井手剛がこれまで発表した論文に関する情報をまとめたページです。 これまで3つの分野で論文を書いてきました。
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私が情報系の分野で研究を始めたのは比較的最近のことですが、 私が学位を取った物理と、現在の研究領域である情報工学では、
ずいぶん成果発表の文化が異なっていて興味深いです。 まとめるとこんなところでしょうか。
物理 | 情報工学 |
日本の(英文)論文誌にもそれなりの 国際的権威があり、重視されている。 | 国際的には、日本の論文誌の地位は高 いとは言えない。 |
和文論文誌は存在しない。和文の解説 記事は業績とは認められない。 | 和文論文誌にもきちんとした査読制度 があり、個人業績としてカウントしてもよい らしい。 |
学会の予稿集 (Proceedings)はそれだけでは業績と認められないこと が多い。 | 国際学会の予稿集の権威が非常に高 く、しばしば10ページ前後のフル論文とな る。 |
成果は基本的に論文誌 (Journal)で発表する。速報もLetter論文と してJournalで発表する。 | 成果は基本的に国際学会で発表する。 しばらくしてその詳細版を論文誌に投稿す る。 |
発表を急ぐ場合、プレプリントサー バーに電子版を同時投稿するのが通例。 | プレプリントサーバーの使用は一般的 ではない。 |
Journalの査読期間は、 Letterでもフル論文でも1-3か月程度(も ちろん揉めれば長くなる)。 | Journalの査読期間は1年以上 になり、論文も総合報告(Review)的 な色彩が強い。 |
基本的に全員が日本物理学会に属し、 春と秋の学会に参加する。 | 学会の数が多い。「研究会」という独 特のカテゴリがあり、専門領域というより、 人とのつながりで系統分けがなされる傾向がある。 |
特に、学会の数が多いのは問題で、無駄な雑用を増やしている気がします。機械学習に関する分野では、かつては電子情報通信学会系と人工
知能学会系で
2つの
研究会があったのですが、それらを統合してIBISML研究会を
設立し、より研究に
集中できる環境を作るべく、裏方で働きました。国内で学会を統一し、IEEEやACMに対抗できる勢力に育てたいところですが、上記の通り、情報系独自の
文化の問題があり、先は長そうです。
Bishop大先生"Pattern Recognition and Machine Learning"の翻訳。井手が担当した12章は別にしても、訳文の質は高いで す。内容にも 統一感があり、何より可読です。おそらくこの分野の標準的な教科書として長く読み継がれることになるでしょう。同時に、取りまとめの神嶌さんの神がかり的な活躍もま た、この業界の永遠の語り草になる でしょう。
プログラム委員として関わった人工知能学会全 国大会と付設ワークショップの論文 集。よく分からないけどここに載せておく。
SDM 2009で提案した「トラジェクトリ回帰」という新しい機械学習の技術を、電池の寿命解析技術に適用した論文。電池の過去の使用履歴は、ある多次元空間で のトラジェクトリとして表現される。学習データを元に、任意の使用履歴に対する電池の容量維持率を計算する。
かつてはまともな解析手段と思われていなかっ たマルチエージェントシミュレーション は、大規模 計算を可能にする計算基盤面の進歩により、実問題に取り組む手段として最近ようやく注目を集めるようになった。この論文は、X10言語を用いて超大規模の マルチエージェントシミュレーションを可能にする計算基盤「ザクシス(XAXIS)」について解説している。自分は、プロジェクト運営面での貢献。
SID (Society for Information Display) というディスプレイ工学の祭典のようなところで昔発表したドッ トパターン生成技術の進化版。新入社員の今道さんが充填問題という最適化問題の専門家であるというのを知り、あ、じゃあ、この問題に使えるよね、と言って みたのが始まり。通常こういうのは立ち消えになるものだが、フィニッシュにまで持ってゆく今道さんの気合はすばらしい。ちなみに、性能の改善振りもすばら しい。
SDM 09論文の続編でネットワーク上の経路のコストを予測するという問題(ネットワーク上のトラジェクトリ回帰)の別定式化。SDM論文ではカーネル法を使っ たので、そのdualということで、特徴ベクトルを明示的に作るアプローチ。エッジグラフのグラフラプラシアンを介して、カーネル法ときれいなつながりが できて、しかも実用的にも優れたアルゴリズムになっている。
変数同士の関連性の崩れを検出しようという論 文で、ICDM 07の続編と位置づけられる。最新のスパース構造学習が、伝統的な共分散構造選択理論のいくつかの実用上の困難を除去した上で、相関異常の検出に非常に有 用であることを初めて指摘。
トラジェクトリからの知識発見、という感じ で、車の経路から所要時間を予測する方法を 提案。個人的好みにより、泥臭いヒューリスティックスを一切使わずに、文字列カーネルと正規過程回帰でさくっと定式化。
主成分分析(PCA)もフィッシャー線形判別 (FDA)も、杉山さんご提唱の Local FDA (LFDA)も、「ペアワイズ表現」という共通の数学的構造を持っている。この論文では、その共通性を手がかりに、PCAとLFDAをつないで、Semi -supervised LFDAという手法を提唱。まったくもって杉山さんのパワーはすばらしい。
