはびっくりしましたね。
もう日が暮れたという今日今の事がすごくさりげなく急に「来し方」まで上っていくんですね。
その移り方のさりげなさが絶妙かなと思いました。
6番です。
「しぐるゝや」っていう平仮名ですね。
この平仮名が次に来る「檄」という漢字をちょっと強烈に意識させていると思うんですね。
よくこういう事ありますね。
声は大きいっていう事は分かるんだけれども何を言ってるのか分からないっていうような。
よくある事ですね。
そこをうまく捉えたと思います。
7番自由題です。
え〜っと賛否が分かれる句だとは思うんですね。
ただ雨といえば普通は「ざーざー」とか「しとしと」とかというふうに詠まれるんですけど「とことこふって」って。
何か「雨とことこふって」ってこれ読んでるととっても適切なオノマトペのような感じが私してきたんですよ。
でこう「一緒になってああ蔦かれてしまったのね」っていうような気分に私なりました。
先生どうでしょう?これね知的な遊戯っていう感じがして面白いんだな。
「とことこふって」っちゅうこの持っていき方がね非常になかなか知的ですよこの句。
8番自由題です。
この「続き編む」っていうこの具体的なところがこの句の一番いいところかなと思うんですね。
であの〜ストールの編みかけがあった。
そこには編み棒も一緒にある訳ですよね。
この半端なとこに。
そうすると続きを編む人はその母が持っていらしたと同じ形で同じ編み棒を使って続きを編んでいくっていう事だと思うんですね。
大変よく書けてると。
この具体的なとこが。
よく分かりますね。
ええ。
9番です。
返信したお相手がえ〜どうなんでしょうご主人とかそれからお子さんじゃないかなと思うんですけれどもね。
きっと「雨が降ってきて傘持ってないから迎えに来て」っていう着信があったんだと思うんですね。
ですからこれは「返信す」と言ってますけれどもその前に「着信した」という事も隠して言ってある訳ですよね。
そういうところがうまく書けてるなと思いました。
これは相手が待ってるんじゃないかな?はい。
そうですね。
「時雨だからすぐ止むからそのまま待ってなさい」とお母さんは突き放してる。
はい。
以上が入選句でした。
さて今日は金子さんにおいで頂いています。
めったにない事です。
そこで今日は金子さんに今の入選九句もう少し評や鑑賞を伺えたらと思います。
今九句出ました。
いかがでしょうか?私はねこのね4番っちゅうのかな。
「還らざる繊き時雨に濡れ征きて」っていう。
これ「還らざる」で切る訳ですね。
「繊き時雨に濡れ征きて」っつうとまあ戦争中の事を思い出しますね。
それでこの方征ってもう既に戦死した訳でしょ?これは。
そういう思いがこうゆっくりと入ってくる…穏やかにゆっくり入ってくるってとこに悲しみがあるんだな。
だからこういう句ってね句材としては随分あるんですよ。
モチーフはねあるんですけどねこの句のように落ち着いてね自分の情感を述べてるっていう書き方をしてるとね句として光りますね。
ええ。
この句にすぐ目がつきましたね。
私が戦中派っちゅう事もあるけどもね。
それから5番のね「おやまあもうと短日も来し方も」ってのは「もう」っていうとこれ牛か何か飼っておられるんじゃないかというふうにふと思ったりしてね何かほほ笑ましい気持ちがして。
この「もう」っていうのは擬音というんですがね音をなぞらえる訳ですけども音をなぞらえた句として読んでも面白い。
そばに牛舎があると見ても面白いっていうふうなそういうね連想のできる句ですね。
それからまあ9番の「時雨でしょ止むまで待てと返信す」。
「止むまで待てと」っていう力から見るとこちらが迎えに行く立場にあるように思えますね。
それで分かります。
リズムで分かりますね。
なかなかリズムで分からせるっての難しいんですけどね。
まあこの3つは目につきましたね。
なかなか「時雨」という兼題私も投句したんですけど結構難しい。
その兼題そのものに情緒性があるのでどう放したらいいか。
おっしゃるとおりね私も池田さんが「時雨」っていう題を出したっつうのは驚いた。
この人はねそういう古風な季語はねあんまり愛着を持たない人なんですよ。
そんな事ない。
それがね何で「時雨」っていう題を出したかなと思ってね非常に冒険をして面白いと思いましたね。
もう「時雨」ってのは古風な季語です。
池田さんの場合はこういう古風な季語をね現代風な感覚でねひねっちゃうんですね。
