外部の意見は必要。
久しぶりの先生きのこる論。今回はゆきぼうだあいすきJリーグである。
今年の7月、Jリーグは新たにアドバイザーとして5人の人物と契約を交わしたことを発表した。
その顔ぶれは堀江貴文氏、夏野剛氏、冨山和彦氏、梅澤高明氏、西内啓氏の5人だ。この5人の中で知名度が突出しているのは、何と言っても堀江氏と夏野氏の二人だろう。
正直に言うと、G型・L型大学論争の中心人物でもある冨山和彦氏が入っているのもとても心配なのではあるが、それはそれで1つのエントリが埋まってしまうレベルの話になるので、そっちはまた別の機会に触れることにしようと思う。
この「アドバイザー契約」という仕組み自体はとても良い物だと思う。サッカー関係者だけで運営していこうとすると、どうしても閉鎖的になったり、暗黙の了解的な何かが生まれてしまったり、学閥や派閥問題が組織を腐敗に導いたりする事が多いからだ。
今のFIFAを見るまでもなく、そういう過程を経て腐敗が進んだ組織というものは、どう頑張っても修正が不可能になる。そんな状態になった時に新しい風を入れようとしても、必ずどこかの時点で組織的な妨害工作のようなものが働いて、外部の意見を弾こうとするようになる。
だから、Jリーグがサッカーとは無縁の外部の意見を聞こうと考えるのは、まだ組織が健全である証拠でもある。これすら出来なくなってしまったらもうお終いだ。
ポーズでなければね。
アドバイザーのアドバイスはどんな感じ?
では、そのアドバイザーの具体的なアドバイスとはどういうものなのだろうか。
勿論、本当にJリーグに提言しているアドバイスは、Jリーグの理事会にでも出席しないかぎり知ることは出来ない。だが、堀江氏や夏野氏などのメディアに登場する機会の多い人物の意見は、わりと報道などで聞くことが出来る。じゃあ、彼らがどんな事を言っているのか、その報道を元に検証してみることにしよう。
まず、堀江氏、夏野氏の両方が言っているのが「外国人枠の撤廃」だ。以下に要点をまとめよう。
- 日本代表の利益をJリーグに傾斜配分する。
- そのお金を原資として質の高い外国人を獲得する。
- ブンデスは外国人枠無いけど、ドイツは優勝したよね?
- 往年の名選手を獲得するべき。
- 外国人枠を撤廃すれば、日本人がタイなどに行くことも考え、可能性が広がる。
2人の意見を見ていると、堀江氏の方が「普段からよくサッカーを見ているな」と感じる。無茶なことも言ってはいるが、「まあそうだよね」と思えることも言っていて、頭から決めつけて「ダメだこいつはやく何とかしないと」というようには思わない。夏野氏の意見は説得力がなさすぎて、正直どう捉えていいのかわからない。
外国人枠撤廃でJリーグの質が上がるか。
仮に、いま外国人枠を撤廃したとして、本当にJリーグの外国人の質が上がるのだろうか。
外国人選手を獲得するためには当然移籍金と年俸が必要になる。
Jリーグ設立初年度、日本に来ていたのは夏野氏の言う「往年の名選手」だった。ジーコを筆頭に、ピエール・リトバルスキーやラモン・ディアス、ギャリー・リネカーなど、もう引退寸前の選手たちが、日本人を手玉に取るようにプレーしていた。…リネカー以外。
2014年、セレッソ大阪がディエゴ・フォルランを獲得したのは、その再現だった。移籍金は前所属チームのインテルナシオナルが、フォルランに未払いだった分を相殺する事で払わずに済んだため、年俸の6億円だけで獲得できた。
では、フォルランの獲得はセレッソ大阪にとって成功だったのかと言われると、そうとは言い切れないだろう。なにしろ、そのシーズンにセレッソはJ2降格の憂き目にあってしまったのだから。
色々と複合的な要素はあった。
例えば、監督に据えたランコ・ポポヴィッチ氏は適任であったのかとか、柿谷曜一朗をバーゼルに移籍させた判断の是非、更に、フォルランの起用法に問題はなかったのか、だ。
それらを考慮に入れても、残念ながらセレッソのプランは失敗に終わったと言わざるを得ない。この件に関しては、相当な文字数が必要になるので、これ以上掘り下げないが、フォルランもセレッソも不幸な終わり方をしてしまったといえる。
とにかく、外国人選手の獲得に関しては、夏野氏の言うような「客を呼べる(であろう)往年の名選手を呼ぶ」だけではチームを強くする事は出来ない。
堀江氏の言うように、放映権を高く売って、その分配金で質の高い外国人選手を獲得するのは理想ではあるが、現状Jリーグの放映権を高く買うところが果たしてあるのかと言われると「無い」と言わざるを得ない。
ちなみに、ブンデスリーガは確かに外国人枠がないが、ドイツが優勝したのはそんな単純な話ではなくて、Jリーグもモデルにした育成制度や、メスト・エジルなどのトルコ系の移民二世や、ルーカス・ポドルスキなどのポーランド系の選手など、ドイツが他民族を受け入れてきた結果でもある。
堀江氏は、じゃんじゃん帰化させろと言ってもいるが、まあこれは国が動かないとどうにもならない話なので、すぐにどうこうできる問題ではない。
ビッグクラブ&スタジアム問題。
堀江氏は他にも様々な改革案を上げている。色々な報道がなされているが、一番まとまっていたのは以下の記事だ。
要点をまとめると…
- Jリーグは10年後にはプレミアリーグの地位を奪うことが可能。
- 東京都心にサッカー専用スタジアムが必要。周辺に商業施設も作る。
- 予算150~200億円ぐらいのクラブが東京23区に2つは欲しい
- 魅力ある投資対象だと思わせるために、成功事例を作るしか無い。
- ネット動画に放映権売ればいいんじゃね?
