2015-11-01
■IFFJ全部観た。

日本唯一のインド映画祭インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)が今年も開催され、フィルマガでも記事を書いたよ(https://filmaga.filmarks.com/articles/243/)。
普段、インド映画は輸入版を購入して観賞するのだが、その際に台詞が重要なドラマとコメディは敬遠してしまいがちとなる。
台詞が多いと英語字幕の解らない単語を調べるためにポーズする機会が増えてしまうし、続きを見ながらさっき調べた単語を使用した例文を作ってみたりするので、結局映画を楽しんで観ているのか、お勉強しているのか混然として、純粋に楽しめない。
なので、日本語字幕付きインド映画上映のIFFJでは、ドラマやラブストーリーものを中心の観賞になったのだが、アクション物はDVDで観賞済みなので今回上映のあった作品は全て観賞済みということになった。
今年はフィルマガ(https://filmaga.filmarks.com/writers/17)のライターとして来日した監督2人のインタビューもしました(読んでねー!https://filmaga.filmarks.com/articles/285/)。
土日の上映では満席も出る盛況ぶりで、すでに来年の開催も決定済み。日本のインド映画界隈はますます面白いことになってますよ。
『銃弾の饗宴 -ラームとリーラ-』
これはDVDで見ていたけど、さらに劇場でも、どうしても見たかった作品。とにかく美しい。出演者も美しいし、背景も美しいし、衣装も美しい。しかも描くのは「ロミオとジュリエット」を翻案した悲恋。儚く!散る!美しい!悲恋!って、もう大三元にドラ乗ったみたいな状態で悲しいけど夢ごこち。やはり大きなスクリーンが栄える。観ている間ずっと泣いてた。美しさフューリーロード。
『ハッピー・エンド』
『インド・オブ・ザ・デッド』の監督/主演のコンビによるロマコメ換骨奪胎。『インド・オブ〜〜』で、ユニバーサル・ゾンビ設定を上手く活かした対決法を生みだした監督だけあってヒネリが効いていて楽しい仕上がり。この映画ではロマコメの王道設定を主人公ユディ本人にしか見えていない空想の友人ヨギが語りかける、という形でロマコメ展開をメタ構造として参照していくのがキモ。
『ロイ』
脚本執筆が壁にブチ当たった監督が、実際の事件や人とのつき合いの中から着想を得ていく工程と、彼が書く「謎の怪盗」の行動がシンクロしていく。なので、劇中と劇中劇のヒロインが同一人物で、劇中の監督が人生中におこる出来ごとを“盗んで”劇中劇に反映させるという…… 要は、監督が彼女としたやりとりが、劇中劇の怪盗とヒロインのやり取りに翻案されて描かれて、メタ構造になってる。映画監督と付き合っていて、2人の出来ごとがそのまま映画の脚本になってたら…… 友人としてのやりとりなら、むしろ嬉しいかもしれないけど、恋人関係をそのまま描写されてたらゾッとするかもね。
『ヨイショ!君と走る日』
1995年にカセットテープ屋の息子、見合い結婚した相手がポッチャリで不満タラタラしてたら三行半を突き付けられて、てんやわんや。という話。一応コメディで、笑える場面も多いんだけど、演出に派手なコミカルさは無くて、淡々としている。というウェス・アンダーソン作品のような感じ。カメラがすーっと横移動するあたりとか実にウェスっぽい。監督にインタビューする機会をいただいて話を聞いてきたんだけど、エンルスト・ルビッチとビリー・ワイルダーのファンだそうで、実に納得。同じ根っこ。
『ファニーを探して』
大阪アジアン映画祭で多くのネコ好きを恐怖のドン底へ叩き落としたロードムービー。これもコメディではあるんだけど、ヒド過ぎな行動が可笑しいタイプのブラック・ジョークが多くて、ネコもその被害を受ける。不意にやってくる不謹慎さが唐突に可笑しくて吹いてしまい、舐めてた飴が気管に入って大変だった(同じ回で観た人ごめんなさい)。太った女性が気になってしょうがない画家が描く絵が、欲しいくらい艶めかしくて良かった。
『ピクー』
