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レトロフリークが良い悪いじゃなく、じゃあ今までのことは何だったんだよって思ってるわけ

さて。レトロフリークというのが発売された。
知らない人にザッと説明すると、romデータの吸い出し機能がついてるエミュ機である。romデータは不正コピーの物を使うことはできず、また他のレトロフリークで吸い出した物を使うこともまた出来ない。そういうエミュ機である。

それについて。いや、正確には「それを嬉々として使い、機器として讃える人に違和感を覚えた」という話を出来るだけ短めに、分かりやすく書こうと思う。

マジコンとCFWというぶっこ抜き二大巨頭

韓国製あたりのLinux搭載ハンドヘルドコンピュータやXbox無印のエミュ機化ソフトよりも、日本でまず話題になったのはこの2つだろう。

マジコンはニンテンドーDS上で動作するブートローダーだ。大抵、DSのソフトにmicroSDが刺さるようになった感じの作りをしている。一度起動してしまえばその後はDS、GBAのromデータを読み込んで起動したり、マジコン用アプリとして開発されたエミュレータが走る。そういう機械だった。

次にCFW。正確にはカスタムファームウェア
PSPのOSのrootを取り、更に便利な機能を各種追加したHack版……いや、この際Crack版と言ってもいいのだろうか。とにかく改造されたOSである。
この「追加された便利機能」の中に、「CFW用アプリの起動」及び「romデータ(ディスクイメージであったため、isoファイルと呼ばれる)のメモリーカードからの起動」というのがあった。

さて、聡明な皆様ならご存知だろうが、知らない人のためにもきちんと書いておくとこの2つは「不正コピーされたソフトの起動」に利用された。それは社会問題にすら発展した。一億総割れ厨時代の到来である。しかもそれはパソコンに齧り付く情報強者たるオタクだけではないどころか――というより、むしろ後述する"彼ら"がメインですらあったのだが――本当に軽くゲームを遊ぶだけの一般層、更には子供にゲームを与える側の親世代の人々すら嬉々として利用し、求めるような一大事件ですらあったのだ。

当然である。
CDはテープとMDにダビング出来るのになぜゲームはできないのか。

当然である。
DVDは「お父さん」や「お兄ちゃん」に渡せば、DVD-Rに焼いて複製出来るのになぜゲームだけが出来ないのか。

当然である。
着メロフルが掲示版で飛び交う時代に、何故ゲームは不自由なカードや煩くて読み込みの遅い円盤を手に入れる事でしか遊べないのか。

しかし、それは、ダメなのだ。
ダメったらダメなのだ。買う人がいなくなると産業は衰退するのだ。システムの維持のためにはソフトを買って売ってのサイクルが保たれねばならんのだ。例えそのサイクルがいくら繰り返されても最初にリリースした人々に金が渡らないとしても払わねばならんのだ。安く手に入れるための中古に限れば、厳密に言うならゲーム業界でなく「小売を生き長らえさせるため」に金を払わねばならんのだ。

CDもDVDもダビング出来るが、ゲームは皆で「だめー!」とやったのだ。コピーが動くようなものは駄目だし、吸い出しなんてのはもってのほかなのだ。純正の機械で、ちゃんと買ったソフトを遊ぶ。これがゲームのあるべき姿であり、他の遊び方はやるにしても堂々とはせず、誰にも言わず、こっそりやるべきなのだ。

元よりゲームのユーザーコミュニティには「純正主義」というか「純正絶対主義」のようなものがある。それは意図されていないバグ利用の強化しかり、セーブデータ改造然り、コントローラ改造やサードパーティ製コントローラ(含むマウスコンバータ)の利用然り、rom内の解析しかりだ。

勿論、その中に「マジコン」や「CFW」の利用も組み込まれた。それはオフィシャルでなく、リーガルでなく、ライセンス商品でもない。ならばそんなもの使うべきではないし、例え不正コピーのソフトを利用していようがいまいが糾弾されるべきである。と。

ゲームに関わる人々が一枚岩で無い事ぐらい当たり前のことだが、私から見た「正しいとされているゲーマー像」というのは概ねこんな感じの人々である。

だからゲームはなるたけパッケージで買うし、手元に置いておくのだ、という訳だ。

さて、本題に入りたい。

レトロフリークってダビングしまくりのエミュ機じゃん?それ?


