日本で唯一夜間に開講している美術大学のデザイン学科。
都心へのアクセスの良さも備える
上野毛キャンパスを起点としたライフスタイルってどんなもの?
“STUDENT REPORTS”では
学生たちが気になるスポットをレポートします!
今回は濃厚な作風のハイテンションCGアニメーションを生み出し、TV・CM・ミュージックビデオなどを中心に活躍しているCG制作トリオのAC部さんのオフィスに伺ってきました。
NHKみんなのうた「哲学するマントヒヒ」、テレビ朝日SmaSTATION!!「スマアニメ」などを手掛け、多方面から注目を集めるAC部さん。今回はメインで活動している安達亨さんと板倉俊介さんにお話を伺いました。
──3人は多摩美術大学のグラフィックデザイン学科出身だとお聞きしました。学生時代、お互いの存在をどのように思っていましたか?
板倉さん 当時の多摩美のなかでも特殊なテイストの映像だったので、一緒にやる心強い仲間という感じでしたね。僕は元々AC部っぽいものが多分好きではなかったと思うんですけど、話しているうちにだんだんはまってきて、それで濃くなってきたのかなあと思います。
安達さん みんな実はAC部っぽくないよね、最初。どんどんはまっていったというか。自分たちで自分たちのものをどんどんつくっていって、濃くなっていきました。
↑ 制作過程の話を真剣に聞き込む取材チーム
──やはりつくることに対してパワフルな学生でしたか?
安達さん ガリガリやる感じではないですね。ただ、ほとんど学生が来ない授業に3人だけ出席したり、真面目でした。
板倉さん パワフルと言われてしまうと、もっとやっていた人は多分いて。でも今考えるとあまり余計なことはしていなかった気もします。
──学生の頃に、好きだったものや見習っていた人はいますか?
板倉さん 予備校の時は大貫卓也さん(※1)がすごく活躍していた時期で、その時は派手にやってるなと、そんな風になりたいという漠然とした思いはありました。でも多摩美に入ったら、みんな真面目にやるのがなんだか退屈な感じがして。そこから反骨精神が生まれたのが始まりなのかな。
安達さん 1~2年の時は、こっちもちゃんと上手く描こうと思ったりとか、まともなことを考えていて。なんかそれがだんだんと疲れてきて(笑)。課題には一番時間をかけていました。課題提出のときしか学生が来ないような授業も、教室に来て描いたりもしてて。それ故に邪念が…(笑)。
──絶対に楽しいことをしたい、今までにないものをやりたい、というのがどの作品からも感じるのですが、やはりそういう気持ちはありますか?
安達さん 基本的に発想の始めから捻りすぎるという癖があります。インプット・アウトプットの流れがあって… アウトプットの出る先のところで変化球がかかっていると、目立つ、面白い、一番分かりやすいかたちになる。でも、根本から捻ると意味が分からない、そもそも「何これ?」という風になる。そういう考えになっちゃってますね。
板倉さん 例えば野球アニメをつくるという話だったら、格好良くてガッツのある主人公、強敵を倒すというのが王道ですよね。そこをちょこっと捻るっていう。結果をちょこっと捻る、いじくるといい感じで新しいものが出来るんです。受け入れられるような。
安達さん そう、共感と飛躍。
板倉さん そこを上手くつくれればいいけど、考え初めから捻る癖がついているので、例えば野球アニメなのに「野球やらなくていいんじゃない」っていうところから入ってしまうんです。
↑ 作品の話を情熱的に語ってくれました
──独特な作風に毎回驚かされます。つくる時には、恥ずかしいとか世間の目にこういうのはちょっとなあとか、そういう感覚は特にありませんか?
板倉さん 学生の頃、最初はありました。特に多摩美は周りが上手いじゃないですか。そういう人たちと横並びになっている状態で、最初は面白く楽しくやっていたんですけど、それで貫き通すっていうところまではちょっと恥ずかしいなって。でもそう思っているのと世間の評判が違ったんです。やっぱりね、面白がってくれる人が結構いて。その面白がってくれる所にちょっぴり懸けたというか。もっと面白いものをつくっていけるんじゃないかという感じでやっていって慣れていったというかね。叩かれたことがあまり無かったのでそれはまだ良かったですね。
安達さん 自分が出てるわけでは無いから、ある種映像は別人格です。学生時代の学祭のときも展示をして、ブースをつくって映像を流すのだけど、自分たちはそこにいない(笑)。
板倉さん 3人で出していたから「俺がつくったんじゃない」と言えるというか(笑)。そういうクッションもあって「作品が自分」という感覚が減って良かったかな。3人だからやって来れたという感じです。澤田泰廣先生という先生がいらっしゃるんですけど、2年の最後の課題でその先生に1度だけ作品をみてもらったことがあって。2年のグラフィックデザイン学科全員の作品を1度にみてもらうという授業で。その時初めてAC部としてつくったものを、授業で講評してくれたんです。それで「面白いから、みんな笑ってるしいいんじゃない?」とちょっと推してくれたのは嬉しかったですね。
──役割分担はありますか?
