・今日保育園何して遊んだの?・ブロック。
・ブロックで遊んだの?楽しかった?・楽しかった。
ほんと?みんなで遊んだの?うん。
何作ったの?ロケット。
ロケット?ブォーー
(飛行機の音)
(桜木一歩・ナレーション)
爆音…つい見上げる空
ついでに探すUFO
(「東京だョおっ母さん」)
(琴子)ああ〜あははっ。
ああ〜ははっ。
相当張ってるわ。
(琴子)そう?うん。
つらいときは我慢しないで言ってよ。
(琴子)ああ〜あははっ。
はぁ〜私は幸せ者だぁ。
はぁ〜。
おっ。
(琴子)あっああ〜。
(一歩・琴子)あははっ。
うん。
うん。
(琴子)でもそろそろ一歩も結婚考えないとね。
う〜ん俺はいいわ。
結婚したらおばあちゃんとこなんか寄り付かないかしらねぇ。
いや家庭なんか持つ気全然ないよ。
(琴子)あらトマト?そうすき焼きに入れるとねさっぱりするんだって。
珍しいわねぇ。
おばあちゃんトマト好きじゃん。
そう!子供の頃ねぇ…。
(アラーム音)
(アラーム音)ありがとうございました。
3時間で9000円です。
あっ…。
あっ下ごしらえは全部やっていきますんで常連さんへのサービスってことで。
・
(琴子)一歩ちゃん!延長お願い。
悪い…。
すき焼き一人じゃわびしすぎるじゃん。
このあと予約入ってるんだよ。
キャンセルキャンセル!チップ弾むわよ。
信用問題だし…。
そういう律儀なとこが…。
私の子になんなさい!えっ?養子になってくれたらあのうちあげる。
はあ?私たち気が合うじゃない。
まるで本物の孫かと私思っちゃうわよ。
ははっ…。
(琴子)3人も産んで育てたのに息子も娘も私のことをほっぽりっぱなし。
私はねお墓の竹筒の中でしおれた菊みたいな気分なの。
えっ竹筒…。
昔はね竹の筒にお花供えたのよ。
私の墓参りは気が向いたときでいいからね。
いや…って言われても…。
家にお金と株券も付けてそっくりあげようじゃないの。
・はい5時間ですとはい1万5000円の方に…。
(吐夢子)はい「お友達レンタル友情物語」です。
あっうちそういうんじゃありませんから。
いやだからですねぇいろんな人間関係に悩み傷つきまた孤独を感じている方々にですねそれぞれニーズに合うスタッフを…。
・ガチャ
(電話を切る音)・あっすみません…はい。
(百合雄)またセックスがらみ?ホームページにそれいたしませんって書いてあるのに…。
・ありがとうございます。
無理。
やっぱ無理。
私じきくたばるわよ。
いや…。
ちょっと一緒に暮らしてお葬式出してくれるだけでいいの。
実の子が3人いてそれに連れ合いがいて孫までいるわけでしょ?遺言書くわよ。
俺絶対疑われるし。
(桜木ほの香)はいはい…。
えっ?あっ…私の名前ですか?星野です。
星野…あゆかっていいます。
あの…結婚するんで相手の両親に会うための家族を見繕ってほしいんです。
どうも。
(吐夢子)はいお客様ラッキー!ぴったりのスタッフがいます。
(桜木鯛子)親を置き去りに何勝手なことしてるの?喜んでくれると思ったのに。
親には親のメンツも立場もあるわよ。
手順ってものがあるでしょ。
式場キャンセルが出たって超安いのがあるのよ。
式は急いだ方がいいって彼も。
だって結婚は私の問題…。
バタン!・ツーツー…
(電話が切れた音)はぁ〜。
ほんとに…勝手なときばっかり!
(吐夢子)よろしく。
うわ〜みんな入ってる。
どうしよう?これは…。
ねえ百合雄さん。
(百合雄)ん?
(吐夢子)あなた月末の土曜日って空いてたっけ?
(百合雄)どうかなぁ?
(吐夢子)自分のスケジュールぐらい覚えてよ。
(百合雄)そっちの仕事だろ。
(吐夢子)うちも登録メンバー増えて管理しきれないわ。
ああ〜この日百合雄さん埋まってるわ。
百合雄さんぐらいの年齢のスタッフ追加募集した方がいいんじゃないの?そうね〜。
70前後のお父さん役も欲しいって言うのよその子。
へえ〜。
兄貴が行方不明でおやじまでいないんだ。
どういう家なんだよ。
ねえ一歩ちゃんとこのお父さんっていくつ?バイトお願いできないかしら?ああ〜無理無理。
おやじ包丁ひと筋でぶきっちょだし。
料理人なの?うん。
(吐夢子)あら欲しい人材だわ。
空いてる時間のアルバイトでいいからって伝えてくんない?うん…分かった。
(吐夢子)あっ…。
パシッ!あっ…。
東京タワーは正式名称を日本電波塔といい1958年昭和33年生まれです。
スカイツリーという若い塔が誕生してからは東京タワーがお父さんスカイツリーがその息子という位置づけでしょうか。
飛行機UFO東京タワー
子供の頃から気になるものが3つ
(麗美)そう…そういうブルーのネクタイしてたの。
ああ〜注文どおりの色でしたか?
(麗美)そのときの彼はといえばそのネクタイの色ほどにも冷静だった。
そうですか…。
(麗美)二股バレたのに平然と結婚はキャンセルねって。
はあ〜ひどいですねぇ。
(麗美)私沸点に達した鍋の蓋のように震えて言葉出なかったの。
そのとき言うべきだった言葉をぶつけたいの。
はいどうぞ。
はぁ…「俺たち別れようぜ」って言って。
ああ…んん!んん!俺たち別れようぜ。
まあお互い縁がなかったってことで。
もう一回言ってごらん。
相手のブスも無事にすまないし結婚式に乗り込んで裸にひんむいてピンヒールで踏んづけてやる!バン!あはははっ!な〜んてね。
あなたのお誕生日にはバースデーケーキを買うわ。
はぁ…あっありがとう。
暗い部屋にロウソクともしてカミソリでカットして食べるわ一人で。
ざけんじゃねぇぞ!いやあっ…いやあの…ちょっと…こういうの契約に…あっあっ…。
あのときの彼に見えたの。
ごめんなさい。
いやいや…。
(麗美)ご…ごめんなさい。
大丈夫ですか?高い服悪いね。
(麗美)このままつきあっちゃおうかなぁな〜んて。
ははっ…どうしようかなぁな〜んて。
(麗美)お金払えばつきあってくれるの?つきあうってこういうの?