レトロフリークは「そのソフトが動作させられる事がメーカー側から前提にされていた機械」だろうか?

違う。
レトロフリークはエミュ機だ。
そのソフトは動作こそするが、そのソフトはレトロフリークのために作られたわけじゃない。

レトロフリークは純正だろうか?

違う。
レトロフリークはセガ製でも、NEC製でも、ニンテンドー製でも、ソニー製でもない。ライセンスも降りていない。
レトロフリークはセーブデータ改造やメモリ操作ソフトでお馴染みのサイバーガジェット社から販売されている。

もう、この時点で僕は違和感が凄まじい。
「それ、互換機だぞ」とか「あんだけやいのやいのやってたエミュそのものなんだぞ」とか「しかも出してるの改造チーターの原因であるコードフリーク作ってるあいつらなんだぞ」とか、言いたくてしょうがない。特に先の純正主義を掲げる人々がレトロフリークをありがたがってるのを見て心底げんなりしている。

これは特定の個人の攻撃とかそういう話ではない。「ゲームのダビングし放題のエミュ機に諸手を挙げて喜んでるって、おいマジかよ」と思うのである。

ならCFWやマジコンの死は何だったのだ。改造を商売にした奴ら(特にオークションで改造PSPを売っていた輩)が一線を超えたことが悪かったのはわかる。不正コピーそのものが悪なのも分かる。故に彼らは死ななければならなかった。

だが、レトロフリークは最早実機ですらなく、しかも吸い出したデータすら利用できる。

実機ですらないエミュ機で、
吸い出したromデータでプレイする。

この光景は何なのだ。あの時世界が、君達が憎み侮蔑した人々とやってること自体は変わらないじゃないか。そこにある辛うじての線引きは唯一「自炊したデータだから。他では使えないから」だけじゃないか。

じゃあ「裁断済み書籍レンタル」は何だったんだ。「リッピングの法規制」は何だったのだ。そこに正しさがあったんじゃないのか。「正しくないから」という名目のもとそれらは断罪されたんじゃないのか。

しかも先ほど書いたとおり、中古ゲームのやりとりはメーカーに金がわたらない。昔裁判で負けたからだ。だから中古ゲームは買ったところで小売に金が行くだけで終わりだ。

僕は「メーカーに金が行かないから悪」だなんて話をする気はこれっぽっちもない。むしろ新品フルプライスでの購入こそやりたい奴らだけでやりゃいいとすら思う。だが論点はそこではない。

「メーカーに金が行かないから」という叩き文句すら通用しない現状で、しかもレトロフリークを有難がる現状というのは、物凄くぶっちゃけて言えば「いや、ソフトは手元にあるから」とエミュ機で遊び倒すというお題目を金を払って手に入れたようにしか見えないのである。

いや、それあんたらが散々騒いだエミュで、しかも自炊とはいえromデータ起動してワァー綺麗ィーとかやってんだぞ。いいのかそれ。とか思うのだ。

レトロフリークのある世界で、レトロゲームのソフトはいよいよ「エミュ機で遊び倒す際、世間様にする言い訳」として買われるようになる。何故なら、レトロフリークなんてものがなくても、それこそ「Youtubeでフルコーラスの楽曲を探すように」「世界中の動画サイトから字幕付きの丸上げアニメを探すように」簡単にromとエミュは揃えられてしまうからだ。

それを「ゲーマーコミュニティでの言い訳が出来るように吸う」のだ。なおダビング後のゲームはドングルとして利用されることはないので手放しても動作に何の問題もない。一応「やるなよ」との釘刺しはあるが、今ここでは「それが出来てしまうか否か」だけを論点とする。

探られて痛い腹の無い人間などいない。が、今回「あの思い出のソフトが動く!」という、とてもキラキラした文句で売り出され、人々が喜んで手に入れ、大量のゲームをダビングした旨を嬉々としてツイートしているのをみると、「不正コピーしていないから」の一点だけ除いてすごい事大手を振ってお天道様の下でやってんなあと思ったのである。