「ERPパッケージなどの保守サポート費を半額にする」。そんなうたい文句の第3者保守サービスは、維持的なIT投資を減らし、その分を戦略的IT投資に振り向けたいユーザー企業には、魅力的に映るはずだ。だが法的には何の問題もないのか、安心して利用できるのか?そんな疑問も生じる。2015年10月中旬、米ネバダ州の連邦地裁は見過ごせない評決を出した。
ERPパッケージやデータベース管理システム(DBMS)など、企業向けソフトウェアのライセンス費用は安いとは言えない。それ以上に大きいのが保守サポート費。導入後は毎年、正規ライセンス費用の20%~22%に相当する額を支払う必要がある。初期ライセンス費用は値引きがあっても保守サポート費はそうではないので、負担感が大きくなるのも自然だろう。
そうした需要を見込むのが「保守サポート費用を半額にする」とうたう第3者保守サービス会社である米リミニストリート(Rimini Street)だ。本誌でも何度かレポートした(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/11077)が、Oracle EBSやPeopleSoft、JD Edwards、Siebel、Oracle Databaseといった米オラクルの製品、およびSAP ERPについて「現行バージョンを最低15年間、保守サポートする。たたしバージョンアップはできない」という条件でサポート費を半額にする。
米リミニストリートによると、現在の顧客企業数は1164社(うち80%が北米)、直近の四半期売上高は3080万ドル(36億円)で、前年同期比38%増と高成長をしている。日本でもゼネコンの熊谷組、SI企業のCAC(いずれもSAPユーザー)など20社以上が採用済みだ。
一方の大手ソフトウェア企業にすれば、第3者保守が増えれば死活問題になる。保守サポート費は収入の過半を担う大きな柱であり、新技術の研究にせよ新製品の開発にせよ巨額の投資がかかる。それをまかなうのに加えて株主の期待を満たせる収益を上げるには、欠かせない収入だからだ。リミニストリートの売上高は、オラクルやSAPのから見ればまだごく小さいが、小さいうちに火を消しておくに越したことはない──。
そうして5年前に始まったのが、オラクルが2億4500万ドルの損害賠償を求めてリミニを訴えた民事訴訟である(https://regmedia.co.uk/2015/10/14/riminist_oracle_complaint.pdf)。これに関して2015年10月中旬、評決があった。米ラスベガスの連邦裁判所の陪審がリミニストリートによるオラクルの知的財産権侵害を認め、リミニに5000万ドルの支払いを命じる評決を下したのだ。評決を受けて、オラクルは第3者保守の永続的な禁止命令を求めると表明している。
となると、オラクルの勝訴に思えるが、コトはそう単純ではない。リミニストリートが判決を受けて発表したリリース(http://www.riministreet.com/news/press-releases/10222015)によると、同社は以前、サービスを提供するために、自社のサーバーに顧客が有するオラクル製品のコピーをインストールしていた。陪審は「オラクルの使用許諾契約は、ソフトウエアをリミニストリートのサーバーにインストールまたはコピーすることを許可していない」と判断したものであり、それ以上ではないという。
「リミニストリートは2014年7月までに当社サーバー上でオラクルのソフトウエアを使用することを停止し、すべてのクライアントにリモートアクセスで接続するサービスモデルに移行した」(リミニストリートのリリース)。問題はすでに解消済みというわけである。一方で陪審は第3者保守というサービスについては合法と判断したという。オラクルのライセンシー(ユーザー企業)はオラクルの年間サポート契約を更新しないという選択が可能で、サポート契約を第3者に委ねることもできるのである。
来日中である米リミニストリートのデビッド・ロウ氏(SVP&CMO)に聞いたところ、「リリースの内容以上のことはコメントできない」としながらも、「強調したいのは訴訟の真の勝者は顧客であることだ。第3者保守というビジネスは認められたし、オラクルは情報を提供する必要がある」という。加えて2億4600万ドルの請求に対し5000万ドルの支払いであることを考えてほしいとも述べた。懲罰的な要素の強い請求を陪審は認めなかったというわけである。
一方で今回の評決を第一の訴訟とすれば、昨年10月からもう1つの訴訟が進んでいる。こちらはリミニストリートがオラクルを訴えたもので、リミニストリートの新しい保守サポートプロセスの合法性を求めるている。訴訟内容からすれば、こちらの行方の方が重要だろう。