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2015年10月30日 ここは宇宙。「ギャラクシー街道」
■[映画][感想]「ギャラクシー街道」

脚本と監督:三谷幸喜
脚本・監督三谷幸喜最新作。
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「たとえば、テレビドラマでSFをやるとしますよね。アメリカ映画に負けない映像を作るとしたら、SFXやらコンピューターグラフィックやら、やたらお金がかかるわけです。ところがラジオなら、ナレーターが一言、「ここは宇宙!」と言うだけで、もう宇宙空間になっちゃうんですから。」
映画「ラヂオの時間」より
この台詞は三谷作品でも屈指の忘れがたい台詞である。奇しくも、三谷幸喜最新作は舞台が「宇宙」と相成った。
三谷幸喜が映画監督としてデビューしたのは「ラヂオの時間」である。これは原作が三谷幸喜とサンシャインボーイズによる戯曲だったが、その後彼は監督する際は必ず映画オリジナルの脚本を用意するようになった。
だが、改めて「ラヂオの時間」を見返して思うのは、彼の才能の「肉体」は演劇にあることである。
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彼がテレビドラマ業界に「やっぱり猫が好き」で本格進出して、ゴールデン枠で初めて連続ドラマを担当したのは「振り返れば奴がいる」であるが、これは三谷幸喜の希望では無く急遽代役を引き受ける形で受けた、喜劇作家としてではなく雇われ仕事のシリアスもので、その縁で彼が喜劇ドラマとして世にその才能を知らしめるのが、群像ワンシチュエーションコメディの記念碑的大傑作「王様のレストラン」である。
ここで、三谷幸喜本来の「演劇の方法論をドラマに持ち込む」という当時オンリーワンな立ち位置を確立したことで、古沢良太や宮藤官九郎など、演劇出身の脚本家がテレビドラマに進出する流れを作っている。
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そもそも、三谷幸喜は活動を今も演劇をメインとし、「笑の大学」「オケピ!」など数々の傑作を世に放ってきた。彼の脚本が初めて映像化されたのは映画「12人の優しい日本人」だが、これもまた劇団サンシャインボーイズ時代の彼の本格デビュー作である。演劇を彼のメインストリームとするなら、映画はちょっと特殊な立ち位置となる。
彼は「古畑任三郎」などのヒットなどで、映像の世界にも革新をもたらしてきたが、三谷幸喜の天才はあくまでも演劇である。映画の世界でもそれは変わらない。「みんなのいえ」で新築の家1戸、「THE 有頂天ホテル」で高級ホテル一棟、「ザ・マジックアワー」では一つの街、とセットの規模を1作ごとに拡大して、そこに映画に演劇の方法論を持ち込むことで、彼独自の立ち位置を映画界でも築いてきた。
だが、「マジック・アワー」の頃になると巨大セットを持てあますようになってしまい、方向転換を余儀なくされて以降、「ステキな金縛り」「清須会議」と新たな方向性を模索する作品が相次ぐ。天才とはひとつのところに留まることを良しとしない。新たな風景を見たくなるものだ。
そこで今度は宇宙船のセットを造り、そこで「映画」でしか出来ないワンシチュエーション群像コメディを撮る、という本来得意とする分野へ帰ってきた。それが本作、「ギャラクシー街道」である。
しかし、である。これが一向に弾けない。
原因は色々あるだろう。SFとしての設定の甘さ、そこから生まれる「まるでコント」のようなセット、なぜかご執心の「宇宙人生態」ギャグの寒さ、魅力を感じない登場人物たち。
だが、ひとつはっきり「この映画の寒さの原因」として言えるのは、この「ギャラクシー街道」が三谷幸喜らしからぬ「艶笑」コメディの要素を多分に含んでいる事にある。
