クローズアップ現代▽“最後のフロンティア”は開かれるかミャンマー民主化の行方 2015.11.03


ミャンマー民主化のシンボルアウン・サン・スー・チー氏です。
長年の弾圧を耐え抜き政権交代に向けて立ち上がりました。
半世紀にわたって軍が実権を握ってきたミャンマー。
民主化が根づくかどうかの試金石となる選挙が6日後に迫っています。

かつて軍の激しい弾圧にさらされていた野党勢力。
選挙戦では軍事政権の流れをくむ与党を圧倒する勢いです。
しかし選挙戦のさなか不穏な動きも出ています。

経済成長に期待する日本のビジネスマンも固唾をのんで見守っています。

総選挙でミャンマーは変わるのか。
現地からの最新報告です。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
8日、この日曜日に行われる総選挙はミャンマーかつてビルマと呼ばれた国にとって歴史の重要な節目になる可能性が高いと見られています。
選挙は公正なものとなるのでしょうか。
アウン・サン・スー・チー氏率いる野党・国民民主連盟NLDは議席を伸ばす勢いで焦点はNLDが大統領選出で主導権を握れる過半数を確保して政権交代を実現できるかどうかです。
スー・チー氏は政権を取っても今の憲法の下では大統領への就任は禁じられていますが延べ15年、自宅軟禁に置かれ政治活動を一切禁じられたスー・チー氏が全国を回り民主化の必要性を訴えていましてそのこと自体が歴史的です。
半世紀にわたり軍が政治の実権を握ってきたミャンマー。
民主化勢力が1990年の総選挙で圧勝したものの軍はこの結果を無視。
5年前、再び行われた総選挙では野党が公正な選挙が行われないとしてボイコットしています。
選挙、そして選挙後の新政権発足後まで民主化は進むのか。
アメリカによる経済制裁の解除につながっていくのか。
人口5100万人。
毎年7%近い経済成長を見せているアジア最後のフロンティアの行方は国内外の注目を集めています。
ミャンマーの上下両院の議席は664。
軍に4分の1の議席が無条件で与えられていますのでスー・チー氏率いるNLDが政権交代を達成するには改選される議席のうち3分の2を超える議席を取らなくてはなりません。
最新の選挙戦からご覧ください。

ミャンマー北西部のザガイン地域です。
少数民族が多く暮らす農村地帯でミャンマーでも最も開発が遅れている地方です。

この日、野党NLD・国民民主連盟の党首アウン・サン・スー・チー氏が遊説に訪れました。
村を挙げての熱烈な歓迎を受けました。
この4年で急速な経済成長を遂げたミャンマー。
開発から取り残された地方を回りスー・チー氏は民主化の必要性を訴え国民一人一人の声に耳を傾ける姿勢をアピールしています。

半世紀にわたりミャンマーでは軍が政治の実権を握ってきました。

これに対して民主化運動の先頭に立ったのが、建国の父アウン・サン将軍の娘スー・チー氏でした。
1988年に始まった軍との対立。

これがスー・チー氏にとっての民主化運動の原点でした。
高まる民主化運動を受け1990年に総選挙が行われました。
スー・チー氏は自宅に軟禁されながらも民主化勢力は8割の議席を獲得し圧勝。
しかし、軍は選挙結果を無視し政権に居座り続けます。

その後も民主化の動きが高まると、軍は激しい弾圧を加えてきました。
阻まれ続けてきた民主化。
スー・チー氏は、今回の選挙を30年近くの民主化運動の集大成だと考えています。

これに対して軍事政権の流れをくむ与党USDP・連邦団結発展党は苦戦を強いられています。
なんとか劣勢を挽回しようとなりふり構わぬ選挙運動を始めました。
資金力にものを言わせて大船団を仕立てます。

支持者に食事もふるまわれました。
Tシャツや傘を配るなど支持者の引き止めに必死です。
軍人や公務員が大多数を占める首都ネピドーで開かれた大規模な集会。
与党幹部は、この4年の経済成長の実績を強調し支持を訴えます。

しかし、集会の途中で席を立つ人が目立ちました。
与党に有利と見られた地域でも苦戦を強いられています。

スー・チー氏率いる野党NLDが優勢に進む選挙戦。
そのさなか、思いもよらない知らせが届きます。
選挙管理委員会が北部の洪水などの自然災害を理由に選挙の延期を打診したのです。
スー・チー氏の野党NLDは猛反発し、選挙延期を撤回に持ち込みました。

さらに不穏な事件が起きました。
選挙戦終盤野党の候補者がナイフで襲われ大けがをしたのです。
犯行の動機や事件の背後関係ははっきりしていません。

事件後、スー・チー氏はインターネット上で声明を発表し改めて公正な選挙の実現を訴えました。

今夜のゲストは、ミャンマーの政治・経済がご専門でいらっしゃいます、政策研究大学院大学教授の工藤年博さんです。
無事に行われるかどうか、心配する声もあるようですけれども、どう見ていらっしゃいますか?
私は、選挙は無事にできるんではないかなというふうに思っております。
今回の選挙は、ミャンマーにとって、実に55年ぶりになる自由、公正にですね、行われれば、公正な選挙ということになって、歴史的な意義がある選挙なんですね。
ぜひ、無事に行ってほしいなというふうに思ってます。

