今日、トルコで国会議員選挙の投票が行われています。これは6月に実施された選挙の「仕切り直し」の選挙です。

トルコでは過去13年間に渡って公正発展党(AKP)が単独過半数を占めてきました。AKPはイスラム色を前面に打ち出した政策で知られています。

エルドアン大統領率いるAKPの治世で、トルコ経済は急成長を遂げてきました。

1

しかし最近はGDP成長の鈍化が著しいです。

ギリシャ危機で投資家がトルコにも警戒の目を向け始めたこと、トルコ国内でテロが多発していること、AKPの支持率低下に伴う政治の不安定化などが遠因です。

実際、7月にはイスラム国(IS)とみられるテロリストがクルド人をターゲットにした爆破事件をおこしましたし、10月にはアンカラで爆弾テロがあり、100名以上の市民が命を落としています

こうしたことを背景に、今年6月に実施された国会議員の選挙では、AKPが初めて単独過半数(276議席)を失いました。その後、エルドアン大統領は連立政権樹立に消極的で、今回、解散総選挙の博打に出たわけです。

トルコ・リラは急落しています。これにもかかわらずトルコの輸出は年初来、前年比-9%と極端な不振にあえいでいます。失業率も9.8%と高止まりしています。年初来、60億ドルの投資資金がトルコから引き揚げられました。

トルコはシリアと国境を接しています。イスラム色の強いAKPが政権党のトルコは、当初シリアのアサド大統領との連携を目指しました。しかしシリアが内戦状態となり、アサド大統領の影響力が弱まるとトルコは一転して反体制派を支援します。

最近になってロシアはアサド大統領を支援するためシリアの地中海に面した町、ラトキアを「ラバウル化」しました。ロシアはそこから空爆を繰り返し、アサド大統領を盛り立てる作戦に出ているのです。このことは反体制派を支援しているトルコと、アサド大統領を支援しているロシアの利害が対立していることを意味します。

トルコはシリアとの国境線に「安全地帯」を設けることで、怒涛のようなシリア難民のトルコへの流入を阻止することを提唱しています。しかし「安全地帯」が反体制派の補給基地に利用されるのでは? との懸念からロシアは「安全地帯」の設定に難色を示しています。

ロシアの戦闘機は最近、二回にわたってトルコの領空を侵犯しており、これはロシアによるあからさまな嫌がらせだと理解されています。

トルコは北大西洋条約機構(NATO)の重要メンバーであり、アメリカの中東におけるパートナーでもあります。

トルコはロシアと貿易を通じて密接な関係があり、ロシアから来るパイプラインもトルコを通過しています。トルコは国内で消費される天然ガスの半分をロシアに依存しています。

さて、イラク北部とトルコには歴史的にクルド人が居住していました。クルド人はかねてから独立運動をおこなってきており、イラク北部の油田地帯はクルド人居住地区と一部重なっています。このことからイラク政府はクルド人の独立に反対であり、またトルコも国内にクルド人が多数居留しているため独立運動は国を分断するリスクがあるので警戒しています。

クルド人はクルド労働者党(PKK)を組織しています。これは誰が見るかによってテロリスト・グループというレッテルを貼られる場合もあります。アメリカはクルド人の独立運動に同情的であり、クルド人のレジスタンス活動はシリアでの過激派集団、イスラム国(IS)への対抗勢力としてアメリカが期待を寄せている集団でもあります。

シリア内戦では自分の住んでいる町が戦火に包まれ、実に400万人が家を失い、難民化しました。そのうちの約半分がトルコに流入したのです。トルコに入った難民の大部分はトルコ領内の難民キャンプで暮らしていますが、そのうちの一部はドイツなどEUを目指しました。

トルコは難民を受け入れるために80億ドルものコストを負担しています。しかしそれでも難民キャンプで最低限のサービスを提供することに苦労しており、さらにトルコが政情不安に陥ると難民キャンプの未来が不透明になり、一気に不安が高まることでEUへの難民の増加を招くリスクもあります。EUはトルコに対する支援をこれまでの4億ドルから35億ドルに増額しました。またトルコをEUメンバーに加える話し合いも再開しています。

米国の外交専門誌では、最近、「トルコが内戦化するのでは?」という観測記事がしばしば掲載されています。

現状はそこまで深刻ではないと思うけれど、このように今のトルコには、あらゆる地政学的、経済的プレッシャーが圧し掛かっていることだけは理解しておくべきだと感じます。