猫のしっぽ カエルの手・選「古里(ふるさと)のぬくもり」 2015.11.01


さまざまに形を変えて。
さっきの雲はもうどこかに消えてしまった。
京都大原秋の空。
ひんやりとした空気が包み込む築100年の古民家。
早朝昨日の雨で散った花びらや枯れ葉がベニシアさんの庭に彩りを添える。
少しの間そのままで。
一日の始まりはまきストーブの火をつけることから。
そんな季節がまたやってきた。
まきストーブあったら寂しくないって感じ。
朝早く起きてみんな寝てるからまきストーブお茶つくってる。
そんでみんな7時ぐらい起きるから。
なんかあったかい部屋が待ってる。
きょうは日曜日。
ベニシアさんは朝市へ向かった。
大原の農家が野菜を持ち寄り集まってくる。
「大原ふれあい朝市」。
まだ土がついた野菜たち。
みんな畑からとってきたばかりだ。
ベニシアさん面白いものを見つけた。
これトマト?ナスナス。
え!ミニトマトみたいだけど。
ナスよね。
なんていうナス?外国のナスみたい。
え!見たことないよフフフ…。
え〜!これ甘い?味は?ナスでしょ?今まで食べた中で一番甘い。
あそう。
焼いて味噌と?素焼きでも十分おいしいと思う。
オレンジ色のナス。
いつか大原の新しい名物となるかもしれない。
この時期朝市には味噌や漬物などが並び始める。
冬に向けそれぞの家庭で丹精込めて作られた保存食。
これはもうおばあさんに教えてもろた寂光院流…。
昔のやり方です。
おいしそう。
(男)日本の本当の田舎味噌。
(2人)おはようございます。
寒いねきょうは。
寒い朝は。
朝は。
これ醤油味?醤油味。
おにぎりしたらね案外とおいしいかも。
それにおかゆさんにも合う。
あぁ。
1回やってみます。
はいおおきに。
ありがとう。
ありがとうございます。
ベニシアさん朝市に来たら会いたい人がいる。
胡麻たれあるよね?
(店)「ごまだれ」はある。
じゃあ1本ください。
なんやバジル…何だっけ?ベニシアさんの親友…大原の野菜でぽん酢やドレッシングを作っている。
うん…これがいいね。
すごい豆。
どこで…?きょうは自分の畑でとれた枝豆も売っていた。
つまんでみこれ。
うまいって。
うんおいしい!生でもおいしいね。
中に調味料がいっぱい入ってるんです。
どんなふうに入ってるアハハハ…。
辻さんいつも真顔で冗談を言う。
豆どうやって買うの?1本でいくらか?ワンセット800円。
ワンセット800円!よう付いてるで。
うん?大丈夫や。
はいはい。
ウフフフ。
商売うまいですね!フフフフフ…。
何言ってんですか。
袋ちょうだい。
ありがとう。
きょうどうしましょう。
コーヒー飲みに行く?コーヒー飲みに行こうか。
開いてるか…開いてるわ!行こ。
ベニシアさんと辻さん。
見た目も性格も全く違う2人。
だけど仲が良いのはこの大原に対する思いを理解し合っているから。
(婦人)あんたこわいねん。
(辻)何言うてんの。
座りなここ!午後。
ベニシアさんは辻さんの案内である場所を訪ねた。
家はご覧のとおりあんまり見られたくないけど一応…。
今ススキあるからすごいいい雰囲気よ。
そうそうそうそう。
一応水道とね…。
今年のはじめ辻さんが購入した古民家。
ベニシアさんどうしても見てみたかったのだ。
しばらく留守にしてる間にススキだらけになってしまった。
だって自然の力がすごいから。
あぁすごいな。
まぁご覧のとおりです。
そこはもともと…。
ふ〜んすごいじゃん。
辻さんいわく「人ではなくて動物が住んでいる家」。
以前の住人が離れて久しい廃屋同然のこの民家を辻さんは買った。
なんか古いものを保存したい気持ちがあるの…?保存っていうか…。
そりゃ新しくする…新しい建物は要らんなこんな所に。
うん。
俺はやっぱり茅葺きが絶対似合ってると思ってるから。
それいつか住みたいと思ってる。
それは時期を待たんとしょうやないね。
わしが暇になった時にね。
うん70歳になったら。
あ…もうすぐやないの。
アハハハ…。
う〜ん。
辻さんがこの家を買ったきっかけ。
実はベニシアさんだった。
8年前辻さんはベニシアさんに誘われイギリスを旅した。
ベニシアさんが主催するイギリスの庭を訪ねるツアー。
周りは女の人ばかり。
けれども辻さんは旺盛な好奇心でイギリスの旅を堪能した。
うれしかったよね。
一番うれしかったのは辻さんがある庭でそこの庭の上にお昼寝したの。
アハハハハ!それがすごい良かった。
みんな行儀のこととか結構気にするけど辻さんは自由でいつも同じ感じでリラックスして…。
