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第六章 第一話
ラミアっさんでっす!でもエロなし!三日連投でいきます。
~沼神・相似のラミア あみらとみあら~
僕の村の近くには、近寄ってはならないとされる沼がある。
そこは聖域として子供の頃からずっと扱われてきていた。
そこには沼神が居て、数年に一人、生贄を捧げなければならない。
それも若き乙女という条件で。
ありがちな話かもしれないが、この村はずっとそうしてきたのだ。
村の大人達は仕方がないという認識で毎日を過ごしている。
生贄を捧げることの恩恵によって、この村は豊穣に恵まれ、栄えてきたのだと。
まるで自分達は悪くないとでも言うかの様に口々に発している。
そして生贄に選ばれると言う事は沼神の巫女に選ばれるという事と同義であり、その娘は村を上げて祝福される。
生贄という手段を神聖な儀式と摩り替えて、幾度も繰り返されてきたのだ。
僕もそれを祝福する一人だ。いや、一人だったのだ。
いつか、いつか来るかもしれないと、心の中で嫌だ、嫌だと思い続けてきた事がついに現実になる。
「嫌だ、嫌だよ……なんで、なんで姉さんがっ!!」
自身の余りの無力さに、慣習に抗えない自分の弱さに、そして目の前の大事な大事な姉さんを守れない不甲斐なさに、僕は地面を割るかのごとく強く叩く。それでもか細い僕の柔な腕は、自身のこぶしを傷つけるだけに終わる。それすらも歯痒い。
「ヤクモ、仕方が無い事なのよ。巫女に選ばれるのは名誉な事なのだから、もっと嬉しそうにしなさい」
そんな僕を見かねて、何時ものように優しく包み頭を撫でてくれる姉さん。
「そんな事言ったって……どうして……マリサ姉さんが……」
泣き崩れた僕を抱きかかえ、子供をあやすかの様に優しく包み込む。
若干の震える、それでいて凛とした透き通る声で、自分に言い聞かせるかの様に。
「村が、決めた事なの。私もいつか来るだろうって……覚悟はしてた……」
マリサ姉さんが言う通り、この時が、いつかは来るだろうと思っていた。それはこの村は生贄という行為の所為で、女子が少なかった。そして妙齢の、乙女と言える年齢の女性は姉さんの他には、ほぼ居なくなっていた。
数年前には僕の記憶にもある、とても優しく、大らかで、巫女としては申し分ない女性が居たのだが、気が付いたら家族丸ごと、夜逃げのようにこの村から居なくなっていた。
それはきっと今の僕と同じように、いつ巫女にされるかと不安だったからに違いない。
「ヤクモ。強く、行きなさい。私が居なくなっても、強く……強くっ……!」
見上げなくても分かる。それは頭に落ちる暖かい雫が、泣き崩れる僕と同じ位にひしゃげているに違いないから。
僕達は涙が枯れるまで、宵闇が天神に照らされるまで、ジクジクと声を殺して泣いた。
*
「これより豊穣の儀を始める」
しばらくして、村長が儀式開始の旨を告げる。
籠に載せられたマリサ姉さんは巫女としての装束を召し、静かにそこに在る。
顔はヴェールに隠され、どの様な表情かは窺えない。
厳かながらも、煌びやかに、質素ながらも豪勢に、小さな祭りが行われ、その最終局面。
村の男達が巫女を乗せた籠を、聖域へ。沼神様への贄として籠と巫女と供物を捧げるのだ。
籠を担ぐ男たちの力を込もった靴音、呼吸音、それ以外辺りは静かだ。それだけ静かなはずなのに、やけに呼気が木霊する。
彼らは何を思うのだろうか。それは分からない。
巫女は何を思うのだろうか。それは分からない。
ぼくは何を思うのだろうか。それは――。
「それでは、大事にな……。ただし、逃げようとは思わない事だ」
「解かっております」
籠を率いた頭目、村長の代わりに豊穣の儀の最後を任された男はそれだけ告げ、男衆を率いて帰路へと着いた。
男達が居なくなった事を確認し、僕はマリサ姉さんの下へとむかう。こっそりと後を着けていた僕は、姉さんを助けようと、隙を見つけたら直様一緒に逃げようという心算でいた。村の男達が離れ、遠く、見張りを残して芳情の儀が終わったことを確認してから、僕は聖域へと足を踏み入れた。
村を出て、森を歩き、ぬるかむ道を乱高下し、たどり着くところは聖域という所か、ただの沼地だ。それも底なしといわれる、全てのものが飲み込まれ、死へと誘われる。神様どころか悪魔がいそうなおぞましい沼である。
