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第六話
そして夜になった。
他の罪喰いの面子も、ガンジャ同様に、裏クエストを受けるらしいので、ここに俺を含め5人の罪喰いが集まっている。
まぁ、俺は似非だが。
「おいサイコパス」
「ホリカワです」
「あぁ、そうだ。ホリカワは何故トカゲを選んだ?」
「リザードマンなんですが」
「あぁ、そうだな。何故リザードマンを選んだんだ?」
連続婦女暴行で逮捕されていたホリカワは、舌をチロチロさせながら首を傾げている。
「カッコよかった…からですかね」
「そうか。ならいつかはドラゴノイドに進化でかなるようにしておいてやる。竜人化、人化、竜化ができるレア種族だ」
「お、おぉ!!ありがとうございます!」
何故こいつをサイコパスと呼ぶかと言うと、こいつは連続婦女暴行犯として逮捕はされているが、性交渉には及ばず、縛り付けて身動きの出来ない相手にひたすら練乳をかけ続ける謎の性癖で逮捕されていた為に、そのあだ名をつけた。
まぁ、そのキモさと面白さが採用の決め手だったのだが、被害者に不謹慎なのでやめておこう。
そしてもう一人、変な奴がいる。
「おいウシオ」
「シシオだっつの」
ワーレオンと言う、ライオンのレベル4クラスの獣人だ。
夜爪や漆黒みたいな耳と尻尾だけでなく、顔面ライオンの毛むくじゃらが服着てるあれだ。
「どうしてそうなった」
「説明しただろうが!!」
なんか強そうって思った。
これを説明と言うだろうか?否、断じて否だ。
小一時間問い詰めたのだが、強そうと思ったって言ってんだろうがぁぁあああ!!!!に変わっただけである。変なやつである。
しかも幾度となく逮捕された理由が、タクシーのおっさんをしばき回してである。
元々は小柄で引っ込み思案で暗い奴だったらしいのだが、幼少期より格闘技に勤しんでおり、人を殴り倒す技術は天下一品であったが、タクシーに乗ると、絶対に遠回りされてしまうらしく、その度にタクシーのおっさんをしばき回していたら大事件になったのだとか。
それでライオンとかゲキバロスである。
「さて、ブチ猫。早速裏クエストを発行する。やるかやらないかはお前らで決めろ」
「はい。それで、何をすればいいのですか?」
「実は、俺はお前らの感覚で言う所の異世界を3つ手中に収めている。その中にあるグランアースのダンジョンに潜りレベルを上げて欲しい。そして明日から開放される初心者向けダンジョンのスタートダッシュで他の冒険者を突き放して欲しい」
「えと、こちらに得しか無いような気がするのですが?」
「果たしてそうかな?これから向かうダンジョンは、今回出現するダンジョン同様、ゴブリンがメインのダンジョンだ、ゴブリンは弱い。だがな…召喚次元兎。グランアース、フィレンツェのゴブリンダンジョンへ」
「はいな!」
1500万P必要とした世界横断転移術式を可能とする俺のペットを召喚し、即座に転移する。
「まぁ、百聞は一見になんとやらだ。中へ入ろう」
見た目はラーメン屋跡地の洞窟型ダンジョンと同じであるが、中身は10層まであり、広さも格段と違う。
中へ入ると、早速ゴブリンがこちらへ駆け寄ってくる。
「まぁ、イメージではこうなる。こうできるって思うだろ?」
まず見本として、前蹴り一発でゴブリンの首の骨をへし折り絶命させる。
「だが、実際にやるとなると、体がこわばり、意図せずに震え、自分の体が自分の物ではないような感覚に襲われる。じゃあサイコパス次お前いけ」
「わかりましたが、ホリカワです」
「そっちの方が問題がありそうだがな」
ホリカワ君が、インベントリから初期装備の槍を取り出し装備する。
「槍は距離が稼げるから敵と接近しないで済むが、ダンジョンのような狭い場所で戦う場合は、短槍なんかを使う方がいい」
「そうですか」
「ほらきたぞ」
そしてゴブリンがこちらに駆け寄ってくる。
ダンジョンのゴブリンは基本的に、侵入者に対して襲いかかる習性を持っている為だ。
「うわぁぁあ!!」
「グギョン」
真っ直ぐに駆けるゴブリンを正面に捉えて、ホリカワが槍を突き出すと、その槍はゴブリンの腕を貫くだけに終わる。
「グゲガァァ!!!」
「うわ!うわぁぁ!!」
とりあえず真横から槍を奪い、ゴブリンの背後から心臓を貫く。
槍を螺旋を描くように回転させ、筋繊維を、肉を骨を貫くように。
「だが、どうしても長槍を使いたい場合は、どんな敵でも一撃で仕留める砲台的な役割を担え」
ホリカワ君はブンブンと顔を縦に振っているのでわかってくれただろう。
トカゲの癖にびびりやがって変態が。
「じゃあ次、ライオン」
「もう見た目だけ!?」