すいません。
私はずっと自由なことばかりしてますんで。
そしてこの旅行で辻さんは気づかされたことがあるという。
ベニシアにその時に教えられたことがねイギリスは古い家の値段が高いって聞いたやんか。
うん。
古い家の方が大事やって聞いたわけや。
うん。
ベニシアに言われるまで分からへんかったっていうところあるな。
あそう。
うん。
それまではその…そんなことに対して物を考えようとは思わんかった。
かつて大原の象徴だった茅葺き屋根の家。
新しい便利な生活を求めて大原を出ていく人が増え次第にその姿を消していった。
大原の兼業農家に生まれた辻さん。
大原生まれの大原育ち。
でも大人になると新しい世界に飛び出した。
京都市内で飲食店を経営した。
35歳の時大原に戻ってきてドレッシング作りを始めた。
いつもにぎやかな辻さんの店。
総菜や和菓子も売っている。
メインのぽん酢とドレッシングは40種類以上。
もともと私京料理の板前をしてましたんで京料理の中ではぽん酢というのは何種類も実は作るんです。
大原産の赤ジソを使ったドレッシング。
要するにシソジュースを作るんです。
甘くないシソジュースを作ってそれに調味料を合わせていくんです。
大原名物のシバ漬けでもドレッシングを作った。
誰も思いつかなかった商品を辻さんは次々に発明する。
こんなの作ってんのうちしかないし。
その味を支えるのが古里大原の野菜。
できる限り大原産のものを使うことにこだわる。
辻さんが地元でドレッシングを作る理由はここにある。
畑を持ち自分でも野菜を作る。
古里の野菜は辻さんの自慢だ。
ここに植わってんのが黒豆なんですけどね有機農法の作り方ですけど。
実がねちょうど今こんな大きい豆ですさかいね。
私の小指の指ぐらいありまっしゃろ。
これ食べてもたら分かりますけど非常に甘いです。
これのドレッシングを作ろうとしてるんですけれどもまだ出来ません。
大原の野菜はおいしい。
でも戻ってきた故郷で見たのは人々が農業で食べていけず農地が荒れていく姿だった。
以来ドレッシングに総菜に辻さんは大原の野菜を活かす方法を考えるようになった。
荒れた農地があるっていうのはそれは耐えにくいことですわ。
非常に耐え難いことやさかいにやっぱりせっかく農地があってそれから作るものによってちゃんと自活ができるんならね。
例えばここにずっとあるのは全部大根なんですけどね。
まだ太さで言うたら3〜4センチぐらいの太さですけども12月になってくるといっぺんにドッと出来てくるんわけです。
そやから生で売って売れるかいうたら売れませんのでたくあんにしたらどうなん?それからえ…私の場合やったらドレッシングに加工したらどうなんとかね。
農業はほんまに全て工夫工夫工夫ですわ。
売るとこも工夫作んのも工夫加工すんのも工夫。
常に工夫が付きまとうさかいに。
この栗はどこの栗なんですか?大原。
大原の?はい。
店頭では野菜も売っている。
辻さんが作ったものだけではない。
この日近くの農家の人が野菜を届けにやってきた。
(辻)おおきに。
きょうはこれだけ。
おおきにおおきに。
ありがとうありがとう。
何キロぐらいあるあるやろこれ?
(農家)分からん。
量ってみて。
え〜ちょっと待ってや。
はかり取ってくるわ。
辻さんはよくある店頭販売のように農家の人にスペースを貸すわけではない。
野菜は全て店が買い取る。
ここにも辻さんのこだわりがある。
基本的にうちが全部買い取ります。
返品なし。
あの…返品ありにしてしまうと農家の人は作る意欲なくしてしまうねん。
そやからね絶対それはしたらあかん。
そやから安い値をつけても駄目なんよ。
安い値をつけても駄目やし返しても駄目なん。
例えば「売れ残ったらどうすんの」って言うけど売れ残った時に考えるのがうちの仕事や。
辻さんが買うたるって言わはったからきばって作ろうかなぁって思ってるところです今。
うちは作ってもらへんかったら商売にならへんやから。
大原の野菜でしっかりと売り上げを出す。
そうして大原を元気にしたい。
それが辻さんのやり方。
たぶんそれを知ってる人が非常に少ない。
大原の人がねわざわざ町の中に働きに出んでもね大原から大原まで交通費かからへんし時間かからへんしで大原の素材を使こうて大原の商品ができたらこれが一番ベストですわ。
例えば私の所がそれをする事によって地元の人が就職してもらって今でも年に半分以上は地元の人だけでやりますけどね。
高い交通費払ろうてね朝早うから起きてね仕事に行くぐらいだったらまぁ家でゆっくりしてから仕事来たほうがどう見てもやっぱりシンプルでしゃろ。
