肉欲さんはこう言います。
「俺のことを忘れるなよ」
肉欲さんはこう言います。
「俺がいて、お前がいたんだ」
僕は精神を患っていました。病名はありませんが、自覚症状としてはあります。病院に行ったことはありません。しかし、何か、普通ではなかったと思うことは多々あります。そして肉欲という人格は生まれました。
肉欲さんはお酒を飲むと出てきます。
彼は粗暴で強く、純粋でわがままです。
頭がパーなのに、弁は立ちました。
彼は強気で、孤独で、享楽的でした。
楽しいことと美味しいものが、何より好きでした。
人に嫌われることを厭いませんでした。
僕は日々を曖昧に生きていました。
何もない日々を、何もないものとして、ただ生きていました。
そしてそれは、本当に無意味なものでした。
こんなものは仮のものだ。
今の自分は本当の僕ではない。
僕は昼から酒を飲むようになりました。
肉欲さんは、僕の大半を占めるようになりました。
いつだか僕は、僕の名前よりも肉欲の名前で呼ばれることの多くなりました。
今日起きたら、どんな酒を飲もうか。
肉欲さんは、何を言うだろうか。
僕は酒ばかりを飲んでいました。
なんせ、飲まないと肉欲さんは出てこないのだから。
酒を飲んだとき、初めて言葉も想いも、形にできるのだから。
そのうち、体にガタがきました。
何をせずとも脂汗をかき、心臓が早く脈打つ。
情緒は不安定になり、一日中うろんな状態で過ごす。
肉欲さんは、でも、そのたびに元気になりました。
水を得た魚のように言葉を紡ぎ続けました。
僕は翌朝、それを見て、絶望します。
こんなこと、書いた覚えもないのに。と。
それでも僕は、肉欲さんの書く言葉が好きでした。
僕は僕なりに、肉欲さんの一番の読者だったからです。
酒を飲まないと現れない肉欲さん。
僕の中にいて、それでも確実に僕ではない、肉欲さん。
最近、肉欲さんはもう、現れません。
僕は随分と長い間、肉欲さんに役割を投げていたように思います。
肉欲さんはきっと、遠くで笑っていることでしょう。
肉欲企画というブログを立ち上げて、11年になります。
そのとき、僕は肉欲さんで、肉欲さんは僕でした。
でもいつの日からか、それは違ってしまったのです。
僕は僕であり、肉欲さんは肉欲さんになってしまった。
メンヘラの戯言と笑ってくれて構いません。
僕にはもう、書く事が何もないのです。
酒を飲んでも肉欲さんは出てきません。
僕が読みたかった彼の文章は、今となっては。
どこからも生まれてこないのです。
僕は健康になりました。
離脱症状もなくなり、酒を飲んでも少しで済みます。
たくさん飲むときもありますが、毎日ではないです。
父親の後を継ぐため、来年には実家に帰ります。
でも、肉欲さんはもういません。
僕の中のどこを探しても、彼はもういません。
涙が止まらないのです。
さようなら、と。
さようならと言わなくてはならないのでしょう。
肉欲さんにさようなら、と。
肉欲企画はこれにて一度終わります。
また肉欲さんが戻ってくることがあれば、その時は。
どうぞ、よろしくお願いします。
肉欲 改め 望月拝
2015年11月02日
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またいつか、肉欲さんに会える日を楽しみに、楽しみにしています。
貴方のブログに出会わなかったら大学に行くことも無かったかもしれません。
ありがとうございました。お元気で。また貴方のブログを読めることを楽しみにしております。
Twitterの方でもいいので、肉欲さんが抱いた女たちの話をつらつら書き連ねた日記を読みたいです。
肉さんの世界観、好きでした。
肉欲さんの綴る言葉が好きでした。
これからの望月さんに幸多からんことを願っております。今晩のBGMは『少年期』で。
おつかれさまでした。
さようなら。ありがとう。また会う日まで。
たくさん感謝しています。