Edward Chancellor
[16日 ロイターBREAKINGVIEWS] - 米国の作家アンブローズ・ビアスは、著書「悪魔の辞典」(1911年)の中で、政府から商業、人生全般に至るまで辛口な定義を示した。
ビアスは金融に関する知見も深く、例えば、「富」は「1人の手に握られる多くの人の蓄え」と定義してみせた。
ロイターBreakingviewsは世界金融危機が発生する以前の2007年、ビアスの「悪魔の辞典」に倣い、その金融版を発表した。だが危機後の現在において、もはやそれは適切でないように思える。そこで以下にその改訂版、金融危機後の「悪魔の辞典」の抜粋のパート2を紹介する。
──現代版「悪魔の金融辞典」パート1はこちら
<F>
Financial innovation:金融革新。ウォール街が考え付いた、手数料を取ったり、リスクを隠したり、規制を逃れたりする新たな方法。
Flash Crash:フラッシュ・クラッシュ。超高速取引を行うトレーダーのせいで2010年5月に起きた米国株の瞬間暴落のこと。この件で当局は、思いもよらない身代わりを英ハウンズローで見つけた。
Forecast:予測。取引を増やそうとするブローカーや破綻を隠そうとする年金運用機関によってつくり出される、常に楽観的で、不正確な予想。
Fund management:資金運用。「スキルの錯覚」の上に成り立つ業界(ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマン)。投資の世界で運とスキルが区別できるようになるには数十年を要するが、成功しているファンドマネジャーは自分のスキルを信じたいようだ。
<G>
Global carry trade:グローバル・キャリートレード。安いドルで世界の金融システムが氾濫すること。通常、米国の利上げで突然止まり、新興国市場の危機が訪れることになる。
Global financial crisis:世界金融危機。FRBが救済の手を差し伸べるまで、ウォール街の円滑な手数料集金マシンを停止の脅威にさらしたイベント。
Goldman Sachs:ゴールドマン・サックス。「人間の顔をした巨大な吸血イカ」(米ジャーナリストのマット・タイビ)。利害の対立を「扱う」ことを専門とするウォール街の企業。
Greece:ギリシャ。独立以降、時間の半分をデフォルトに費やしている国。ゴールドマン・サックスから、バランスシートに記載されない財政的アドバイスを受けた後、ユーロ圏への加盟資格を得た。
Greenspan put:グリーンスパン・プット。資産価格バブルの崩壊を防ごうとFRBが取った金融政策。さらに大きなバブルの原因にもなる。
<H>
Hot money:ホットマネー。グローバル・キャリートレードの資金として使われる短期債務。問題発生の前兆で逃げ出す。
<I>
Initial public offering:新規株式公開(IPO)。内部者にとっては、割高株を外部者に売る機会。ウォール街にとっては、法外な手数料を搾り取ったり、市場を操作したり、利を施す機会。
Interest:利子。遠い昔にわれわれの祖先が享受していた、貯金で得られる恩恵。
<K>
Keynesians:ケインジアン。「天の声を聴き、過去の学者の悪文から錯乱した考えを引き出している」(ジョン・メイナード・ケインズ)エコノミスト。
<L>
Lender of last resort:最後の貸し手。中央銀行の伝統的役割であり、市場のパニック時に資金を供給する。元々は質の高い担保に対し、処罰的な金利での貸し付けに限られていたが、最近では不良資産でも利子を補給して貸し出している。
Libor scandal:ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)スキャンダル。銀行幹部のボーナスを稼ぐため、トレーダーらが短期金利を不正に操作した事件。同じく銀行幹部のボーナスを稼ぐために、中央銀行が行う合法的な金利操作と混同しないように。
Liquidity:流動性。金融危機以降、FRBによって要望に応じて供給されるウォール街の酸素。
<M>
MBA:経営学修士号。倫理もビジネスセンスもない人のこと。Business schoolを参照。
Mergers and acquisitions:M&A(合併・買収)。報酬が自社の売り上げと時価総額に関係するCEOが行う。借り入れでまかなうM&Aは、1株当たり利益(EPS)を高めるための常套手段となっている。
