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第七話
「にゃーにゃにゃんにゃんにゃー」
上野の住宅街の塀の上を歩く、猫耳幼女はご機嫌で野良猫を追いかけている。
彼女は、肉球がプリントされた黒いTシャツにデニムのショートパンツといった、秋口には似合わない格好で住宅街を闊歩している。
「あら、よつめちゃん。お出かけかい?」
「うにゃ!今日は冒険者のみんなで集まるにゃ!」
「あらあらそうなの冒険者さんだものね。ほんと近所によつめちゃんが住んでて安心だわぁ」
「うにゃ!任せるにゃ!ゴブリンぐらいなら八つ裂きにゃ!」
「お願いね。はいよつめちゃん!通ると思ったから持ってたの」
「にゃあ!!大福にゃ!!高まるにゃあ!!」
優しそうなおばさんが花壇に水をあげながら、人懐っこい猫耳幼女の夜爪猫と話すのは、よく見る風景である。
と言うものも、夜爪猫は冒険者になった事によって得た身体能力の高さを活かして周囲を走り回り、野良猫を捕まえては服従させ、果てはボスに君臨していた。
その為に住宅街を縦横無尽に走り回る夜爪猫は、近隣住民からは、『あのテレビで見た悪魔を倒す為に訓練をしているんだ』と認識されていたので、やたらめったらと話しかけられ、果ては餌付けまでされてしまっているのである。
「口のなかモッサモサにゃ」
「お茶とカルピスどっちがいい?」
「カルピスにゃ!」
きっちり居座り飲み物まで要求する始末である。
お日様に照らされて気持ちよさそうに目を細めていると、夜爪猫の首からぶら下げた鈴が不自然にシャリンシャリンと鳴り響く。
「ステータス、フレンドコールかにゃ?クロにゃ!はいにゃ!」
『ギルマス、どこですか?』
「にゃをつけるにゃクロにゃ!」
『は、はは、にゃ。で、話は変わるんですけど、今日のオフ会の場所決まったみたいですよ。アーヴァンクマンションの駐輪場にある電気室の扉を開けば、酒場になっているそうです』
「にゃー。意味わからにゃいにゃ。でも、わかったにゃ!クロは今どこにゃ?」
『今はラビ前です。ブチさんが罪喰いの面子と顔合わせするみたいで、それに同行してます』
「にゃー!夜爪も急いでいくにゃ!」
台所からその声が聞こえていたおばさんは小窓から庭を覗き、ごちそうさまにゃ!と一礼をしてから駆け出す夜爪を見て、優しいため息を吐き出すとカルピスを飲み干した。
「あー、うまい」
場所は変わり、待ち合わせ場所の量販店の前に行くと、既に6名の冒険者の周りには人集りが出来ていた。
「夜爪ちゃあん!!夜爪ちゃんきたよ!!」
「クロさんと夜爪ちゃんのツーショットとりたい!!!」
「うぉぉ!!!夜爪様ぁ!!ピースしてください!!!」
夜爪が現れると一斉に携帯やデジカメで撮影が始まるが、当人は悪戯好きな子供のように悪い顔を浮かべて八重歯をキランと光らせながらVサインを出す。
「にゃにゃ!!ブイ!」
「「「「うぉぉ!!!!!」」」」
当人は最高に可愛い笑顔だと思っているようだが、ギャラリーとしては何か悪巧みをしているような怪しい顔に見えているのだが、それは秘密である。
夜爪がそのままお菓子をたかりに行くのを見届け、ホッと息を吐き出したクロは再びブチ猫と共に罪喰いの面々との打ち合わせを進める。
「すいませんクロさん。クロさんって夜爪さんの兄妹かなんかなんですか?」
「いえ、ギルマスとは同じ連盟ってだけで違いますよ。ギルマスが白一色の猫獣人だったので、黒にしただけで」
「へぇ、猫獣人って幼少しか選べないんですか?ブチさんも子供の姿ですけど」
「そんな事ないですよ。全段階選べますけど、ギルマス曰く、猫と小さいは無敵らしいです」
執拗に質問を投げかける岩のようなガタイの戦士風の男は、覚醒剤取締法違反で2年服役していた犯罪者で、出所後は定職に就かずに漫画喫茶などを転々としながら日雇いのアルバイトをするフリーターであった者が、この度掲示板で冒険者に応募しデバイスを手に入れる事ができた冒険者ネームガンジャの岩戸風尾である。
そう、先日レベルアップに罪喰いの面々と赴いたガンジャである。
「ガンジャさんは何故戦士を選んだのですか?」
「あぁ、私は元々覚醒剤にハマっていた事もあって、腹だけ出て顔は小さい、見るからに明らかにポン中って体型が嫌で嫌で仕方が無かったんです。それでこんな感じになりたいって思ったんで」
「ガンジャさん!それと一緒ですよ。僕達も、こうなりたいって思ったから、この姿を選んだんです!」