(麗美)こういうの。
うちそういうのはいたしません。
ほかの用件なら喜んで〜。
よいしょ。
バタン
(ドアの音)パンパンパン…
(布団をたたく音)
(悦世)はぁはぁ…。
(悦世)鯛子ちゃ〜ん!あははっキンメダイのいいのが揚がったんだけどさ…。
ふふふっ。
刺身と煮付けでどう?わあ〜作ってもらおうかなぁ。
ふふふっ。
お酒飲み過ぎちゃうかなぁ。
あははっ台所借りるよ。
は〜い。
・
(悦世)たくさん干してんのね・1人暮らしなのに。
布団はふっかふかにしときたいの誰がいつ帰って来てもいいように。
・
(悦世)武士のことまだ待ってんの?あいつの親戚としちゃああんたに悪くてさぁ。
あっ私はですねピンクの花柄のスカートはいて…はいあと上は白い服着てます。
髪型…ボブ…。
星野あゆかさんですか?
(店内BGM)はあ?お兄ちゃん?声で気が付かなかった?お前こそ。
ヘリウムガス吸ったみたいな声出しちゃって。
上ずってたんだよ緊張で。
星野あゆかなんてキラキラネーム。
だって本名まずいしあとヤバ気だったらキャンセルするつもりだったの。
実の兄がいんのに何やってんだよ。
だって住所知らない電話通じない。
あれ?知らせてなかった?イタ電多くて番号変えたんだよ。
聞いてないし。
はぁ〜。
というわけで婚約しました〜!はいはい。
お兄ちゃんまさか私からお金取らないよね?取らねぇけど…。
だいたいお兄ちゃんもお父さんもうちにいてくれたら。
自分だって家出たくせに。
仕事都内だし〜。
で相手の男は大丈夫なのか?どんなやつだよ?東京タワーでUFO探そうぜとか言わない人。
ふふっ覚えてんだ。
どこにいるんだろう?元気なのかなぁ?サンフランシスコの和食の店で働いてるって。
私もお母さんからそう聞いた。
飛行機でいつか帰って来るなんてなぁ。
おふくろいつの間にか言わなくなって俺も聞かなくなった。
でもつい今でも空見上げちゃうんだよなぁ。
(回想)お父さん!お父さん!
(武士)帰れ!ついてくるんじゃない東京タワーでUFO探そうって言ったじゃないか
(武士)この線は越えたらだめ!お父さんの言いつけだあっ…あっ…お父さ〜ん!出てったお父さんよりお母さんの背中覚えてる。
けど代役のおやじって…。
結婚したあと先長ぇぞ。
バレたらどうすんだよ?なんとかごまかす。
正直に言やよかったのに。
お父さん家出して行方不明って?言えねぇな。
相手の親に会ったとき勢いでつい家族の話盛っちゃったんだよね。
はぁ…どうしよ?
入道雲夕立草いきれ
今日もいっぱい捕ろうねうん!
絵日記
ねえお兄ちゃん待って〜!
夏休みはいつもほの香が隣にいた
土の道をポクポク…二人で歩いた
そのほの香が嫁に行く
放っておいたくせに急に来たさみしさ
ふぅ〜。
わあ〜!お兄ちゃん!亭主きっと帰って来るが初めの5年。
帰って来てほしいが次の5年。
遠い海鳴り数えつつ待つ身に慣れて今となり。
独り言言うようになっちゃった。
「独り酒は酔いの回りが早いのよ」とたまの電話でおふくろは言う
ふぅ〜そういやしばらく帰ってなかったよなぁ。
よう一歩!おお。
ほの香ちゃんも帰ったんか。
(2人)はい。
(漁師)久しぶり。
(一歩・ほの香)久しぶりです。
また。
おお。
東京から120分のふるさと
潮の香りに目覚める鼻
自分が潮騒を揺りかごに育ったことを思い出す
こんにちは。
こんにちは。
ほらいた!暇があれば畑いじってるんだから。
おしゃれして再婚すればいいのに。
はあ!?何驚いてんの?普通だよ。
はぁ…。
お兄ちゃんお母さんあの家にずっと一人で置いておく気?ん?お母さんこれから年取ってくんだよ。
誰が面倒見るの?俺?自分はどうなんだよ?私は桜木の家抜けてよそのお墓入るのよ。
墓守はお兄ちゃんの役目なんだよ。
墓守ってお前…。
お母さ〜ん来たよ。
捜してたんだよ〜。
お兄ちゃんも。
竹筒のしおれた菊
何作ってんの?
琴子ばあちゃんの言葉を思い出していた
ガラガラ…
(戸の音)まだ怒ってる?二人そろって何事?ほの香の結婚式の打ち合わせとかあと…。
ちゃんと食ってるって。
貧血気味?どうかな?赤ちゃんおなかにいる?なんで分かるの?勘よ。
お式はいやに急ぐし。
えっ?めまい立ちくらみは?ない。
だから仕事もしてるけど今月で辞めんの。
何か月?はぁ…。
よいしょ。
うちの近くで産みたいの便利だし気楽だし。
勝手なときばっかり。
だって〜。
夕ご飯は?食べていけるの?今日は泊まる。
一歩は?うん…。
えっ?っていうかお前お母さんになるわけ?うん。
俺がめまい立ちくらみしそう。
あなたレバーだめだし悦世さんにそう言って煮干しと干しエビ持ってきてもらうわ。
おやつ代わりにかじるといい。
やった〜。
ふふっ。
ねえチンゲン菜ってなかったっけ?あるわよそこ。
じゃあ蒸しチンゲン菜のネギ油ソース作るか。
ほの香の好物ね。
あいつに作ってやんのも最後かもしれないし。
艶と姿のよい煮干しだわ。
あなたたちおかげで歯は丈夫でしょ?これで育ったから。
ほの香のよい子の歯コンクールの賞状どこにしまったかしら?賞状?だって花嫁道具持たせてやれるわけじゃなし歯が二人とも丈夫なのは財産よ。
私の誇りなんだもの。
う〜ん。
うん。
よし。
あぁ…。
・ふふふふ〜んあのさぁあの…聞きたいことがあるんだけど…。
お父さんのこと?お父さんのレンタルだなんてほの香。
元気なの?山梨にいる。
えっサンフランシスコじゃないの?ん…パスポートの期限なんかチェックしてた。
えっ?だってアメリカに飛ぶかもとか思って。
会いたいの?全然。
山梨よ。
ごめんね。
もう…ほの香。
ん?・ほの香ちょっと!何?お父さんの連絡先知りたいんでしょう?っていうかお兄ちゃんが…。
向こうの親に会うときおやじいないんじゃ変だし。
よいしょ。
連絡つくの?うん。
ドキドキしてきた。
呼んでも来ないかもしれないわよ。
俺たちほっぽらかして出てったんだ。
ほの香の結婚式ぐらい出てもらうよ。
ねえもしお父さん帰って来てそのままうちにいてくれたら私としちゃあ楽なんだけどな〜向こうの家に対して。
何言ってんだよ。
だって年でしょ?ふるさとにいたいとかそういうのあるんじゃないの?用がすんだらたたき出す。
そういう言い方はやめなさい。
ここはお父さんの家なのよ。
はあ?もしいたいって言ったらずっといてもらうから。
