和也が転校して来たのは小学4年の時。
短髪で分厚いレンズの眼鏡を掛けた暗いやつだった。
うちの近くの新築二階建ての貸家に越してきた。
母親と父親、弟が2人。
父親はいい会社に勤めてたらしい。
見た目からの父親のあだ名が クロコダイルダンディー。
和也とはクラスは違ったが、町内が一緒だった為、なんとなーく接点がある程度だった。
5年生の時にクラスが一緒になったのをきっかけに、急速に仲良くなった。
和也は学校の成績が常にトップだった記憶がある。
授業中は口開けて、ボーっとしてるし、休み時間はオレと話してるし、不思議だった。
新しいカセット買って貰ったから遊びに来ない?
和也が誘ってきた。
当時ファミコンブームの真っ只中。
ドルアーガの塔、コナミワイワイワールド、バグってハニー、数えきれない程のゲームで遊んだものだ。
何買ったの?
クォース
何それ?
やればわかるよ。
そんな話をしながら一緒に下校し、オレは一旦家に帰り、数本のカセットを持って、ばあさんに
和也んちに行ってくる!
って飛び出してった。
いつもは和也んちの居間でテレビ見たり、漫画読んだりしてたんだけど、初めて和也の部屋で遊ぶ事になった。
和也の部屋には色々な本がキチンと並べられており、勉強机の上には進研ゼミの教材が並べられていた。
進研ゼミを知らなかったオレは、特にそれには触れなかったが、今思えば成績トップの秘密のうちの一つだったんだろう。
ピカピカの箱から、もう一つの透明なケースに守られたカセットを取り出し、ファミコンに差し込むと、ロケットが映し出された。
これさ、ロケットで四角作ってブロック消していくんだ。
そう言ってクォースを始めた和也。
僕さ、宇宙大好きなんだ。本も沢山読んだし、将来NASAに入って宇宙に行きたいんだ。
和也は画面のロケットを操りながら夢を語った。
NASAがなんだったか知らなかったオレは、
お、おう!頑張って宇宙行けよ。
その位しか言えなかった。
和也は頭良かったし、NASAがどういう場所で、とてつもない難関だって事も知ってたんだろう。
バカなオレはその時、難しいクォースもNASAも自分の将来の事も興味が無く、クォースやめて魂斗羅を2人プレイで遊びたくてウズウズしてた。
中学生になると、和也は優等生、オレは劣等生になり、顔を合わせる事も少なくなったが、オレはずっと友達だと思って過ごしていったんだ。
和也は、相変わらず分厚い眼鏡を掛け、地味に成績トップクラスを維持し、県内トップの進学校に進み、東大に入ったそうだ。
数年前、和也の母さんにスーパーでばったり会ってさ、
和也、今何やってんすか?
って聞いたら
関東でロケットの部品開発してるって。
お前のNASA見つけたんだな。
宇宙には行けなかったみたいだけど、お前の部品で誰かが宇宙に行くんだな。
クォースと進研ゼミと夢と。
あの時オレが魂斗羅やろうって言わなかった事に感謝しな