安倍首相と韓国の朴槿恵(パククネ)大統領による初の首脳会談がきのう、ソウルで実現した。

 2人がそれぞれ、国を率いる政治トップに決まったのは3年も前のことだ。この間、一度も公式の会談はなかった。

 隣国でありながら異常な事態が続いたのは、戦時下に過酷な性労働を強いられた元慰安婦たちの問題をめぐる駆け引きのためだ。

 問題の進展を確保した会談を望む朴氏に対し、安倍氏は「前提条件なし」を主張し続けた。ようやくその平行線を破って会談してみると、「早期妥結をめざして交渉を加速させていく」ことで一致した。

 こんなごく当たり前の意思確認がなぜ、いまに至るまでできなかったのか。互いの内向きなメンツや、狭量なナショナリズムにこだわっていたのだとしたら、残念である。

 2人には、この3年間で失われた隣国関係発展の機会を取り戻すべく、約束通り、積極的な協議を指示してもらいたい。

 その際、双方が忘れてはならないことがある。慰安婦協議は国の威信をぶつけ合うのではなく、被害者らの気持ちをいかに癒やせるのかを最優先に考える必要があるということだ。

 慰安婦の実態は、これまでの日韓での研究でかなりのことが明らかになってきた。それは、女性としての尊厳を傷つけた普遍的人権の問題である。

 日本政府は、50年前の日韓協定により、法的には解決済みだと主張する。これに対して韓国側には、日本の法的責任の認定と国家賠償を求める声がある。

 実際には、日韓両政府はこれまでの水面下での協議で、かなり踏み込んだ協議を続けてきた。

 それらを踏まえて双方がいま認識しているのは、どちらか一方の主張をすべて貫くことはできず、双方が一定の妥協をして「第3の道」を探る以外にないという現状である。

 今回の首脳会談は米国の後押しで実現したが、首脳同士が会ったからといって、万事上向くほど現在の両国関係は簡単ではない。一方で日韓ともに「このままではいけない」という意識が強いことも事実だろう。

 首脳会談では、北朝鮮政策を含む安全保障問題や、韓国が環太平洋経済連携協定(TPP)に加わった場合の日本の協力なども話し合われた。

 日韓は慰安婦問題の交渉を急ぎつつ、両国民がともに利益を高めるために協力していくという、隣国としての本来の姿を早く取り戻さねばならない。