ふざけんなよ。
お兄ちゃん。
子供には子供の気持ちと立場があるんだよいちいち言わなかったけど。
それは悪かったわ。
おやじのいない家なんて家じゃないよ。
家庭とかわが家とかなんだか分かんないしだから結婚なんて考えられないし絶対許さない。
親じゃないの。
一緒に住んでなきゃ他人だよ。
あなたたちだって家出てったっきりお正月も帰って来ない。
いやそれとこれとは…。
帰って来るか来ないか分からない家族のためにお節作る身にもなってちょうだい。
一人で黒豆煮てかまぼこ切って数の子ボリボリかじりながらお酒飲んでテレビの除夜の鐘聞きながらうれしくて涙がこぼれるわよ。
うどんで首つって死んじまえ。
はぁ…一度言ってみたかったの。
忘れて。
だからお節なんかいらないって言ってんのに。
「なんか」…「お節なんか」?ムキになることかなぁ?季節ごとの折り目節目の行事なくしたら家じゃないでしょ。
家族でみんな行事を律儀に守るから家なの。
だからってさわざわざゆず湯にチャポチャポつかることもないんじゃないの?みんなが同じ匂い立てて健康を喜び合って同じもの食べて…。
それが家族よ。
私はそういうこと大事にする家に育ったし一家の固めの儀式みたいなもんなのよ。
でももうバラバラじゃない。
バラバラにならないように大みそかとお正月だけは帰って来てって言ってるの。
年末わざわざ混み合う時期に民族大移動ってばかにする人いるけどそういう混み合うとこ必死に帰るからこそ迎え入れる家族もうれしい。
訪ねる家族もうれしいの。
手帳の間にメモ挟んどいたんだけど。
ねえお母さんなんで離婚しなかったの?あっそれ俺も聞きたい。
お父さんが離婚届送ってこないもの。
帰って来る気持ちがあるってことでしょ?分かんねぇなぁ。
ここがお父さんの家だから…みんなの家だから。
もう誰もいないじゃないか。
足音が残ってるわよ。
ただいま!おかえり
(武士)おかえり。
あれ?いってきま〜す!
(武士)あら!せわしない…お父さ〜ん
(武士)何?おっきくなったよ!
(武士)えっおっきくなった?ほの香ズルすんなよ!あなたたち大きくなるにつれ足音も変わっていった。
そういうあれやこれや残ってるのよ。
これをだなぁ…おお〜すごっ!俺にもやらしてだめ!なんでよ〜
(武士)よし家って木やコンクリートだけで出来てるんじゃないの。
そこ毎日掃除する女の思いがこもってる。
人の思いがなくなったらそこはもう家じゃない。
私は掃除は嫌だな。
震災でね家をなくした女の人たちがどれだけ切実にわが家の掃除をしたいか分からない?家事が恋しい人だっているの。
帰るも帰らないもお父さんの思いに預けてるの。
あった?ううん。
あっ船員手帳。
何?それ。
おやじマグロ船に乗り込んで1年間家空けてたことあるだろ?そうだっけ?うん。
自分の店持ちたいから手っ取り早く稼ぎたいって。
あははっほら。
ん!やっと帰って来て俺飛び上がって喜んだのにすぐまた出ていっちゃった。
お母さん働いてたし運動会なんか私一人でお弁当食べてたのよ。
俺だって。
そのことより友達のお母さんが「こっち来て一緒に食べよ」って哀れみの目つきで。
それが惨めだった。
あったわメモ。
・
(音声ガイダンス)お客様がお掛けになった電話番号は現在使われておりません。
使われてないって電話。
引っ越したのかしら?交流があったんなら転居通知ぐらい…。
筆まめな人じゃないもの。
そう…通じないんだ。
じゃあお父さんやっぱりレンタルだね。
気楽なこと言うなよ。
えっ?だって…。
ねえなんでさ住所聞いてないわけ?そうねぇ聞いとけばよかったわ。
もしかして死んじゃったとか?ちょっと人が結婚するってときにそんな話…。
気になるだろ?だってお兄ちゃんお父さんを許さないって…。
けじめの問題。
妙なことになっててあとでトラブったりとかそういうの…長男のくせに親ほっぽっといたとか言われるし。
お父さん一人でいるのかな?えっ?誰かと一緒にいるんじゃないかな?お母さん?う〜ん…。
女いるわけ!?結構若い人らしいけど。
はあ〜ちょっと…何!?それ!そんな驚くこと?普通だよ。
お前の普通って何なんだよ?私平成生まれお兄ちゃん昭和。
価値観違うんじゃない?自分だって昭和と平成が入れ替わる途中のたまたま平成側だっただけじゃん。
痛っ!痛っ!本気で蹴ったお前!本気で!すぐムキになる!うっざ!はあ?「はあ?」しか言えないの?ボキャブラリーないの?お前だいたいな誰のために…。
頼んでないじゃない!お前なぁ!うるさい!おやじ出てったの女が原因なの?違う。
出ていってからよ女の人できたの。
じゃあなんで出てったわけ?一人で考えたいことあるって。
はあ?考えるって何を?20年も考え続けてるわけ?子供は?お父さんに私たちのほかに子供いないの?いないと思うけど。
子供?だって女の人と暮らしてたら…。
子供はどうかしら?もしいたら…えっ?俺たちの弟か妹?そうね。
もう勘弁してよ〜。
遺産の問題とかそういうの…。
そんなもんこの家以外にありゃしないわよ。
電話番号以外にさなんか…なんか手がかりないの?仕事先なら聞いてるけど?甲府市内のホテルの厨房。
ふぅ〜。
おやじの椅子
ん〜!チンゲン菜激うまっ!ふふっ。
だろ?うん。
そういえばずっとそこにあり続けたのだった
なぜ不思議に思わなかったのだろう?
アルバムにもおやじはもういない
キキィー!
(ブレーキ音)事務所に電話したら今日はオフだって言われたの。
粘ったら自分で交渉しろって。
えっ?ん!はぁ〜。
運転してもらって金なんかもらっていいわけ?うん。
俺体は売らないよ。
いいよ〜。
なんで俺をご指名?顔が好きだから。
ふふふっ。
それだけ?ほかに好きになってほしいとこがあるの?いや…。
男は体と器量がよければいいわお金と知性は私が持ってるし。
な〜んかむかつくんですけど。
だから男に振られるんだ。
今そう思ったでしょ?全然…思ってない。
(麗美)あなたがお父さん捜す時間以外は私あなたの時間買ったんだから。
ああ〜…。
お嬢様運転いたしましょうか?車に癖が付くから嫌。
休日を一人で過ごすのにまだ慣れてないのよ。
友達は?見栄張って私が男捨てたことになってんの。
会って芝居すんのもかったるいし。
でも…骨がきしむほど寂しいの私は!なんか…世の中さみしいやつばっか。
プゥーー!
