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第二十二話
本日三話投稿しております。
お間違えのないよう。
「はぁ、はぁ、はぁ。24人目」
先の部分に刃が入った軍隊用のスコップで、自身と同じ顔の女を殴り倒す、さすがに体力の限界に達してしまいパクチョネ大統領は路地裏にへたり込んでしまう。
量産型パクチョネを誘い出した路地裏でへたり込み、一人空を見上げてしまう。
「自分と同じ見た目の人間を殺すのが、こんなにも気持ちが悪いなんて」
そりゃあそうだろう。
悪夢でしかないはずだ。
しかし、彼女しか戦えないのだ、彼女は国の為に戦うしかない。
例え自国の若者が、パクチョネVSパクチョネと銘打って、誘い込んだ路地の上から撮影した動画をアップロードして短時間100万再生を越えて笑い者にされていたとしても。
彼女は言ったのだ、大統領としての責務を果たすと。
「コア、次行くわ」
『そのまま休んでいてください。2分31秒後に来ます』
「わかったわ」
念話で指示を受けてパクチョネは再び腰を下ろして時計を見やる。
「大丈夫、やれる。やれるわ。私はやれる」
夜の路地裏に、似つかわしくない足音がコツンコツンと響き渡ると、全く自分と見分けのつかない人間が現れ、パクチョネはスコップを再び握りしめる。
『オリジナルを殺す。オリジナルを殺す。』
機械的に繰り返し呟くが、気付けばその声が一つではない事に気付く。
「コア!!どうゆうこと!!敵は複数!!挟まれたわ!!」
両サイドからパクチョネの群れが現れ、更にはビルの上からも飛び降りてくる。
『大丈夫です。計画は成りました。あなたのおかげでガーディアンを呼び出す事に成功したので、作戦を変更致しました。これより殲滅戦を開始致します』
コアの声を聞き届けると同時に、目の前には大剣を背負った赤髪の少年が現れる。
「あ、あなたは?」
その大剣を背負う少年を見つめて、パクチョネは声をかけるが、その声に少年は振り返り眉間に皺を寄せる。
「あん?なんやおばはん!わいはガーディアンや。コアにオバハンしばいてこい言われてんけど、おばはんもしばいてええんか?」
『グレイル・ガーディアン、止めて下さい。あくまでも依頼は量産型の駆除です』
空間に響き渡る念話で牽制されるが、グレイルと呼ばれた赤髪の少年は片眉を吊り上げて呆れたように溜息を吐く。
「おい、ババア」
「ばっ…」
「瞬きすんなや?」
そこからのグレイルは強烈の一言である。
四方八方から迫り来る韓国大統領パクチョネを目にも止まらぬ速さで斬り裂いて行く。
それはまるで斬撃で紡いだ巨大な龍のように錯覚してしまう程の斬撃の嵐。
だが、それは錯覚でも幻視でも無い、いままさに目の前には、パクチョネ大統領の血煙と大剣の斬撃が赤と黒のコントラストとなり東洋の龍のような姿となる。
「あぁ、だる。てかこんな雑魚でDM200ぅぅ!?どないなっとんねん、このババア」
500人以上のパクチョネを斬り伏せてDM10万を獲得したグレイルはブンブンと音を鳴らしながら大剣を振り、嬉しそうに足踏みをする。
呆然としてしまっているパクチョネだが、コアがそれを助ける。
『ご安心ください。この者はコアを護るガーディアンと呼ばれる存在です。ミスパクチョネが量産型パクチョネを討伐してくれたおかげで、ガーディアンの復活まで漕ぎ着けました。ガーディアンが復活した事により、加速的にダンジョンマスターとして力を得る事が出来るので、後は時間の問題だけとなりました』
「で、でも、それなら中国のダンジョンマスターにも、こんなデタラメなガーディアンという者がいると言うの!?一瞬よ!一瞬であの私のコピーが肉片になったのよ!?むちゃくちゃよ…」
パクチョネは混乱しながら地で染まり上がった路地裏で立ち尽くしている。
「さっきからなにごちゃごちゃぬかしとんねんババア!気持ち悪いんじゃ!肉にしたろか!」
「あっ!」
「あっ!ちゃうんじゃババア!!!」
だが、グレイルは空気を読まずにケツを蹴りあげてパクチョネを転かす。
「適当に残りも狩ってくるから残りの1匹なったらコアから連絡貰えや!!」
グレイルはダルそうに大剣を担ぎその場を後にする。
『先ほどの質問にお答えします。中国のダンジョンマスターは、恐らくガーディアンを捕食しています。暫定的な存在確立では無く、受肉をする為に永劫不滅のガーディアンを取り込んだ為に、あのような異形であったのです』
「そ、そう。あのグレイルというガーディアンは危険ではないの?」
『彼は私の意志そのものです。私の願いを忠実に再現してくれます』
「じゃああなたは私を蹴り倒したいってこと?!ごほん、まぁいいわ。じゃあ日本のガーディアンは誰なの?」
『メイズという名の冒険者ですね。恐らく。彼の能力値はガーディアンのそれです』
「やはり、あの者の情報は集めているのだけれど、桁違いだものね。あのドラゴンを従えて中国の避難民を焼き払った男……」
『はい、それでは外は危険なので、一度戻りましょう』
