「刑務所図書館」の蔵書や体制が貧弱だというリポートを読み、読書が好きなひとりの青年を思った。その人は死刑囚である。一九九〇年代、十九歳のときに仲間と一緒に四人の命を奪ってしまった。生まれてすぐに母親と死別。養父母からは虐待を受け、誰からも守られなかった。孤独と人間不信の塊のような境遇で事件は起きている。
だが事件後、一つの出会いから青年は変わっていく。裁判が始まり、独房で自分の罪をどう見つめればいいのかを悩んでいた時、キリスト教団体に手紙を書いた。「僕に聖書を教えてください」。手紙を読んだクリスチャンの女性が青年に聖書を届け、面会では一緒に一節ずつ読んだ。事件を悔い、内面を見つめようとする青年に女性は本を届けた。
死刑が確定した今、青年は女性ら通信や面会を許された、限られた人に読みたい本を伝える。政治や社会問題、犯罪を題材にした評論や小説など。最近では、作家保阪正康さんの「あの戦争は何だったのか」などがあった。私もそれらの本の購入を手伝う。青年にとって読むことが社会とつながる窓だから。
法律は刑事施設に書籍を備える義務を課すが、公共図書館とも連携する欧米に比べ図書館はまともに整えられていない。書籍購入予算も極端に少ない。読書は人間らしい営みであり、生きる支えだ。社会復帰や更生支援のために図書館を整えてほしい。 (佐藤直子)
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