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マンション傾斜問題後手後手 これから旭化成を待ち受ける巨額損害賠償
週刊実話
やはり“三井ブランドという保証”を買ったのが奏功したというべきか…。
4棟のうち1棟が傾いた『パークシティLaLa横浜』(横浜市都筑区)は、瑕疵担保責任を負う販売元の三井不動産レジデンシャルが全棟建て替えと、2006年の販売以降、最も評価額が高かった住宅価格で買い取る方針を住民に伝えた。また、その期間の仮住まいや引っ越し費用の負担などを提示して住民に実害が出ないようにするなど、トラブルの長期化を避けることで、デベロッパーとしては辛うじてブランドに傷が付くことを回避した格好だ。
では今後、販売元、元請け、下請けの間にどのようなことが起こり得るのか。
「旭化成建材が建設業法違反に問われ刑事訴訟に発展すれば、三井不動産レジデンシャルや三井住友建設から損害賠償を請求されるでしょう。あるいは旭化成建材は、民事で訴えられる可能性もある。いずれにせよ敗訴するのは、恐らく旭化成建材です。ただし、現段階で三井不動産レジデンシャルに監督責任放棄の問題や、元請けの三井住友建設にも責任がないとは言えず、三つ巴の泥仕合になることが予想される。どこもブランドイメージの失墜と損害は被りたくないし、旭化成サイドは少しでも負担を減らしたいでしょう」(大手デベロッパー調査部長)
株式市場も騒がしい。
「問題発覚後、三井住友建設の株価は急落、子会社の不祥事で旭化成の株価も急落しました。たった1人の子会社出向社員の“データ偽装”のせいで、あっと言う間に時価総額で約2700億円が吹っ飛び、屋台骨まで傾きかねない雲行きになっているのです。しかも問題の傾斜マンションも全棟建て替えに約280億円、住民の引っ越し費用や何やかやまで含めると300億円強は掛かる。その上、旭化成建材がこの10年間で手掛けた約3000件のチェックも行わなければならない。新たに不正なマンションが出てくる恐れもあるのですから、旭化成は大揺れでしょう」(兜町関係者)
データを改ざんした中京地区の下請け会社から出向した現場代理人の男性社員が担当したのは、そのうち41件と発表された。優先的に調査するというが、もしずさんなデータ管理が常態化しており、過去の建物にも次々と問題が発覚するとなれば、売上高約644億円('15年3月期)の旭化成建材には支払い能力はない。当然、親会社の旭化成に泣き付くことになる。
「その旭化成とて、来期の売上高で初の2兆円、営業利益1640億円と喜んでいた矢先の出来事だけに、浅野敏雄社長(62)でなくても泣きたくなるでしょう。実際問題として300億や400億円程度なら旭化成にとっては支払える額でしょうが、売上比率3割を占める『住宅・建材部門』の営業利益は、7割を占める『ケミカル・繊維部門』を上回っており、今回の一件は大痛手です。また“強い外壁材”と評価され、先の鬼怒川堤防決壊の際に濁流に耐えて話題となったヘーベルハウスは、旭化成建材が旭化成ホームズに供給しているものでもあり、ここにきての風評被害は是が非でも避けたいところ。とはいえ旭化成のブランドイメージはすでに傷つき、業績が悪化するのは避けられない事態です」(経済ライター)
データ改ざんと言えば、性能を偽装していた免震ゴムを販売していた東洋ゴム工業の問題は、この製品を担当していた一人のスペシャリストへの“丸投げ”が原因だった。具体的な改善策が示されないまま個人の責任や犯罪で事態が収められるのが常で、今回の一件も現場代理人の個人的犯罪にしたいという旭化成の態度はミエミエだ。
