(葵)カア〜。
与力50騎同心240人とその家族たちが住み暮らす八丁堀。
本所深川見廻り方同心井筒平四郎の家もそこにある
(いびき)ガガッ!
(おとよ)キャッ!えっ?誰?お…お初にお目にかかります。
とよと申します。
とよ?あ…叔父上。
とよねえ様は河合屋の分家つまり私の父の弟の娘で私のいとこなのです。
先ほど弓之助と一緒に遊びに来たのです。
いとこにしちゃ似てねえな。
はい?あっいや…そ…それは…。
それでよいのです。
男でも女でも過ぎた美形は本人の身を誤らせます。
弓之助の美形など本人どころか人様も誤らせます。
ですから我が井筒家で養子に迎え役人として堅い暮らしをさせねばならないと思っているところです。
おとよはそれに比べるとちょうどよろしい姿形です。
そうでございましょう?あなた。
うん。
そうだ。
…で何の用だい?とよねえ様は今悩みを抱えているのです。
はい。
私は悩みを抱えているのです。
うんうん。
あちこちに相談したのですがまだ得心がいきません。
はい。
まだ得心がいきません。
それで叔父上の事をお話ししましたら「是非にご意見を」と。
はい。
是非叔父上様のご意見を伺ってみたいと。
うん。
…で何を悩んでる?おとよには縁談があるのだそうです。
分かった。
その縁談が気に食わねえんだな?あっそうではないのです。
とよねえ様はお相手が嫌いな訳ではないのです。
はい。
嫌いな訳ではないのです。
縁談のお相手は通本町の紅屋だそうです。
弓之助んとこの河合屋が藍玉問屋で相手が紅屋。
紅と藍で色合いはちょうどいいじゃねえか。
ハハハ…!もうおかしな事を。
ハハハ…!まあ嫌いじゃねえならほかに好きな男でもいるのかい?違います。
はい違います。
じゃあ何を悩んでる?とよねえ様はお相手の事が好きでもなく嫌いでもなくつまり人を好きになるという事がどういう事かまだ分からないのです。
ですからそんなままで連れ添っていいものかどうか悩んでいるのです。
はい。
いいものかどうか悩んでいるのです。
弓之助。
人を好きになるとはどういう事だと思う?お前なら見当がつくはずだ。
あ…ええと…う〜ん…。
この弓之助子どもの割にはしたたかでそんじょそこらの大人より知恵の回りがすこぶる速い
まず人を好きになると一緒にいたくなります。
…で?その人と楽しく暮らしたくなります。
それから?その人の笑う顔が見たくなりますし困っていたら助けてあげたくなります。
どうだ?そんな気持ちになった事があったかい?ありません。
けどこれからあるかもしれねえ。
縁談相手が嫌じゃないなら試してみるこった。
では人を嫌いになるとはどういう事なんでしょう?今の逆だ。
一緒にいたくない。
楽しくなんか暮らせない。
笑う顔は見たくないし困っていたら放っておく。
私紅屋の若旦那が困っていても構いません。
それはまだ他人だからです。
夫婦になると違うのですか?はい。
だからなとりあえずみんなが勧める縁談なら乗ってみるこった。
添ってみて駄目だったら夫婦別れすりゃあいい。
いくら何でもひどうございましょう。
その言い方は。
そうじゃねえんだ。
おとよは指がきれいだ。
苦労知らずのお嬢様なんだ。
暮らしにゆとりがあるならやり直しはきくもんさ。
でも私誰かを好きになってみたいです。
胸を焦がすような「お慕い申し上げています」と言ったり言われたり…。
いや俺たちもな周りに勧められて顔を知らねえ同士が一緒になったが一向に差し支えねえ。
なあ?はい。
では叔父様は叔母様がお好きなのですね。
う〜ん好きとかじゃねえな。
では何ですの?便利だな。
えっ?え…?
