仕事にストレスはつきもの。だが、同じ職場、同じ上司の下で同じ仕事をしていても、ストレスを感じやすい人と感じにくい人がいる。ストレスを抑えるにはどうすればいいのか、専門家などにポイントを聞いた。まずは、心の持ちようでストレスを減らしていく方法から。
「最近は毎日がストレス」。こう話すのはメーカーに勤務する川村靖男さん(仮名)。上司の指示がいつも大ざっぱで、困惑するのだという。
「ストレスを感じるのは上司に期待をしているから」と、ビジネススクール「モチベーション&コミュニケーションスクール」(東京・新宿)の代表、桐生稔さんは指摘する。「ストレスとは、先が分からないときや、期待と違うことが起きたときに生じる心的負担。細かく指示してほしいという上司への期待が裏切られるからストレスが生じる」
「期待値」をコントロールすることはストレスを感じにくくする方法の一つだと桐生さんは言う。川村さんのようなケースでは、「この人からはザックリした指示が来るもの」とあらかじめ想定しておくといい。上司に報告をする場合などは、ほめられる可能性と叱られる可能性の両方を想定しておく。その上で両方の対応も考えておけば、それだけでストレスは減る。
■評価する側に立つ
周りの評価を手放すのもストレス軽減に役立つ。医師で作家の米山公啓さんは「基本的に、誰も評価はしてくれないと思った方がいい」と話す。「若いうちに才能を見いだされるなどは例外中の例外。ほとんどの人は自分の力を信じてやっていくしかない」
場数を踏んでいくうちにストレス耐性もできてくる。人前で話すのはストレスになるからと避けるのではなく、むしろ意識的にそういう場に出ていくことが大事だと米山さんは助言する。場数を踏めば、予想外のことが減っていくだけでなく、予想外のことが起きても経験と知恵でどうにかできるようになるという。
桐生さんも「評価を求めるのではなく評価を与える人になることが大切」だと話す。上司にプレゼンテーションをするときは、上司からどう評価されるかではなく、上司をどう評価するかと考えてみる。すると「攻撃されるかも」という不安が「このような時間を設けてくれてありがとうございます」「意見をくださりありがとうございます」という感謝の気持ちに変わっていくという。
自分の思い込みに気づくこともストレスを感じにくくする有効な方法だ。桐生さんは、心理学者のアルバート・エリス氏が提唱した「ABC理論」の活用を提案する。
例えば、上司に怒られて落ち込んだ場合。上司に怒られたという出来事(A)が落ち込むという結果(C)につながっていると多くの人は考えがち。しかし、実際にはAとCの間にはB(思い込み)がある。叱られたという出来事(A)を「上司は自分を嫌いなんだ」「自分は無能と思われているんだ」といった思い込み(B)で解釈し、それが落ち込むという結果(C)をもたらしているのだという。
ストレスをなくすには、こうした思い込みを変えていくことが大事だ。「自分を鼓舞するために叱ってくれているのかも」「昇進させるために厳しくしてくれているのかも」と考えてみる。あるいは本当に嫌われているかもしれないけれど、「厳しい上司への対応を学ぶ機会が与えられている」と見方を変えてみる。
これは相手が同僚や部下でも同じこと。「Bを変えた瞬間に心は楽になる」と桐生さんは話す。落ち込んだときは、自分の中で何がB(思い込み)になっているかを考えてみよう。文字にして可視化するのがお勧めだ。
■「思い込み」を探る
苦情に対応することを仕事にしている人はストレスにどう対処しているのか。派遣事業を手掛けるグローバルエース九州営業所(福岡市)でコールセンター勤務の派遣スタッフを管理する担当者は、「一番大事なのは、自分のせいで苦情が発生しているわけではないと気づくこと」と言う。
最初は、ひきずってしまう人が多いが、自分のせいではないと気づいて経験を積むと、ひきずらなくなるという。さらに「一つ対応が終わるごとに、ワンステージクリア!と思えるようになるといい」と担当者。ストレスは自分のレベルが上がるチャンスだ。
次回は、体を使ってストレスを減らす方法や、自分が相手にストレスを与えてしまったときの対処法を紹介する。
(ライター ヨダ エリ)
[日本経済新聞夕刊2015年10月26日付]
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,260円(税込み)