●ある会社のよくある現象
私はある大手メーカーの営業部門に所属しています。30歳になる今日まで、約10年近く、この会社で営業部門として活躍してきました。私と同じ年に入社した同期は20名います。他の同期メンバーは経営企画部門、人事部門、海外事業などでキャリアを形成して、支社や支店で相応の職責を経てから現在の部署に異動しています。
営業部門は花形です。最初から異動も無く活躍してきたのは同期で私だけです。部内では一貫して大手顧客を担当していました。大手顧客からは大型受注が見込まれるのでフォローには余念がありません。朝早くから夜遅くまで、業務には関係のない休日接待やゴルフなど休む時間がありません。すべてを会社中心の生活に置き換えて会社のためを思い活動をしてきました。
営業部門は総勢200名で社内では最も人数の多い部門です。統括本部長を筆頭に、その下は10の部門に分かれています。各部門には1名の部長と1名の課長が居て他メンバーは全員役職無しです。人数が多いので役職がないことを不思議に思ったことはありませんでした。しかし、最近は同期が、部長や課長やに昇進して部門を任されたという話を聞いてから焦りを感じるようになりました。この年齢になるまで役職無しは少々辛いです。
「過去は自由に変えられる マジックミラーの法則」(産経新聞出版)の著者であり、「心の学校グループ」創立者の佐藤康行氏は、レストラン「ステーキ のくいしんぼ」を創業して70店舗以上(売上50億円)の展開を果たした実績があります(現在は経営権を全て譲渡)。今回は仕事で他人に腹をたてたり悔しいときの対処方法について伺いました。
●自分の特性を知る
---どの会社でもあてはまりそうなケースですね。
佐藤康行氏(以下、佐藤) このケースはどの会社でもある現象です。後輩や同僚が出世したところで何とも思わない人がいる一方、ものすごく腹をたてて悔しがる人もいます。また、人の上に立ったり責任者になることが嫌だという人もいます。
「出世する人」「給料を多くもらっている人」を見て落ち込むのは「うらやましい」という気持ちがあるからです。「うらやましい」という感情は、欲しいのに手に入らない状態のときにわき上がる気持ちです。「私は私、人とは比較しない」という人にはこのような気持ちがわいてきません。
人と比較する気持ちが強くなると、出世する人をうらやましく感じるようになります。上をみたら劣等感が感じ、下を見ると優越感を感じるような困ったマインドに陥る危険性があります。
しかし、自分や他人の置かれている社会的状況は常に変化しています。そして自分の心や気持ちは、目まぐるしく変わるものです。人に勝っているという優越感は状況次第で簡単に劣等感にひっくり返ります。優越感も劣等感も自分次第ということです。
自分より劣ると見えた人と比較して得られた自信は、何かのきっかけで打ち砕かれます。他者との比較によって人を評価することに、あまりに偏重することは好ましくありません。マネジメントの現場では「自己の確立」「他者に影響されない」などといいますが、他人に対して、腹をたてたり悔しがるということは、他人から影響を受けていることに他なりません。
●仕事で成長をする本当の意味
---このような場合の処方があれば教えてください。
佐藤 効果的な方法があります。とにかく自分に集中することです。他人と比較せずに未来の自分と向き合い、過去の自分と比較するのです。それができれば、過去の自分と比較して、どれだけ成長しているかを客観視することができます。なお出世欲は健全な欲求ですからそれを無くす必要性はありません。
会社内で働いている人のなかで、成長している自分を客観視できる人は少ないものです。多くの人は惰性で仕事をしたり、社内政治に首を突っ込み、自らの置かれた環境を憂い社内の理不尽さに腹をたてて一喜一憂しているものです。そのような人には成長している自分を客観視することはできません。
明日から100件の営業訪問をしなさいといわれてもできるものではありません。ところが、今日は1件、明日は2件と少しずつ目標を上げていくのであれば負担にはならないはずです。また訪問をこなしていくなかで、多くの件数を回るための効率性や、精度を高めるためのノウハウに気がつくものです。
この状態に到達できたら、成長している自分を客観視できるはずです。自分を変える最高の環境は職場です。職場の仕事を通して、自分の特性、価値観、役割などの、自分を明確にする機会を与えられたのです。
---ありがとうございました。
他人に対して、腹をたてたり悔しがるということは、他人から影響を受けていること。この機会に自分の行動を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
尾藤克之
経営コンサルタント
佐藤氏の著書