(クラクション)何やってんだよ?プゥーー!神様への抗議よ。
こんだけ鳴らしたら天に届くでしょ。
じゃあ行ってくるわ。
うん。
はぁ…。
確か…。
(麗美)おお〜!・コツコツ…
(足音)
(麗美)どうだった?仕事は辞めたんだって。
ああ〜でも住所は分かった。
ここかぁ。
行こう。
ピンポーン・今日ご飯何食べたい?・ハンバーグ。
ハンバーグ?デザートは?ん?イチゴのアイス。
ピンポーンうちに何か御用ですか?えっ?あっあの…そのお子さんは…。
はあ?桜木武士の子供なんでしょうか?えっ?いや桜木武士と一緒に暮らしてる方ですよね?いいえ。
あっうち昨日越してきたばっかりなんで表札前の人のまんまなんですよ。
じゃあ桜木は引っ越したんですか?そうだよ。
あっあの…い…行き先は?おたく誰?桜木武士とはお知り合いだったんですか?よく一緒に飲んでた。
おたく誰?一応息子です。
一応?何?それ。
口紅貸して。
(麗美)ん?口紅。
(麗美)ウサギ?昔おやじに作ってもらってた。
手先器用なんだ。
(麗美)ふ〜ん。
ふふっ。
ウサギってさ…。
あんまり人に構われないとさみしさで死んじゃうんだって。
構われ過ぎても死ぬって言うわよ。
へえ〜。
ウサギも人間もめんどくせぇ。
めんどくせぇね。
顔見たらなんて言おうかずっと考えてたんだけど無駄だった。
ホテル戻る?誰かもっと詳しい情報持ってるかもしれないし。
もういいよ。
せっかく来たのに。
いいよもう。
これでおやじといよいよ縁が切れた。
・ブォーーあっちが俺たちを捨てたんなら今度はこっちが捨て返してやる。
ふぅ〜。
ばか野郎〜〜!!くそったれ〜〜!!えっ?
(麗美)元彼に言ったの。
ああ〜。
(麗美)あはははっ!・ブォーー・ブォーー
(百合雄)私桜木武士は終戦の年の昭和20年生まれである。
はい。
1回目の東京オリンピックのとき海外特派員が集まるレストランで働いていると。
でそこの窓から開会式に入場する選手たちの列が見えた。
オッケー!覚えた。
で空にはさ自衛隊の飛行機がこうきれ〜いな煙で五輪を描きながら飛んでて。
そのとき俺いくつ?え〜っと…18。
おやじにも18んときがあったんだ。
(百合雄)こう…なんて言った?こうだ…こう。
どう?うんいいんじゃないの?これにするか。
東京のアパートね〜引き払っちゃおうかな。
この近くの病院で産むんだし家賃もったいないし。
そうね。
うちに帰って来るとご飯がおいしすぎて太るんだよね。
でもどうせおなか膨れるんだしいっか。
ふふふっ。
お父さんに赤ちゃんの顔見てほしかったんだけどしょうがないよねぇ。
うん…。
・ガラガラ…あっいらした。
あっ…。
よっ!あっ…どうも遠くまですみません。
(百合雄)何水くせぇこと言ってんだよ。
あははっもうなりきっちゃってるから。
百合雄さんってね売れっ子なんだよ。
たまたまキャンセルが出てラッキーだったの。
どうぞ。
(百合雄)鯛子。
はい…。
一杯もらおうかなビール。
あっはい。
どうぞ。
(百合雄)はい。
こちらです。
(百合雄)分かってるよ。
あっほの香です。
よろしくお願いします。
(百合雄)はぁ〜ほの香もとうとうこのうちを出ていくのか。
いやこいつ東京でつい最近まで1人暮らしだったから。
(百合雄)あっそうか。
ふふふっ。
じゃあこれからみんなで…。
パンパン!口裏合わせの打ち合わせってことで。
ねえいいのかしら?えっ?お相手には実はってことで正直にお話しした方がよくないかしら?いやだって…。
あちらにはお礼はさせていただくから。
だめだよ今更。
父と母と兄とそろってご挨拶って言っちゃってるし私信用なくすし。
けどこういうの…。
それに私やれるかしら?ああ〜大丈夫だって。
おふくろ緊張で口数が少ないって俺フォローするから。
あっちに…。
持ってって持ってって。
よろしくお願いします。
(百合雄)うん。
お父さんの席まで知ってる。
鯛子トイレどこ?あっこちらです。
分かってるよ。
あはははっ。
あれ?武ちゃん?よっ!サンフランシスコから帰って来たんか?おう!
(漁師)はあ〜。
はぁはぁ…。
(店内BGM)ええ…兄の一歩です。
(3人)よろしくお願いします。
(百合雄)じゃあ乾杯。
入ってないから。
(百合雄)あっ…。
(一同)あははっ!
(百合雄)東京からわざわざお運びいただきまして…。
(紀明)私海産物が大好物です。
(智香)お父様は和食のプロでいらっしゃるとか。
(百合雄)はあ…。
(紀明)いずれ腕前をぜひ。
(百合雄)すみません私じきにブエノスアイレスの和食店に行くことになってまして。
はあ?
(百合雄)ん?俺言わなかった?いえでも…。
あの…サンフランシスコって…。
(百合雄)ブエノスアイレスだよ。
(紀明)タンゴですなぁ。
(百合雄)タンゴです。
というわけで父は式に出たらすぐその…ブ…ブエノス?アイレスに飛んじゃうんです。
(3人)ああ〜。
こちら様にもお会いできなくなっちゃうのよねずっと行きっぱなしだから。
(百合雄)ずっと行きっぱなしだから。
(智香)じゃあお寂しいですわね。
それに残念ですわ。
そのかわりあの…私が料理させてもらいます。
お兄ちゃんプロ並みなの。
(紀明)おお〜お料理を。
(智香)やっぱり親子なんですわね。
あははっ親子なんです。
(一同)あははっ。
(紀明)おっサザエがある。
(百合雄)ワカメもカツオさんもあります。
(一同)あははっ!
(智香)あっ…あははっ。
(紀明)面白いお父さんだ。
(百合雄)あっ面白い?あははっ面白い?面白い?
(店員)お待たせいたしました。
(百合雄)私ねヘーシンクのサイン持ってるんですよ。
ヘーシンク?1回目の東京五輪の柔道の金メダリストらしいですわ。
カタカナで「ヘーシンク」って書いてくれたって主人の自慢なんです。
(智香)ああ〜そうですか。
いや…へえ〜。
よっ!
