(沢嶋雄一)
江戸時代紙は至る所で使われていた。
世界の都市の中でも江戸は突出して紙の使用量が多かったという。
それを支えていたのが紙を再利用する卓越したリサイクル技術。
先進的なエコ社会を実現していた。
果たしてどのようなものだったのか。
早速私は江戸時代へと飛んだ
アブソリュートポジションN715W412E318S223ポジション確認。
アブソリュートタイムB0643985年95時32分63秒。
西暦変換しますと1843年6月9日14時28分50秒。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー731092これから記録を開始します。
沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて名も無き人々を記録していくタイムスクープハンターである。
てんびん棒を担いで歩く男がいる。
彼は物売りではない。
古い紙を買い取るため町を回る古紙回収業者である。
今回の取材対象は「紙くず買い」。
彼に密着取材をして江戸時代のリサイクルがどのように行われていたのか明らかにしていく
この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっておりお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
紙くず買いの名前は弥兵衛。
紙くず買いは通常紙だけではなく古着や小道具なども回収していた。
だが弥兵衛は紙だけを専門としている。
江戸時代に来日した多くの西洋人は当時の日本人が紙をふんだんに使う事にとても驚いていたという。
ドイツの考古学者シュリーマンは幕末に来日した際日本人が鼻をかむのに紙を使う事にびっくりして本にその様子を記している
日本は紙の消費量では大国であった。
それを支えていたのは彼らのようなリサイクル業者である
弥兵衛に声を掛けてきた若い女性さえ。
大手呉服屋の奉公人だという。
昔からのなじみの客である
いつもありがとう。
いやいやいやいや。
弥兵衛はいつものように手慣れた所作で古紙を買い取っていく。
その時…
さえが一枚の紙を差し出した
読むわけねえよ。
そうかい。
その方がいいと思う。
そうこなくっちゃ。
それは手紙だった。
何か訳がありそうだ
じゃあまたごひいきに。
お気をつけて。
気になる私は弥兵衛に聞いてみる事にした
それはそうですね。
その恋文が回収された古紙と共に運ばれていく。
向かった先は立て場。
古紙の仲買商である。
紙くず買いにより回収された古紙はこうして立て場に買い取られる。
その後すき返しという業者に回され紙は再生紙として生まれ変わる。
集められた古紙は汚れの度合いにより「白」「反古」「下物」と3種類により分けられる。
この分別で古紙の取引価格に大きな違いが出てくる。
…とそこへ
現れたのは俊吉。
弥兵衛の友人でふすまなどに紙をはる職人表具師である
何だよ。
急な仕事って?
穴の開いたふすまの修理に紙が必要になったという。
きれいな紙ではなくあえて汚い紙を選んでいく。
それはなぜなのか。
私は本部に詳細を聞く事にした
こちら沢嶋。
本部応答願います。
(古橋ミナミ)はい。
こちら本部。
古橋です。
江戸時代の古紙の利用方法について追加リサーチをお願いしたいんですけど。
どのような事でしょうか?ふすまの下張りにわざわざ文字の書かれた古紙を使ってるようなんですが何か理由はあるんでしょうか?はい。
ふすまの下張りですね。
確かにふすまの下張りには古い紙が使われています。
それも文字が書かれているような文書を使う事が多かったようです。
これには理由がありまして文章の墨の部分に防虫効果があったからだと言われています。
そのため現代でも古いお寺などのふすまから歴史的に重要な文書が発見されるという事があるようです。
こちらをご覧下さい。
このようにふすまの中から大量の古文書が見つかるという事も多いようです。
そうですか。
分かりました。
ありがとうございます。
当時こうした知恵は生活に根ざしたごく当たり前の事だった。
翌日。
私は町の一角で気になる男性を見かける
それは道端に落ちた紙を拾う専門の業者であった。
江戸の町は同じ時期のヨーロッパと比べてきれいだったと言われている。
それはゴミを無駄にしないこうした江戸のリサイクル文化のおかげなのかもしれない。
いつもと変わらず仕事を淡々とこなしていく弥兵衛。
だがこのあととんでもない事態が弥兵衛を待ち受けていた
へい。
どうも。
これで全部だ。
来いって言ってるんだよ!
