文化の担い手として、民間企業が国と同じくらい大きな存在になっている。そんな調査を企業メセナ協議会がまとめた。

 2013年度に企業と企業財団が文化芸術を支援するために使った金額は956億円。約1千億円で横ばいが続く文化庁の予算に迫る額だった。

 企業が直接の見返りを求めず文化芸術を支援することを「メセナ」と呼ぶ。古代ローマ帝国で芸術家らを守った高官の名前に由来するフランス語だ。

 日本でも企業の文化貢献をメセナと呼ぶようになって四半世紀。この間、年ごとに金額の増減はあるものの、バブル崩壊後も、長引く不況の中でも堅実に広がり、続いてきた。

 大企業が大金を出す活動と思われがちだが、協議会の調査では、事業ごとの支援額は50万円未満が全体件数の4割を占める。社有施設を貸したり、社員がノウハウを提供したりというお金以外の支援も活発だ。

 例えば、福岡県の油機エンジニアリングは、05年から文化施設「古材の森」を運営する。本業は建設関連機械レンタル。解体を依頼された築100年を超える商家を残そうと、修復・保存した。音楽や落語会など様々なイベントや地域の歴史講座などを開き、活用している。

 しずおか信用金庫(静岡市)は「こんな地場産品があったらいいな」という小学生のデザインコンテストを03年から続けている。入賞作は地元の職人に作ってもらう。蒔絵(まきえ)のカルタ、竹細工の豪華虫かごなど多彩なプランが形になった。昨年の応募は約4700点。子供たちは地域への理解を深め、地場産業への刺激にもなっている。

 メセナ協議会は優遇税制を生かしながら、個人の寄付を広げる活動にも力を入れる。

 企業と個人の意欲が文化芸術を支える。こうした取り組みが、さらに大きくなるといい。

 むろん、民間の弱みもある。

 名をはせた施設でも、運営企業の経営不振などでいくつも消えた。セゾン美術館、「室内楽の殿堂」カザルスホール、演劇の拠点ベニサン・ピット……。いずれも企業メセナの「顔」と目された東京の施設だった。

 多彩な文化芸術が花開く社会の実現には、施設や事業を安定して支えることができる国や地方自治体の力を高めることも不可欠だ。

 きょうは文化の日。人々の自由で豊かな精神を育み、社会を生き生きとさせる文化芸術の力を改めて見直したい。そして、それを育て、支えてゆく道筋も併せて考えていきたい。