先の国会は安保法制一色でした。この騒動に紛れてしまい、ほとんど注目されませんでしたが、医療制度に関する重要な法案が成立しています。来年4月から新しい制度がスタートするのですが、一部の識者は、お金がない人は病院にかかれなくなるとして批判しています。わたしたちの医療はどうなるのでしょうか。
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事実上の「混合診療」の解禁
日本は国民皆保険制度を採用しており、原則として3割の自己負担で医療サービスを受けることができるようになっています(一定金額以上となる場合には、さらに補助が出ます)。貧富の差に関係なく病院にかかることができるすばらしい制度ですが、医療費が増大して財政を圧迫する、治療法や薬の種類が制限されるといった欠点もあります。
新しくスタートする制度は「患者申出療養」と呼ばれており、公的保険がきく診療と、保険適用外の自由診療を併用させる混合診療の一種です。これまで混合診療は一部のケース(先進医療など)を除いて原則禁止とされてきました。しかし、産業界からの強い要請を受け、安倍政権は先の国会において関連法案の整備を行い、事実上、混合診療の解禁に乗り出したわけです。
患者申出療養は、患者側からの申出によって保険外診療の併用が実施できるという制度です。患者が未承認の新薬や医療機器による治療を望んだ場合、医師は、全国にある中核病院を経由して混合診療の申請を行い、すみやかにその治療を実施することができます。もし前例のない治療だった場合には、申請を受けた国が、短期間(通常6週間程度)で安全性、有効性を審査します。自由診療部分は全額自己負担ですが、日本では承認されていないような最新の薬や治療法を自由に使うことが可能となります。
いいことづくめとはとは限らない
患者の選択肢が拡大するわけですから、いいことずくめのように思えますが、そうともいえません。この制度についてはマイナス面を指摘する声も出ているからです。
一般的に、患者と医師との間には、医療に関する情報や知見などにおいて大きな差があります。新しい薬や治療法について患者自身がしっかりと調べ、リスクを十分に理解した上で、その治療法を選択するのであれば問題ないのですが、中には、わらをもつかむ思いの患者に対して「高いですが、こんな方法もありますよ」といって高額な治療を進める医療機関が出てこないとも限りません。また、よい薬があっても、なかなか保険適用が進まなかった場合、お金のある人だけが、よい医療を受けられるという状況になってしまう可能性も否定できないでしょう。
ただ日本の医療財政は非常に逼迫しており、公的保険による医療水準は、今後低下していくことが予想されています。よい医療を受けたければ、お金が必要という時代になるのは間違いなさそうです。
(The Capital Tribune Japan)