突然紙の仲買の店に乱入してきた女性。
そしてあのさえの姿も
いやそういう細かい事は…。
だから今申し上げたとおり…
興奮状態の女性。
一体何があったというのか
やめて下さい!
ところかまわず古紙をひっくり返していく。
昨日のさえの恋文を必死で探している
あっちも見させてもらいますよ。
あまりの迫力にどうする事もできない男たち
ちょっと!ちょいと!はい!
そして仲買商がついに…
持って行った?どこの表具師ですか?ええ。
おねえさん。
女性はさえの恋文を追って店を飛び出し女郎屋へ向かう。
彼女たちの間に何が?このあとさえの口から衝撃的な事実が明らかになった
そんな…。
違うの!何だい?あの人ね…
さえと関係していた妻子ある男性はなんとお杉とも通じていたのだ
それはさえと男のうわさを耳にしたお杉の嫉妬に駆られた行動だった
こいつはこのままほっとくわけにはいかねえ。
なあ?
そして…
よろしくな。
なじみの客さえのため弥兵衛が行動を起こす。
飛び出した弥兵衛は表具師の家を目指した
行ったよ。
恋文は既に女郎屋のふすまの下張りに使われていた
とにかく俺と一緒にすぐ来てくれ詳しい事は道々話すから。
嫌じゃねえけど何があるんだよ。
色金の問題じゃねえんだ。
お前あれだろ?うるせえよお前!水くさいじゃねえか。
早くしろよ。
頼むから。
お前のためにやってやるよ。
かくして2人による恋文奪還作戦が開始される事になる。
目指すはふすまの修理をした女郎屋。
だが…
既にお杉が先回りしていた。
幸いな事にお杉は中に入れず足止めをされている
しょうがねえや。
お杉に見つからないように裏口へと回る
お手間はかけさせません。
お願いします。
お願いいたします。
分かった。
弥兵衛と表具師は店の者を説得し中に入る事に成功
(お杉)中に入れてもらえればそれで帰りますから!
一方お杉はいまだに店側と押し問答を続けている。
急ぎ2階へ上がりふすまを張り替えたという部屋に向かう
幸い中には誰もいなかった。
すぐにふすまを取り外しにかかる。
だが…
(くしゃみ)
隣の部屋に人の気配。
これではふすまを外す事ができない
しかしここで諦めるわけにはいかない
もう渦巻いてるかも…。
ばか言っちゃいけねえよ。
冗談言ってるんじゃねえ!本当の事でございますよ。
今すぐ引っぺがしにかからないと呪いの邪気がお部屋にたまってしまいますよ。
苦し紛れの弥兵衛の口実
いいか。
客がいるのにふすまが外せるか!
そして…
あまりにもむちゃな提案。
ところが…
負けん気の強い俊吉がそれに応える。
江戸っ子の意地だ
できんのかよ?当たり前じゃないですか。
音たてるなよ。
承知です。
さっさと終わらせますんで。
お願いします。
静かに!
そしてふすまを外す事なく下張りを取り除く前代未聞の作業が開始される事になった。
果たして下張りから恋文を取り出す事ができるのか?外からは依然お杉の声が。
店先の様子はどうなっているのか私はその動向を探るために最新のカメラモスキートカムを放つ事にした
モスキートカムからの映像。
変わらず店側ともめているお杉の姿が映る
あんたもしつこい男だね。
決まりなもんでね。
諦めずにしつこく食い下がる。
2階の部屋ではふすまの表紙を剥がす作業に入った
中から下張りが出てくる
一方店先。
店側の対応にしびれを切らしたお杉がついに…
そうですか。
賄賂に心が動かされついに店の男が折れ始めた
その時ふすまの下張りからとうとう恋文が現れた。
慎重に恋文を剥がしていく。
お杉が店に入ってくるのも時間の問題か
あ〜ふすまがどうとかこうとか。
俊吉は恋文を無事剥がし終え表紙を張り直していく
そのままでいてくれ。
分かったよ!よし。
もうちょっとだ。
ちょっと…!
お杉が更に袖の下を握らせる。
2階ではまさに全ての作業が終わろうとしているところだった。
だが…。
部屋にはまだゴミが…
そしてついにお杉が店に入るのを許された。
必死に片づける弥兵衛と俊吉。
もはや猶予はない。
その時…!
