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第十五話
「ふふ、ふふは、ふはーっはっは!!」
洗面所の前で気持ちの悪い笑いを浮かべている、白髪の若人がいる。
少年と呼ぶには大人っぽく、青年と言うにはあどけさが残る美男子である。
「白国正継!!ハクメイとして生まれ変わりました!!!さぁ、メイズの兄貴を探しに行こう!」
どうやら、この白髪の男は名をハクメイと言うらしい事はわかったのだが、白い皮のコートに白いジーンズに、白い革靴はやり過ぎている感が半端ないのだが、それは私の間違いなのであろうか?
ハクメイは終始ご機嫌で、二階建てのぼろアパートの今にも崩れ落ちそうな階段を駆け下りると、ナンバープレートがとれかかったオンボロのカブに跨りエンジンをかける。
白一色に染まる絶世の美男子、誰が見ても何かの撮影で来日している外タレのような見た目であるのにも関わらず、今にも砕け散りそうなカブに跨る様は中々衝撃的である。
しかし彼はそんな事も気にした様子は微塵も無く、信号待ちで歩道の若いお姉さんに声をかける。
「あっ、お姉さん!!なんか落としましたよ?」
「え?」
淡いピンク色の上げ底ピンヒールを履いた細身のお姉さんは驚いて振り向き、何も落としていない事に気付くと、キョトンと視線を向けると、ボロボロのカブに乗ったハクメイがしてやったりと笑う。
「出会い。なんつって」
本来であれば、このお高く止まったお姉さんであれば、苦笑いをするかツーンと怒ってしまうのが世の定理であり、常識であろう。
だが、あろう事かハクメイの常識外れの美しく整った容姿に、頬を赤らめて照れるでも無く、優しく笑顔を向けるでも無く、顎を外したかのように愕然としているのだ。
「え?そんなスベった?」
「え?あ、いや、えと」
女性が返事に困っていると、横断歩道の点滅が始まり、ハクメイは焦ってスマホを取り出し、カブのサイドスタンドを立てて駆け寄る。
「あっ、LINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えてLINE教えたのでこれで静かになります」
「え!あっ!はい!!」
半ば強引に携帯を振り合うと、目の前の女性と友達がワインで乾杯している画像とミッキーと表示されたので、ハクメイは急いでカブに乗り込み一速に入れてアクセルを回す。
「またねミキティーーーー!!!!!!」
ガッ、コーーーとゆっくり進む締まりの悪さを見せつけるが、呆然と立ち尽くす女性は小さく呟いた。
「三木加奈子なんで、ミキティじゃありません」
ハクメイは今までなら話をする事すら憚れるような相手に平然と声を掛けて、なおかつ当然のように連絡先を教えて貰えた事にるんるんである。
「けど、あんな感じの綺麗な子って、10代の時結構遊んでたりするんだろうなぁ。やっぱり女子校育ちで出会いが無くて男慣れしてない清楚な子がいいよなぁ。もしデートとかしてて、街でアッ!みたいになって、元彼だ!みたいになったらそんなゴリラのポンコぺろぺろしとったんけ!ってなって落ちるもんなぁ。いや、25にもなって処女厨とか終わってるってわかってんだけどさ、やっぱプロとしか経験の無い、アメリカンチェリーな素人童貞の俺としてはさ、やっぱり自分しか知らないのに、一生あなたを愛します!みたいなピュアな子がいたら人生投げ打ってでも一緒にいようとか思うけど、他の男に穴ぼこにされてるお古に、浮気したんなら慰謝料きっちりうんぬんかんぬん言われたら殴っちゃいそうだもんなぁ。って事はミッキーちゃんは、俺もその他大勢の1人として穴ぼこにさせてもらってもいいって結論か!なぁんだ!簡単じゃんっ!!」
しかしクズである。
彼は冒険者として生まれ変わり見た目はイケメンになったが、性格まではイケメンにはならないようで、独り言をぶつくさ言う癖があるようである。
「ま、自由にいこう。折角の冒険者だしな」
ハクメイの目指す先は秋葉原の初心者向けゴブリンダンジョンである。
