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遠くまで伸ばした「妄想力」はいずれどこかで必ず役に立つ

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「世界の音楽を破壊する」妄想から生まれた「ゾンビ音楽」とは

インタビュー・テキスト:島貫泰介 撮影:相良博昭(2015/11/02)

中世ヨーロッパ以来、美術や文学の世界で使われる「死の舞踏」というテーマがある。英語では「ダンス・オブ・デス」、フランス語では「ダンス・マカブル」。何やら物騒な響きのネーミングの背景には、14世紀のヨーロッパで猛威を振るったペスト(黒死病)への恐怖があるとされ、富める者も貧しき者も死ぬときはみんな同じ、というダウナーな平等主義、あるいはどうせ死ぬなら踊ってしまえ、という諦めにも似た楽観主義が見て取れる。

『フェスティバル/トーキョー15』のプログラムとして、11月12日にはじまるゾンビオペラ『死の舞踏』は、その平等主義を、斜め上の発想で現代に移植した意欲作&異色作である。主役は、機械仕掛けの楽器、お掃除ロボットのルンバなど生命を持たない無機物たち。それらにプログラミングと大仰な仕掛けを施し、約70分のオペラを上演するという。

同作は、数年前から「ゾンビ音楽」という人間を介さない音楽技法の開発に心血を注いできた安野太郎にとって過去最大の発表の場になる。そこに音楽ドラマトゥルクとして研究者の渡邊未帆、美術に「悪魔のしるし」主宰の危口統之が加わり、誰も観たことのない一大オペラが産声をあげる。日々クリエイションに挑む三人に、同作について話を聞いた。

PROFILE

安野太郎(やすの たろう)
作曲家。1979年生まれ。日本とブラジルのハーフ。DTMやエレク卜口サウンドとしてのコンピューターミュージックとは異なる軸でテクノロジーと向き合う音楽を作ってきた。代表作に『音楽映画』シリーズ、『サーチエンジン』(『第12回文化庁メディア芸術祭』)、『ゾンビ音楽』(『第17回文化庁メディア芸術祭』)、ゾンビ四重奏『Quartet of the Living Dead』(『第7回JFC作曲賞』)、CDアルバム『デュエット・オブ・ザ・リビングデッド』『カルテット・オブ・ザ・リビングデッド』(『第69回文化庁芸術祭レコード部門』)等がある。現在、日本大学藝術学部非常勤講師、研究員。
ZOMBIE MUSIC


渡邊未帆(わたなべ みほ)
東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。ラジオ番組制作、雑誌や書籍の編集、執筆など。『F/T14』では『春の祭典』の音楽ドラマトゥルクを務めた。現在、早稲田大学非常勤講師。
渡邊 未帆 | Facebook


危口統之(きぐち のりゆき)
悪魔のしるし主宰、演出家。1975年倉敷市生まれ。横浜国立大学工学部卒。在学中に演劇活動を開始するも卒業後ほどなくして停止、以後建設作業員として数年暮らす。2008年頃から活動再開、演劇その他を企画上演する集まり「悪魔のしるし」を組織し現在に至る。2014年度よりセゾン文化財団シニアフェロー。主な作品に『搬入プロジェクト』『わが父、ジャコメッティ』など。
akumanoshirushi

「ゾンビ音楽史」に従って僕は活動しているんですが、そこに「2015年にゾンビオペラをやる」とあるんです。(安野)

―「ゾンビ音楽」「ゾンビオペラ」「死の舞踏」と、気になるワードが並ぶ本作ですが、この企画が立ち上がったきっかけはなんでしょうか?

安野:去年、ゾンビ音楽のセカンドアルバム『QUARTET OF THE LIVING DEAD』をリリースして、レコ発ライブをやったんです。それを『フェスティバル/トーキョー』(ディレクターズコミッティ代表)の市村作知雄さんが観に来てくれたのが最初の縁ですね。僕は自分のライブで、必ず「ゾンビ音楽史」というペーパーを配るんですけど……。

左から:安野太郎、渡辺未帆、危口統之
左から:安野太郎、渡辺未帆、危口統之

―ゾンビ音楽史とは何ですか?

