美の壺・選「結び」 2015.11.01


(テーマ音楽)姪っ子がね結婚報告に彼氏と一緒に来るっていうんでお祝いを包もうと思いましてね妻に祝儀袋を買いに行ってもらったんです。
見て下さい。
これが伝統的な祝儀袋。
鶴の水引細工。
見事でしょう?ところがねこういうのもあるんですよ。
英語の水引細工。
長い水引を束ねて結ぶ。
はぁ〜こんな複雑な細工を作るなんてお見事。
うん。
そうなんです草刈さん。
うん?水引細工は「結び」の芸術。
結びには日本人が極めた美と技があふれているんですよ。
なるほど。
1本の紐を結ぶことで美が生まれる。
こちらの文具店では水引をさまざまな形に結んだ斬新なデザインの祝儀袋をそろえています。
ブーケのような水引。
こちらは富士山。
英語の水引もあります。
こういうお花とか付いてるような。
プレゼントに付けるリボンみたいな感じ。
結びと言えばこんなものも。
神社に欠かせないしめ縄。
神社には他にも結びがいっぱいです。
巫女の髪飾りに結んだおみくじ。
結びには「神様の力をとどめる」という意味もあります。
一方こちらは人気の和菓子店。
和菓子の世界でも結びは欠かせません。
作っているのはおめでたい紅白の生地を結んだ…「縁を結ぶ」という語呂合わせから結びのお菓子や料理はお祝いの席の定番です。
和菓子の結びという形は……という気持ちでお作りしております。
ふと気付けば身の回りにあふれる結び。
今日はそんな結びに隠された意外な美をたっぷりご堪能頂きます。
結びの世界に惹かれた人達が集まっています。
こしの強い絹の組み紐を結んでアクセサリーやインテリアを作ります。
指導しているのは田中年子さん。
日本古来の結びの技をよみがえらせるなど結びの作家として創作活動を続けてきました。
(田中)それで横。
これ引けば。
で花びらを同じ大きさにして真ん中がきれいな五角形になるように。
先生が結び直して下さると全然違う作品になるんですね。
だから皆さん古い方も皆さん「先生の手は魔法の手ね」ってみんな言っておられますね。
魔法の手。
田中さんの結びの技をご覧頂きましょう。
1本の袋の口紐から何が生まれるのでしょうか。
紐をねじって輪を4つ作ります。
それを一回りするように紐を渡すと…。
リボン?それとも何かの羽?最後につまんで形を整えるとアゲハチョウです。
1本の口紐がチョウの姿に変わりました。
こうした美しい飾りは「花結び」と呼ばれます。
3つの梅の花。
ところが田中さんの魔法の手にかかると桜の花になりました。
こちらは?桔梗です。
梅の花にちょっと手を加えるだけで四季折々の花に早変わり。
花結びの奥深さです。
これは本当にすごいことだと思います。
もともと一本の輪ですから……というのがもうすごい魅力でした。
優雅で美しい花結び。
そのルーツには意外な歴史が隠されています。
今日一つ目の壺は…花結びの始まりには茶道が深く関わっていました。
主人の傍らに置かれた茶入れの袋。
その口紐の結びが花結びの起源でした。
戦国時代千利休らが完成させた茶の湯。
織田信長豊臣秀吉をはじめとする武将に愛され時に政治に利用されました。
茶の湯の席で武将達が恐れたのは茶に毒を盛られること。
そこで武将に仕えた茶人達はある仕掛けを考えだしました。
日本に伝わるさまざまな結びをまとめた…そこには茶に毒を盛られないよう袋の口を結ぶ方法がいくつも記されています。
簡単にはほどくことができない鍵の役割を果たす「封じむすび」です。
田中さんはその後途絶えてしまった「封じ結び」の技を再現しました。
ほどくのが最も難しいとされる「真の封印結び」です。
まずは大きな2つの輪を作り袋の口を結びます。
現れたのは大きな結び目。
更に外側の輪を交差させ結び目の下に締め込んでいきます。
こうするとどこからほどき始めていいかが分からなくなり容易にほどけない鍵の役割を果たすのです。