板倉さん 明確には分かれていませんね。
──アイデア出しは2人でやっているのですか?
安達さん 毎度違うというか。元々「闇鍋」的な作品なので、誰が何を入れるかを楽しんでいるようなもので。制作の分け方は色々あります。下書き係、ペン入れ係、アニメーション係… ビジュアルは敵・味方で担当を分けたり、人物・背景、カット毎で分けたりしています。
板倉さん 逆に3人が混ざっていない感じを売りにしています。1人が上に立ってまとめてやると、多分普通になっちゃう。そこをあえてやらないようにしていますね。
──お互いを信じ合ってやっているのですね。
安達さん はい。あと天然ボケでつくることですかね。理性を全部コントロールしない。カット毎に制作すると、良い意味でも悪い意味でも想像とは違うものになります。そこで合わせた時に、「あ、こうなるんだ」とあえて不確定な要素をつくって、偶然性に変える。
板倉さん そこが重要。頭の中でまとめて、それでもいいものが出来ちゃうのは相当すごい人がやっていると思うんです。多分僕らはそこで戦えないので。
安達さん 人にバシッと言えないんです(笑)。こういう風にお願いしますと言えないんですよ。何かもしかしたらこういう風になっちゃうかも、みたいな感じで(笑)。大体そっちのほうが調子がいいことが多くて。予想通りにいくといまいちテンションが低かったりとか。調子の波もありますしね。忙しさというのがなかなか判断を鈍らせる。気をつけなければいけない所です。忙しいと、分かりやすく簡単で結果が見えていることをやりがちです。効率を優先しちゃって、忙しいときでも労を惜しまないようにね。
↑ 真剣に作業に打ち込む足立さんと板倉さん
↑ シュールで独特な作品に思わず笑みを浮かべる取材チーム
──自分たちの作品でお気に入りの作品はありますか?
板倉さん 僕は最近のgroup inouのPVが2本とも好きです。2010年は停滞していて、何をつくっているか訳が分からないという状態になったりしていて。それで、あれをつくるのも結構大変だったのですが、始まりぐらいが出来た時にすごい気持ちよくて。制作も乗ってきて、それでちょっと回復出来たんです。産みの苦しみが結構辛かった。でも取り戻したというか。
安達さん リハビリ感ですね。仕事を請け負って、100%自分の色が出ないような仕事をずっとやっていると感覚がちょっと鈍ってくる。僕、かわいい絵も描くんですけど、かわいい絵を描き続けると線も丸くなっていく。きれいなものになっていっちゃう。そういうのがどんどん続いていくと、今まで通りにアイデアが出なかったり、絵が描けなくなる。そこがすごく難しいですね。
『group_inou / HEART (single mix)』
『group_inou / THERAPY』
──AC部さんが注目している作家さんはいますか?
安達さん 水野健一郎さん(※2)と平野遼さん(※3)です。
板倉さん 僕は最後の手段(※4)のつくっているPVが結構好きですね。
──最後に、悩める学生に一言お願いします。
安達さん 泥水を飲んで生きてください。頭で考えられるものより、のたうち回ってつくられたものが見たい。
板倉さん 例えば就職をしたとしても、その先で何をするかを考えたほうが良いと思います。何年か先にでもチャンスは必ず巡ってくるので。その時までにどれだけ頑張っているかが重要なんじゃないかな。就職していなくてもそれは同じですよね。
──AC部さんの制作に対する姿勢は大変勉強になりました。ありがとうございました!
↑ 最後に一枚記念撮影をさせてもらいました!
※1大貫卓也(アートディレクター。'80多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。新潮文庫「Yonda?」、ペプシコーラ「ペプシマン」、資生堂「TSUBAKI」シリーズ、ソフトバンクモバイル「PANTONE」などを手掛ける)
※2水野健一郎(アーティスト。鳥取大学工学部社会開発システム工学科中退、セツ・モードセミナー卒。Theatre PRODUCTSとのコラボレーション、NHK「天才てれびくんMAX」オープニングアニメなど、様々なジャンルで幅広く活動)
※3平野遼(多摩美術大学情報デザイン学科芸術コース在学。アニメーション作品「河童の腕」がApple主催第3回学生デジタル作品コンテストムービー部門グランプリ受賞)
※4最後の手段(東京芸術大学の先端芸術表現科の同級生による3人ユニット。七尾旅人ミュージックビデオコンテスト「検索少年」グランプリ受賞)
取材: 柳瀬 めぐみ (3年プロダクトデザインコース)
吉岡 もも (3年プロダクトデザインコース)
写真: 新井 正和 (3年デジタルコミュニケーションコース)
インタビュー日時:2011年11月11日 AC部オフィスにて