安野:西暦4001年までの人類とゾンビ音楽の歴史があらかじめ書かれてあるんです。それに従って僕は活動しているんですが、そこに「2015年にゾンビオペラをやる」とあるんですね。

一同:ははは(乾いた笑い)。

安野:だからライブの後、市村さんに「ゾンビ音楽史読みました? 来年オペラをやることになっているんですけど」と伝えて。あらためてお会いした際に自分の妄想をぶちまけたわけです。

―自ら妄想と言ってしまってますが(笑)。それで今回の「ゾンビオペラ実現」に向かっていったわけですね。

安野:そうですね。

―その前に補足として聞いておきたいのですが、そもそも「ゾンビ音楽」とはなんでしょうか?

安野:端的に言えば、ロボットに演奏させる音楽です。コンピュータで制御した作りモノの指でリコーダーやクラリネットの音孔を押さえ、エアコンプレッサーから歌口に空気を送ることで音楽を奏でる。


―生者である人間ではなく、機械が演奏するからゾンビ音楽なんですね。

安野:そう。このシステムを使ってすべての木管楽器を演奏するのが目的の1つなんですけど、今回は技術も進んで、サックスやフルートなども加わった全16台編成になっています。

―そこにお掃除ロボットのルンバも加わるとのことで、着々とゾンビ音楽史が編纂されている、と。さらに今回はオペラということで、監修・考証を務める音楽ドラマトゥルクに渡邊未帆さん、舞台美術に「悪魔のしるし」主宰の危口統之さんが参加しています。

渡邊:私は去年の『F/T14』の『春の祭典』(演出・振付:白神ももこ×美術:毛利悠子×音楽:宮内康乃)で音楽ドラマトゥルクとして参加して、今年も『F/T15』新制作の作品ゾンビオペラに参加させていただくことになりました。安野さんとは東京藝術大学の助手として席を並べていたこともあって、ゾンビ音楽をやっていたことは知っていたのですが、正直ゾンビ音楽でオペラをやろうと思っていたとは驚きました。

ゾンビオペラ『死の舞踏』メインビジュアル 撮影:松本和幸 イラスト:古泉智浩
ゾンビオペラ『死の舞踏』メインビジュアル 撮影:松本和幸 イラスト:古泉智浩

危口:オペラやるの怖いですよね……。

渡邊:ねえ……。

―それはまたなぜ?

渡邊:オペラって、きっと作曲家なら人生で一度はやってみたいと思うであろう総合芸術ですからね。武満徹も志半ばで達成できなかった。

危口:安野さんからオファーされるまで、ほとんどオペラの知識がなかったんですよ。それで最初にいろいろ調べたんですけど、オペラファンの方が更新している鑑賞ブログを見たら「演出家はいつも余計なことをする。演劇から演出家を呼ぶのは本当にやめてほしい」とか、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われていて。これはうかつなことはできないと……。

渡邊:古典作品の新演出は次々とされていても、新作オペラが上演される機会はごく少数なので、普通のオペラファンの方々は、古典の名作をスター歌手のすばらしい歌で楽しみたいと思っていらっしゃるのではないでしょうか。そういうオペラファンの人にもぜひこの作品を観に来てほしいですけどね。「誰が歌うんだろう?」と思いながら。

安野:「……人間じゃない!」と驚いてほしいです。

―安野さんは「オペラに挑戦!」みたいな気分はありますか?

安野:ゾンビ音楽史を書いている自分としては、挑戦しないといけないと思うんですけど、でも一人の市民としての僕は怖い(苦笑)。滅相もないという感じです。

危口:そもそも本当の意味での挑戦なんて、そんなにしょっちゅうできるものでもないですからね。お菓子会社だっていろいろ新商品を出すけれど、「のど飴の歴史に挑戦!」なんて大胆なこと考えているわけがない。

―毎月のように歴史が塗り替えられるのは、われわれみたいな芸術周辺を生業にしているメディア関係者だけなんですね(苦笑)。


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