(田中)この結びをほどく時には…戦国の世が生み出した封じ結び。
江戸時代天下太平の世になると袋の結びの美しさを競い合うようになります。
それが花結びと呼ばれるようになりました。
田中さんはそんな花結びを現代に受け継ぎさまざまな作品を生み出してきました。
春咲き誇る藤。
長く垂れ下がる花穂に加え葉の部分までもが1本の紐で見事に表現されています。
夏をにぎやかすせみしぐれ。
羽の重なり具合そして2つの目まで忠実に再現されています。
秋ススキ野原を飛び回る赤とんぼ。
オスとメスのつがいが仲良く寄り添います。
冬雪原を舞う鶴。
大空を飛ぶ姿が目に浮かぶようです。
封じの結びから花結びへ。
日本人の細やかな手技が生み出した結びの美が数百年の時を超えて生き続けています。
見て下さい。
文箱にチョウチョの封じ結びをしてみました。
この中に大切な手紙なんかを入れておけば誰かに見られてもすぐ分かりますね。
まさに鍵ですね。
草刈さんもしかして見られたくない手紙でも入れているんじゃないですか?とんでもない!さっきの祝儀袋を入れただけですよ。
それにそんな手紙を入れようもんなら封じ結びに関係なくすぐ開けられちゃいますよ。
妻は本当に勘が鋭いんですよ。
それにしても結びってよくできてますよね。
役に立って美しい。
日本の美術品によくありますよね。
これが機能美ってやつですかねぇ。
うん。
都内にある美術館。
展示室の裏に広がる日本庭園で役に立って美しい「結びの機能美」を見ることができます。
門の両側に造られた竹垣です。
何やら結びがちらほら見えますが…。
よく見ると黒いシュロ縄でしっかりと結ばれています。
結び方も交差させたり縄の先を垂らしたりさまざま。
こうした結びが集まって一つのデザインにもなっています。
左側に目を移すとこちらの竹垣は結び目があまり目立ちません。
向こう側の庭と相まって程よいアクセントになっています。
この所にこういうふうな結び目を入れていけばこれがまた竹垣全体の調和を取った非常に美しいものになるというそういう造り方というのがあるんだろうと思います。
(西田)何気なく日常生活の中に一つ一つが大事な結びがあるということはこれは本当に大事な日本の文化だと思います。
機能と美しさを兼ね備えた竹垣の結び。
今日二つ目の壺は…竹垣の結びの美を生み出すのは職人の緻密な計算と繊細な美的感覚です。
造園家の秦民樹さん。
秦さんは世界を放浪した末日本庭園の魅力に目覚め造園家になることを決意。
庭造りの心を知るため茶道を学ぶなど修業を積んできました。
その熱意と腕が信頼され庭造りを頼まれるようになりました。
今回は都内の寺の境内に竹垣を新調します。
秦さんが使うのは黒く染めたシュロ縄です。
シュロ縄の染め縄を水につけて…まずは縦に並べた竹に横に渡した竹をしっかりと固定します。
「いぼ結び」という単純で強い結び方です。
太い竹を固定するには強度が必要なため縄を3本まとめてしっかりと結びます。
更に結び目が大きい「飾り結び」で趣を加えます。
秦さんのこだわりは結びが竹垣の上に作り出すリズム感。
結ぶ位置と数を計算して軽快な竹垣を演出します。
これをこの距離で4つ結ぶのか5つ結ぶのか6つ結ぶのかというだけで…こちらの竹垣には更に違う結びを使います。
上段は先ほどのいぼ結び。
2段目は1本の縄を横に絡めて縦の竹をずれにくくする…そういう良さがあると思います。
秦さんの造った竹垣。
用の中に美あり。
その出来栄えをじっくりと味わってみましょう。
正面の「建仁寺垣」。
黒い結びが適度な間隔で配置され竹組みの単調さを打ち破っています。
表側の「金閣寺垣」には大きな飾り結びを使って重厚感を。
裏側の「四つ目垣」は逆に結びの存在感を抑え軽やかさを出しました。
いぼ結びとからみ結び。
2つの結びを併用することで見た目の変化に加えて強度も増すようにしています。
それでその機能している竹と竹をしっかり結んである強さの中に美しさがあると思います。
さりげなく美を添える竹垣の結び。
見栄え良し機能良しの結びです。
さあ出来た。
せっかく来てくれる姪っ子のために私のワインコレクションから自慢の1本を贈ることにしました。
この風呂敷の包み方もいいでしょう?ここにも役に立って美しい結びの技が生きてます。
(チャイム)お姪っ子達が来たようだ。
あ〜どんな結婚相手を連れてくるかドキドキしちゃうねぇ。
草刈さん。
