最近の株価下落による公的年金(GPIF)の損失は、4ヶ月あまりで約1兆4000億円。元ファンドマネジャーで衆議院議員政策顧問を務めた近藤駿介氏は、「国は株式比率を高位に保っている理由を国民に説明すべきだ」としたうえで、「今回の“公的年金ギャンブル化計画”が頓挫すれば、日本の公的年金制度は崩壊する」と警鐘を鳴らしている。
頓挫すれば年金は崩壊へ。公的年金ギャンブル化計画の内実
GPIFによる「分散投資」で約1兆4000億円の損失
「分散投資」を進めるという、もっともらしい理由で国内債券を減らし、国内株式の比率を引き上げてきたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)。
6月末時点でのGPIF国内債保有額は53兆円強。10年国債利回りは0.46%。利回りが0.3%まで低下してきたということは、債券投資で約7,000億円の収益が出た計算。
一方、6月末時点での日経平均は20,235円、10月28日の終値は18,903円だから、6月末比で▲6.6%下落。6月末時点でGPIFが保有する国内株式総額は約33兆円だから、6月末比で約2.17兆円の損失(評価益の減少)が生じている計算。
株価の下落で生じた損失2.17兆円のうち、債券の利回り低下(債券価格の上昇)で埋め合わせられたのは7,000億円。3分の1を埋め合せただけに過ぎず、国内債と国内株式を合せると約1兆4000億円の損失(評価益の減少)が生じた計算。
素晴らしい「分散投資効果」だ。
日経平均株価 日足(SBI証券提供)
国は、株式比率を高位に保っている理由を国民に説明せよ
「分散投資」はリターンを拡大するのではなく、リスクを抑制するためのものだ。
しかし、リスクの高い(ボラティリティ≒20%)国内株式の比率を大幅に高め、リスクの低い国内債券(ボラティリティ≒3.2%)の比率を大幅に下げれば、ポートフォリオ全体のリスクは上昇する。
そもそも株式投資の比率を上げてきたのは「アベノミクスでインフレになる」というのが理由。しかし、足もとの消費者物価指数はマイナスとなり、世界的にディスインフレ、デフレリスクが蔓延している。
厚労省やGPIF、有識者たちはファンダメンタルズが変化する中で株式の比率を高位に保っている理由を国民に明確にするべきだ。それがGPIFが掲げるスチュワードシップコードに即した対応のはずだ。
投資先企業のコーポレートガバナンスをチェックする前に、自分達が国民の大切な公的年金を預かっている世界最大の機関投資家としての忠実義務を果たさなければならない。
国内株式の比率を上げるためにもっともらしい「分散投資」を持ち出し、「分散投資効果」の本来の目的であるポートフォリオ全体のリスク抑制とは逆行するように、ポートフォリオのリスクを高めるという愚策。
今回の「公的年金ギャンブル化計画」が頓挫したら、日本の公的年金制度は崩壊することを、厚労省もGPIFも有識者達も自覚するべきだ。
「公的年金ギャンブル化計画」が頓挫した際には、このギャンブル計画に関わった政治家や官僚、有識者たちは公的年金の受給を辞退するのが責任の取り方というものだろう。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年10月29日号)より一部抜粋、再構成
※タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による
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