「あ、はい。そうですよね。なんかすいません」
「あやまらないでくださいよ。人間の時に何があったとしても、今は冒険者ですから。冒険者は自分の思ったままに生きる自由の民なんですよ!ってサポーターさんが言ってましたから。だから楽しく生きましょうよ」
「はい!!」
見た目の厳つさに似合わないガンジャの敬語にクロは苦笑いしながらも、罪喰いギルドの面々と自己紹介などをし、会場まで共に行く事となる。
その道中、ブチ猫の猫獣人の少年は、クロの横にそっと立ち申し訳なさそうに頭を下げる。
「なんかすいません。色々手伝ってもらって」
「やめてくださいよブッチーさん!同じにゃんこ連盟の仲間なんですから助けるのは当然です。それに、罪喰いギルドも、攻略専門で行くんですよね?」
「はい。罪喰いは常に前線に立つ冒険者を輩出する予定です。ガンジャさんや、他の罪喰いのメンバーの方々も、ダンマスに激励されてヤル気満々ですから」
「え?ダンマスに…ですか?」
それを聞いてクロは思わず立ち止まってしまうが、ブチ猫獣人のブッチーはそっと背中を押して歩くように促す。
「そうなんです。罪喰いギルドは立場も悪く、汚れ仕事もあったりするので、助けが必要だろって。それで…ここからは話せないんですが、まぁ、見ていて下さい。半運営サイドの罪喰いの力、とくとご覧あれってやつですよ」
連絡通りの電気室の扉を開き、見た目は電気室のままであるのに、一歩足を踏み入れると、そこは二階建てロフト式の木造の酒場が広がっている。
中では既に数多くの冒険者が揃っており、うさ耳やキツネ耳の美人店員が、休む暇なく料理や飲み物を運んでいる姿に、クロと夜爪猫、そして罪喰いの面々は固まってしまう。
「認証型ダンジョンの仕組みを取り入れているんです。この酒場は冒険者のみを認証するってシステムで、一般の方が入っても電気室になってるだけなんですけどね」
「うぉぉぉ!!酒場のサポーターさん奇跡のアイドル高橋円奈ちゃんだ!!」
「を、元にして作られたホムンクルスですけどね!」
認証型亜空間システムにドギマギしながらも、早めに訪れ気ままに宴会を始めた冒険者の騒ぎっぷりに、面々は内から高まる感情を抑えきれず歩み始める。
そして自覚する。
自分達は特別なのだと。
「うにゃー!!肉食べるにゃー!!」
「ギルマス!猫なんだから魚食べて下さいよ!」
「骨嫌いにゃ!!」
どんちゃん騒ぎが始まり、冒険者同士で自己紹介をしたり、天職について談義が開かれたり、パーティを組む約束などをしていると、地方から来た冒険者達も含め、100人全てが酒屋に揃う。
そして冒険者の全てが揃った所で、待ってましたと言わんばかりに、突如として、宙に浮かぶ片耳ウサギの仮面をした者がグラフィックで映し出される。
『楽しんでくれているようで何よりです。
とりあえず敬語ダルいんでやめます。
では、新たに増えた施設の説明をしよう。
まず、先程デバイスの更新をしたので、ステータスを開き確認してほしい。
【MAP】機能が表示されていないだろうか?まぁ、これは本来なら初期搭載されている機能なんだが、地球全土の読み込みに時間がかかっていたので、一度下げさせて貰っていたのだが…ごほん、話を続けよう。
こちらを確認してもらってわかるように、この数日間で新たに増えた施設がここに表示されている。このケモミミ旅飯店も当然だが、他にも武器屋、防具屋、酒場、高級酒場、宿屋、高級宿屋、アイテム店、魔道具店を各2件ずつ用意した。これも全て、連日警察の皆さんのみならず、自衛隊の方々の犠牲があってこそ用意できた施設であるので感謝するように。
これらの施設全てが認証型になっているので安心して使うように。
MAPに表示されているマークと店舗名をクリックし、ナビゲーションを選択すると、そこまで案内して貰える。
後は魔石を換金したダンジョンマネー、所謂DMを使用して施設を利用できるので、ダンジョンを頑張って攻略するように!!
後、男性専用店、女性専用店も何店舗か用意してるので、冒険者稼業に慣れたら楽しんでくれ。
では、遅くなったが…』
そのタイミングで、MAP内に5つのダンジョンが鬼のトライバルのようなスタンプで表示される。
『ダンジョンを開放する!!』
100人の冒険者の雄叫びが酒場の中に響き渡った。
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