え?姪御さんのご結婚をお祝いして最後の壺は縁結びにちなんだ結びをご紹介しましょう。
へえ是非お願いします。
縁結びの神様として有名なこちらの神社。
良縁を求める女性達が毎朝早くから集まります。
お目当てはこちら。
神聖な白い玉砂利をくるみ赤い糸で結んだ「縁結び玉」です。
一日20限定のラッキーアイテム。
もらえただけでもう幸せいっぱいです。
うれしいよねこれでね。
うん。
神様の御利益に恵まれたカップルには更なる結びのお守りが。
それは赤い糸で編んだ…「将来結婚する2人は運命の赤い糸で結ばれている」という言い伝えにちなんでいます。
縁結びの神様の力が宿る赤い結い紐。
新郎新婦は神前で交換し幸せを誓い合います。
今日最後の壺は…日本料理の世界ではおめでたい席に結びの料理を出す伝統があります。
紅白の結びかまぼこに三つ葉で結んだ湯葉巻き。
軟らかで結びやすい湯葉は結びものの定番です。
紅白なますの結びもの。
ひょうたん型の白玉にも結んであります。
江戸時代から続く老舗料亭の調理長咲本博司さんです。
38歳で調理長に就任して17年。
国賓を招いた晩餐会の料理も数多く手がけました。
咲本さんに結びものを使った祝いの料理を作って頂きました。
縁起物としてお吸い物に使われる鱚。
咲本さんは他にも……など旬の素材を厳選して結びます。
食材の縁起の良さに加え結びの料理に重要なのが色。
2色そろうと紅白になるにんじんと大根は欠かせない食材です。
互いに相手を抱き合うような結び方には「夫婦仲良く共に生きていってほしい」という願いが込められています。
盛りつけにも咲本さんの細やかな心遣いが。
海老しんじょの台を置き汁の中に沈まないよう結び鱚をその上に載せます。
一番上には紅白相生結びを添えおめでたい色が真っ先に目に飛び込んでくるようにしました。
最後に金箔をのせ完成です。
お客様も出てきた時により一層「こういうふうにして結んだ物が出てくるんだ」ということをものすごく感じてもらえることが多いですので。
私達料理人としてもやはりそこまで思いを込めて作ってますので。
江戸時代のベストセラー…この中に当時はやった料理として結びものがいくつも登場します。
結びの料理を広めたのはしゃれ好きの江戸っ子達。
昆布を「よろこんぶ」と語呂合わせするなど縁起のいい食材を選んで結び祝いの席を飾るようになったのです。
これは「夫婦鯛」です。
祝いの宴のクライマックスとなる鯛の贅沢な焼き物。
咲本さんはこの豪華な料理に添える縁起物尽くしの結びものを作ります。
手綱型のねじり大根です。
手綱型はおせち料理の定番。
それをにんじんで結ぶと色も形もおめでた尽くしです。
そしてもう一つ。
豊作を表す俵型にした赤飯を三つ葉で結びます。
こちらもめでたさが2倍3倍になるという趣向です。
こうして作った結びものを鯛の焼き物に盛りつけて完成です。
ここまで細かく考えてそれを料理に使ってるというのをお客様に感じてもらえるのが私達も一番うれしく思いますしそれを感じて頂けるお客さん達もたくさんおられますので…料理人の心が込められた祝いの料理です。
今姪達が帰りました。
2人が持ってきてくれたお菓子です。
あ〜これもちゃんとめでたく結ばれていますよ。
じゃあ妻がたててくれたお茶と一緒においしく頂きましょう。
うんおいしい。
赤ちゃんが好きな形を知っていますか?2015/11/01(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「結び」[字]

身近なテーマを中心に、美術鑑賞を3つのツボでわかりやすく指南する新感覚美術番組。今回は「結び」。案内役:草刈正雄

詳細情報
番組内容
モノとモノとをつなぐ“結び”。そこには、日本人が極めた美と技があふれていた!今週はそんな“結び”の魅力を紹介する。まずは、たった一本の絹ひもで花鳥風月をかたどる美しい「花結び」。次に「竹垣」。竹とシュロ縄が作り出す幾つもの結び目の連続が、全体が調和した美しいたたずまいを演出する。最後に、日本料理の祝宴に欠かせない“結びもの”。縁起の良い食材を結んで、そっと盛りつける調理人。結びに込めた心とは何か。
出演者
【出演】草刈正雄,【語り】礒野佑子

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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