それがこの人得意なんですよ。
それが新鮮なんです。
伺うと池田さんの特選句いよいよ楽しみになりました。
さてどの句が選ばれるんでしょうか。
それでは本日の特選句です。
まず三席の句から。
はい。
7番。
桑原鶴代さんの句です。
はい。
では二席をお願いします。
はい。
3番。
大津実乃里さんの句です。
いよいよ一席です。
1番。
渡邊友心さんの句です。
池田さんこの一席特にどこが印象的でしたでしょうか?あのね「時雨」っていう季語はねとっても好まれている言葉でこの言葉を思うとどうも同じような思いになってしまうみたいなんですね。
でこの句はそういう共通の情緒のところに止まってないで本当に現象としての時雨を詠んだ。
そしてそれに加えて「牛」という…「牛の反芻」って牛が生きていくっていうねそれを肯定しているっていうかいいと思っている人。
その時雨の情緒に負けなかったっていう事で一位に採りました。
なるほど。
金子さん今の…?あのね「時雨」という季語の情緒に負けなかったっていうのは適評ですね。
ぴったりです。
この季語をね現代感覚で生かせるっていうのはこの人大したもんですよ。
今週の特選でした。
続いては添削のコーナーです。
ここをこうすればもっとよくなるというポイントを教えて頂きます。
今日はこの句ですね。
…という句があったんですね。
非常に情緒的な一句なんですけれども。
でその内容よりも思うんですけれどもその「泣かぬと決めたから泣かない」っていうのは日常的な暮らしとしては生活の中ではとてもいい事ですよね。
泣かないと決めたんだから泣かない。
できればそれはいい事なんですけれども決めたら泣かないで済む程度の事ですねっていう感じも意地悪く言うと。
そんな事を思ってしまうんですよね。
どうしたらもっと強い句になるでしょう?添削っていうんじゃなくてもしこれがねこの句が私の句でしたらばそうですね…「決めたけどやっぱり泣いてしまう」っていうそういう句にすると悲しみが深くなるしちょっと心の屈折が出てくると思うんですね。
それで……というふうに私の句だったらそういうふうにしてこの「書く」という行為が一つ具体的に現れるとちょっとまた情緒だけじゃなくなるような気もするんですね。
作者の方どうでしょうね?以上俳句作りの参考になさって下さい。
それでは池田さんの年間テーマ「びっくりして嬉しくなる俳句」についてお話を伺っていきます。
今月のテキストでのテーマは「寒さと人恋しさ」というふうになっています。
ところで時雨といえば時雨忌を思いますね。
芭蕉さんの忌日ですよね。
ちょっとお話がずれるような感じがしますけれどもこういう句があります。
「夢」とそれから「枯野」っていう言葉は何となく芭蕉の有名な「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」という句を思い出しますよね。
で兜太先生には「自選自解99」という本があるんですけれどもその中でですねこの句についてこの句を作った前後の時にはご自分は芭蕉の事は頭になかった。
だけども後で見てみるとこれもまあ芭蕉のその句の本歌取という事になるのかなと気が付いてほほ笑んだというような意味の事を「自解」で書いていらっしゃるんですね。
いかにも兜太先生らしい大きくて華麗な句ですよね。
芭蕉の句っていうのはそういうふうに知らず知らずに私たちの体の中に染み込んできているんですね。
兜太先生は芭蕉もいいけれども荒凡夫一茶の方がご自分には嬉しいっていうところがおありではあるんですよね。
そうですね。
もちろん芭蕉も大事にしてますけどねまだ芭蕉はね私は超えられると思ってるんですよ。
大胆にも。
はいはい。
ところが一茶の持ってるあのアニミズムの世界ってのはねなかなか届かないと思ってますね。
一庶民だけどもなかなか見どころのある人ですね。
一茶という人は。
さて今回池田さんから是非これを金子さんに伺いたいという事があります。
それは…。
こちらを池田さんお願いなさったんですね。
先生はね有名というかすごくパンチの利いた覚えてしまうそういう句がいっぱいあるんですね。
私その百句の時も百句選ぶんじゃなくて落とすのが大変だったんですよ。
ですからベスト3句って言われたらば先生お困りになるだろうと思うんですけども是非お聞きしたいと思いました。
そこを無理やり3つ選んで頂きました。
では早速発表します。
第三位はこちら。
私の庭の風景です。