「そこで思い起こされるのが、'05年に起きた『姉歯事件』です。同事件は計算上の耐震強度の問題だけで、建物の実損までは発生しなかった。ところが今回は建物の傾斜という、まさに目の前にある危機が発生している。姉歯事件で見過ごされた建設業界内に横たわる“重層下請け構造”の弊害と、その内部に潜む施工段階におけるチェックなしの担当者丸投げの実態が、マスコミの大騒ぎに翻弄され、日の目を見ないままでいたことが、今回の傾斜マンション事件の背景にあるのです」(前出の経済ライター)
さて、旭化成の社歴をひもとくと、これまで不祥事らしいものは見当たらない。その源泉には「政治力とスキャンダルを抑え込むだけの危機管理能力がある」(企業内部に詳しい事情通)という。
旭化成は'03年10月、会社分割によって旭化成を持ち株会社とし、その傘下に旭化成ホームズや旭化成ケミカルズなど7つの事業会社を設立した。ケミカルズは全体の約40%を売り上げるリーダー格で、この部門で育ったのが東大薬学部卒で薬学博士の浅野社長だ。
会社分割当時、82歳という高齢の山口信夫会長が日本商工会議所会頭を退任することが決まったことをきっかけに、同社は経営体制を一気に若返らせている。山口会長に代わって蛭田史郎社長を会長に就任させ、新社長に旭化成ケミカルズ藤原健嗣社長(浅野社長の前任)の昇格を決めた。
「旭化成は今でこそ日本を代表する大企業ですが、そのルーツは水俣病の補償業務を専業とする日本窒素肥料(現チッソ)です。その旭化成で“中興の祖”といわれたのが、故人の宮崎輝元会長。昭和36年に社長の座へ駆け上がるや、以来“超ワンマン”として経営全般に隠然たるニラみを利かせ、一介の合成繊維メーカーだった同社を総合化学会社に変身させたばかりか、ついには住宅・建材事業にも進出。平成4年に死去するまで実に31年間にわたって経営トップに君臨していたわけですから、政官界にも幅広い人脈を持っていました。会長付の側近として仕えた亀井郁夫氏(元取締役)は後に参院議員を2期務め、その実弟が警察官僚の亀井静香元金融担当相。宮崎元会長が亀井兄弟を物心両面で支援したのは有名な話です」(前出・事情通)
宮崎元会長の懐刀だったのが平成12年に死去した山口元会長で、政官界で言えば石原慎太郎都知事の3度目の出馬に際し参謀役を買って出た他、財界の読売巨人軍応援団『燦燦会』の会長も務めていた。山口元会長にはこんな逸話もある。
「某夕刊紙が東京・世田谷の山口元会長邸の土地に関し、実娘に贈与税が掛からない方法で生前贈与したという話を“美談”として報じたのです。ところが翌日、山口元会長は、夕刊紙とは直接関係のない読売新聞の最高幹部を通じて記事の差し止めに動いた。贈与に触れたのは1回だけだったから記事はつぶせませんでしたが、山口人脈の怖さに誰もがビビりました」(同)
それから十数年。現在の愁眉とも言うべきは、クイ打ちの現場をめぐる攻防戦だ。
「施工主の三井住友建設は設計段階で、支持層まで2メートル足りない約14メートルと見込んでクイを発注しており、その責任を認めている。建材の現場代理人は、穴の掘削時に支持層に届かないと分かれば三井住友側にそれを伝え、長さを満たす別のクイの発注を依頼する必要があったが、工期終盤で工期内に終わらせたい焦りからか、証言通り支持層に達したと思い込んだからか、再発注を要請していない。両社のこの点に関する攻防が、負担金の分配に影を落としそうです」(全国紙社会部記者)
国交省も当然ながらこの事件の早期終息を望んでおり、姉歯事件のように捜査当局も重大な関心を寄せている。
「旭化成をただの下請け会社と侮ってはいけません。同社は昨年、自民党に1200万円の政治献金を行ったことからも察せられるように、多岐にわたる宮崎-山口人脈が現在の経営陣に引き継がれていると考えるべきです。存亡の危機に直面した現経営陣が、このまま分担金を『ハイそうですか』と無条件に受け入れるはずがありませんよ」(同)
住民の不安をよそに、300億円の負担の分配をめぐる三つ巴のバトルの行方が注目される。
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