メイズを探しに行くと言っていたが、こんな所にいる筈はないと思うのだが。
「よし、うん、よし!!やるか!!」
顔をパシンと叩くと、インベントリから武器を取り出す。
取り出したのは、二本の鍔のない直刀だ。
所謂忍者刀と呼ばれる直刀である。
その刀身は黒く、白い波紋が血に飢えているようである。
「ふっふーん!メイズの兄貴!!俺のどんな記憶を消したのか知りませんが、こんな最高の武器貰えて感謝しかないっす!!」
寂れた電気屋に入ると、そこは既にダンジョンの中である。
冒険者になったばかりの素人達が協力しあいゴブリンを相手に戦ってる所を通りすぎていく。
「うんうん、これこれ、こんな感じを求めてたんだよ」
テンションが上がったハクメイは一気に駆ける。
そして、奥へ進むと、出待ちのいないリポップ魔法陣を見つける。
「グゲガァァ!!!」
ゴブリンの一匹が、ハクメイに気付きナイフを振り上げるが、時すでにその喉には直刀が振り抜かれ、血を噴出して絶命する。
それを見届けた他のゴブリンが我こそはと、襲いかかるが。
「レイ」
ビー玉のような大きさの光の球体がグルグルと螺旋を描きながら三匹のゴブリンを穴だらけにする。
ゴブリンが胡散して魔石に変換される一瞬の隙を見て踏み込むと、左右に展開するゴブリンの腕を斬り落とし怯んだと同時に首に当てた刀を引く。
「はい、魔石回収ー!!!戦える!戦えるぞおれ!!!やっぱ光魔法つえー!!!」
ゴブリンの心臓に直刀を突き立てて魔石を回収すると、インベントリから水を取り出し一息つく。
だが、リポップは簡単に休ませてはくれない。
この場に留まる限り、ハクメイに休息など訪れないのだ。
直刀の鍔の代わりとして柄に空いた丸い穴に人差し指を通して、クロスを描くように撫で斬りにしていく。
右手に握られた直刀を右上段から振り下ろせば、直後に左上段から更に振り下ろし、脇腹に控えさせた、左手の直刀を右下段から振り上げる。
×を描き、一文字に一閃する。
我武者羅であるが、寄せ付けない攻めで、再び5匹のゴブリンを狩ると、ステータスのレベルが上昇している事に、喜びが隠せず拳をグッとにぎる。
「ちわー!君新人?うおっ!メイズさんそっくりだな」
3回目のリポップと戦っていると、背後から冒険者が現れたので、ゴブリンを片付けすぐに一礼をする。
「はい!!今日から冒険者になりました!!メイズの兄貴には冒険者になる前からお世話になってまして、自分の憧れであります!!」
「へぇ、そうなのか」
見た目、なんの変哲もない一般的な冒険者である。
整った顔立ちに金髪のカタチを崩したリーゼントに、凶悪な鍛え抜かれた筋肉を曝け出すように、裸の上から羽織った赤色の革ジャンが特徴的ではあるが、このような冒険者は珍しくもなく、一般的な冒険者とも言えるだろう。
だが、一つだけおかしいのは、その男が纏うオーラである。
優しく笑っているにも関わらず、その男の大小がわからなくなるような錯覚が起きる赤色程に、圧倒的な存在感があるのだ。
「友達と潜る予定だったんだけど、向こうが急用で呼ばれたらしいんだよ。良かったら見物しててもいいか?」
「あ、はい。自分も話し相手がいると助かるんで嬉しいっす!」
「良かった!じゃあ自己紹介だな!」
そう言って革ジャンリーゼントは、右手を差し出し握手を求める。
「よろしくお願いします!自分ハクメイっす!」
「あはは!白いメイズでハクメイってか?」
「そうっす!後光魔法使えるんで、明るいってのもかけてます!」
「あはは!!面白いな!俺の名前はバイオズラ、一応初期組でランキングは16位。よろしく」
男の自己紹介を聞いてハクメイは目を見開いて握手した手をブンブンと振り回す。
「まじっすか!!バイオさんっすか!!あの光拳の!!じゃあ待ち合わせってショーキさんっすか!?」
空気を読まずにゴブリンがリポップするが、バイオズラが足元に転がるゴブリンを全力で投げつけて纏めて絶命させる。
