2011年06月30日

過去ログ移転:フクバラハップの苦闘

 過去ログ移転作業の続き。

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Re(1):フィリピン
投稿番号:18748 (2003/08/14 03:53)
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ところでフィリピン方面最高司令官アーサー・マッカーサーは独立ゲリラ掃討に関して次のように述べています。(この人は連合国最高司令官ダグラス・マッカーサーの父親です。その後彼はフィリピン政財界での大きな地位を得ました。ダグラス・マッカーサーがフィリピン奪回に固執したのもこういった背景があってのことです)
「正規軍の一部として常時作戦に参加するのではなしに、ときどき家庭や仕事に戻りながら敵対行動を続ける連中は、兵士とは認めない。捕虜になっても戦時の特典などを考える必要はない」(本多勝一「殺される側の論理」より)

このようにアーサー・マッカーサーはゲリラ戦は違法なものだと考えていました(しかし皮肉なことに彼の息子は日本軍の侵攻によってフィリピンから逃げ出したときに、「ユサッフェ」(USAFFE・・・・フィリピン人で構成された極東アメリカ軍)に対し、降伏を禁じゲリラ戦を命じます。これが抗日戦に大きな威力を発揮しました)。
この数年後の1907年のハーグ平和会議にて締結された「陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則」(ハーグ陸戦法規)では、民兵や義勇兵で編成される部隊も、正規軍と同じように、
○指揮を執る者が存在すること
○服装などで戦闘員だと識別できるようにすること
○武器を隠し持たないこと
以上の条件を満たす事を求めています。

これによれば、十五年戦争に於ける中国人・東南アジア・南太平洋諸島の人々や、ベトナム戦争に於けるベトナム人や、日本侵攻下に於けるフィリピン人にとって、侵略者を撃退するに当たってもっとも有効な戦法・・・・・・つまり、民間人の格好をして、民間人のフリをして武器を隠し持ち、敵が油断しているのを見計らってバーン!と撃つのは、認められないことになります。
逆に中国や東南アジアや南太平洋諸島を侵攻していた日本軍や、ベトナムやフィリピンを侵攻していたアメリカ軍などの侵略する側にとっては、「侵略軍の戦闘は合法だが、被侵略国の民衆からの命がけの抵抗は違法」・・・・と解釈できるこの法規は極めて都合のいいものだと言えます。つーか帝国主義国の論理に従って作られたものだと言えるでしょう。

先般の有事法制についての国家答弁にて、石破防衛庁長官は「民間人に交戦資格はない」という旨の発言をしました。確かに1949年のジュネーブ条約に於いても、民間人の格好をして、民間人のフリをして武器を隠し持ち、敵が油断しているのを見計らってバーン!と撃つことは認められていません。
現在イラクではアメリカ軍に対するゲリラ攻撃が盛んになっています(いくら馬鹿なアメ公の兵隊も、フセイン政権の残党だけがゲリラ戦を行なっているわけでないことを悟っているでしょう。フセイン政権の崩壊によって一時は喜んだシーア派の住民も、今ではアメリカの真意に絶望しゲリラ戦の主役になっているようです。バクダッドの武器商は占領直後とは明らかに客層が変化し、厳格なシーア派教徒と見られる人々が銃器を買い求めに来ていることを証言しています)。そしてアメリカ軍はゲリラ(らしき者)に対しては捕虜ではなく犯罪者として遇することでしょう。
正規軍によって行なわれる侵略戦争は合法で、侵略軍に対するゲリラ攻撃は違法・・・・・・・こういうアメリカのような帝国主義国の論理が罷り通る世の中に、私たちは生きているのです。9.11の件は「テロ」だと言うクセに、なんで非戦闘員の命も奪うクラスター爆弾をバラまくのでしょうか?