(百合雄)イクラちゃんもいます。
(武士)緑川の悦っちゃんにここだって聞いたんだ。
なんか食事会なんですって?こんにちは。
交ぜてもらってもいいかな?もう単なる食事…
(小声で)食事会じゃなくて両家の…。
(武士)りょ…両家って?お父さん!?ほの香?えっ?いや子供の頃から…こ…子供の頃からほの香がかわいがってもらってた親戚の。
(武士)一歩だ。
見違えちゃったなぁ。
おい。
(紀明)親戚の。
親戚の。
(智香)「お父さん」って。
とそう呼んでたくらいかわいがってもらってたんだよな?ええ…そうなんです。
(智香)あっそう…。
ずっと…ずっとブエノスアイレスに行ってたんですけどついこないだ帰って来たんですよね?おじさん。
(紀明)おじさんもブエノスアイレスですか。
(百合雄)おじさんもタンゴです。
(紀明)タンゴ…ああ〜。
おじさんおじさんほらいいから座って座って。
ああ〜ごめん!なんだよ。
ああ〜ごめんおじさん。
いいよいいよ。
おじさん下に…売店でシャツ売ってるから買いに行きましょうか。
大丈夫。
いい…。
申し訳ないからおじさん。
すみません。
何しに来たんですか?えっ?様子見に来たんだよ。
様子?しかし育ったなぁお前。
ちょっとちょっとちょっと。
えっ?
(武士)ちょっとちょっと…。
おお〜ほぼおんなじだよ。
何センチだ?182。
昔の俺とおんなじ!あははっ!俺は年食って1センチ縮んじゃったけどな。
えっ?あははっ。
おお〜こうして見るとまるで若い頃の自分を…あははっ。
俺なんかまずいことやっちゃった?
(暁人)はい昔から部活やっておりましたので朝練があったりして早起きは得意です。
(百合雄)早起きは三文の得…。
ちょっと失礼いたします。
(百合雄)三文っていうのは今のお金でいくらになる…。
前のアパートの隣の住人から電話もらったんだ息子と名乗る妙なのが訪ねてきたって。
わざわざ来るなんてお母さんかほの香に何かあったんじゃないかって思ったんだよ。
なんでよりによって今日…。
・コツコツ…おかえりなさい。
ただいま。
はあ?なんだよ?それ。
二人にしてくれない?お父さんと二人にしてちょうだい。
(小声で)ふざけんなよ。
・ガチャ
(ドアの音)・バタン帰って来てくれたの?いや…。
様子見に来たんだ。
ご覧のとおりみんな元気よ。
うん…。
相手の方は?お元気?死んだ。
いつ?2年前。
なぜ戻ってこなかったの?ははっ…今更お前おめおめと…ははっ…。
元気でよかった。
そっちもな。
おばあさんになっちゃった。
若いよ。
(2人)ふふふっ。
べっぴんだよ。
はははっ。
(百合雄)奥さん痩せてらっしゃいますね。
(一同)あははっ。
(暁人)お母さんとおじさん遅いね。
あっ…売店でシャツ買うのに手間取ってんのかな?あははっ。
(暁人)お兄さんさっきから召し上がられてないですけど…。
お…お兄さん?ああ〜あっそうか。
そうなるんだよね。
ははっじゃあほの香のおなかの子が出てきたら俺伯父さんだねぇ。
痛っ!
(智香)おなかの子?すみません。
(智香)やけに結婚急いでると思ったらもう…。
(紀明)まあまあいいじゃないかめでたいことなんだから。
ねえ?お父さん。
(百合雄)名前はタラ子だ。
(一同)あははっ。
やだ〜。
(暁人)それはちょっと…。
失礼いたしました。
あっねえおじさんは?あの…皆さんによろしくって。
帰っちゃったの?ええ…。
(店内BGM)おかえり〜。
ただいま。
(武士)ほの香は?あちらのご両親が海辺を散歩したいって。
ご案内してるわ。
(武士)うん…あっそうか。
緑川の悦っちゃんにさ単なる食事会だって聞いたんだよ。
悪いことしたなぁ。
なあ。
ははっ…。
できりゃあほの香も一緒のときがいいんだけど折り入って話があるんだ。
ふぅ〜…なんでしょう?あっ…お母さんが帰って来いって言ってくれてんだよ。
一歩とほの香がオッケーしてくれたら帰って来てくれるって。
「来てくれる」?まるで恩でも施すみたいに。
そうじゃないのよ。
私が頼んだの。
はぁ…プライドってないの?昔のことじゃないの。
お父さんだってこの家が嫌いで出ていったわけじゃないんだし。
じゃあなんでだよ?何なんだよ!ん…カーテンがさぁ…。
えっ?ある爽やかな5月の朝だ。
開け放しの窓からいい風がさぁ〜っと吹き込んできてカーテンがゆらゆら〜ゆらゆら〜ってしてんだよ。
まるでおいでおいでって言われてるみたいでさ。
なんですか?それ。
あははっふぅ〜っとどっかに行きたくなっちゃったんだ。
信じらんねぇ。
(武士)あははっ。
で気が付いたらおやじの形見の傘持ってふら〜っと家出てた。
・トントン…・お父さん!
(武士)短い家出のつもりだったんだけど行った先にちょっと捨ててはおけないかわいそうな身の上の女がいてさその面倒見てるうちに離れられなくなっちゃったんだ。
その方亡くなられたんだって。
えっ?だから心細くなって頼ってきたんですか?勝手じゃないですか。
おやじを3つの頃に亡くしてさ自分の子にどう接していいか分からないんだよ。
妙にくっついてみたりほっぽってみたり…。
我ながら不安定な親だったと思うよ。
うん。
家庭ってのがいまいち腑に落ちてないんだよな。
はははっ。
一歩と同じようなこと言ってる。
(武士)えっ?へへっ。
彼女は…いないのか?男が好きなのか?はあ?
(武士)まあどっちでもいいが。
よくないでしょ一歩。
いるよ彼女。
えっ?私より肌がきれいだしかわいいし女っ気ないし。
今度連れてくるよ。
何言ってんだよ。
(武士)いっぺんきりの限られた人生だ。
好きに生きるんだな。
おたくに言われる筋合いはないと思いますけど。
(武士)はははっそりゃそうだ。
地べたに線引かれてこっから先来るなって。
行かねぇよ!行かねぇから!!みんなが元気でいてくれてうれしかったよ。
そりゃ掛値なしだ。
ふぅ〜。
これが答えか?
(武士)よっ!ほの香には?会っていかないんですか?