「あれ?俺の事知ってる?そそ、ショーキはこれなくなったんだけどな。ソフマダンジョンに行こうと思ってたんだが、ショーキといねぇし、ここ近所だし、五層でボス待ちしようかなって感じで今に至るだ」
「うわぁぁ!!嬉しいっすよ!!ダンマスに喧嘩売ったせいで初期装備拳のみだったんですよね!そしたら新しく拳闘術のスキル発現させて、レベル20こえてから裏技チックにルーンの勉強して独学で光魔法習得しちゃった、かの有名なバイオさんっすよね!!」
「むっちゃくわしいなおい。けど、光魔法は習得してないぞ?魔法はキャラメイク時のテストがいるからな。俺のは光気っていう拳闘術のスキルにルーンを組み込んだ新しい形態だからな」
「でもすげぇっす!!すげぇっすよマジで!!拳語会ってまじ漢字の漢のオトコって感じでかっこいいっすよマジで!!」
「あれぇ、なんだろう。冒険者なってから一番嬉しいかもしんない」
ハクメイの誉め殺しにバイオズラは小さく涙を浮かべてしまっている。
初期組の中では、掲示板でダンマスをおちょくった件のせいで、あいつの拳は闘魂じゃなく男根が宿っているとか訳のわからない事を言われる痛めの冒険者であったのだが、二期からすると、やはり先輩で尊敬されているのだと知り、感動してしまっているのだ。
「よし、ちょっと喋り相手にって思ったが、五層に行こう。レベ上げだろ?補助してやる」
「え?いいんすか?」
「あぁ、養殖はしてやらんがな。危なくなったら助けてやるし、魔力切れなら回復薬もやる。いくぞ」
「そ、そんな!!貰えないっすよ!魔力回復薬って最低ランクで500DMっすよね?そんな高価なもんいただけないっすよ!!」
「そうか?グラナダでビール一杯のんだら500DMだぞ?はっは!!」
バイオズラは豪快にゴブリンを殴り潰すと、先々と進んで行く。
ハクメイはその度に魔石を拾いバイオズラに渡しに行くが、笑いながら持っとけと言われ、ホクホク面になってしまっている。
そして、五層の階段に到達した。
「つきましたね、けど、本当にいいんですか?こんなに魔石貰っちゃって」
「まぁ、初心者の時ってのはマジで何かとDMがいるからな。このダンジョンも五層に潜ってやっとDMが60だろ?けど、俺らが普段潜ってるソフマは最下層のゴブリンジェネラルで350だ。かなり強いし、危ない事もあるが、最近なら危なげなくヤレるようになってきた。まぁ、稼ぐんなら15〜19層のホフゴブリンを狩っときゃ毎日グラナダで酔っ払えるぐらいには稼げる。だがな、それじゃダメだ。男なら桃源郷で毎日遊べるようになってこその冒険者だ」
「噂の……でも桃源郷って普通に舐めてもらうだけで5000DMとかするんですよね」
「かっ!!それは桃源郷でも最下層。掃き溜めって言われてる桃源郷の中のスラムだよ。せいぜいいてもアイドルクラスだ。けどな、上層の摩天楼は凄いぞ…世界中の名だたる美女が新品で来る。で、ガチで恋人になってくれるからな。それでその日が終われば、その子は何時までも俺専用で待っててくれる。生活環境が整えられててな、待っててくれんだよ。こっちの稼ぎが悪くて会いに行けねぇ情けねぇって落ち込んじまいそうだろ?けどな、そんな事はねぇんだ。ずっと好きでいてくれるし、ずっと待っててくれんだよ。こんなんダンマスにしかできねぇぜ、マジで」
「でも、お高いんでしょう?」
「30000だ。摩天楼には更に上もあるらしいが、おそらく今の冒険者はここが限界だろうな。あの凶悪なホフゴブリン120匹狩ってやっとあの高みに昇れる」
ハクメイは震えていた。
バイオズラの漢に震えを覚えていたのだ。
「30000…五層のゴブリン500匹………ちなみに…誰が待ってるんですか……?」
「北内まりやだ」
それを聞いた瞬間、ハクメイは立ち止まった。
「バイオさん!!!俺、絶対強くなるっす!」
「そうだ!それでこそ漢だ!!!」
この後むちゃくちゃレベ上げしてた。
単純である。
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