「磨き2割3分」ってフレーズが、ずいぶんと定着してきました。
15年前は、50%磨いた山田錦ってだけで、誰もがすこぶるつきにうまい!と思っていたんですが、今や当たり前になりました。それで、講座の生徒さんに「吟醸造りって、いつ頃からやってたのか」をお話ししました。
当然、精米機の性能が良くないと、米を磨き上げることができません。もっと言えば、精米機がなかった頃は、吟醸造りなんてできません。
江戸時代、灘の名門蔵元は、石屋川や武庫川、猪名川などに数百もの水車を回して、米を臼でついていましたが、せいぜい95%の精米歩合です。もろに、ぬかが残った玄米に近い原料米ですから、酒の色は黄色っぽかった。
これが、大正時代末期に、麦を挽くアメリカ製の横型精米機が輸入されて代用されました。
しかし、横型精米機は、麦の表皮や胚芽を取り除くために、麦粒がこすれ合い、ぶつかり合うように設計されていました。ですから、米に代用すると、米粒がすぐに割れてしまいます。
つまり、麹米がバラついてしまうので、今ほど美味しくない酒だったわけでしょう。
これを改良し、国産第一号の精米機が生まれたのは、、昭和5年(1930)。山形県の寒河江市に今もある古澤酒造が開発した、澤式精米機(さわしきせいまいき)でした。
これが、現代の精米機の原型です。
(取材:高槻新士 今は、もちろん動いてません)
縦型精米機は横型とちがって、重力に逆らわず米を上から下へ圧をかけることで、ばらつきが少なくなります。
食べる米の精米機が一般的ですが、吟醸造りの精米歩合60%以下の高精米には、「高精白精米器」があります。
みなさんご存知のメーカーは、一番人気の新中野工業、とかサタケといったところでしょう。10年前までは、釣り具で有名なリョービなんかも、精米機を造ってました。
縦型精米機の命は、米を磨く部分の「金剛ロール」。いわゆる、臼の部分です。セラミックス製などいろいろですが、メッシュを細かくして、米の割れを防ぎ、金剛ロールの形を変えて精米時間を短縮させることもできます。
ただ、それでも50%精米には、2昼夜かかります。40%精白なら3昼夜ですから、吟醸造りの酒価格には、その精米コストも反映しています。
大吟醸が市販される前、昭和40年代は大手メーカーのアル添酒が主流でしたが、実は、吟醸造りも、ごくわずかにありました。それは、蔵元が地元の名士や得意先向けにだけ造る、まさに「秘蔵酒」。市販はしていませんでしたが、すでに吟醸造りが行われていた蔵も多かった。広島・竹原の中尾醸造さんの「幻」なんて、原型はそんな秘蔵酒だったんですよ。
ちなみに、最近、どこまで米を磨けるかで、国税局のお偉い先生方の間で議論があったそうで、まあ、今の技術だと20%は大丈夫とか。
しかし、そこまで磨いて、超高い大吟醸を造っても、僕は飲みたいとは思いません。
50%の精米で、一升瓶で ¥2,500〜¥3,500 あたりで、すばらしい吟醸造りの酒にめぐり逢う方が、ずっと楽しいからです。
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