社員の最低年収を830万円に 自らの年収は1億円削ったCEO、その後どうなった?
シアトルの決済代行会社「グラビティ・ペイメンツ」のダン・プライスCEO(30)は4月、自身の年収を93万ドル(約1億円)減額し、会社の最低年収を7万ドル(約830万円)に引き上げると発表した。
発表から半年。プライス氏は、賞賛や中傷などさまざまな風評に晒されているが、彼の「経営者と労働者が協調して賃金格差の問題を解決する」というビジョンは微塵も揺らいでおらず、共感する企業も出てきているようだ。
ニューヨーク・タイムズ紙は7月、グラビティの経営状況が良くないと報じた。賃金コストが手数料の引き上げにつながることを懸念した顧客が、グラビティとの契約を解除。従業員2人が会社を去り、さらに、プライス氏は兄弟からも訴訟を起こされた。プライス氏はハフポストUS版のインタビューに「前途多難だ」と認めた。
ところがグラビティの状況は、改善しつつあるようだ。10月28日に掲載されたビジネス専門誌「Inc」のインタビューでプライス氏は、グラビティの収益は2倍に増え、第2四半期の顧客維持率も91%から95%に増えたと述べた。
すでにグラビティーでは最低賃金の引き上げが始まっており、その最初のステップとして5万ドル(約605万円)まで引き上げた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、かつての同社の平均賃金は4万8000ドル(約580万円)。3年以内に最低賃金を7万ドルまで上げるには180万ドル(約2億1800万円)が必要だが、この費用のほとんどは、プライス氏の給与削減によって調達する。
プライス氏は、従業員の解雇とサービスの値上げを回避することに注力。自分の保有する株式を売ったり、自分の年金を全て引き出したり、さらには2つの自宅を担保に入れたりなどして捻出した300万ドル(約3億6300万円)を、全てグラビティーに投資した。
しかし、予想していなかった訴訟も起こった。「弁護士費用が追加で1万ドル必要になった。最低賃金の引き上げが失敗した場合、会社はさらに大変になる」とプライス氏はハフポストUS版に語った。
「私たちの会社はこれまで、借金がほとんどないという、かなり保守的な事業展開を行ってきました。だから、このようなエキサイティングなことができるわけですが、その余裕を失ってしまいました。再び元の状況に戻るよう、努力しています」
当然、プライス氏の生活にも影響が出ている。「半年前の私は、ワークライフバランスを保つことができていました」とプライス氏は語った。「この時の労働時間は週60時間。休みには、スノーボードやサーフィン、ハイキングをしていました」。現在プライス氏は、週80時間働いている状況だ。
最低賃金のアップ、プライス氏のねらいは?
もし、最低賃金に関する彼のビジョンが実現すれば、他の経営者たちも、非常に高い基準を設定することになる。
アメリカ全土で賃金状況は停滞しており、2014年の世帯あたりの平均所得の中央値は5万3657ドル(約650万円)だった。2009年と比べると、2%下落している。このため、ニューヨーク州やロサンゼルスでは、最低時給15ドルを掲げる賃上げ要求の動きが広がった。
労働者とCEOの間の賃金は天と地の差がある。薬局チェーンのCVSや、メキシコ系ファストフードチェーン・チポレのような大企業のCEOは、労働者の平均賃金の1000倍以上の収入を得ている。
「現在の所得格差は、世界恐慌時代をはるかに超えるレベルです」とプライス氏は4月、ハフポストUS版に賃金アップのねらいを明かした。「ずっと何とかしたい問題だったのですが『これ以上何もせずにはいられない、今こそ行動を起こす時だ』と感じたのです」
当然、グラビティの取り組みは、他の企業にとっては歓迎できないものでもある。しかしプライス氏は訴える。
「これは、経営者と労働者による共存・協調の考え方なのです。ビジネスにとっても、生活にとっても良いことです。重要なのは、誰が間違っているかではなく、どのように力を合わせてこの問題を解決するかということなのです」
グラビティの新しい顧客であるワシントンの飲食店ポップス・ピザ・アンド・パスタは、他の会社からグラビティに乗り換え、約2万ドルのコスト削減を実現した。プライス氏は「ポップス・ピザ・アンド・パスタは、浮いた費用を全て、時間労働者に振り分けました」と述べた。プライス氏は出版社大手ペンギン・グループの子会社、バイキングとの新たな契約を獲得し、仕事に没頭している。
「私は正直に包み隠さず、自分の話を伝えたいのです。良いもの、悪いもの、醜いもの、その他すべて。人は皆、起業家であり、また、イノベーターになることができます。それが、人々の自立を助けたり、また自分の良心に従うことができるようになると思うのです」
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳・編集しました。
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