(小平次)旦那!ああ小平次。
いいとこに来た。
おいお前んとこ夫婦はよ…。
佐吉!佐吉じゃねえか。
井筒の旦那ご新造様坊ちゃんご無沙汰しております。
この佐吉今は植木職をしているが故あって長屋の差配をしている頃あれやこれやで平四郎や弓之助たちと関わり合った
官九郎は元気ですか?佐吉さん。
官九郎?あっはい。
佐吉さんはお恵さんという方と周りも羨むほど仲がおよろしいのですがそのお二人が所帯を持つ時にその仲を取り持った賢い烏なのです。
羽のところに1本赤い筋が入ってる粋な烏さ。
なあ佐吉。
まあすてきなお話ですこと。
実は今日はその事で参りました。
その官九郎がついこの間死んじまったんです。
うへぇ。
本当ですか?はい。
家の裏手の林の中で死んでるのを長助が見つけました。
カア〜!カア〜!カア〜!カア〜!お寂しいでしょうね長さんも…。
私も寂しいです。
弓之助。
官九郎の墓に手を合わせに行ってやれ。
長助も喜ぶだろ。
はい。
どうした?お恵とけんかでもしたのか?いえそんな事は…。
そうなのですか?好き合って夫婦になったのにそれでもけんかなんかするものなのですか?えっ…。
アハッ。
おとよといってな弓之助のいとこだ。
はあ…。
じゃああっしはこれで。
あっ?もう帰るのか?旦那。
また来ます。
うん。
叔父上。
佐吉さんは官九郎の事を知らせに来ただけではないのではありませんか?もしやお恵さんと何かあったのでは?うん?まあ何かありゃあいつか分かる。
この時のいつもの平四郎の面倒くさがりがよからぬ方へと転がる前触れでもあった。
そしてここにもう一人平四郎の知り合いが憂いていた
(2人)べえ〜!
(烏の鳴き声)うわ〜!
(鳴き声)
深川の大島で佐吉はお恵という女と所帯を持っていた。
奇妙な縁で結ばれた長助という子どもも一緒である
長坊!ごはんは?長坊!いいじゃねえか。
好きにさせてやれよ。
・悪かった!謝る!謝って済むんじゃないんだよ!いい加減におし!また始まった。
いっつもなんだから。
・俺が一生懸命稼ぐから!・酒やめなよ!どうしてけんかばかりするんだろ。
そんな言い方はしない方がいい。
けんかが収まれば仲よく飯を食うんだ。
そう…。
嫌な女よねこんな言い方して。
どうせ好きじゃないんでしょ?こんな女。
どうせ私の事なんかどうでもいいと思ってるんでしょうから!お恵どうした…。
所帯を持ってまだ半年なのに今の佐吉さんよその人みたい。
もそもそごはんを食べるだけで話もしないし何を考えてるのかも分からない。
私の言ってる事なんかうわの空だし何にも聞いてない!私里に帰ります。
いきなりそんな事言われても…。
いきなりなんかじゃない!あんたが気付いてなかっただけじゃない!官九郎がいなくなったから私たちの縁も切れるのよ!お恵!離して!お恵…俺はそんなだったか?気付いてなかったっていうの!?そんな事ある訳ないじゃない!うそばっかり!けんかは駄〜目。
おいらごはん食べるから。
(泣き声)
(泣き声)俺はそんなだったか…。
ごめん。
本当にごめん。
俺は自分の事ばっかりにかまけてそんなふうにしたらどんなにお前が心配するかって事を考えてなかった。
実はなお恵。
何?では叔父上。
私はここで。
うん。
官九郎に俺の分まで手を合わせてやってくれ。
はい。
いや〜お徳さんのおいしい煮物頂けず残念です。
また参りますとお伝え下さい。
では。
ああいう言い方にお徳みてえな女はころっころ転がされんだろうな。
うへぇ。
こりゃ旦那。
お見廻りご苦労さんでございます。
お徳の煮物を食いに来たんだよ。
近頃出来たおかず屋にやられっ放しらしいからな。
そのおかず屋のおかみさんですがね。
姿くらませたそうですぜ。
ああそうか。
…何だ?