以下は余談ですが・・・・
フィリピンに於けるゲリラ戦はその後の時代でも行なわれます。
日本占領下に於いては「ユサッフェ」(極東アメリカ軍 = USAFFE)ゲリラと、
「フクバラハップ」(抗日人民軍 = Hukbo ng Bayan Laban sa Hapon → HUKUBALAHAP)が、
共に日本軍をゲリラ戦で苦しめます。
しかし共産主義組織としてソ連コミンテルンの指導下にあり、またユサッフェゲリラとは違いアメリカ軍の指揮を受けていたわけではなかったフクバラハップは、八路軍が国民党軍に度々裏切られたように、しばしば同志であるはずのユサッフェゲリラから攻撃を受けました。
日本降伏後、共産主義を恐れるマッカーサーから武装解除を命じられ、素直に従ったところユサッフェゲリラに虐殺された部隊もありました。アメリカ軍はフクバラハップの掃討にユサッフェゲリラを用いたのです。またフクバラハップがルソン島の各地で擁立していた州知事を罷免し、ルイス・タルク最高司令官を一時投獄するなど、アメリカは戦後フィリピンからフクバラハップ勢力の一掃にあたったのです。
さらにアメリカはフィリピンの対アメリカ従属度を維持しようとしました。1946年の「ベル通商法」によってアメリカ工業製品のフィリピン市場への安定供給、アメリカ企業がフィリピン天然資源を利用した公共事業への自由な参入が約束されました。また1947年の軍事基地協定によって広大なアメリカ軍基地が誕生したのです(1992年に全面撤退)。一方大地主がのさばる農村の現状を改めようとせず、農民の不満は増大しました。
この状況下にてフクバラハップは再度立ち上がりました。1947年に「HMB」(人民解放軍 = Hukbong Mapagpalaya ng Bayon)と改名し、正規軍1万5000・予備軍10万を擁し、一時は首都マニラに迫る勢いを見せました。
しかしユサッフェの指導者だった「マグサイサイ」が国防長官に就任(後に大統領)し、アメリカの援助により激しい掃討を行い、同時に段階的な農地改革など農村への融和政策を行ないました。その為フクバラハップの勢力は低下し、1954年にはタルク司令官が投降して内戦状態に一応の終息を見ることになります。(しかしその後も共産勢力の抵抗は80年代まで続きました。それに「モロ民族解放戦線」(MNLF)、MINF、アブサヤフなどのイスラム勢力の抵抗は終わりません。他のアジア・アフリカの国々と同様、欧米列強の支配が元凶となった民族・宗教対立はフィリピンでも解決への道は遠いと言えます)

一方、フィリピン共産軍の抵抗の弱体化と入れ替わるように激化したベトナム戦争に於いても、アメリカはゲリラ戦に悩まされていました。
ケネディは解放戦線ゲリラとの対決を「新しいタイプの戦争」と評し、第二次世界大戦など正規軍同士の戦闘とは異なる心構えが必要だと訴えました。
「・・・・ゲリラや破壊活動や暴動や暗殺による戦争、決戦のかわりに待ち伏せる戦争、侵攻のかわりに浸透する戦争、敵と交戦するのではなく、敵の力を奪い、疲弊させることで勝利をおさめる戦争・・・・今後十年、私たちの前にはこうした種類の挑戦が現れるだろう。もし、自由が守るに値するものならば、まったく新しいタイプの戦争、したがって新しい、まったく異なる種類の軍事訓練が必要となろう」(吉川弘文館 吉沢 南・著「ベトナム戦争―民衆にとっての戦場」より)
そしてギリシャ内戦、マレー半島での反英ゲリラ戦争、フィリピンでのフクバラハップとの戦いなど、ゲリラを制圧できた事例も過去にあったことを強調しました。

しかし・・・・ケネディはフィリピンとベトナムでは全く情勢が異なっていることから目をそらしていたようです。
フクバラハップが屈した理由はごく簡単なことです。
民衆の間でも対米追従傾向が強く(既に1934年にアメリカは12年後のフィリピン独立を約束していました)、アメリカの文化が浸透し、アメリカ軍の指揮下にあったユサッフェゲリラが抗日戦に大きな働きをしたフィリピンに於いて、
彼らはフィリピン民衆全体の支持を受けていたわけではなかったからです。
ですから南ベトナムの解放戦線ゲリラと違って、「侵攻のかわりに浸透する」ことも、「敵の力を奪い、疲弊させる」ことも出来なかったのです。
アメリカの軍人は、日中戦争当時の中国共産党軍の「我々は人民という水の中を泳ぐ魚である」という言葉を引用し、水自体をかき出そうと三光作戦を繰り広げましたが、フクバラハップという魚にとってフィリピン民衆は自由に泳ぎまくれる水では無かったのです。
フクバラハップの戦いはフィリピン民衆全体の戦いとは成り得なかった・・・・しかし南ベトナムの解放戦線ゲリラは、南ベトナム民衆そのものの戦いでした。民衆が一丸となって戦うところ、侵略者には決して勝利はなく、“KILL EVERY ONE OVER TEN”を際限なく続けるしかないのです。
ケネディは、南ベトナム解放戦線の立場はフクバラハップの立場とは全く異なることを認めたくなかったのでしょうか?ともあれケネディがダラスで暗殺されなければ、ジョンソンやニクソンのようにたっぷりと内外からの批判を受け、理想の政治家として慕われ続けることは無かったことでしょう・・・・

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この二つの投稿は、
弘文堂「もっと知りたいフィリピン」
山川出版社「東南アジア史U 島嶼部」
角川文庫 NHK取材班「太平洋戦争 日本の敗因5 レイテに沈んだ大東亜共栄圏」
中公新書 松岡 完「ベトナム戦争 誤算と誤解の戦場」
・・・・などを参考にして作成しました
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posted by 鷹嘴 at 21:18 | TrackBack(0) | 歴史認識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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