(写真左から)ユーザベース執行役員の竹内秀行氏と、Life is tech!取締役CTOの橋本善久氏
中高生に向けたプログラミングスクールやITキャンプの提供を行っている『Life is Tech!』。2014年12月にスクウェア・エニックスの元CTOである橋本善久氏を取締役CTOに迎え、オンラインプログラミング学習サービスの開発にも注力している最中だ。
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その橋本氏のジョインから約1年、またしても同社に敏腕エンジニアが加わるという。それが、ユーザベースで執行役員を務める竹内秀行氏だ。
アジア最大級の企業・業界情報プラットフォーム『SPEEDA』や、ソーシャル経済ニュース『NewsPicks』の設計・開発を担当し、ユーザベースにおける技術トップとして同社のイノベーションを支えてきた竹内氏。今回の「就任」は、ユーザベースにも籍を置きながら『Life is Tech!』の開発にも携わる、“留学CTO”というユニークな形式になる。
彼の参画にはどのような狙いがあるのか。橋本氏、竹内氏双方の話を通じて、その真意に迫った。
竹内氏が求めた「新たな組織づくりのカタチ」
昨年の『TechCrunch Tokyo 2014』で「CTOオブ・ザ・イヤー」に輝いたこともある竹内氏
「もともと親交はあったのですが、先日飲みに行った時にすっかり意気投合して、『一緒にやりましょう』ということになったんです」(橋本氏)
そう振り返る橋本氏の言葉通り、今回の取り組みは突発的に決まったそう。CTOとして他社へ“留学”するというアイデアは、今年4月ドリコムとpixivが行った「社会人交換留学」に端を発しており、発案からわずか2営業日でLife is Tech!、ユーザベース双方の合意が得られたという。
大学在学中からプログラミングを手掛け、Webアプリの黎明期から経験を積んできた竹内氏という経験豊富なパートナーを得ることは、Life is Tech!にとって大きなメリットだろう。
一方、竹内氏はなぜこのタイミングでの“留学”を決めたのだろうか。取材班の問いに、竹内氏は次のように語った。
「私はユーザベースで執行役員を務めていますが、これまではエンジニアの1人として行動することでも価値が提供できていました。しかし、組織が拡大するにつれて求められるものが変わってきたと実感しています。自分自身のためにも、そして技術チームのトップという立場としても、常に成長を続けなければならないと考えるようになっていた矢先に、今回の話が持ち上がったんです。
橋本さんは前職時代、数千人規模の大手ゲーム会社でCTOを務めており、その経験も活かしてLife is Tech !やその開発チームを育てようとしています。私は、そこでのマネジメントの様子を見てみたい。そして、Life is Tech!というユーザベースとは異なるカルチャーの組織に身を置くことも、私にとって学びや成長の機会にもつながるはずだと思っています」(竹内氏)
“留学CTO”という名称に込められた、ギブアンドテイクの約束
竹内氏のジョインにあたって熟考されたのは、“留学CTO”と名付けられた役職名だ。
「近年、増加傾向にある『技術顧問』とは一線を画したかったんです。当社だけではなく、竹内さんにも、そしてユーザベースにも価値のあるジョインにしなければならないというのが私たちの考えでした」(橋本氏)
結果、2人が付けた名称が“留学CTO”。Life is Tech!が技術支援を受けるだけでなく、竹内氏にとっても学びのある「留学」のような形式になるように、という意図が込められている。
「企業に勤めているエンジニアは、一般的にはその企業の中でしか経験を積むことができません。しかし、それではどうしても成長に限界がある。複数の企業に属してプロジェクトに取り組むことができれば、その分だけ経験値を高めることができるはず。それを実現するのが、この“留学CTO”という新しい働き方なのです」(橋本氏)
竹内氏がLife is Tech!で新たな学びを得る代わりに、竹内氏もLife is Tech!に自身が持つノウハウを伝授する。ギブアンドテイクな関係性によって生まれる良い化学反応を、両氏共に期待しているようだ。
「CTOは現場のエンジニアの手本となる立場でなければなりません。そういった意味でも、私自身がこのような経験を積めることを非常にうれしく思っています」(竹内氏)
第三者へも伝えていける、実体験に基づく学びの実現を目指して
この“留学CTO”の取り組みには、エンジニアのキャリア形成における「新しい提案」の意味合いもあると話す橋本氏
“留学CTO”のような働き方を画期的に思う反面、それぞれの会社としてはどう受け止めているのだろうか。特にユーザベースに関しては、自社の執行役員が「兼業」となることに対する懸念点はなかったのだろうか。
「私の場合は、会社も快諾してくれました。もともと結果を出せばどんな働き方をしても良いという社風ですし、社員が1カ月間休職して好きなことに取り組む『自由研究』という制度も導入に向けてテストしていたりします。
要は、今回の経験を通じて私がユーザベースに何を持ち帰ることができるのかが重要なのだと思います。私はユーザベースで働くことが好きですし、Life is Tech!での経験は自社のエンジニアたちにもしっかりと伝えていきたいです。それが私のミッションだと考えています」(竹内氏)
今後、竹内氏はLife is Tech!の提供するオンライン学習システムの開発プロジェクトを中心に、Web業界での豊富な経験を活かしたエンジニアチームのマネジメントなども手掛けていくという。技術面を竹内氏が支えることで、橋本氏はサービス設計などにより注力できるようになる。
「“留学”とはいえ、やってもらうことはガチの業務。アドバイザーのように一部分を見て指示出しをするようなポジションをお任せするつもりはありません。それくらい入り込まなければ、やる意味がないと思うんですよね」(橋本氏)
橋本氏は、働くエンジニアの多様性の観点からこう語って締めくくった。
「今の時代はサービスも多様化・複雑化していて、1人のリーダーが全てをカバーするのはスキル的にも時間的にも難しいと思います。私には私の、竹内さんには竹内さんにしかできないことがあり、それが大変良い補完関係を作ることができます。何もCTOだからって1人でやる必要もない。また、1人の人間が一つの場所だけで働く事が絶対でもない時代です。
私自身も自分の会社を経営しながらLife is Tech!で取締役CTOを務めるという、柔軟な働き方をさせてもらっていますが、竹内さんも今回2つの組織に同時に貢献する形になる。そしてそれは、所属組織にとって逆にプラスに作用する場合もあると思います。
“留学CTO”のような働き方が増えれば、エンジニアを志す人材にとっても刺激になるのではないかと思います。私たちは『働き方の未来像』も提示して行ければと思っているのです」(橋本氏)
なお、今回の取り組みに際して、橋本氏×竹内氏のダブルCTOによるLife is Tech!主催の若手・学生エンジニア向けセミナー『今必要とされるエンジニアの「思考」と「サービス開発」』が11月29日に開催されるとのこと。興味がある人は以下リンク先をチェックしてみよう。
>> 2015年11月29日(日)14:30~17:00 渋谷dots.にて。詳しい情報はこちら
取材・文・撮影/秋元祐香里(編集部)