人々がいるからこその古里。
仕事があってここで自活し生きていく事ができますように。
店で以前アルバイトをしていた女性がもうじき子どもを産むという。
10日ぐらい遅れる人もあるし。
なかなか…。
(女性)社長は双子ぐらい入ってる。
(辻)ありがとう。
(笑い)
(妊婦)負けてんな。
負けてるな。
わしの方が勝ってるなどう見ても。
子どもができるっていうのは一番大事なことやからな。
自分の店で働いた若者が大原で新しい家族をつくろうとしている。
そのことが何よりもうれしい。
ベニシアさん毎年恒例の大仕事。
1年分のトマトケチャップを作る。
今からケチャップを作ろうと思ってんの。
でストーブがこの台所に入った時からこういうストーブのお料理は何かできますかって考えてストーブは本当に味がいいのね。
ゆっくり焚くと。
そしたら最初はにんにくをみじん切り。
でちょっとこれを…。
次はたまねぎね。
おいしいたまねぎはすぐ分かるね。
涙が出る。
でも涙が出ることは目に良いことですよ。
だからたまに泣いたらいいんですよ本当は。
目がきれいになるんだって。
フフフ。
次はにんにくとたまねぎをオリーブオイルでソテーします。
たまねぎ入れて。
ちょっと透明になるまで軽く炒める。
炒めたにんにくとたまねぎは底の深い鍋に移す。
そんでトマトいっぱいありますから洗うより私のやり方で。
水と酢につけとくのね。
お酢には殺菌効果がある。
こうして1つ1つ手間をかけて作る時間をベニシアさんは大切にする。
多分私が生まれる前1950年生まれてその時「アメリカンドリーム」っていうものがあって便利な生活洗濯機ができていい冷蔵庫ができてでもそんな時みんな深く考えてないのね。
ただ早くできるものはいいでしょうっていう感じで。
逆に今はゆっくり手で作れる時間が欲しい。
やっぱり手で作る喜びがあるから。
その時間が貴重って感じだよね。
それをできる時間。
鍋に刻んだトマトを入れ水を注ぐ。
水。
あんまり酸っぱいの駄目。
さらに砂糖赤ワインビネガートマトペーストを加えて5分煮る。
その間にフライパンでクミンコリアンダーマスタード3種類の種を弱火でロースト。
香ばしい香りが部屋中に立ちのぼる。
オッケー。
そしてこれ入れます。
すり鉢ですって鍋に入れる。
はいもっとスパイスあるよ。
まぁ全部いっぺんに入れますからね。
さらにオレガノなど7種のスパイスとケイパーを加えていく。
オールスパイスは体暖まる。
だからそれぞれ役割があるから。
こういうケチャップ作ったら元気になります。
全て混ざったらまきストーブの上に置き3時間煮込む。
ゆっくりゆっくり水分を飛ばしとろみがつくのを待つ。
煮込んだものはミキサーにかけピューレ状に。
さらに鍋に戻してひと煮立ちさせて塩でお好みの味に調えればやっと完成だ。
うん。
ベニシアの味でぴったし。
うんおいしい!バッチリ!うんおいしい。
特製のトマトケチャップ。
たくさん作ったら冷凍保存する。
他のどこにもないベニシアさんの味だ。

(夫)気をつけてくださいね。
おいしい。
うん。
オッケー。
ありがとう。
あ谷川さん!まき持ってきてくれたんですか。
またまきが出たので。
あ…ありがとう。
持ってきました。
ありがとう。
まきのはじける音に耳をかたむけ本を読む。
心まで温まった。
2015/11/01(日) 18:00〜18:30
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手・選「古里(ふるさと)のぬくもり」[字]

秋深まる京都大原。日曜は朝市へ。大原の野菜でドレッシングを作る友人の辻美正さん。かやぶき屋根の家を購入したのはベニシアさんの影響。ベニシアのトマトケチャップ作り

詳細情報
番組内容
秋深まる京都・大原。ベニシアさんの一日は、まきストーブに火をつけることから。日曜は朝市へ。友人の辻美正さんは、赤シソなど大原の野菜でドレッシングを作ったり、荒地を開墾した畑で野菜を作ったりしている。かやぶき屋根の古民家を購入したのは、ベニシアさんがきっかけだとか。ベニシアさんはトマトを使って1年分の特製ケチャップを作る。寒さが増す季節、まきストーブでワインを飲みつつ読書にふけるのも楽しみの一つ。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸

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