などなど。
一部誤解も見られる。たとえば、プレミアリーグは今ではフーリガンなど殆どいない。実際に自分も2011年にエミレーツ・スタジアムにアーセナルの試合を見に行ったが、まったく危険ではなかった。フーリガンはチケットを買えないようになっているためだ。
だが、一部サッカーファンに叩かれているほど荒唐無稽な事を言っているわけでもない。というより、わりとまともな提言が多い。すくなくとも夏野氏よりはよっぽど前向きな意見だと個人的には思う。ただし、イチバンリーグ、テメーはダメだ。
強すぎるチームを作ってアンチから憎まれる位が丁度良い。私はJ1プレミアはも少しチーム数増やして「イチバンリーグ」とかいう個性的な名前にするといいと思います
J1のチーム数は多すぎる。6チーム制で実力アップを促せ - http://t.co/y2dbD8J0Fy
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) September 28, 2015
では、堀井氏の提言を見ていこう。
堀井氏は都心に大きな専用スタジアムを作り、とにかく強いビッグクラブを生み出して人気を呼び起こし、主にアジア諸国やネットメディアに放映権を高く売るというビジネスモデルを提唱している。だが、そう簡単にはいかない。
問題は、「周辺に商業施設を備えた都心の巨大スタジアム」にある。日本では都市公園法によって、公園内に設置できる施設の種類や規模が制限されているため、スタジアムに商業施設を併設するのがかなり難しい。
具体的に言ってしまうと、第4条において定められているように、都市公園は建坪が敷地面積の2%とされている。
都市公園法施行令では特例が設けてあり、都市公園法下においても建坪を増やすことが出来る(12%? 20%?どっちだろう…)ようだが、例えば堀江氏の言うように、築地市場跡に巨大スタジアムを建てられるのかどうかは、その土地がどういう扱いになっているかによる。あの辺はどうなってるんだろう…
※どうでもいいけど、法律の条文って何でこんなに読みにくいんだ。
加えて、本当にビッグクラブがJリーグに利益をもたらすのかという問題もある。
以前にも書いたことがあるが、本当にサッカーに興味のない一般層に振り向いてもらうには、「単に国内で強いだけのビッグクラブ」ではダメだ。「アジアでも飛び抜けて強いチーム」でなければ、普段Jリーグを見ない人たちを惹きつけることは出来ないだろう。
上記のエントリでは例として広州恒大を挙げているが、あのチームは欧州の強豪チーム並みの予算で運営されている。はっきりいって、Jリーグ設立時のヴェルディ川崎など相手にならない。倍以上の100億円以上のお金が投入されているのだ。なお、収入は40億円の模様。浦和レッズと同規模である。しかも、堀江氏が言っているチームはこれをさらに上回る規模のチームという事になる。
つまり、採算度外視で湯水のようにお金を投入してくれるパトロンを見つけなければならない。さらに、クラブライセンス制度も改訂を余儀なくされるだろう。Jリーグ設立時よりも更に赤字を補填してくれるようなあしながおじさん的な誰かを見つけなければならないのだ。
言うのは簡単。やれるのかが問題。
夏野氏はともかく、堀江氏の言い分はわからないでもない。だが、現時点では机上の空論というか、お花畑の域を出ていないのも事実だ。
もし、本気で彼らの言うような改革案を実行したいのであれば、Jリーグも心中覚悟で臨まなければならないと思っている。チャンピオンシップで得られる放映権に一喜一憂している場合ではない。
もし、失敗すればJリーグは存亡の危機を迎えるかもしれない。現に、かつて「作られたビッグクラブ」が失敗したことにより、リーグそのものが消えてなくなってしまった例があるのだ。
ニューヨーク・コスモス(以下NYコスモス)。かつて北米サッカーリーグに君臨したモンスターチームである。
NYコスモスは、ワーナー・ブラザーズが運営していた。
ペレやフランツ・ベッケンバウアー、ヨハン・ニースケンスなどを擁し、監督はあのヘネス・バイスバイラー。まさに、人気・実力ともにトップを誇っていた。
だが、1980年代に入りワーナー・ブラザーズが経営不振に陥り予算の規模を縮小すると、NYコスモスは途端に弱体化、観客動員も半減し、それに合わせるかのように北米サッカーリーグも消滅の憂き目にあった。
今は隆盛を極める中国スーパーリーグだが、これと同じ事が起きないとどうして言えるだろうか。こういう事を防ぐ為になにか対策を講じた上での提案なんだろうか。
Jリーグは、一度横浜フリューゲルスの消滅という痛みを味わっている。今でもJFAハウスに行けばマスコットのとび丸が笑顔で出迎えてくれる。
※2012年 JFAハウスにて撮影。
あの悲劇を二度と繰り返さないと誓ったからこそ、とび丸はここにいるのではなかったか。
たしかに、今後Jリーグを盛り上げていくために、お金を集める方法を考えるのは重要な事だ。だが、巨大な資本に頼り切りのチーム運営は、大きなリスクをはらんでいるのも事実だ。
だからこそ、Jリーグの事務局にはお願いしたい。細心の注意を払って、正しい道へとJリーグを導いて欲しいと。
この22年の積み重ねを無駄にするような真似を決してしないと。
この先生きのこるために。