「お前の初期装備はなんだ?」
「いや、ただのロングソードだけど」
「ちょっと貸してくれ」
悪くない。
初期装備で選択したらプレゼントしているロングソードであるが、これの使い方も教えておいた方がいいだろう。
「剣は基本、イメージ的には斬る物だと思われていそうだが、実は違う。こういった西洋剣は、どちらかと言うと叩き潰すものだ」
タイミングよくこちらにゴブリンが来ているので、見本として首から叩っ斬ると、胸あたりまで刀身が入りゴブリンが崩れ落ちる。
しかし、それだけに留まらずもう一匹のゴブリンが駆け寄っていたので強引に剣を引き抜き、その剣の腹で首を叩き折る。
「何せ、最も力が入る状況下で、相手に叩き込む。これが重要だ。特にレベルが低いゴブリンなんかは、子供が棒で戦っても勝てる事もあるぐらいに弱い魔物であるから気負う必要もない。当てたら勝てる。そう考えて振ってみろ」
「わかった。やってみる」
二足歩行のライオンが剣を受け取ると、ゴブリンの死体に寄せられたゴブリンが駆けつける。
「うぉぉおおおおっりっ!!!」
ライオンのシシオの膂力、そして体を動かしなれた身のこなしで半歩横に移動した直後に剣を振り抜くと、ゴブリンの首は皮一枚繋がった状態で背中に翻り絶命する。
「間違ってはないが、正眼に構えて叩き潰すが正解で、今みたいに躱して斬るイメージだと、どちらかと言えば曲刀のような武器の方が向いてるかもしれないな」
「そうか、じゃあ稼いだら買ってみるよ」
「あぁ、ステータスからのショップだと分かりづらいだろうから、明日以降から使える冒険者用のショップで手にとって選んだほうがいい。長さや重さも選べるからな。よし、じゃあガンジャいこうか」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「もっと豪快に話した方がいいぞ。その見た目でぺこぺこしてると逆に気持ち悪い」
いかにも戦士、時代が違えば将軍でもしてそうなガンジャである。
そんな彼が平身低頭だと、中々に違和感がある。
「気持ち悪いはひどいです」
「はぁ、まぁいい。お前の初期装備はなんだ?」
「はい、自分はこれです」
ガンジャがインベントリから取り出したのは大剣である。
正直これにはため息が出てしまった。
「悪くはないがな。大剣はシシオのような片手剣から鍛えて筋力値に重きを置いた者でないと、あまり使い物にならない。だから、初期装備としての大剣の使い方はこれしかない」
俺は一度大剣をインベントリにしまい、手を掲げる。そこにゴブリンがまたもや自殺志願しにきたので、そこでインベントリから装備を選ぶと、手に大剣が握られ自動的に重みで大剣が振り下ろされ、ゴブリンが挽肉に変わる。
「おおおお!!!」
「精々ゲームの装備に憧れたのだろうが、初期の筋力値ではこの使い方が限界だ。ゴブリンであればなんとかなるかもしれんが、仲間に迷惑をかけるし、移動でも邪魔になる。だから暫くはインベントリから取り出し落とす。これを練習しろ」
「はい!ありがとうございます!」
まぁ、大剣落としの実践をやらせてみよう。
「じゃあホリカワ、次はガンジャの横に付いて、大剣落としが失敗した場合、ホリカワが横から槍で突け」
「わかりました」
この後、なんなくガンジャの大剣落としが決まり、次はブチ猫のターンである。
「おいブチ猫。お前の初期装備はなんだ」
「自分の初期装備は、短剣なんですが、戦闘スタイルは闇魔法です」
「お、ルーンの書き取りテストできたのか」
「はい、難しかったですが必死で頑張りました」
キャラクターメイキング時に、そのキャラクターの適性から派生する様々な技能欄に、勿論魔法もあるが、魔法の習熟をするには、50文字に及ぶ属性ルーンを暗記しなければならない仕様にしている。
これは、魔法の特性上、属性ルーンをひらがなやカタカナのような文字として認識する能力が無ければ、新しい魔法の習得、または、魔法の創造が出来ないので、最低限クリアして欲しい条件として書き取りテスト式にしていたのだが、そのせいで今回の100人の中でも、魔法職はかなり少ない。
だが、こんな所に魔法使い、しかも闇魔法の使い手がいるのは嬉しい誤算だった。
さすが罪喰いのギルドマスターと言うべきか。
「スペルは?何が使える?」
「ダークボールとバインドです」
「そうか、難しかっただろう。その2つがいけるなら、ブラインドっていう目潰し、状態異常盲目にする魔法もかなり効果的だから覚えておいた方がいい」
「やっぱりそうですよね…今ダークミストを覚えようとしてるんですが、視覚を奪う術式の構築が難しすぎて吐きそうなんです」