その畔、申し訳無さそうに佇む、贄の献上台の上に凛と在るマリサ姉さんがいた。
僕はその姿を見つけ、駆け足に近寄ろうとするが――
「離れなさいっ!」
怒気を含んだ、生まれて始めて聞いたマリサ姉さんの声にビクリを振るえ、息を呑み、後ずさる。
それは僕を案じている声だ。それは自身の事を諦めた声だ。それは全てを受け入れた、声だ。
僕はそれを、許せない。怒声を上げられようと、僕は絶対にそれを受け入れてはいけないのだ。
再び意気込み、ごくりと別な意味で息を呑みこみ、姉さんを無理矢理にでも助け出そうと動き出したその時。
「あーら、今日はお客さんが沢山いるわねぇ……あみら?」
「あーら、今日はお客さんが沢山ですね……みあら?」
気が付くと其処には見たことの無い美女が二人。
下半身は蛇の、上半身は人そのもの。ただしそれは二つではない。
蛇の半身を持ちながら、上半身だけが二股に別れた、双頭のラミアであった。
*
「なにやら騒がしいと思ったら……」
「珍しい事もある物ですね……」
二匹はお互いにクスクスと笑いながら此方を見つめ、佇んでいる。
ゴクリと息を呑む音がやけに響く。
それは自分の物かはたまたマリサ姉さんのものか。息を呑むのも不思議はない。あれは間違いなく、沼神様。
沼神とされる魔物だ。村に伝わる沼神とは大蛇とされていたが、目の前の魔物を見据え、明らかに異質な、人とは違う雰囲気を浴び本能がソレだと告げる。
「っっ!沼神様!私が生贄です!この子は何も関係有りませ――」
たらりと頬を伝う汗が空に放たれる寸前、マリサ姉さんが前にのめり込む様にソレに向かって叫ぶ。
「そんな事は……」
「どうでも良いのですよ……」
だがそれは氷の様に透き通る程に届く、沼神の言葉に遮られる。
僕はただその圧倒される雰囲気に飲まれ、クラクラとした息苦しさを感じながら、混乱している頭でこれから、今後、どうやって今、なにを、どうすればいいのか形にならないまま、身動きできないで居た。
「折角きてくれたのだから……ねえ、あみら?」
「ええ、オモテナシしないとね……ねえ、みあら?」
口に手を当て淑女の様にも見えるその沼神は、クスクスと妖艶に微笑み、ただその瞳だけは爛々を闇に輝いているのだった。
その瞳は明らかに僕を見据える。生贄であるマリサ姉さんは硬直している僕とをチラリと見やり、再び沼神へ意識を逸らそうと進言する。
「わっ、私はどうなっても構いません!もとより覚悟は出来ています!度々になりますがこの子はっ――」
「うるさいわねぇ……」
「黙りなさい……」
気が付いたら其処に居た。そうとしか形容出来ない目の前の出来事を僕は呆然と見つめていた。
一瞬にして、マリサ姉さんの横へと移動した沼神はその相当の牙をもって、4つの牙をマリサ姉さんの首筋へと突き立てていた。
左右の首筋をぷつりと噛まれ、驚きに目を見開いていたその顔が、糸が切れた人形の様にガタリと崩れ落ちた。
「姉さんになにをするぅ!」
目の前の光景に、衝動的に体が動く。沼神に向かい僕は駆け出していた。
何も考えられない頭で、ただその行為が敵意を持っているものだと判断して、最愛のマリサ姉さんを傷つけたソレに向かってその行為を止めようと、湧き上った自身の怒りをぶつけようと本能的に動いたのだ。
故に、それが寸前で成し遂げられなかったのも、本能に寄るものだろう。
「随分とイキがいいわぁ……」
「これなら……まあ良いですか……」
ギラリと僕の瞳に映る二対の瞳に、僕は立ち竦んでいた。苛立ちも怒りも、全て飲み込まれるほどに炯炯とした、爬虫類のソレをした瞳で凝視され、僕は背筋が凍るかの様で、正に蛇に睨まれた蛙のように動く事ができなかったのだ。
「ねぇ、坊や……」
「私達と遊びましょう……」
ぞくりと響く左右からのエコーサウンドに、僕は気付くのが遅れた。前面は巨大な蛇の身体で覆われ、其処から分かれた双頭のラミア達は両脇から抱きかかえる様に、そして非常に間近な、耳のすぐ傍で妖艶な言の葉を発する。
「私達を満足させてくれたなら……」
「あの娘は解放してあげましょう……」
僕はラミア達のその提案に、是非も無く縦を首に振るしかなかった。
次回チョイエロ!マグロ、ご期待ください。
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