9月25日、米アップルのスマートフォンの最新機種「iPhone6s」の発売日。インターネット上のニュースの海の中に一つの記事が投げ込まれた。
「本日発売! iPhone6s『銀座線全駅速度対決』勝ったのはどのキャリア?」。そう題されたタイトルをクリックすると、次のような内容が表れる。
記事の書き手は、東京メトロ銀座線の各駅で、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクという通信3社それぞれのiPhone6sの通信速度をアプリで計測。その結果、銀座線の19駅のうち13駅においてau(KDDI)が勝利したと調査結果を掲載している。
つまり記事冒頭の「どのキャリアのiPhoneを選ぶべきか検討する上で、通信品質が重要なポイントになってくる」という問いに対して、〝正解〟はauであると暗黙裏に教えてくれる。
掲載の舞台裏を知る代理店関係者らは、こう証言する。
「記事には一切表記されていませんが、これはKDDIがスポンサーとなって執筆されているステマ記事。KDDIの意向を受けた大手PR会社がお金を支払って、メディアに書いてもらったもの」
この記事は、ネット上のその他のニュースサイトに転載されるような形で、広まっていった。
これだけではない。実はこの記事より1カ月ほど前にも、同じ流れで、事実上のスポンサーであるKDDIの社名を隠したまま放たれた特集記事が世に出ている。
「コスト重視のスマホユーザーが飛びつく中で不満も続出しているという、格安スマホの実情を探った!」
レポートでは昨今注目を集めている格安スマホの落とし穴を検証。通信速度を大手通信キャリア3社と比較して「にわかには信じられないぐらいの遅さだった」として、メールがなかなか受信できず、アプリのダウンロードもままならぬ不便さを紹介している。
読み物としては面白い作りだが、関係者によると、狙いはMVNO(仮想移動体通信事業者)の格安スマホが「安かろう、悪かろう」だと伝えるネガティブキャンペーンの一種だった。通信料金の高止まりが議論されている中で、KDDIによるステルス的な反論とも誤解されかねない内容だ。
「ステマ症候群」──。本誌が本日発売(一部地域を除く)の「週刊ダイヤモンド」(11月7日号)の第2特集に付けたタイトルには、ネット上ではあまりにも当たり前のように、こうした広告主のノンクレジット(無表記)のニュースが大量に流通していることへの警鐘を込めた。特定企業からメディアに料金が支払われて書かれた記事は、事実上の広告だと定義した。
そしてステマ記事の仲介役となっていた会社の一つが、日本最大級のPR会社ベクトルグループだ。本誌は2カ月以上に及ぶ取材の中でベクトルの複数の内部資料を入手。とりわけ注目したのが、社員らが収集した情報を集約・アップデートし、クラウド上で社内共有していた事実上の「ニュース記事の売買相場表」に当たるものだ。そこには百数十というオンライン媒体に対して、およそいくら支払えば記事を書いてもらえるかを仔細に記録したものだ。
下の表がそれを元に本誌で再構成したものだ。ここではあえて媒体名、媒体社/運営会社の名前は伏せているが、11月7日号の実際の誌面では、実名を掲載しているのでぜひ参照してほしい。
うち1件だけ具体名を挙げると、ベクトル社員らが〝安定の発注先〟だったと証言する、ニュースサイト「RBB TODAY」やファッション系ニュースサイト「FASHION HEADLINE」(三越伊勢丹からの業務委託)、自動車系サイト「Response」など、多数のサイトを運営するイード。
同社はファクスによる事実確認に対して、過去にノンクレジットの広告記事は一切なく、全ての運営メディアは「編集記事と広告記事を明確に分けている」と回答を寄せてきた。
ところが本誌が独自入手した「FASHION HEADLINE」の媒体資料(2014年12月時点)には、広告商材の一環としてリリースベースなら1本15万円、取材撮影込みなら30万円からノンクレジットのニュース記事を執筆すると書かれており内部資料と一致する。しかも有名ニュースサイトやアプリへの配信契約を強みに、「十数媒体に転載確約」とうたっていた。
こうした資料や取引記録などをベースにした取材の積み重ねからから、こうした取引がどのようなシステムで成り立っているのかが徐々に浮き彫りなってくる。本誌特集「ステマ症候群」の中では、こうしたステマ記事の生態系の徹底解明を目指し、暗部に迫っている。
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