共産党との内戦に敗れた国民党が台湾に移り、中国が分断状態になったのは1949年のことだ。今では海峡をまたぐ貿易や人の往来は盛んになったが、軍事的な緊張は続いている。

 そんな中で、中台の首脳が初めて会談することが決まった。近年まで世界で最も危うい発火点の一つに挙げられてきた台湾海峡問題の歴史の中で、特筆すべき出来事となろう。

 武力ではなく、対話によって平和的共存をめざす一歩になるよう願いたい。それが国際社会の共通した期待である。

 会談の意義を高めるうえで、とりわけ忘れてならないのは、台湾の世論への配慮である。

 国民党の馬英九(マーインチウ)総統は、支持率が低いまま、来年5月に任期を終える。1月の総統選では台湾独立志向の民進党が勝利する可能性が高い。

 そうした敏感な時期に会談を決めたことに、台湾社会で反発があるのは無理からぬ面がある。会談をするには「住民の支持」が必要だ、と言ってきたのは総統自身だったが、その支持形成の努力は乏しかった。

 今からでも台湾世論に対し、会談に臨む総統の真意を丁寧に説くべきだ。会談後もきちんと透明性をもって説明する義務があるのはいうまでもない。

 これまでを振り返れば、台湾の民意は微妙に揺れてきた。

 中台交流が民間窓口を通じて始まったのが93年。以降、台湾企業の進出が中国の経済成長を牽引(けんいん)した。いまの馬政権下で経済関係がさらに強まり、中台双方に利益をもたらした。

 一方で、中国の影響力拡大への警戒感が強まり、昨年は中台サービス貿易協定をめぐり若者の反対運動が起きた。当初は支持された馬政権の対中融和策が、行き過ぎた接近と見られるように変化したのだ。

 台湾世論の多くは中台の統一を嫌う一方、台湾独立を掲げて対中関係を壊したくはない、という現状維持を志向している。総統は、国民党が主導してこそ中台関係は安定する、とアピールしたいのかもしれないが、党派的な行動に走れば台湾社会の亀裂を深めかねない。

 馬政権が会談では何ら協定を結ばず、声明も出さないと明言しているのは、そんな不安感をぬぐうためだろう。その配慮のうえにも重ねて、世論への説明責任を果たしてもらいたい。

 長い対立の歴史をときほぐすには遠い道のりが必要だ。初会談は目先の成果よりも、双方が互いに敬意を払い、平和的な関係発展への針路を曲げない意思確認の場とするべきだ。