ソウル市内は未だに大混乱の最中であったが、その中では阿鼻叫喚の地獄絵図が、いつの間にか歓喜に包まれていた。
「フォォーー!!!さすがだぜ!!俺たちのヒーローだ!!!」
「レッドドラゴンだ!!!奴は小さいけど、間違いなくドラゴンだぜ!!」
「へいドラゴン!!ビール飲めよ!!ついでに本物の大統領ぶっ殺してドラゴンが大統領になれ!」
いい加減我慢の限界のようである。
パクチョネの顔どころか名前すらも聞きたくないと辟易とした様子を見せている。
上空から映し出すと、みるみるとミステリーサークルのように血の花が咲いていく。
「はぁ、粗方片付いたんちゃうか。おい、にいちゃんそれ寄こせ」
「おっ!ビールか!?待ってろ!!冷えたヤツもってきてやる!!」
露店で飲んでいた青年が店の中に入ると、瓶ビールの栓を開けて両手に持ち出してくる。
「ほれ!飲め!乾杯じゃ!」
「さんきゅー。んぐっ、ん!?なんやこれ!うまいやんけぇ!!」
「ちっこいのに飲みっぷりもドラゴンじゃねぇか!!はっは!!」
グレイルは二本のビールを飲み干して首をぐるっと回すと、迫り来るパクチョネを斬り伏せる。
「おおきにな!おっさん!」
ビール瓶二本を投げつけ、ダメージにはならないが、警戒して立ち止まったパクチョネをさらに斬る。
「はぁ、こんなもんか?コアさん」
《残り三体です。仕上げに入りましょう》
容易く二匹のパクチョネを斬り伏せた所で、グレイルの雄姿を一目見ようと市内の繁華街の中央は、車が通る事すら出来ない程に人が集まってきている。
そこで、背の高いワゴン車の上に羽交い締めした最後のパクチョネを捕らえて飛び乗ると、ギャラリーの興奮も絶頂を迎える。
そこに、示し合わせたかのように、血まみれになり、軍服に袖を通したパクチョネ本人がコアの転移術式により、その車の上に現れる。
「私はここにいます!!今最後の偽物を捕らえました!!彼は私の協力者です!!我が国にも!我が国を守護するダンジョンマスターが現れたのです!!これで、中国に怯えず、日本に出し抜かれず、次なる世界の覇者となる事を宣言しましょう!!!」
そう言ってパクチョネはスコップを振り下ろし、量産型パクチョネにトドメを刺す。
それと同時に、市内のギャラリーは歓喜の雄叫びを上げる。
「私はダンジョンマスターと約束しました!!日本、中国のダンジョンマスターを降し!世界の頂点に立つ事を!!このガーディアンが日本の冒険者を打倒し、ダンジョンの制御を奪うと!!」
割れんばかりの歓声と、パクチョネコールが鳴り響くが、そこでグレイルは溜息をつきながら大剣を振り上げた。
それを皆は演出の一部だと思い拳を振りかざす。
『だまれ』
だが、威圧スキルと咆哮スキルを使用したグレイルのドスの効いた低い声が、その狂喜にも似た国民の馬鹿騒ぎを止める。
拡声器で話しているような大声とは違う、体の芯まで響き渡るような声で、グレイルは続ける。
『罪喰いは、冒険者が冒険者たらしめるべく、我を捨て己を捨て法を犯す者の罪を喰い散らす悪たる正義である事を誓う!冒険者の関係者たる者への禁則事項第4条、ダンジョンマスター、またはそれに準ずる者が、冒険者同士の争いを助長する行為を禁ずる!!』
今までのヘラヘラとしたグレイルは其処には既に存在していなかった。
目を見広げゴミを見るような目で睨みつけると、パクチョネはグレイルのその瞳に恐れをなして後退りをしてしまう。
「ち、違う!!コアが!!コアがそれでいいって!!」
「はぁ。ダンジョンコアってのはな、人が怖くて怖くて仕方がないから、潰されてまわんように力を振るう生き物なんや。せやからダンジョンコアに認められるダンジョンマスターってのはな、コアと永久と共にあろうと契約をするもんや。まぁ、これ小声で言うてんの空気呼んでや?今裁判中やからな!それとな、コアさん言うたって」
《私は日本のダンジョンマスターと契約をするダンジョンコアです。この度、日本への中国難民の受け入れを願い入れた事に、ダンジョンマスターは不快感を示しました。よって》
一瞬だけ、いきなり優しくひょうきんな態度に戻るが、一度顔を伏せて再びグレイルが顔を上げると、その殺気にパクチョネ大統領はワゴン車の上から足を踏み外してしまう。
『判決は死刑!!貴様の罪を喰らってくれる』
その言葉と同時に、パクチョネ大統領は言葉も無く頭から真っ二つに斬り裂かれる。
「はぁ、あほくさ。帰ろ」
呆然とする群衆に、グレイルは剣を向ける。
『ええか!!お前らもそのうちええ子にしとったら冒険者になれる時が来る!!せやけどな!コイツみたいに冒険者同士を争わせようとする奴は、俺が直々にぶっ殺しに行くからな!!覚えとけよ!!!後、そこのおっちゃん、うまいビールありがとうな』
酔っ払いの青年は何故か敬礼をしてしまっているが、タイミングよくグレイルの足元には転移陣が浮かび上がる。
「だっぼマスター。あいつケツの毛まで毟ったろか。ダルい仕事させやがって」
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