(武士)女の子はだめだなぁ。
見た瞬間小さい頃を思い出して胸がキュンキュン痛かった。
顔見りゃ未練が残るし。
だったら…。
男の意地通して今日まできたんだ。
息子に反対されてまで戻ってこようとは思わん。
俺は戻ってほしくない。
けどおふくろはあの家で一人で年取ってく。
でも俺は一緒にいられないし…。
はぁ…。
戻るなら戻っていいよ。
遺言残しとくかな。
えっ?人間無事に生まれて無事に死ぬ。
それだけで一大事業なんだ。
だからあとはおまけだ。
出世するのもいいがあっちには銭も名前も持ってけねぇ。
へへへへっ。
最近とみにそう思う。
じゃあな。
ううっ…あっ…。
だから引き止めたって!私ひと言もお父さんと話してないんだよ。
もう一生チャンスないかもしれないんだよ!だったら捜しに行けよ。
お母さん居場所聞いた?いいえ。
お兄ちゃんもお母さんも!はぁ…。
おやじの写真を1枚引きはがす度胸に走った痛み
痛みは愛に似ていた
憎しみの背中に恋しい叫び声が張り付いていた
そして季節はいつしか夏めいていた
・お願いします。
は〜い。
どこでもいいわ。
決めて。
じゃあ例えば俺の実家とか。
まさかそれとなく親に引き合わせるとか?いやないないない。
いやおふくろにさ女と一緒にいるとこ見せたいんだよ。
何?それ。
わが家は海のそばでさ今の季節だとクロダイメゴチキスメジナ。
んん〜いいじゃんいいじゃん。
行こう。
えっ俺が運転すんの?車に癖付くって。
(麗美)一歩の癖ならいいわ。
それってさ俺のこと…。
ちょっとごめん。
はい。
ああ〜村越琴子さんは私のクライアントさんですが…。
喪服?うん。
あっこの人のも。
(奈津子)桜木さんですか?はあ。
桜木一歩と申します。
(奈津子)琴子の長女です。
はあ。
この度は…。
(奈津子)お電話なんかして迷惑じゃなかったかしら?いえ…琴子ばあちゃんにはかわいがってもらってたんで。
人づきあいのない人で…。
携帯の履歴にいちばん残ってる名前がおたくだったもんだから。
ああ〜!
(琴子)悪いわね。
どうぞへへへっああ〜では…よっ!ああ〜はははっ!ああ〜もう!
(読経)
ばあちゃん仕事抜きで訪ねてあげればよかったね
ごめんね。
(喜一)しっかしおふくろものの見事に遺産なんてな〜んにも残してないよな。
(奈津子)家は借地権だし間もなく切れちゃうしね。
(芙由子)お父さんの年金もあったのに預貯金もすっからかん。
(喜一)競馬と競輪だよ。
目の色変わってたじゃないか。
(奈津子)これで長いこと寝つかれたりしたら踏んだり蹴ったりだったわね。
(芙由子)正直なとこそれだけは助かったわね。
(喜一)よかったよ。
何言ってんだよ。
何なんですか!表に新聞がたまってて近所の人が見つけたってそれ何なんですか!おばあちゃんのこと好きだったの?だまされてたのに。
ばあちゃんさみしくて必死だったんだよ。
はぁ…人ってあっけなく死んじゃうんだな。
ドライブ今日はやめとこうか?行こう。
なんかおふくろの顔見たくなった。
(麗美)その後お父さんからは連絡なし?うん。
ふぅ〜。
(麗美)う〜ん気持ちいい。
あっ!よっ!ふふっ。
ほの香は?定期検診で病院に行ってる。
順調?うん。
どうやって知り合ったの?まあ仕事がらみ。
うん。
っていうか漬物食べ過ぎじゃない?酸味が程よくてでも味は優しくて。
そうですか?
(麗美)ええ。
うちの糠床お嫁に来るとき私が持ってきたの。
(麗美)ふ〜ん。
おばあちゃんから実家の母が受け継いでもう80年近くよ。
すごい!糠床って生き物でしょ?長い旅行ができないの。
(麗美)ああ〜。
(麗美・鯛子)ふふふっ。
ミヤモトさん6番にお入りください。
お父さん?あっねえこれ。
あの〜これ採れたてピチピチの野菜。
(麗美)うわ〜。
うちの畑のなの。
(麗美)ええ〜すごい。
それと漬物。
(麗美)ああ〜うれしい。
ありがとうございます。
これ一歩の分。
ありがと。
お酒は飲む人?ガンガン。
あら〜お友達。
お兄ちゃん来てたの?ちょうどよかった。
えっ?大変!病院でね…。
あっ…。
ああ〜。
私一人で先に帰ります。
お世話になりました。
悪いね。
うん。
失礼します。
あっあっそうだ。
鍵鍵…車の。
また寄ってくださいね。
・
(麗美)はい。
病院でなんか言われた?私じゃなくてお父さんよ。
えっ?あの日うちから駅に向かう途中の道で倒れて通りかかった人が救急車呼んでくれたんだって。
なんの病気?大したことないってそれだけ…。
私あんまり聞いちゃいけないのかと思って…。
大丈夫なのかしら?さあ?でもあれからずっと入院してるのよね?行ってくる。
病院?うん。
一歩は?行かない。
親なのよ?親だから。
えっ?俺は戻れって言った。
あっちは戻らねぇって言った。
上等じゃん。
(武士・鯛子)ふふっ。
(武士)ふぅ…。
命に関わる病気かと思ったわ。
(武士)うん胃潰瘍だよ。
切る寸前だったんだ。
でももう退院だ。
へへっ。
山梨に戻っちゃうのね。
(武士)いや。
えっ?はぁ…。
入院してる間にいろいろ考えた。
実は一旦山梨に戻って…であっちは整理してきた。
お兄ちゃん!投げ釣りでキスが釣れるんだよねぇ。
何もこんなときに…。
落ち着くんだよ。
お母さん病院から帰って来た。
お父さんタイのチェンマイに行くんだって。
えっ?そこで余生過ごしてもう日本には戻らないんだって。
私お父さんとの思い出がほとんど…ない。
一日でいいから家族で一緒に過ごしたい。
このまま親孝行もしないで別れるなんて嫌だ。
親孝行?お兄ちゃん…。
協力してくれるよね?断る。
お兄ちゃん!断るよ。
お兄ちゃん!ちっ!はぁ…。
行く手に見えてまいりましたのがかの有名な東京スカイツリー。
2012年5月22日に華やかにグランドオープン。
耐震構造に優れた五重の塔。
その日本古来の技と最新技術のコラボで出来上がっております!ふふふっ。
どうも。
(武士)ほの香の仕事ぶりがよく分かった。
私も初めて見た。
一歩もよね?
見えているスカイツリーより見えない東京タワーのことを思い出していた
(一同)わあ〜!アトラクションみたいだよね。
ふふっ。
初めてデートで来たとこなの。
お父さんと?神田須田町でチンチン電車に乗って上野まで行って上野公園で遊んでからこちらにお参りに来たの。
(武士)なんだか随分長いこと拝んでたよな。
覚えてるの?
(武士)うん。
何長々と手ぇ合わせてんだって思った。
ゴーン
(鐘の音)「どうぞこの人と添わせてくださいな」って。
プロポーズどっちから?お父さんよ。
えっ?プロポーズの言葉は?歌歌ったわ。
えっ?お父さんギター爪弾きながら「月の法善寺横丁」。
そうよね?