与党の選挙戦ですけれども、これまで5年間、7%程度の目覚ましい経済成長を実現させてきたという実績があるにもかかわらず、非常に支持者が多いと思われる地域でも苦戦を強いられてますね。
その背景って、どう見ていらっしゃいますか?
USDP・与党は、今のVTRでありましたように、かなり苦戦を強いられているなぁという印象があります。
確かに現在、USDPは、この過去5年間で、対外開放に踏み切って、あるいは経済自由化をして、経済成長を実現してきたという実績はあるんですね。
しかしながら、やっぱり国民は、このUSDPというのは、軍政の延長にあるというふうに、やはり見ているんですね。
実際にテイン・セイン大統領、あるいは先ほど演説していた、事務局長も、元軍の、今軍服を脱いでますけれども、幹部だった人なんですね。
国民はやはり、過去50年の軍事政権というものを見ているんですね。
USDPはそういう意味では、この5年間の実績で戦ってるというよりも、この過去50年間の軍のある意味での負の遺産というものを背負って、戦っているというふうに理解したほうがいいかなと思います。
ただ与党の経済手腕というのは、どう捉えたらいいんでしょう?
そうですね、確かにこの5年間、経済成長に導いてきたという手腕はあります。
ただ、これも、ある意味では、今まで非常に軍事政権下でマイナスだった経済の、ふたをちょっと開けたと、それによってぼんと経済がジャンプするというような形の経済成長なんですね。
それまでアメリカ、あるいはヨーロッパから、経済制裁を受けていたと。
日本も経済協力はあまり、細々とはやってましたけども、大々的にはできなかった。
アメリカへの輸出も、サンクションがあってできなかったと。
そういったものが大きく変わって、政治改革があって、経済環境が変わったというところで、成長してきたという、ある意味で、比較的ラッキーな時代だったなと思うんですね。
むしろ経済運営の手腕が問われるのは、この次の5年間だと思います。
次の政権が、経済手腕を問われるということですけど、スー・チーさんの人気は絶大、本当に圧倒的に強いという感じを受けるんですけれども、より豊かな生活、賃金の上昇、そういったことなどを訴えてるんですか?
実は、スー・チーさんが訴えているのは、あまり、そういった現実的な利益のことというのはあまり訴えてないんですね。
スー・チーさんが訴えている最大のポイントは法の支配と。
法の支配?
法の支配には、いくつかの意味がありますけれども、1つは、やはり軍支配からの脱却ということです。
これは、スー・チーさん自身が15年間にわたって、自宅軟禁に置かれるというような経験もしていますね。
独裁的な政権が登場することによって、国民生活がどれだけ被害を受けるかということをよく分かってるわけです。
そういった独裁政権が二度と起きないように、法がきちんと支配をするという世界を作っていきたいということですね。
具体的には、憲法改正というものがあります。
現在では25%の議席は軍人が押さえているわけなんですが、これも減らしていく、もしくはなくしていくということを訴えているわけなんですね。
それからもう一つ、実は、国民の自律と行動ということも訴えているんですね。
法の支配を実現するためには、国民が自律して、規律を持って行動していかなければならないということを言っているんです。
よく分からないですね。
どういうことですか?
例えば、スー・チーさんは、演説で、聴衆から、スー・チーさんが選ばれると、私たちに何をしてくれるんですか?というようなことを聞くんですね。
それに対してスー・チーさんは、あなたが政府に何をしてくれとか、何を欲しいとかっていうふうに言わなくてもいいような状況にしてあげますというようなことを言うんですね。
これは要するに、国民が自分たちの足で立って、自分たちの判断で政権を選ぶということができる体制を作ってあげますよということを言っているんですね。
ある意味で、国民に厳しいことを言っているということでもあります。
国民主権の時代が来ましたと。
そうですね。
というようなことを、一生懸命教えようとしているんですか?
まあ、そういう教育者としての面もあるんですけれども、スー・チーさんのこれまでの一貫した主張であるというふうに思います。
法の支配と、ぱっと聞きますと、汚職をなくすとか、あるいは軍との癒着をなくすとか、そういったことなのかなと思いきや、もっともっと高い、ある意味では視点の。
そうですね、もちろん汚職をなくしたり、政府の効率をよくしていくというようなことも言ってはいるんですけれども、やはりさらに国民に求めていることっていうのは、もう少し高い視点の話なのかなと思いますね。
さあ、このミャンマーの総選挙後を注視しているのが国内外の経済界です。
選挙後を見据えた動きもすでに活発になってきました。

先月、ヤンゴンの中心部に新たに建設されたオフィスビル。
その完成を祝うパーティーが開かれました。
パーティーには各国のビジネスマンが招かれミャンマーの将来性について盛んに意見が交わされていました。

