働くママには挑発的なタイトルかもしれない。長々と書いているが、とにかくママの働き方だけ変わってもしょうがないよ、という話。思わず、「そんなこと言ったって無理なものは無理」と言いたくなるのも分かる。「そんなの夫の会社に言ってよ!」という人もいるだろう。仰る通り。でも私は育休復帰のママ側と面談することがほとんどなので、
「では、あなたがわが社に働き方の変更を求めるのと同じぐらい、ご主人の会社にも求めていますか?」とぐっと喉元まで出かかるのは事実だ。言わないけど。
そりゃあ私だって、世の中、男女ともに残業なしで帰れて、子供との時間を大切にできて…そんな社会になってほしいと、いちワーキングマザーとして切に願うし、人事という立場でそうなるように、頭の固いオジサン達と時に喧嘩したり、持ち上げたりしながら取り組んでいる。でも、まだまだ現実は道半ばだし、今この瞬間を限られた「人材」をやりくりしながらビジネスを続けていく以上、子育て中以外の社員のことも考慮しなければならない。そんな中小企業の人事担当者であり、ワーママであるという複雑な立場から現実的な話を書こうと思う。
育児中でも遅番シフトを求める資生堂の動き
このニュースをご存じだろうか。2015年5月の記事で、簡単に言えば、資生堂の美容部員の中に育児短縮勤務者が激増し、彼女たちが一様に遅番シフトに入らないため不公平感が広がった。結果、育児中であろうと遅番シフトの免除を取りやめたというニュースだ。ちょっと時代に逆行している感じがするが、私は「こういう会社は今後増えるだろうな」と思っている。なにせ、「女性活用」だの「一億総活躍うんちゃら」なんて言われるずっと前からこの問題に取り組み、日本で一番女性活用が進んでいるといわれる会社なのだから。資生堂が抱える課題はいずれ、他の会社にも起こることだろう。いま、女性活用を無理やり進めているような会社はそのうちに同じ轍を踏むことになるだろう。結局、育児中の女性に配慮ばかりしていると、いつか立ち行かなくなるのだ。
残業がなくなる日はこない
仕事柄、他社の女性活用関係の担当者と話をする機会がけっこうある。オフレコで話すと、「くるみん」取得企業でも結局男性の働き方は前時代的に長時間労働が常態化しており、くるみんの取得要件である男性の育児休業もせいぜい人事やダイバーシティ推進室のようなところが該当する男性社員に頼み込んで2-3日だけ取らせている…みたいな話をよく聞く。
一方、ママ社員はくるみんの「充実した制度」の下で長期間の時短勤務や長期間の育児休業を取得し、その穴埋め(本当は大してなかったりしても)をフルコミット社員がしている。よくある企業の形ではないかと思う。
いくら世の中が「長く働いても成果にはつながらない」と言っても、会社というのは思った以上に風土というドメスティックな法律が動いているもの。よほど強烈なトップダウンでの「長時間労働削減」が叫ばれない限り、残業を短期間で劇的に減らした企業はあまり見たことがない。(例えば削減に成功しているSCSKとか、ランクアップはトップダウンが強烈)特に下請け・孫請けがメイン事業になるような中小企業では、経営側の腰も重く、現実的には難しい。結局、「残業なし社員はお荷物」というバカらしい価値観はあとひと世代ぐらいは消えないと私は思っている。
たとえ、恒常的な残業がなくなっても、突発的なトラブルや人相手の仕事による残業が完全ゼロになる日は来ないだろう。そんな時でもパートナーに保育園のお迎えをお願いできず、全く対応できないような社員ならやはり仕事へのコミットメントが低いという評価は間違っていないと思う。こういう人が増えてしまえば、他の社員にしわ寄せがいくのは当然で「お互い様」だけでは処理しきれなくなる。
さらに私が残業後にファミレスで子供にご飯を食べさせられたり、帰宅後にアマゾンの荷物を受け取れるということはそこで働く人がいるのだし、私たち自身もそういう社会を作り出しているのだろう。資生堂の美容部員の遅番シフトも同様だ。
パートナーの会社に働くママはいないのか?
ここまで読んで、「ますます働きづらい世の中になる」「結局、世の中変わらないのね」と思うママもいると思う。で、やっぱり仕事の働き方変化は妻:夫=100:0でいいか、となる。それでは、残念ながら5年後会社があるかどうか、なんていう多くの中小企業は女性を採用したくなくなるに決まっている。(本当は人材不足の中小企業こそ、制限のある社員をうまく使うべきなんだけど)
「夫は激務でまったく頼れません」…育休復帰のママの半数以上はそう言う。ではその「激務の会社」にワーキングマザーはいないのか。ワーキングマザーになりたい、という女性社員も?取引先には?…
あなたの夫が長時間労働をしている限り、その周りのワーキングマザーは「配慮された働き方」ということになる。パートナーの働き方を変化させることは、もちろんかわいい我が子との時間が増えたり、夫婦円満につながるが、巡り巡って、どこかの家庭を幸せにし、見えない小さな一歩かもしれないが、社会を変える気がする。
そして一方のママ側も配慮された人のままでいることは、前述の通りとても危険だ。「配慮されるだけの人」のボリュームが増えれば資生堂のように、結局立ち行かなくなって急に方向転換するかもしれないし、経営が厳しいときに、真っ先に切られてしまうかもしれない…。現状は圧倒的にこの「配慮」はママ側に偏重している。まぁ自分側ですべて配慮されないなら辞めますという女性も多いかもしれないが、それでは社会は変わらないだろう。
そんな世の中のままでいいのでしょうかね…と厳しい現実との狭間で私は思う。
ママの声が上層部に届かない現実
普通の会社はなかなか育児真っ最中の女性社員の声には耳を傾けない。でも、なぜか「激務の男性社員」の声にはとても敏感だ。これは悔しいけど、真実。
だからこそ、パパ達はもっと声を上げればいいのだ。…と簡単に言うけど実はワーキングマザー以上につらい立場に立たされることもあるから、大変だ。我が夫も闘っている一人だが、だいぶつらそうだ。(これはまた別の機会に)
実は私自身も社内では現在はママの言い分よりも、パパの言い分を吸い上げて上層部にフィードバックするようにしている。たぶんどこの人事担当者も同じだと思う。もうママたちのご要望は社内外でいやというほど聞いているから。
だから職場復帰をするママたちには、自分が会社に求める働き方の変更のせめて20%ぐらいだけでいいから、パートナーにも会社に求めるようにしてほしいと思う。例えば、自分が毎日2時間の短縮勤務を求めるのなら、夫には「2週間に1度の定時退社」を求めるとか。もちろん仕事内容や職種によって求められるレベルは違うだろう。でも、何かしら行動しなければ、ママの立場は「配慮されている人」のままなのだ。
自分で書いていて暗い気持ちになるが、これが中小企業の女性活用?の現実。それでもやっぱり私は子供たちが大人になったとき、「やっぱりさ、一億総活躍なんて無理だったんだよ。専業主婦家庭が一番いいんだよ」という世の中よりも、「夫婦で働いてお互いやりがいあるけど、家族で夕食を食べる時間も大事よね」なんていう社会になっていてほしいと思う。正論をかざし、青臭くでっかいことを言ったが、まぁ家族で夕食を囲めることは単純に幸せなので、そんな家庭がひとつでも増えるように明日からも仕事頑張りたいと思う。