(武士)えっ?あっそうだったか?そうよ。
・庖丁一本・さらしに巻いて「・旅へ出るのも板場の修業」って。
(武士)おやじさんにはさ俺たちも随分反対されたよな。
母にも言われたの「料理屋の家で育って苦労は知ってるだろうにおよしよ」って。
(武士)ふっ。
だからここで願掛け。
あっ私…お礼参りに来るの忘れてるわ。
(武士)ああ〜。
だから結局別れちゃうんだよ。
うっ…。
おお〜びっくりした。
なんでチェンマイ?
(武士)なけなしの年金と貯金で結構余裕で暮らせんだよ。
オッケー?よし!じゃあもう一回!
(観光客)お父サンお母サンモット近づいて。
お兄サンお兄サンも。
えっ?ありがとうございました。
(武士)ありがとう。
シェイシェイ。
(武士)物価は安いしねえちゃんはきれいだしな。
まだそんなこと言ってるわけ?お前も年取ってみろ18の頃と基本な〜んも変わらねぇから。
鏡見て「おっと」と思うけどな。
あははっ。
ハル高い高いいいね。
あれ。
いるかなぁ?あっち見てみて。
時々やってたけど覚えてるか?覚えてる。
覚えてるか…。
覚えてる。
そうか。
ありがとうございま〜す。
おいしそう。
う〜ん!お母さん見て。
おいしそう!早く食べたい。
そっちに…そこに。
そうだね。
(武士)んん…。
はいはいはい。
ほの香お皿もらって。
あっ。
(武士)うっ…あぁ〜。
こんな親孝行してもらえると思わなかったな。
こんなもんで孝行?
(武士)ああ。
仕事で肩もみしたばあちゃんがえらく喜んでたなぁ。
(武士)ははっ。
ああ〜そうか。
うん。
(武士)あぁ〜。
チェンマイは…あっちに骨をうずめるってこと?うん。
(武士)あっそこそこ。
ここ?
(武士)うん。
効く効く。
うっ…。
あっ!
1日を東京観光で過ごしその夜わが家で1泊する
それがほの香が提案した家族の儀式だった
お母さん鍵。
家が近づくにつれ皆無口になっていた
はい。
ん?おう。
うんいいよ。
はい。
(武士)うん。
うん…。
みそ汁と漬物はお母さんにかなわないんだ。
ふふっ。
見送り…やっぱりだめかしら?
(武士)そこまで引きずるのはやめとこうや。
明日うち出てったらそれっきり?ああ。
訪ねてくのもだめ?きりがないよ。
今けじめをつけるのがきれいだろ。
元気な子を産んでくれ。
はぁ…。
ふぅ…。
(武士)これからどうするんだ?「どう」って?浮き草みたいな暮らしもそうは続かんだろう。
いずれしっかりした仕事に就かないと。
「出世も銭もいらねぇ」って言わなかった?へへっ…言った。
しかし今のままじゃ所帯も持てないだろ。
持っても途中で投げ出しちゃしょうがないし。
へへっ…。
俺のことはとりあえず置いといてだ。
すごく入りたい会社があったんだ。
試験落ちたのか?面接で落とされた。
えっ?ふぅ…言いたかないけどおやじがいないせいだ。
そう言われたのか?言われないけど。
「お父さんはどこの料亭で働いてるのか?」って言われてつい口ごもっちゃったんだ。
へえ〜。
今どきそういうことで落とす会社はねぇだろ。
言い切れる?能力が秀でてりゃ親はいなくとも世の中は拾い上げる。
俺はそうだった。
腕一本の仕事と会社は違うよ。
やる気のなさをおやじがいないせいにして逃げてんじゃないのか?はあ?自分に言い訳するような生き方はやめとけ。
おふくろは離婚もしないで毎日掃除して家守って布団干して!ほの香は結婚相手にもほんとのこと言えず苦し紛れのうそついて!家族それぞれがどんだけ…。
俺がおやじに死なれたのは3つのときだ。
それでもへこたれずに仕事した。
所帯も持ち二人の子もなした。
捨てといてよく言うよ!女々しいやつだなぁ。
はあ!?ははっ。
「はあ!?」。
「はあ!?」。
こっちが「はあ!?」だ。
親がいないぐらいで何をくどくど。
自分の半端な生き方を親のせいにして満足か?そういうのを卑怯者っていうんだぞ!うっ!バキ!
(武士)痛っ!貴様…。
あ痛っ…。
うぅ…。
バキ!やるか?貴様!来い!うわ〜!ああ〜!ああっ!
(武士)うっ…。
一歩!お兄ちゃん!一歩やめなさい!何してるの!?
(武士)うぅ…。
親に捨てられた子供の気持ちが分かるか!?あんたに分かんのかよ!?バキ!ううっ…。
世界中から突き放されたみたいにさみしくて心細くて!バキ!くっ!親に捨てられた子って生きてく自信もなくすんだよ!「お前はいらねぇ子だ」って言われたんだから!そうじゃないのよ!バキ!でも…。
まだ…まだ胸ん中で…子供の俺がうずくまってんだよ。
おやじの名を呼びながら…。
ううっ…。
泣き続けてんだよ!あんたに分かんのかよ?分かんのかよ!?お父さん抵抗してないじゃないの!やり返せほら!やり返せ!やり返せよ!何黙って打たれてんだよ!おやじ〜!うっ…うぅ…おやじ…。
うっ…。
はぁ…。
捨てようとした。
破ろうとした!でもできなかった!!ううっ…うっ…。
お父さんが家を出た理由は私なの。
(麗美)それがあなたのほんとの気持ちなのよ。
(百合雄)親子なんだから。
今…おやじ見送ってきた。
ありがとう。
お父さん!私…お父さんが船に乗ってる間ほかの男の人と…。
お父さんモテる人だったからあっちこっちでそりゃあ…。
離婚を考えはじめたとき船に乗り込んだのよ相談もなく。
はぁ…そんなときクラス会で高校の先輩だった人と再会して…。
長かったの?その人と。
いいえ。
お父さんには黙ってればよかったのかもしれないけど…。
復讐の気持ちもあったのかもしれない。
しゃべっちゃった。
そしてお父さんは家を出たの。
浮気はお互いさまなんじゃないの?男と女は違うもの。
男は…電信柱に犬がおしっこ引っ掛けるようなものよ。
女は気持ちが伴うから。
なんで待ち続けてたんだよ?最大の恋文もらったからよ。
殴るでもなくどなるでもなく私が初めて見た涙ひと筋こぼして出てったの。
それ最大のラブコールだもの。
(武士)終電まだ動いてるよな?よっ!