著者名は実はアルファベット順。最近の異常検 知系の仕事と同様、「どの属性が一番 変化(異常)に効いてるのか」という問いに答えようとしたもの。それを分類問題として解こうというのは鹿島さんのアイディア。井手はテキストのほぼ全部を 書いて、2項検定の部分を付け加えた。ちなみに、Dries と Rueckert はこの論文を発展させ、SDM 09のBest Paperを獲得( "Adaptive Concept Drift Detection")。
2つの時系列集合を比べて、その相違に対する 各変数の寄与度を計算する方法を与え た。時系列同士に強い相関があり、系が非常にダイナミックに変動する時、この問題は実は既存の方法では扱えない。日本語版も参照。
要するにPCAの高速算法の提案。任意のベク トルと主成分との内積だけに興味があ れば、Krylov部分空間の方法で非常に高速に近似計算ができる。それを時系列データの変化検出問題に適用。日本語版はこれ。
部分時系列クラスタリングの正弦波効果を群論 的に議論。滑走窓で作った部分時系列 は、データセットに人為的な並進対称性を付加してしまう。その対称性が、クラスタリング結果を完全に支配してしまうという事実を指摘。
部分時系列クラスタリングにおける重大問題で あった「正弦波効果」の由来を、理論的に 解明した論文。Spectral clusteringの理論を援用して、クラスタ中心の近似解が正弦波になることを示した。日本語版の ダイジェストもあり。
従来の相関係数は、非線形相関の記述には無力 だった。非線形の相関を、群論的対称 性にしたがって分類し、それぞれの対称性を具現する「一般化相関係数」を定義してみせたもの。日本語版の方がちょっとくわしい。
異種混合的な時系列データからの知識発見とい う課題に取り組んだ論文。元の時系列 を変化度の時系列に直し、その上で相関を計算。日本語の初期バージョンがこれ。
Web系システムにおける「サービス」同士の 依存度を定量的に評価するアルゴリズ ムと、それに基づく異常検出の論文。前者は福田さんと鹿島さんによる。後者は下の論文を踏襲するが、各サービス活動度個別に正規分布モデルを学習するとこ ろが新しい。その結果、階層的異常検知手法の提案、ということでまとめてみた。
Webサーバーが複数台あるような複雑なコン ピュータシステムの自動障害検知につ いての研究。重みが動的に変動するグラフとしてシステムをモデル化し、線形代数的な技巧で特徴を抽出する。方向データの時系列の外れ値検出問題として異常 を検知する。
KDD 04の論文を下敷きに、方向データの統計的異常検知手法を述べた論文。題名にもあるとおり、多次元データの「有効次元」という概念を提唱し、その異常検知 における含意を詳述。
超 一様分布列に 力学的な緩和法を導入することで、光学的に優れた性質を持つ散乱体分布を生成できることを示した論文。超 一様分布列を 物理的なパターン形成に用いたのはおそらく世界最初の試み。 軽 い読み物をこ こに載せておいた。
Ide-Kotani (1998) を、新実験手法としての共鳴X線発光に焦点を当てて紹介した論文。小谷章雄教授がシカゴで発表。共鳴X線発光はこの頃はマイナーな分野だったが、最近は学 会でも認 知されてきたようだ。
Ide et al. (2002) の手法を、導光板の他、散乱板などにも適用し、高輝度液晶ディスプレイの輝度向上のための基本手法として位置づけた論文。ここで示された手法は、IBMで はFlexViewという製品名でThinkPad A30pなどに使われている。
Ide et al. (2002)で報告した論文の理論のまとめ。超 一様分布列の 理論と、その分子動力学的な最適化技術。動的なスケーリング手法による充填率勾配の付与。デジタルハーフトーニング理論からの含意。光学の分野では最も権 威ある雑誌であるが、物理用語が通じる所に出すのはこれが最後だなと思いながら感傷的に投稿。
Ide-Kotani (1999) の発展版。高温超電導体の母物質の共鳴X線発光過程での運動量依存性や偏光依存性を理論的に論じた最初期の論文。
軌道縮退を持つ新しい1次元dp模型を提案 し、それに基づきX線共鳴発光スペクト ルの様相と電荷ギャップの性格の関係などを論じた論文。このモデルは、単一クラスターの極限で、準位分裂を持つ不純物アンダーソン模型を再現する最小モデ ルになっている。重要だと思うが、いまだにあまり検討されていないようだ。
N型高温超伝導体Nd2CuO4の共鳴X線発 光スペクトルについて、光子の運動量 と偏光方向に対する顕著な依存性を実験的に報告した論文。ハマライネン氏らとの共著で、理論計算の結果を提供した。
高温超伝導体特有のZhang-Rice1重 項形成という現象が、共鳴X線散乱ス ペクトルに寄与することを示した最初の論文。硬X線励起が化学ドーピングと同様の効果をもたらしうるという点が面白く、それをpotential (energy) dopingなどと呼んだが、今にして思えば語呂が悪く、定着せず。
TiO2で発見されたX線共鳴発光スペクトル の不思議な振る舞いを、理論的に説明 することに成功した初めての論文。従来「サイト選択的」と考えられていたX線の内殻励起が、遍歴的な電荷移動を巻き起こし、それがスペクトルに顕著に現れ る。そういうことを1次元dp模型に基づいて数値実験で示した。