(おさん)さらわれたんですおかみさんは!あの煮売り屋の怖いおばさんはうちのおかみさんが商売上手なのをやっかんでそりゃあもう意地悪だったんですから!
(おもん)あの人腕っぷしだけは強そうだし。
あの人がおかみさんをどうかしたんです!日がな一日煮釜のそばで仁王立ちしてこっちの店に出入りする客を鬼のような顔でにらみつけてたんですから!
(お徳)はばかりさま!私はね生まれた時からこのご面相だし煮釜の後ろに立ってるのは商売だからなんだ。
親分!こんな子どもの言う事をよもや真に受けたりしないでしょうね!?夜逃げに決まってますよ!夜逃げですよ!お徳。
鬼みてえな声が木戸口まで響いてるぞ。
フン!ご苦労なこった政五郎。
(政五郎)へい。
うそじゃないんだから!
この政五郎岡っ引き嫌いの平四郎が唯一信頼している男である
じゃあ店ん中調べてみるか。
なあ?はい。
よう幸兵衛。
あっこれは旦那。
お見廻りご苦労さまです。
おかず屋のおかみがいなくなったんだってな。
へえ。
なかなかいい女だったのに惜しい。
若作りなだけですよ!豪勢なおかずたたき売りして客釣って!あんな商売長続きする訳がないんだ!いや〜私も言ったんだよ。
お徳さんが煮売りをやってるからその事を承知で商売してくれってさ。
もっとも言い分がいいんだよ。
こっちがもうかったら向こうにだって客が流れるから…。
何言ってんのさ!味が分かる人はちゃんとうちの煮物の味が分かって通ってきてくれてますよ!そうだろう?
(おさき)大体ね差配さんがちまちまとまばたきしてそろばんばっかりはじいてるからあんな女を入れちまうんですよ!
(おしま)そうだよ!もうすぐお迎えが来たって不思議じゃないっていうのにさ。
何言ってやがんだい!
お徳の煮物が平四郎は大の好物である。
以前あれやこれやとあった長屋からこの幸兵衛長屋に引っ越してきてからもそれは変わらない
おう!どうなった?
(政五郎)へえ。
夜逃げですね。
着物が何枚か無くなってますし枕の中にざくざく小判が入った胴巻きを隠していたらしいんですがそいつが消えてるそうですから。
ざくざく…だからあんな商売ができたんだね。
とにもかくにも夜逃げならあっしらが駆け回る事もねえ。
男好きする人だったから男がらみですかね。
いいじゃねえか何だって。
これで元どおりだ。
うまいお徳の煮物も安泰って訳だ。
なあ?はい!おいしいです。
アハッ。
小平次さんに褒められたらうへぇだね。
ハハハ…!けどあの子たちこれからどうなります?気の毒だがよその働き口を探してもらうほかありませんね。
そうだお徳。
秋になったら佐吉夫婦でも連れて王子へ紅葉狩りにでも行くか。
あの2人ならそのころはおめでたじゃないですか?そろそろいいあんばいでしょう。
そういや佐吉がうちをこないだ訪ねてきてな。
烏の官九郎が死んじまったそうだ。
えっ!あの烏が?政五郎。
へい。
さっき弓之助がお前んとこのおでこを連れ出して大島へ行くと言っていた。
ああさいですか。
お徳?あの烏が死んじまったなんて何か不吉な事が起こらなければいいけど…。
・「大黒様という人は」・「一に俵ふんまえて」・「二にニッコリ笑って」・「三に」
(お六)ほら!お前たち!今日は法春院で手習いの日だろ。
そうだった。
急ごう!うん!ほら…。
はいおみち。
先生こんにちは。
(晴香)こんにちは。
先生こんにちは。
こんにちは。
先生これ!うん?ああ…ありがとうおはっちゃん。
お筆しっかり立ててね。
落ち着いて。
うん上手ね。
そこもうちょっと長くして…。
(お六)葵様。
葵様。
そろそろお薬の…。
葵様…?えっ?ええっ?えっ…?…はっ!キャ〜!あっ!あっ!あ〜っ!