(武士)このまんまみんなでひと晩過ごすのも重たいだろ。
(武士)うっ…。
(武士)へへっ。
今日は楽しかった。
(武士)家って家族のそれぞれが懸命に努力しないと壊れちゃうもんなんだな。
(武士)一歩もほの香も本当にいい子に育った。
お母さんありがとう。
(武士)あっ。
(武士)俺の名前は書いてハンコは押してある。
家は…入れ物だけはみんなに残してく。
はぁ…。
ふぅ〜。
おふくろと妹に悪い気がするんだよね。
(麗美)あなた自身はどうなの?う〜ん…俺は別に。
(麗美)じゃあいいじゃないそんなろくでもないおやじどうなったって。
ほっとけば?いやそういう言い方ないんじゃないかな?怒った。
それがあなたのほんとの気持ちなのよ。
意地を張るのも男だけど頭の下げどころを知ってる方がもっと男だわ。
(百合雄)なんか悩みがある?えっ?だったら聞くよ?親子なんだから。
・ブォーー・
(櫛田)そうそうそれでさその生クリームがすごいおいしかったの。
だから…。
あっねえ櫛田さん!
(櫛田)はい。
このあと仕事入ってる?
(櫛田)ううん夕方から1本だけ。
じゃあ仕事代わってもらえないかな?傍聴券もらいに裁判所の前に並ぶだけなんだけど。
(櫛田)あっいいけど。
ありがとう。
あっあっちょっと…ちょっと出てきます。
はあ…。
俺の勝ちね!どうもね。
ずるいよ。
えっ?人に後悔残して自分はかっこよく消えるのかよ。
俺とほの香?こんな写真見たことないけど…。
こっそり様子見に来たことがあったんだ。
そのとき写したんだ。
かっこ悪ぃだろ?家に帰ろう。
一緒に帰ろう。
育ててもらった恩義は返させてもらうよ。
恩義?そんなものはとっくに返してもらってるよ。
えっ?3つ4つくらいまでの子供ってのは天使だよ。
その愛らしさいとしさで一生分の孝行はしてもらってるんだ。
いいことばっかりじゃない世の中に勝手に送り出すんだしな。
家を与えられ食べ物を与えられここまで育った。
命をもらった!生まれてきたことを感謝してる。
子の親への義理として返さなきゃならないものがある。
じゃあその写真返してくれ。
お守りなんだ。
おやじ帰って来てくれ!なあ頼むよ!一緒に帰ろう。
うちに帰ろうよ!お父さ〜ん!お父さん!あっおふくろ?今…おやじ見送ってきた。
私は大丈夫。
いやあの…俺が大丈夫じゃないんだよね。
俺が意地張ったばっかりに…ごめんね。
お父さんを一時でも連れ戻してくれたのはあなたじゃないの。
ありがとう。
うん…。
ピッ・ブォーーよう一歩!こんちは。
最近ちょいちょい帰って来んだな。
はい。
(漁師)あれ?武ちゃんも?えっ?よっ!あっ…。
なんで?パスポートなくしてた。
うそだよね?へへっ。
またぎゃいいだけだ。
はぁ…。
・ピンポーンは〜い。
どなた?
(武士)んん!・庖丁一本
(武士・インターホンからの声)・さらしに巻いて
(武士・インターホンからの声)・旅へ出るのも
(武士・インターホンからの声)・板場の修業
(武士・インターホンからの声)・待っててこいさん・
(武士)・哀しいだろが
(武士)・ああ
(武士)・若い…よっ!今だから言っちゃう。
勢いで言っちゃうよ。
もう一生言わないから。
回り道して気が付いた。
生涯にたった一人の男なんだよ。
あんたにほれてる。
我ながら気が利く男になったと思う
ただいま。
・はいはいは〜い!残ってる。
あはははっ。
栗きんとん出来上がり。
おいしい。
はいこれね里芋。
端から。
はい年越しそば。
あっそっち。
そっち置いといて。
こっち?うん。
そうそう端から並べて。
明日旦那さんお年賀に来てくれるんでしょ?うん。
どうするの?お父さんのこと。
暁人には正直に言う。
彼は大丈夫よ。
うめぇこれ。
いつまでも子供なんだから。
ふふふふっ。
このまま?うん。
あぁ〜あ…。
・ふふふっ。
・えっ?・大丈夫大丈夫。
・ふふっ。
おやじと共にわが家に季節ごとのしきたりと正月が戻ってきた
(武士)ではあけまして…。
(一同)おめでとうございます。
うわ〜豪華!
(暁人)おいしそう。
(武士)あっ暁人君は今年厄年じゃないよね?
(暁人)違いますけどなんでですか?
(武士)厄年の人は最後に飲むんだ。
最年少のほの香から。
いやでも私は…。
(武士)縁起物だから形だけだ。
うちは逆です。
年長から。
ふ〜ん。
わが家は昔からこうだよ。
そうね。
(暁人)ははっ。
はい暁人君。
(暁人)ありがとうございます。
(武士)はい一歩。
はい。
(武士)心の中で念じれば現れるんだ。
さっきから念じてるけど宇宙人には宇宙人の都合があるんじゃないの?
(武士)あいつら気まぐれなんだよな。
でもUFO見たからってなんなの?
(武士)地球は人類のわが家なんだ。
ふふっ意味分かんないし。
ほかの星でもご飯って食べるのかしら?おなかがすいたわ。
私も。
2人分の食欲だし。
うん。
(武士)はぁ…引き上げるか。
ええ〜!せっかく来たのに。
(武士)また今度ってことにしようや。
なっ?行こう。
はぁ…。
(武士)おおっ!危ないぞ。
はははっ。
(武士)穴開いてる。
はははっ。
2015/11/02(月) 01:20〜03:23
MBS毎日放送
平成27年度文化庁芸術祭参加作品 ドラマ特別企画「わが家」[再][解][字]
向井理×田中裕子×村川絵梨×長塚京三!豪華キャストで贈る!〜親から子へ、子から親へ。バラバラに暮らしていた家族が海辺の“わが家”で築く“愛”のヒューマンドラマ〜
詳細情報
お知らせ
【解説放送あり】
この番組は2015年1月4日に放送されたものです。
番組内容
桜木一歩(向井理)は都会で孤独な人たちの心を埋める人材レンタル会社のスタッフをしながら一人暮らしをしている。幼い頃に父・武士(長塚京三)が家を出てしまい、海辺の実家に暮らす母・鯛子(田中裕子)、結婚を控えたバスガイドの妹・ほの香(村川絵梨)とも最近は疎遠だ。そんな折、一歩に“ある仕事”が舞い込みそれを機に兄妹は母の待つ故郷に帰るが、なんと突然音信不通だった父までもが姿を現し家族は再会することにーー
出演者
向井理 田中裕子 村川絵梨 長塚京三/
市川実日子 きたろう 草村礼子 大島蓉子 濱田マリ
藤吉久美子 堀内正美 黒坂真美 森山栄治
ほか
原作・脚本
【作】井沢満
監督・演出
【演出/プロデュース】
竹園元
【プロデューサー】
深迫康之 布施等
音楽
【音楽】
渡辺俊幸
【主題歌】
「ホームにて」高畑充希 feat.KOBUDO−古武道−(作詞・作曲 中島みゆき)
制作
【制作協力】MMJ
【製作著作】MBS
おことわり
番組の内容と放送時間は、変更になる場合があります。
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 音声解説
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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