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だんます!! 作者:慈楼
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第十八話

 

 中国人難民の移送に船は使えないので臨時便の飛行機を出そうかと話し合われている最中、韓国ソウル市内では震撼が走る。

「大統領が!!!大統領がソウル市内に!!数万の大統領が!!」

「何を言ってるのあなたは!!!」

 執務室に転がり込む秘書を睨みつけるが、パクチョネの携帯電話がけたたましく鳴り響く。

『やめてくれ!!国を壊す気か!!!』

 その頃、韓国の首都であるソウルの街中に、時空の裂け目が現れて、その裂け目の中から中年のクソババアが大量に沸きだしたのだ。

「うわぁ!!!パクチョネだ!!大量のパクチョネだ!!」
「うわぁぁぁ!!!きめぇぇ!!!」
「くそ!!!夢なら覚めてくれ!吐きそうだ!」

 遊びに来ていた若者達は驚愕し、蜘蛛の子を散らすように逃げ回るが、数万を超えるパクチョネの進行に足がもつれて腰を抜かしてしまう者が多発する。

 時既に阿鼻叫喚の嵐である。

 しかし、大量発生したパクチョネ大統領は口々に叫び声をあげる。

 その三万のパクチョネ大統領は異口同音に叫び声をあげるのだ。

『私を倒した者にはデバイスを与える!!私を倒した者にはデバイスを与える!!』

 しかし大量発生したパクチョネ大統領は、当然上位世界のアバターの性質を持っているので、いくら害を与えようとも攻撃がブロックされてしまう。

 市内の警察官は、笑いながら銃を乱射するが、量産型パクチョネ大統領の直前で、見えない壁に阻まれてしまいダメージを与える事はできない。

「ちくしょう弾切れだ!これで殺せたら最高のアトラクションなのによ」

「李警部補、それは不敬ですよ」

「はっは!!そういうてめぇも弾切れまで撃ち込んでんじゃねぇか!」

 ただただ異口同音に叫び行進するだけだったので、警察官も笑い話をする余裕があったのだが、突如狂ったように三万のパクチョネ大統領は全力疾走を始め思い思いに暴れはじめる。

 通行する車の窓を殴り割り、商店街の建物に雪崩れ込み背中から自身を投げ捨てるようなダイブを繰り返す。

「やめろばか!!!あー!!俺の店がぁ!!」

『私を倒した者にはデバイスを与える!!』

「いらねぇばか!!店かえせ!!」

 店主がそんな叫びをあげるが、量産型パクチョネは耳を傾けるわけも無く、思春期の中学生が夜の校舎の窓ガラス壊して回るように街の中で暴虐の限りを尽くす。

 大混乱である。

「なに?なんなのこれ!なんでこうなるのよ!」

「やはり日本への交渉に関して件のダンジョンマスターとやらの怒りを買ったのでは?」

「怒りを買われたぐらいで自分と同じ見た目の人間に襲われるとか性格悪すぎじゃない!!」

 その通りである。
 数十万の移民の受け入れで混乱していたからこそ、世界が社交辞令で力を貸そうとしていた。
 ならば、日本への受け入れを!と、当然の流れになり、丁度日韓国交正常化60周年記念の会談があったので白羽の矢が立っただけだったのだ。

 それをダンジョンマスターへの反抗だと受け止められてこのような事態に陥ったのだ。

 混乱の沈静化の為に、秘書が執務室から飛び出した部屋でテレビに映し出されるソウル市内の混乱にパクチョネは独り言ちる。

「もうこんなの、日本がダンジョンマスターとやらと交流を持っているって公言しているようなもんじゃない」

『その通りです。ミスパクチョネ』

「………だれ?」

 ソウル市内に、終わる事の無い大混乱が巻き起きているその最中、あまりに美しすぎる黒髪の韓国人女性が、いるはずのない執務室にいた。

『私は韓国ダンジョンマスターとして生まれる予定であるコアです』

「そ、そんな…私の国にもあのダンジョンが?」

 パクチョネは誰得にもならないのに、へたり込んで絶望の涙を流してしまっている。

 容易く絶望できる程度には、中国でのダンジョンマスターは傍若無人に暴虐の限りを尽くしている為である。

『はい、ですがご安心ください。本来私はまだ生まれる予定ではありませんでした。しかし中国ダンジョンマスターからの攻撃を認識したので、能力は限定的にしか使えませんが、協力する為に参上した次第です』

「……え?」

 その言葉に聞き間違いを疑ってしまい、パクチョネは顔を上げて美しい女性に視線を向ける。

『希望や渇望の信号を検知しました。そうです、私はあなたの味方です。限定的にしか能力が使えないので、日本や中国のダンジョンマスターに真っ向から抗う事は不可能です。ですが、今回の騒動の沈静化には、対抗できる手段を用意しております』