(杢太郎)おっど…どうした?えっ?どう…。
な…何だよ…。
ひ…人殺し!人殺し!てめえ!この!
(杢太郎)てめえこの野郎!はあ…。
生き物はいつか死ぬものですよね。
私は意気地なしでいつか死ぬと思うとそれが怖くて生き物を飼う事ができません。
ですから官九郎の死は私にとって初めての生き物との別れなのです。
寂しい事です。
あいあい寂しいよおいらも。
さあおでこさん坊ちゃんどうぞだんごでもおあがんなさい。
長坊もどうぞ。
ありがとうございます。
本当おでこさんはその名のとおりおでこが広いんですね。
いやいやそれだけではありません。
おでこさんは物覚えがものすごくよいので叔父上も大変重宝されてる人なのです。
そうなんですね。
それに比べて佐吉さんの言うとおりほれぼれしてしまう顔だちですね坊ちゃんは。
(せきこみ)ちょっ…おでこさん!?おでこさん!おでこさん!そういう意味じゃなくて…。
ごめんなさい。
ハハハ…。
あっ…という事は佐吉さんの屈託もなくなったという事ですね。
えっ…?心に何か引っ掛かりがある人は私の顔を見ても驚いたりはしません。
お恵さんが私の顔を見て驚いたという事は佐吉さんと仲よく暮らしている。
つまり佐吉さんの屈託もなくなったという事です。
ごめんよ!芋洗坂の八助親分のところの者だが…!あっあっこっち…。
はい。
お待ち。
叔父上〜!叔父上!叔父上!叔父上!叔父上?あれ?井筒の旦那なら帰りましたよ。
何ですか?何急いでんですか?素通りはあんまりじゃありませんか。
煮物でもどうです?いや…申し訳ありません。
今はそれどころではありませんので…。
失礼致します。
おでこさん。
はい。
それでは…。
じゃ。
はい。
叔父上…。
おや坊ちゃん。
お早いお帰りで。
おい弓之助。
ああ!どうした?叔父上!捜しました!何だ?どうかなすったんですか?坊ちゃん。
ほらよいしょ。
こっち。
何だ?さ…佐吉さん…佐吉さんが…!佐吉がどうした?人を殺した疑いで六本木の芋洗坂の自身番に留め置かれてるそうなのです。
はい…。
ああ…!…んなバカな事を。
いやいやこのような事でうそは申しません。
しかも殺した相手があの例の…葵さんだというのです。
葵が現れたってのか?はい。
うへぇ。
しかも佐吉の前に…。
でもってその葵を佐吉が…殺した?はい。
うそじゃねえんだろうな?いやですから…。
ああ分かった。
お恵はこの事を知ってんだな?あ…はい。
佐吉さんが人を殺める事なんてないから何かの間違いだ。
きっとすぐに帰ってこられると気丈に振る舞っておられました。
ああ…。
佐吉はてめえが殺されたって他人様を殺せるような男じゃねえ。
だが葵だけは…。
だ…だ…旦那!お恵さんのとこに人をよこすようおでこさんに頼んでおきました。
湊屋には政五郎親分が計らって下さるはずです。
うん。
小平次。
へえ。
弓之助が遅くなると河合屋に伝えとけ。
承知致しました。
弓之助。
走れるか?はい!
