前田育穂
2015年11月3日09時05分
漢字を間違える、九九が覚えられない。子どもの勉強を見ていて、もどかしくなった経験はありませんか? 小児神経の専門家によると、人は見る力や聞く力など、生まれつき持っている感覚の強弱により、得意な学び方にも違いがあるそうです。
にさんがろく、にしがはち……子どもの頃、学校で繰り返し唱えた人も多いだろう。この九九の暗唱、誰にでも覚えやすいわけではないという。苦労したという人は、自分の「認知特性」に合っていなかったのかもしれない。
■認知特性は大きく3タイプ
小児神経専門の本田真美医師によると、認知特性とは物事を理解したり、記憶したりする方法。文字や文を読み、頭の中で映像化して考えるのが得意な「言語優位」、見たものをカメラのように記憶する「視覚優位」、言葉などを音声として取り入れる「聴覚優位」と、大きく3タイプに分かれる。択一式の質問に40問答えると、自分の傾向が見えてくるという。
視覚優位の子には、四角のタイルが増えていく図が描かれた九九カードの方が、理解しやすいこともある。「学校の授業は話す、聞くが中心。教員も話すのが得意な人が多く、『説明を聞けば理解できる』と思うかもしれないが、視覚優位の子には難しい面もある」と本田医師は指摘する。
こうした特性は、学校現場ではほとんど考慮されてこなかった。参考になるヒントは特別支援教育の教材にあるという。
例えば漢字。「読み書きが苦手な子どもへの〈漢字〉支援ワーク」(明治図書)は、形や部首に注目した「漢字パーツ」や「漢字たしざん」といった練習法が採り入れられている。著者で特別支援教育士の村井敏宏さんは「繰り返し書く練習法は、形を正確にすることだけに意識が向きがちで、読みや意味を覚えることにはつながりにくい。特性に応じて、楽しく覚えられる方法を考える必要がある」。
助詞の理解に役立つのが、全国聴覚障害教職員協議会のホームページで紹介しているドリル「みるみる日本ご みるくとくるみの大ぼうけん」だ。助詞はイラストで表現され、「と」は両手を伸ばして単語をつなぎ、「を」はその前の言葉を両手で支える。編集代表で同会会長の堀谷留美さんは「読み書きの苦手な子や、日本語が母語ではない子にも役立ててほしい」と言う。
■認知特性を診断、教え方変える塾
認知特性に着目した塾もある。個別指導塾「志樹学院」(東京都)は入塾時、「本は読んでもらうより、自分で読む方が理解しやすい」などの質問をし、認知特性や計画性、注意力などを診断。結果に応じ、講師の声かけや、プリントの問題解説も変えている。特に数学では成績アップの効果が目立つという。
塾を運営する「アルクテラス」の新井豪一郎社長(41)は、自身も小学6年の時、成績が悪く悩んでいたが、親に買ってもらった参考書を読んだら、点数がぐんと上がった。「僕は授業を聞くより視覚的に理解する方が得意と気づいた。『勉強ができない』と思い込まず、色々な方法を工夫してみては」と話す。(前田育穂)
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