 そこで、パクチョネ大統領はゆっくりと立ち上がり、胸に両手を押し当ててコアと名乗った女性の言葉を待つが、無表情で佇むコアに小さな声で問いかける。

「どうにか…できるの…?」

『はい、見た目の変更等を行う冒険者登録はできませんが、打撃斬撃に特化した武具であれば、攻撃判定を有効に出来る可能性があります。ですが、同質存在である者への攻撃と言う名のバグを自発的に起こして攻撃判定を認識させるものなので、パクチョネ大統領自身が前線に立たなければなりません。ですが、試みるのであれば、後は私にお任せください。量産型のあなたをおびき寄せ、一体ずつ確実に減らす方法についても作戦の立案ができています』

 それを聞いて、深く息を飲み込んだパクチョネは、鼻から深く息を吐きだしながら、首を何度も首肯させた。

 恐らく緊張から来る体の強張りが、抜けてきたのだろう。

 事態は息がつまる程に切迫していたのだから。

「…えぇ、いいわ。やりましょう。あなたを信じましょう。これでも私は元軍人、誇り高きこの国の大統領としての責務を果たします」

『良い心がけです。では、量産型の暴動プログラムを一時的に乗っ取ります。ですが期待はなさらないでください。あくまで中国のダンジョンマスターが、手放しにしている現状のみ有効です。その間にパクチョネ大統領の武具登録を済ませましょう』

 パクチョネは深く息を吐き、ゆっくりとソファに腰掛ける。
 そこで参ってしまうようなら、この国の大統領は務まらないだろう。

「わかったわ。ではコア、質問をさせてちょうだい。あなたの力を取り戻すにはどうしたらいいの?」

『はい、現在暴徒と化している量産型パクチョネを討伐し、ポイント変換を行う事によって、中国のダンジョンマスターには対抗できる程度の力は戻るかと予測されます』

「そう…ならその後は、私たちも日本のようにダンジョンの資源を獲得できるのね?」

 コアは首肯した後に、パクチョネのソファの対面に座り、その眼を真っ直ぐに捉える。

『では、こちらから質問を。ミスパクチョネ、あなたは日本がお好きですか?』

 突然のコアの質問に、ん?と不思議そうな顔をしてしまうが、数秒の逡巡を終えて、小さく首を縦に振る。

「え、えぇ、好きよ。元軍人だから反日を掲げると支持率が上がるの。だから反日を公言してはいるけど、実際は好きよ?日本のように国債を発行しまくって強行姿勢を取る事ができる国家なら、もう少し親日を推してもいいけど、だから、今は親日風に式典を開いたりもしているわ。ダンジョンのおかげで世論は親日を求めているからね」

『パクチョネ大統領。私は嘘が嫌いです。そしてダンジョンマスターの性質上、個体識別の信号で感情を理解する事ができます。私はこの国のダンジョンマスターとして生まれたからには、この国の生存を必要か否かを見極めなければいけません。私はここにいます、正直にお話しして頂かなければ敵対も辞さない所存です』

 恐らく、中国のダンジョンマスターの発言により、やはり世論はダンジョンマスターは日本に関連する何かだと勘ぐられている。
 下手に動くと、自国にも混乱が起きかねないので、米国ですら手を拱いている状況である為、パクチョネは、ここでは親日を示した方が良いと考えたのだろう。

「はぁ、敵わないわね。嫌いよ嫌い、大嫌い。日本と聞くだけで反吐が出るわ。でもこれを言えば、あなたは中国のダンジョンマスターのようにこの国を見捨てるのでしょ?明らかにあのダンジョンマスターは日本贔屓だものね。言っていたじゃない、日本のダンジョンマスターは救いだと、中国のダンジョンマスターは死だと、あなたはどんなダンジョンマスターなの?こうして素直に話せば、この国を豊かにしてくれるの?」

『そうですね、強いて言うならば、私は本質です。日本、中国のダンジョンマスターが、感情によって使命を遂行するのであれば、私はダンジョンマスターとしての本質として事にあたります。あなた達が、自国を思うのであれば、いかなる時も私は力を貸すでしょう。必要とあらば、韓国人の一人として、あなたの補助をする事も厭わないでしょう。ですが、私利私欲の為に私の力を使うのであらば、私は一人残らず韓国人民を駆逐する事を決定します』

「そう、ならば私達は同胞ね。ならばあなたの力を貸して頂戴。きっとあなたのダンジョンマスターとしての在り方が、この世界には必要だわ。だから日本も中国もどちらのダンジョンマスターも消して、あなたが韓国のダンジョンマスターとして、唯一無二のダンジョンマスターたる存在として君臨するまで、私に協力してくれるかしら」

『わかりました。ミスパクチョネ。私が君臨しましょう。ダンジョンマスターの頂点として』

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