Moral hazard:モラルハザード。FRBの政策で培われた「どう転んでも損はしない」というウォール街の考え方。
Muppet:マペット。操り人形。Clientを参照。
<O>
Off balance sheet:オフバランスシート。隠された真実。
<P>
Pension plan:年金制度。不十分な資金と非現実的なリターンを前提に運営されている、企業による支払われることのない約束。
People’s quantitative easing, or PQE:国民のための量的緩和(PQE)。財政支出のために紙幣を印刷すること。アフリカ中で長い間行われてきた。最近、英国で「進歩的な」政策として提案された。QEを参照。
Ponzi scheme:ねずみ講。米国から中国に至るまで、経済活動を持続させ、上がる一方の債務レベルを正当化するために、資産価格を上昇させ続ける必要のある現代資本主義の活動。
Profit:利益。現在は、米国最大の製造業となっている。
<Q>
QE:量的緩和。米国のデフレ対策と経済成長促進のため、FRBが新たに発行した紙幣で債券を購入したのが一例。実際には、資産価格バブルやコモディティーへの過剰投資、そして新興国市場の信用バブルを生み出す結果となっており、現在進行中の新興国バブル崩壊は世界的なデフレと世界経済成長の低下をもたらしている。
<R>
Retail investor:個人投資家。立派なマペットになれるほど裕福ではないため、高い手数料を支払っている、ウォール街の部外者。
Revolving door:回転ドア。元政府当局者がウォール街からもうかる仕事を提供され、「くら替え」すること(ルービン元米財務長官はシティグループ、グリーンスパン元FRB議長は米ヘッジファンドのポールソン&カンパニー、バーナンキ前FRB議長はシタデル)。日本では「天下り」として知られる。
<S>
Scapegoat:スケープゴート(身代わり)。自分の無責任さはさておき、 国民や政治家が世界金融危機の起きた責任をなすりつけられる相手や事柄。
Securities and Exchange Commission:証券取引委員会(SEC)。好景気のときは眠っているが、不況になったら小物まで起訴する米国の金融規制当局。
State-owned enterprise:国有企業。資金が政策に誤用され、残りは当局の懐に入れられる新興国市場の企業。
Swiss watches:スイス時計。新興国市場で汚職の通貨として使われる。
<T>
Too big to fail:大き過ぎてつぶせない。国家に救済されると分かっている巨大銀行は無責任に行動するという概念。実際のところ、銀行破綻は多くの小規模行がしのぎを削っているところで発生する可能性が高い。
<V>
Value investor:値ごろ株投資家。将来が過去と似たような状況になるというむなしい期待をもって株を購入する昔ながらの投資家。
Volatility:ボラティリティー。現代の金融理論で、市場の変動は、いわば資金が永久に失われる可能性という真のリスクに等しいという誤った考え方。
Volcker, Paul:ポール・ボルカー。ウォール街の異端者から崇拝される元FRB議長。
<W>
Wall Street economist:ウォール街のエコノミスト。「見ざる、聞かざる、言わざる」を原則とする、経済分析の仕事に応募した人。
Whale:クジラ。2012年にデリバティブで60億ドルを超える巨額損失を出した米銀行大手JPモルガン・チェース、ロンドン支店のトレーダー。同行のジェームズ・ダイモンCEOは当初、「空騒ぎ」と一蹴した。
<Y>
Yield curve:イールドカーブ(利回り曲線)。長期金利と短期金利の差。景気が低迷するたびにFRBはイールドカーブの傾斜がきつくなるよう(スティープ化)操作する。銀行を助けるだけでなく、否応なく次の危機につながるグローバル・キャリートレードを引き付ける。
<Z>
Zaitech:財テク。 金融工学を意味する日本語で、やり過ぎると企業のゾンビ化を招く。
ZIRP:ゼロ金利政策。長期間やり過ぎると国の経済全体がゾンビ化する。
──現代版「悪魔の金融辞典」パート1はこちら
*筆者は「Reuters Breakingviews」のゲストコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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