「うんうん、わかるよ。やっぱりブラインドは地味だからな。けど、ブラインドを先に覚えておけば、ダークミストも簡単だし、ヒュプノスの加護も…言わば、視界を奪い、状態異常の睡眠に落とす可能性も高くなる。高位の魔物を眠らせた時のやったった感はすごいぞ」
「うぉお!!!頑張ります!!頑張っておぼえます!!」
「よし、じゃあゴブリンは余裕だとして、各自の能力はわかった。ゴールデンラインとしては、ちょっと失礼」
とりあえずゴブリンが邪魔なので蹴り殺しておくことにする。
話の邪魔をするとは、中々ふてぇやろうだ。
「まず、前衛にはホリカワ、お前の槍で相手と距離を取って攻める。その間に、ガンジャはゴブリンの死角に回り大剣落とし、そしてシシオはその補助として小回りを利かせながら遊撃。これが攻撃のパターンとして覚えてくれ。ブチ猫は闇魔法が使えるが、初期値ではMPは10程度、獣人であれば2割減なので、8程度だ。だから魔力の回復を図りながらの後衛となる、魔力がある場合は、ブチ猫がダークボールで先制、そしてホリカワが前に出るの流れだ」
一同快く返事をしてくれたので一安心である。
この流れを覚えたら、後は攻略するだけだ。
「ダンマスは「メイズ」すいません。メイズさんはその間どうするんです?」
「俺は指令塔として付く。そして多少口うるさくなるかもしれんが、確実に強くしてやるから、まずは土台を作ると考えて我慢してくれ」
「わかりました、よろしくお願いします」
ブチ猫は礼儀正しい、こいつは闇魔法を習得出来たというし、かなりいい人材を罪喰いのギルドマスターに据える事が出来て内心ガッツポーズ祭りだ。
ここからとりあえず魔石の剥ぎ取りと、換金の方法を実演してみせたが、ゴブリンの魔石が50DMにしかならないのを見て、少しガッカリしていたようである。
こいつらが欲しがっている武器などは、最低でも1万DMを越える商品ばかりなので、絶望しているとも言えるだろう。
だが、下げて上げる。これ鉄則である。
「よし行くぞ。とりあえずお前らのレベルを5まで上げる。それで明日はタイムアタックだ。絶対に一番をとれよ?魔石の剥ぎ取りは後回しにして一気に攻略しろ。出来たら褒美をやる」
「何をくれるんですか?」
「ホリカワ、お前には短槍をやってもいい。シシオにはガントレットを、ガンジャには…そうだなトゥーハンドソード、ブチ猫には第二位階のスペル書をあげてもいい」
これには流石のこいつらもメラメラと闘志を燃やしてくれているようである。
全てゴブリンの魔石で揃えようと思ったら、目ん玉が飛び出す程の苦労を強いられるであろうから当たり前だ。
「けどメイズよう、なんだって一番に攻略させたいんだ?」
そう質問して来たのはライオンのシシオである。
「ダンジョンの攻略者には、ダミーコアの操作権限が与えられる。言わば、ダンジョンマスターとしての権限を一部与えられるんだ。だから半運営サイドのお前らに、ダミーコアの権限を握ってもらって、ダンジョンの収益を握ってギルド運営の資金にして貰いたい。っていうのは本来最低レベルのゴブリンを殺してもDMは40程度しか入らない。ここは50入るが、それはダミーコアの操作権限を奪われてないからだ。だから、」
「操作権限を奪い、20%のDMを徴収してギルド運営資金に回すと」
「そういうことだ。ぶっちゃけDM1で、日本円に換算すると1万円ちょっとの価値はある。ゴブリン1匹で、40万円相当の黄金と交換出来る計算で、ショップの黄金の値段設定が組まれている。だが、俺が経営するショップの武器でないと、冒険者の装備として認識されないので、当然迷宮の魔物とは戦えない。だから皆狂ったようにDMを求める。さて問題です。この先の世界で、最も価値があるのは諭吉さんでしょうか、ダンジョンマネーでしょうか」
「答えいってんじゃねぇか。ダンジョンマネーの一本勝ちだろう」
「そゆこと、だから何がなんでもダンジョンのダミーコアは手に入れろ。夜爪のようなサークルに頭が上がらない罪喰いギルドは何処の世界にも存在しない。わかるか、ブチ猫。お前の所属しているにゃんこ連盟のような個人ギルドはサークルで、罪喰いは歴としたギルドだ。舐められようと蔑まれようと、お前たちは罪喰いである事を忘れるな。常に前線に立ち、最高峰の冒険者を輩出し、汚れ仕事ですら平気でこなす最強のギルド、それが罪喰いだ。また機会があれば、この世界や、他の世界の罪喰い達にも会わせてやる。ゆっくりでいいが、自分達が名誉あるギルドの一員だって事は忘れるな」
この後めちゃくちゃレベ上げした。
+注意+
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