このビルのオーナーキン・シュエ氏です。
ミャンマーの不動産王と呼ばれる経済界有数の富豪です。

キン・シュエ氏はみずからも与党USDPの議員として活動し今回も再選を目指しています。
しかし、選挙活動中キン・シュエ氏の口から飛び出したのは支持者も驚く発言でした。

なぜ政敵であるスー・チー氏への投票を呼びかけたのか。
そこには、したたかな計算がありました。
軍事政権時代からの人脈を生かして、巨万の富を築き上げたキン・シュエ氏。
選挙戦で与党が劣勢に立たされている今勢いを増すスー・チー氏に近づいておくことが重要だと考えました。
キン・シュエ氏がそう考えるのには理由があります。
それはアメリカの経済制裁です。
軍に近いビジネスマンも制裁の対象となりキン・シュエ氏もそのリストに含まれています。
スー・チー氏が加わる政権が発足すれば、制裁が解かれビジネスを拡大できると踏んでいるのです。

経済成長が続くミャンマーへの関心が高まる中選挙後を見据えて進出を加速しているのが日本です。
ことし9月最大都市ヤンゴン近郊のティラワに官民挙げて経済特区を作りました。
港に隣接したおよそ400ヘクタールの土地に発電所を備えた工業団地を建設する計画ですでに14か国50の企業が進出を決めています。
今が最大のチャンスだと感じている人がいます。
山崎和人さん。
25年以上ミャンマーで旅行業や製造業に携わってきました。
新たに不動産ビジネスに乗り出す決断をしました。

このような形で、とりあえず第1号を作ってみようと。

発展を見越してティラワ経済特区の近くにマンションの建設を計画しています。

投票が近づく中日本企業が集まりミャンマーを取り巻く情勢について意見を交わす勉強会が開かれました。

選挙の結果がビジネスにどのような影響を与えるのか。
混乱が生じるおそれはないのか。
企業関係者からは先行きを心配する声が聞かれました。

アジア最後のフロンティアミャンマーは安定に向かうのか。
国内外の熱い視線が注がれています。

スー・チーさん、そして野党の議席が伸びたほうが、外国からの投資が増えるだろうという見方は一致しているようなんですけれども、日本の方々が心配している、不安に思っていることはなんですか?
そうですね、スー・チーさんが軍事政権時代に、反ビジネスと思われるようなことを時々、言ってたんですね。
例えば、投資はしないでくれとか、あるいは貿易もしないでくれ。
場合によっては、観光にも来ないでくれというようなことを言ってた時期があるんです。
それは、そういった活動が軍事政権を支援してしまうから、だからやらないでくれというふうに言っていたわけなんですね。
そういった記憶が残っている人たちがいると思うんですね。
なので、スー・チーさんは反ビジネスじゃないかと。
しかし、実際にはそういうことではなくて、それは軍事政権との関係で言ってたわけであるわけなんですね。
今は私は、スー・チーさんの政党が、政権取ったとしても、大きく経済政策が変わるということはないと思ってます。
なるほど。
日本としては、ミャンマーの民主化の定着に向けて、どういう役割を果たせるとお考えですか?
日本は多くの役割を果たすと思います。
今現在も、それこそインフラ、あるいは人材育成、あるいは制度作りとか、私自身も、先週まで、次期5か年計画の策定のお手伝いというようなことをやってまいりました。
そういった形で、今後もミャンマー政府が経済成長を進めるための努力をサポートする、それから、日本の民間企業もやはり、ここで投資をやめるのではなくて、ある意味で、国民の信託を受ける、どういう政権になるか分かりませんが、国民の信託を受けた政権が登場するわけですね。
そういった政権の下で、国民がすそ野の広い経済成長を達成できるように、いい投資、社会的な責任も果たせる投資や経済活動をしていくということが、ミャンマーの今の政権を応援することになるんだろうというふうに思いますね。
野党が躍進すると、今度は、軍がどう行動に出るのか、今までの与党の方々からの反発が生まれないかとか、いろいろ心配もあるわけですけれども、アウン・サン・スー・チーさんは、どういう姿勢でこうした勢力に向き合っていくのか、何をすべきだとお思いですか?
スー・チーさんは、現時点では、演説の中でも、軍の多くを取り上げて、非難するというようなことは、今はしていないんですね。
やはり今後、もし権力を取った場合でも、軍の協力がなければ、国政を運営していくのは非常に難しいということは十分分かっていると思います。
したがって彼女が今後とも軍とうまくやっていくという、彼女の手腕が求められるところだと思います。
ありがとうございました。
政策研究大学院大学教授の、工藤年博さんと共にお伝えしてまいりました。
これで失礼致します。
うわ〜すごい!2015/11/03(火) 01:04〜01:30
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代▽“最後のフロンティア”は開かれるかミャンマー民主化の行方[字][再]

“アジア最後のフロンティア”と呼ばれるミャンマーで、民政移管後、初めての総選挙が行われる。民主化と国の安定、経済成長をどう推し進めようとしているのか、読み解く。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】政策研究大学院大学教授…工藤年博,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】政策研究大学院大学教授…工藤年博,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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