東京会場でのオープニングとエンディング作品になった映画。デリーに住む、偏屈で口うるさいジジイと、美人だけどやっぱり厳しくて口うるさい娘が、カルカッタの生家までタクシーで向かう、というロードムービー。傍目からジジイは偏執狂的にうるさいし人を傷付けてもお構いなし。娘は美人だけどもっとうるさい。映画はそんな2人と24時間いっしょに旅をするハメになったタクシー会社社長の視点から語られる。異様だと思える2人の口うるささも、彼らなりの行動規範に則ってうるさくしているのが解ると「なるほどねー」と思えてくる。これ、IFFJオープニングだと思うと、主催者側からインド映画に対して偏見を持ってる人への「実際に観てみてよ!」っていう誘いともとれる。不思議に思える情景も、入りこんで体験として知っていけば深い理解ができる。
『バン・バン!』
トム・クルーズとキャメロン・ディアスの『ナイト&デイ』正式リメイク作品なんだけど、多くの人が想像する「インド映画」らしいインド映画になってる。オリエンタルでマッチョなインド色男とぷりぷり肉感的なインド美人が、コメディとロマンスとアクション盛りだくさんで唄って踊る2時間半。『チェイス!』の時は蚤の夫婦状態だったカトリーナ・カイフが、高身長、高筋肉、高ハンサムの「3K」リティック・ローシャンと組んで伸びやかに「モテない女性」を演じる。「カイフがモテない? ウソつけぇ!」って話だけど、映画ってウソが派手な方が面白いよね。
『ベイビー』
イスラム過激派テロリストとの対決のために結成されたインドの秘密組織「BABY」の戦いを描くスパイ・サスペンス・アクション。すっかり格闘アクション俳優になった『チャンドニーチョーク・トゥ・チャイナ』のアクシャイ・クマール主演。近年のジェイソン・ボーンものっぽい本格スパイ・アクション映画なんだけど、中盤でサリー女性が『エージェント・マロリー』的アクションするところがあるので私的には100点。女ドラゴンLOVE。
『女戦士』
娘同然に可愛がっていた孤児を売春組織に誘拐された女刑事の戦い。主演のラーニー・ムカルジー演じる刑事のガラッパチな活躍が楽しい。先に難点を言うと、ラーニーが運動神経無い人の挙動なところ。特に走る場面は明らかに“走るの遅いタイプ”の走り方になってしまってて、よいしょ! どっこいしょ! と掛け声をかけたくなってしまう。ただ、非力な女性が力で対抗するという展開は激アツに燃える。
『国道10号線』
カナザワ映画祭「田舎ホラー」枠での上映もあった映画。インドの田舎町で地元民による殺人現場を目撃してしまった都会暮らしの若い夫婦が、地獄めぐりをさせられる。主演がキョロっとした目に大きなお口で愛きょうのあるカエルみたいだけど、いま一番勢いのある女優さんアヌシュカ・シャルマー。田舎町で助けを求めたら町全体、警察も含めて殺人犯の家族だったという、本当に出口無しな恐ろしさ。序盤の不穏さも効いていて大変面白い。
『復讐の町』
人質の母子を殺して捕まった銀行強盗の小悪党へ、妻子を殺された夫が復讐をする話。序盤では殺された妻子が可哀そうで夫に同情するんだけど、後半常軌を逸した復讐をし始めると、徐々に印象が逆転していく。そのグラデーションが素晴らしい。この映画の監督にもインタビューをさせてもらったんだけど、60〜70年代のドン・シーゲルやジョン・シュレンジャー、ニコラス・ローグ、コーエン兄弟の『ファーゴ』なんかを引き合いに出して来た。本当にそんな感じで、悪党ばかりが登場するシーゲル作品辺りをインド流に翻案したタッチになっている。
『野獣一匹』
イ・ビョンホンの『悪魔を見た』を翻案しながら、オリジナルには無い「赦し」まで含めた後日談的展開もある作品。殺人鬼をチェ・ミンシクとはだいぶ違う線の細いキャラクターにしているのと、殺される婚約者が重い病気を患いつつも健気に生きていく描写が多くあるので、観ていてオリジナルを思い起こさせる場面は少ない。『バン・バン!』もそうだけど、ハリウッドや韓国映画のインド版ローカライズは物語から別の良さを引き出していて面白い。
『どうして』
事前にほとんど何の情報も無かった作品。人身売買組織からおそらく少女売春のために10歳に満たない少女が買われていく場面から映画が始まる。少女は一時預かり場となっている母子家庭に入り、軟禁生活を送る。その後、想像とは違った、別の意味でよりハードな展開をするのだが、映画ではあくまで「ハードな展開」の裏に潜む日常だけを捕える。内容が内容だけに無碍には出来ないけど、おもいっきり文芸映画。悪い意味でATG映画みたいな感じ。