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第二十一話
「うっひょおお!!なんじゃこれ!なぁマスターほんまにこんなとこでダンジョン構えてんのか?もう街そのものがダンジョンやんけ」
「まぁ、グランアースに比べたら派手な街並みだよな。けど対して変わらんぞ?っていねぇ?!」
振り向いたら既にメイド喫茶のキャッチに引っかかってデレデレで建物に入っていくグレイルの姿がある。
俺独り言プラス連れカモって最高に恥ずかしいんですけど?!
とりあえずメイド喫茶来てみました。
こいつに頼みたい事あるって言ってわざわざ他所の世界から連れてきたんだが、どうしてこうなった。
「は?お兄ちゃん、なにしにきたの?」
出迎えてくれたのは、中学生みたいな小娘である。なんか店のコンセプトが一撃でわかってしまう俺が悲しい。
だが、グレイルは見た事も無いような変顔になっている。
「うっひょおお!!」
そして辛抱堪らず奇声をあげて抱きつこうとするが…。
「キモい」
「ごはぁっ!!」
グーパンである、
鼻の頭に煌めくグーパンチである。
本来ダメージが通るはずの無いグレイルだが、光の速さでインベントリからショップを開き血糊を購入して鼻血を噴きださせるコイツのプロ魂はなんなのだろうか。
「あ、あやまってあげないんだからね!お兄ちゃんがエッチな事しようとしたからだよ!!」
「すまんなぁ、すまんかったなぁ。お兄ちゃんが悪かった!!」
「お兄ちゃんなのかよ!!」
普通ドギマギして、マスター?なんか妹できたんですけど?みたいな反応がセオリーだろうが。
一発目から兄受け入れMAXとか猛者すぎるだろこいつ。
俺どうせなら萌え萌えきゅーんとかおいしくなーれしたかったのにな。
本気出したかった。
本音で生きたかった。
突如水をテーブルに叩きつけられる。
反動で水が溢れているが、それはどうやらご褒美の観点として受け止めるのが道筋っぽいな。
「お、お兄ちゃんも、友達連れてくるなら言っといてよ!!恥ずかしいとこ見られたじゃない!」
「すまんかった、ほんまにすまん!堪忍や!お兄ちゃん可愛い可愛いクルミを友達に紹介したかってんや」
こいつ一瞬で日本言語の読み取りアクティベートしやがった。
本気か?グレイル、強すぎて本気を出せないお前が本気になっているのか?
「も、もう!!可愛いとか、言っても…許さないんだから!!」
あー!!お腹にお盆抱えて逃げてしまったぁ!
あれはマジ照れに見せかけて、自分自身が恥ずかしい臨界点突破からの逃走だ!
やはり本気、本気のグレイルは強い。
けど、やっぱツインテールっていいなぁ。
猫じゃらしされてる猫の気分わかるわぁ。
「なぁ、マスター。この店本気でこのノリなんか?なんやこの失敗は許されん感」
「心配するな。当たって砕けろ。お前は冒険者初日でバリエ山のダンジョンの深層に潜ったようなもんだ」
「しょ、初心者が150層!?自殺行為もええとこやんけ!!」
言わばここはそう言った所なのだ、魔法を唱えるその時までは、グレイルは苦戦を強いられるだろう。
「もう、注文聞くのわすれちゃったじゃん!怒られるの嫌だからイチゴミルクにしといたからね!!」
何故俺までこんな甘ったるいものを…。
「あ、あぁ。ほなくるみになんでも任せてまおかな?あまりもんでもええし」
「ふんっ」
また帰っていってしまうが、グレイルはここで失敗をしてしまった。
妹を撒こうとした時点でお前の敗北は決定していたんだよ。
「なぁ、マスター。くるみちゃん向こうでずっとあっかんべーしとんねんけど、お兄ちゃんなんか悪い事したかな?」
「いや、お前俺のお兄ちゃんじゃないからな?」
ひたすらあっかんべーをされて泣きそうになっていると、クルミちゃんは核兵器を持ち込んだ。
見た事もないような巨大なパフェである。
撒きにかかって逃げようとして、なんでもいいから持ってこいはダメだ。
くるみちゃんは注文を聞くふりをしてお兄ちゃんとお話しをして仕事をサボりたかった(設定)のだから。
「お兄ちゃん嫌い!!これ全部食べないともう口聞いてあげない!!」
グレイル、断れ!ここで返事をしてテーブルに置かれてしまうと、オーダーが完了してしまう。
心を鬼にしろ!フィナーレだ!ここで怒って帰ると言うんだ!!
「くるみぃ!!!!」
よし!行け!!さすが罪喰い史上最強の大剣使い!!
「食ったる!!食ったるけどな!お兄ちゃんと口聞いたらへんはないやろ!!そんなん言うたら悲しいやろ!!」
「知らない!ぷいっ」
いや、ぷいっておれが付けてやるから口で言わないでいいから!!
てかグレイルお前何完敗してんだよぉぉおお!!
そのパフェで何万も払うならリフレ行ってこいよぉぉおお!添い寝してもらってこいよぉ!!!
「あかんわ、マスター。わい、こんなズタボロに負けたん初めてかもしれんわ」
「だろうな。お前モテるしな」
「せやけど…食うで。俺、くるみちゃんに嫌われたないからな」
「アウトだな、お前」
暫くツンケンしてるクルミちゃんに見守られながらも、その小さな体に一瞬で特大パフェへ消えていってしまう。
「え、これむちゃくちゃうまいねんけど」
「おれその安モンのパサパサプリン見ただけで吐きそうだわ」
舌が肥えるとはこの事か、生まれて初めてのパフェをグレイルは危なげなく完食する。
「やったった。やっつけたった。上位悪魔10体にピンで囲まれた時ぐらい強敵やったわ」
「結構余裕じゃねぇか」
食べ終わったのを見計らってクルミちゃんが駆け寄ってくる。
空っぽになった器を見て小さな声で呟く。
「すごいじゃん。ばかおにいちゃん」
「へへ、やる時やったんねや!!」
デレタイムに早々から突入した所申し訳ないんだが、そろそろ時間がない。
「すまんグレイル。時間がない」
「しゃあないな、クルミちゃん。お勘定して、いかなあかんくなってもたわ」
だが、恐らくここでお待ちかねの泣き落としタイムに入るだろう。
また来ると言わせればクルミちゃんとしてはミッションコンプリートだ。
本来なら多少の駆け引きを楽しむ所なのかも知れんが、時間がないから急いでほしい。
「いやぁぁあ!クルミが悪い子だから怒ったの?ねぇ、帰らないでお兄ちゃん!お願い!クルミいい子にするから!」
泣きそうな顔で腕にしがみつきツインテールを揺らしながらイヤイヤとしている様は中々に可愛い。てかこいつめっちゃいい匂いするな。
「わかった」
「わかんな!」
これ以上長引くとまずいので、グレイルを強引に引っ張る。
「いだいいだい!!痛いっちゅうに!!マスター!ここは俺に払わせてくれ!金貨か!?いやあんな美味いもん食ったからな。白金貨!?いや黒貨……まさか虹「んなわけあるか!」」
3万円丁度きっちり俺が払いましたとさ。
「とりあえず台本読んでから打ち合わせがいる。飛ぶぞ」
「え!?まさか演技系か!?いらんぞ!わいはバイオレンスなんしかいらんねん!!役者はせぇへんからな!!」
3万円分は働いて貰わなきゃならんからな、そんなのは無視だ。
「なんで罪喰いのわいが演技せなあかんのじゃあああ!!!」
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