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【言わねばならないこと】

(55)採決そもそもなし 東大名誉教授・醍醐聰氏

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 安全保障関連法は九月十七日の参院特別委員会で可決されたとされるが、そもそも採決はなかったと考える。法律自体、違憲で民意から完全に外れているが議事進行も含め、二重の意味で恥ずかしいやり方だった。

 参院規則では、委員長は表決に入る時、どういう問題について表決するか宣告しないといけない。鴻池祥肇(こうのいけよしただ)委員長の発言は、そばにいた速記係すら「聴取不能」と言っているのだから、席にいた委員に聞こえるわけがない。

 委員長は、議員に囲まれていたので、何人起立したかも見えていなかった。与党議員も、何についての意思表示なのか分からず、佐藤正久筆頭理事のサインで立っただけ。正規の起立多数は存在していないと言うしかない。当然、参院本会議で成立もしていない。

 採決不存在の確認を求めて呼び掛けた署名は、五日間で三万二千筆余集まった。多くの国民が、テレビ中継を見て「おかしい」と思っていたと実感した。

 参院が発表した議事録には「可決すべきものと決定した」と付け加えられた。規則にのっとって採決がなされ、委員長が起立多数を認定したかのように、無から有をつくり出す虚偽記載。暗黒国会と言っても言い過ぎではない。議事録の撤回を求め、三千筆余の署名を参院議長らに提出した。

 参院が存在意義を示せなかったのも問題だ。政府が「いつまでに成立を」と言い、国会がそれに合わせなければいけないとなると、まさに立憲主義の否定だ。

 このまま採決不存在の問題を放っておくと、安保法は規範力が弱くなる。法律の規範力とは、みんなが「従うべきもの」と思えること。逆に、虚偽の議事録を撤回させるなど、この問題を民意の底力で修復できれば、日本の議会制民主主義への信頼を高からしめる。

 <だいご・さとし> 1946年、兵庫県生まれ。専攻は会計学。名古屋市立大助教授、東大大学院教授などを歴任。市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表。

 

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