早春の風景でねあれは何だ…早く咲くのがありますね早咲きの紅梅が。
それが咲いてる訳です。
それでもう空気は春の空気でその中に青鮫があの空気は南の方の海の空気です。
色と似てますからね。
それで青鮫が来てるように思ったという事なんですけどね。
それだけの事で季節の訪れをこういう事に書いたんですけども。
奥様の俳人であった皆子さんがそのお庭に木をいっぱい持ってきて植えられたんですよね。
そうですそうです。
これはもううちの奥さんが持ってきた木ですね。
もっともこの木はそうか…学生さんが持ってきたんですね。
ちょっと学生と関係してた時期がありましたので。
卒業祝に持ってきてくれたんですけどね。
そうですか。
それで人によって青鮫が金子兜太がトラック島に戦争中いてその時のトラック島の沖の方では日本の輸送船が沈められてそれで人が溺れるそれを青鮫が食べに来てる。
その事が頭にあったんじゃないかという事を言う人もいます。
いますけど言われてみるとまんざら否定もできないですね。
非常に強烈な印象ですからね。
それがきっと働いていると思います。
特に先ほど「南の風」とおっしゃった時に今の鑑賞と結び付きました。
さてでは第二位にまいりましょう。
こちらです。
これはね長崎に私3年ほどおりましてその時に出来た句です。
爆心部に近いとこにいましたもんですからね。
それでよく歩き回ってたんですがある日ふと山の向こうの方からマラソンの一団が走ってくるという映像が出ましてねそのマラソンが爆心部に入ると同時にみんなやけどをして体がくねくねっとしてね体が崩れてく走ってる体が崩れちゃってるというそういう事を映像を持った訳ですね。
それでそれ夢にまで見た。
その時にふっと出来た句です。
先生この漢字の画数の多いガシャガシャッとした感じがまたこの句にすごく力を与えてますね。
そうなんです。
それでどういう句にしようかと思って字引を引いてた事も事実ですが彎曲っていう言葉に出会った時この句が出来ました。
分かります。
彎曲で出来ました。
ではいよいよ一位にいきます。
こちらの句です。
これが私のいたトラック島です。
私はアメリカ軍の捕虜になりまして1年3か月仕事をしまして最後の引き揚げ船で帰ってきたんです。
その時にね引き揚げ船がず〜っと環礁内を走ってやがて外へ出ていく。
その水脈の果にですね「ああそういえばたくさんの人がここで死んでる。
その死んでる人の墓碑を置いてきたな」とそういうふうな思いがうわ〜っと湧いてきましてねそこからこの句がその時に出来たんですよ。
これがず〜っと実は私の…戦後帰ってきてからの私の人生をですねだんだんだんだん支配するようになってまして今はもうこの句のために死にたいぐらいに思ってますね。
もっとはっきり言えばここで墓碑になってる人たちのために墓碑になってる人たちのために自分のできる事はしたいと。
特に今96でございますからねもう何もできる事ったってできはしないんだからね結局トラック島の思い出を語ると。
戦争っていうのがいかにむごいものであるかという事を伝えたいと。
この句はだから忘れませんね自分でも。
いつもお守りみたいに持ってます。
長く句作を続けてらして自選の三位までの句が戦争の句というのがとても私今胸に重く受け止めています。
お時間が来てしまいました。
今日はゲストに金子兜太さんをお招きしてお送りしました。
金子さん池田さん本当にありがとうございました。
いやありがとうありがとう。
ではまた来週この時間にお目にかかりましょう。
2015/11/01(日) 06:35〜07:00
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「時雨」[字]

選者は池田澄子さん。ゲストは俳人の金子兜太さん。今回は金子さんに自作の中からベスト3句を選んでもらい、それらについてたっぷりと語り合う。題「時雨」司会 岸本葉子

詳細情報
番組内容
選者は池田澄子さん。ゲストは俳人の金子兜太さん。今回は金子さんに自作の中からベスト3句を選んでもらい、それらについてたっぷりと語り合う。題「時雨」。【司会】岸本葉子
出演者
【ゲスト】金子兜太,【出演】池田澄子,【司会】岸本葉子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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