韓国大統領:国民感情悪化に危機感 歴史認識は改めて非難
毎日新聞 2015年10月30日 06時05分(最終更新 10月30日 08時10分)
【ソウル米村耕一】韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は毎日新聞との書面インタビューで、日韓両国民の互いに対する感情が極度に悪化していることへの危機感をにじませるとともに、米国を意識した日韓安保協力の重要性も強調した。日韓関係の厳しい状況について、「両国の国民感情」と「米国の視線」の二つの側面を強く意識している様子がうかがわれた。
朴大統領は日韓関係停滞の原因について、「(日本側の)歴史についての誤った認識」にあると強く非難した。ただ同時に、「過去の問題でこれ以上お互いに傷つけ合い、物議を醸すことがないよう心から希望する」とも述べ、和解を望むニュアンスも出した。
慰安婦問題について朴大統領は「両国の枠を超えた普遍的な女性の人権問題だ」と強調しつつ、「両国民の傷であり、胸の痛む問題だ」と指摘。この問題を解決することで「お互いに傷口をさらに広げることがないようにしたい」とも強調した。
「両国民の傷」などの言葉が具体的に何を意味するのか明確ではない。だが、この問題が日韓の懸案として存在し続けることが、韓国側のみならず、日本側の国民感情を傷つけているという認識を示した可能性がある。
首脳会談も開けないという状況の中で日韓両政府は、「明治日本の産業革命遺産」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産登録の問題でも激しく対立した。歴史認識を巡る対立が、日本国内の「嫌韓感情」の一因となっていることは韓国でも知られている。韓国紙の政治記者は「国民間の感情問題の深刻さも、朴槿恵政権が首脳会談の開催へ踏み切った要因の一つ」と指摘する。
一方、朴大統領は、安全保障面での日韓や日米韓協力の重要性も繰り返し指摘した。日米韓の安保協力の弱体化を懸念する米国は、これまでも強く日韓両国に関係改善を求めてきた。こうした米国の圧力を受けて、朴槿恵政権は5月ごろから対日政策において歴史問題と安保、経済問題を切り分ける「2トラック政策」に本格的にカジを切っている。
朴大統領はこの点について「歴史問題で日本政府の誠意ある措置を求めながらも、安保分野の協力は維持・強化し続ける姿勢を堅持してきた」と主張。2013年2月の就任直後から「2トラック政策」を継続してきたという考えを強調した。日韓の安保分野での協力を重視する米国への配慮とも見える。
日本で9月に成立した安全保障関連法と関連しては「日本の軍事的役割拡大に対する周辺国の憂慮」に改めて触れ、日本の防衛安保政策には「平和憲法の精神を基礎に日米同盟の枠の中」でと注文をつけた。また、対北朝鮮政策で日米韓の協力が維持されている好例として、昨年12月に締結された、日米韓3カ国による北朝鮮の核・ミサイルに関する防衛機密情報の共有に関する合意を挙げた。
南北統一については「日本をはじめとした周辺国が、平和統一を積極的に支持し協調してくれることを希望する」と述べた。ただ、日本に具体的に何を望むかは触れなかった。
【ことば】慰安婦問題
1991年、日本軍の元慰安婦だったとする韓国人女性が初めて名乗り出たのを機に、外交課題に浮上。日本側は93年、軍の関与を認めた「河野談話」を発表。95〜2007年、民間団体を主体に「女性のためのアジア平和国民基金」事業を実施した。日本側は65年の日韓請求権協定で解決済みとの立場だが、韓国側は05年、請求権協定では未解決と判断。11年、韓国憲法裁判所は、韓国政府が慰安婦問題の解決に努力しないのは違憲との判断を示した。朴槿恵政権は日韓間の最大の外交課題と位置づけている。