教科書会社の「三省堂」が、各地の公立小中学校の校長や教頭ら11人を集め、現金を渡していた事実が明らかになった。

 検定中の英語教科書を見せて感想を聞き、謝礼として5万円ずつ渡していた。2次会の飲食代金の大半も払ったという。

 学校で使う教科書を教育委員会が選ぶ採択の際、影響しかねない行為である。文部科学省が「公正性に疑念を抱かせる」と指導文書を出したのは当然だ。

 教科書は4年ごとに改められる。今回分は昨年、各社が申請し、検定をへて今春に合格を決めた。各教委は夏に採択しており、中学生の手に来春届く。

 「検定が終わった後の訂正の申請で、現場の意見を反映するためだった」と三省堂は言う。だが、集めた11人中5人はその後、採択で教委に助言する「調査員」などに任命されていた。

 影響力のある先生に採択で手心を加えてもらいたかったのでは、と疑われても仕方ない。

 文科省は検定中の本を外部に見せることを禁じている。検定への介入を防ぐためだ。

 文科省は昨秋、三省堂に検定中の本の内容をもらさないよう指導した。その際、謝礼金を渡したことや過去も同様の会議を開いていたことを伏せていた。悪質と言わざるを得ない。

 先生たちも先生たちである。

 学校に関係する出版社から、謝礼をもらったり接待を受けたりすべきではない。

 文科省が文書を出した先月30日時点で、一部の参加者は返却していたという。自治体の規定に違反した可能性もある。教師の倫理はどこへ行ったのか。

 今回のことは、三省堂だけの問題とは言い切れない。

 文科省はこの6月、教科書会社が教員の自宅を訪れて宣伝する行為が相次いでいるとして、教委に注意喚起の通知を出していた。4~6月に禁止行為をしたのは10社にのぼるという。

 三省堂と同様のケースも他にないのか。文科省は各社に聞き取り調査すべきではないか。

 背景には、少子化がある。部数がピーク時の約半数に落ち、営業合戦が激化している。

 学校で使う教科書の採択は特に公正さが求められる。各社は社会的責任を再確認すべきだ。

 一方、今回の問題で、教科書づくりに学校現場の声を聞かなくなるようでは困る。

 子どもの理解度や、教えやすさについて教科書会社が知り、編集に役立てることは必要だ。営業目的ではなく、教科書の内容を豊かにするために、教師と会社が公正に議論する場をつくってほしい。