ゴミを外に放り投げる
くれてやる!来ちまう!片づけねえと…。
既にお杉が2階に上がってきていた。
2人はもはや逃げ場を失った。
果たして…!
客を装う2人。
しかし…
じゃまするよ。
お杉がかまわず入り込んできた。
そして…
えっ?
それはさえのかつての交際相手そしてお杉とも関係のある問題の男性であった。
思わぬ展開!
こいつはいろいろと…。
何がいろいろだい!全くあんたって男は!「ただの」っていうのは何さ。
そうだよな。
それはお前…。
だましたとは何だよ。
そうじゃないかい。
(お杉)そうかい。
そうきたかい。
いいよ。
お杉の感情が爆発する。
もはやお杉を誰も止められない
悪かったな!分かった!落ち着け!
出てこない恋文にいらだつ。
男と女の最悪の修羅場。
しらを切り逃げを決め込む男性。
更に…
そんな話聞いちゃいねえんだよ。
(おまさ)お前に話すような事じゃないよ。
おいちょっと待てよ!
そしてついには男女入り乱れての大騒動に発展した
そのどさくさに紛れて弥兵衛と俊吉が脱出を試みる。
何とか表に出る事に成功
モスキートカムには依然として騒動の様子が映し出されていた
ええ。
ちょっと。
ええ是非ご一緒に。
拾われたさえの恋文を追いかける事で古紙がどのようにリサイクルされるのかその一部始終を知る事になる。
拾われた恋文がくず紙と共に立て場へ。
立て場で仕分けられた古紙が紙すき屋へ運ばれていく
古い紙を細かくちぎり沸騰したお湯の中に入れる
煮詰められた紙を…
そしてきれいになった…
すかれた紙の水分を絞ったあと板にはり付け…
乾いた紙をまとめると完成だ
え〜古紙がこうやって再生紙に生まれ変わりました。
こうしたすき返し業者は浅草などを中心に広く存在していた。
そのため価格の安い再生紙は浅草紙とも呼ばれちり紙などの日用品として使用されていた。
出来上がった再生紙は再び古紙問屋を経て小売りの紙屋へと卸される事になる。
さえの恋文がこうしてまた新しい紙へと生まれ変わったのだ。
その時だった
おおさえちゃん。
そこにはさえの姿が
それなら…ちょうどよかった。
ああそうかいそうかい。
何を言ってるんでえ。
そうね。
ああ高く買い取るぜ。
いらっしゃい。
いいのが買えたかい。
うん。
それじゃあねまた。
おうまたな。
全てが吹っ切れたようなすがすがしい姿のさえ。
まるで生まれ変わった紙のようだった
そして…小道から出てきたのはあの二股三股と女性を翻弄した男だった
(鼻をかむ音)
紙を取材する事で見えてきた人間模様。
さまざまな人との出会い別れ。
そこはまるで人生の交差点のようであった
それじゃあ…そうですか。
じゃあ私もここで。
ああそうでございますかい。
それじゃあごめんくださいませ。
江戸時代紙はどんなに汚れても無駄に捨てられる事はなかった。
何度でも新たな紙として生まれ変わり人々の手に渡っていく。
それはまるで歴史の営みのようであった。
いかに困難な時代でも人は再生を繰り返し新たな時代を切り開いていく
以上コードナンバー731092アウトします。
2015/11/04(水) 01:30〜02:00
NHK総合1・神戸
タイムスクープハンター セレクション「紙くずリサイクル激情」[字]
「タイムスクープハンター」のアンコール放送。江戸時代、紙のリサイクルに貢献していた「紙くず買い」に密着取材。紙をめぐる男と女の間で感情が激しくぶつかりあう。
詳細情報
番組内容
時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤)は、江戸時代へタイムワープをした。江戸は世界に類を見ないほど紙の使用量が多かった。今回の取材対象は「紙くず買い」。不要になった紙を買い集め、江戸のエコなリサイクル社会を支えていた。ある日、弥兵衛が、なじみ客・さえから恋文の手紙を紙くずとして回収。しかし、この恋文をめぐり、とんでもない事態が発生していく。男女の感情が激しく衝突する。果たして…。
出演者
【出演】要潤,杏
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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