地球からわざわざ異星人の娼婦を買いに来る地球人(石丸幹二)、妻の不倫を疑うハンバーガーショップ店長の夫(香取慎吾)に、夫の元カノの来訪に戸惑う妻(綾瀬はるか)、その妻に言い寄るリフォーム業者の異星人(遠藤憲一)、そして警備隊長や女性隊員に別れを切り出すウルトラマンもどき(小栗旬)など、エロと恋愛の話がこの映画の大半を示す。
言ってみれば話自体が散漫な上に、「下ネタ苦手な人間の言う下ネタ」に近いいたたまれなさがプラスされてどうしようもない。
この映画は言ってみれば、「宇宙」という舞台、そこに集う大半の登場人物が宇宙人であるがゆえに、下品なギャグやエロな笑いをオブラートに包んで思い切りやれるという目算が、三谷幸喜にはあったように思う。ところが・・・結果としては大誤算の、玉砕である。一言で言えばピクリとも笑えなかった。声を出して笑ったのは小栗旬くん演じるウルトラマンもどきことキャプテンソックスの、今時誰もやらないようなベッタベタなウルトラマンギャグくらいであった。
しかし、である。これを「三谷幸喜の才能が枯渇した」と考えるのは早計である。三谷幸喜にとって映画は、演劇では出来ない事を試す「実験場」なのである。
繰り返す。彼の天才は演劇にある。多分これからも彼は演劇では間違いなく天才を発揮し続けるであろう。そして、映像化の次回作の大河ドラマ「真田丸」も本来の三谷節全開の優れた作品になるはずだ。
本当の三谷幸喜ファンなら知っている。三谷幸喜映画は三谷幸喜にとって、言わば演劇では出来ない事を試す新たな風景を求める場所だ。そして、ギャラクシー街道は、その実験がたまたま盛大に自爆したに過ぎない。
むしろだ。三谷幸喜はこれまで三谷幸喜として舞台、ドラマ、映画、浄瑠璃やら人形劇など、あらゆるジャンルで常に一定の期待に応え続けてきた。むしろその事が驚異なのである。それをたまたま失敗作ひとつで見捨てるなど、本来のファンならあり得ないことだ。
「ラヂオの時間」で三谷幸喜は、文頭の台詞を言った西村雅彦演じるプロデューサーに、出演者やラジオ局の都合で改ざんされていく作品のスタッフから自分の名前を外して欲しいという鈴木京香演じる脚本家に対してこうも言わせている。
「あんた何も分かっちゃいない。我々がいつも自分の名前が呼ばれるのを満足して聞いてると思ってるんですか。何もあんただけじゃない。私だって名前をはずしてほしいと思うことはある。しかしそうしないのは、私には責任があるからです。どんなにひどい番組でも作ったのは私だ。そこから逃げることはできない。満足いくものなんて、そう作れるもんじゃない。妥協して妥協して、自分を殺して作品を作り上げるんです。でも、いいですか、我々は信じてる。いつかはそれでも、満足いくものができるはずだ。その作品に関わった全ての人と、それを聴いた全ての人が満足できるものが。ただ、今回はそうじゃなかった。それだけのことです。悪いが、名前は読み上げますよ。なぜならこれは、あんたの作品だからだ、まぎれもない。]
誰にでも満足できる作品など、「奇跡」がなければ作れない。「ラヂオの時間」もそのほんの少しの奇跡を描いてきた。そして三谷幸喜は、長くその奇跡を起こそうと苦心惨憺し、チャレンジし続けてきた。本作「ギャラクシー街道」もまた、彼にとっては色々なチャレンジをしてみせた映画なのである。
映画「12人の優しい日本人」で衝撃を受けてから、早20年以上三谷幸喜ファンを続けている私は、まだまだ三谷幸喜を追い続ける。そして、たまたまこんな大失敗作を見れた事を光栄に思う。
迷走してるようにも見えるし実際そうかもしれない。だが、ここから三谷幸喜は新たな奇跡に向かって歩み続けるだろうからだ。ファンだからこそ、三谷幸喜は新たな奇跡を見せてくれると信じてるのである。(★★)
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