ここでひとつ佐吉の過去を語る事をお許し願おう。
殺された葵という女は佐吉の実の母親である。
築地の俵物問屋湊屋の主人湊屋総右衛門の姪である葵はその昔幼かった佐吉を連れて湊屋の世話になっていた時期がある
よく来たね。
総右衛門は自分の妻子を差し置いて葵と佐吉をなめるようにかわいがった。
それを面白く思わなかったのが…
その事が原因で湊屋ではやっかいな出来事が起こり…
とうとうおふじは葵を呼び出し絞め殺した。
だがおふじが去った後葵は息を吹き返したのである
おふじさんは私が死んだと思っています。
この事を知った総右衛門はおふじが葵を殺してしまったと思い込んでいる事を利用し葵をかくまった。
表向きは男と共に出奔したという事にしたのである。
この大うそで湊屋には一見平和が訪れたように見えたが一人幼い佐吉だけが居場所を失ってしまう。
葵が男と出奔したといううそは佐吉の心に暗い影を落としとどのつまり佐吉は母親を恨んで育つ事になった。
自分の母親は男欲しさに世話になった総右衛門を裏切り勝手に出ていった恩知らずの女だと…
実はなお恵。
何?お恵…。
心の声全くもって気に入らねえ話よ。
総右衛門がなぜ葵をかくまったあとに佐吉と一緒に暮らさせてやらなかった?それが無理ならなぜ佐吉に全てを打ち明けない?心の声ですがなぜ今頃になって佐吉さんは葵さんに会ったりしたのでしょうか?どうして会う事ができたのでしょうか?心の声誰かが佐吉に母親に捨てられた真相を教えたりしたに決まってる。
でなきゃこんな事になる訳がねえ。
クソ!ああ…駕籠の揺れは腰に響くぜ。
あたたた…腰…。
・はあ…よいか?佐吉はな何度も言うが俺のなじみの者で素っ堅気だ。
だから本人もさぞかし心細かろうから様子を見たいと思ってやって来ただけなのだ。
ああ〜ただあっしも親分にきつく言われてるんです。
「あいつはしっかり見張っとけ。
何かひと言でもしゃべらねえうちはどこの誰にも会わせちゃならねえ。
飯も食わすな」と。
ひどい!俺が言ったんじゃねえよ。
親分だよ。
…って事はまだ佐吉はひと言もしゃべっちゃいねえのか?ず〜っとだんまりのままですよ。
ただ植木屋の半纏を着てましたからあっしの仲間が大島まで走って身元がようやく分かったって次第で。
ならどうだ?佐吉は俺になら何かしゃべるかもしれんぞ。
そうは思わんか?う〜ん…でも駄目です。
親分の言いつけは守らないと。
お引き取り下さい旦那。
立派なもんだ。
末は大親分だなお前さんは。
おだてたって駄目ですよ。
けど…訳ありですねあの葵って殺された女は。
どうせどっかの囲われ者なんでしょうけど旦那がどこの誰だか分からない。
こぶつきの女中も黙りこくっちゃって話にならねえんです。
その事なら俺が全て承知している。
本当ですか?そんならわざわざ親分が千駄ヶ谷の差配んとこまで出張らなくてもよかったんだねえ。
あっ…。
親分が帰ったら俺は殺しがあった葵の屋敷にいると言ってくんな。
親分の名前は?八助ですよ。
おいらは杢太郎ってんです。
じゃあ杢太郎。
へい。
こいつはな弓太郎といってな佐吉の弟なんだ。
ゆ…弓太郎と申しましゅ。
ハハハ。
大好きな兄さんが縄目を受けたと聞いてどうしても一緒に行くと言って聞かねえんだ。
俺が迎えに来るまでここで預かってやってくれねえか?それぐらいはお安い御用です。
…っていうかどのみち旦那のお耳にも入るでしょうけどあの家は化け物屋敷と呼ばれてるんです。
化け物屋敷?子どもを盗って食らう子盗り鬼が出るって専らの評判なんでさ。
だから坊ちゃんを連れていかない方がよろしいと思いますよ。
子…子盗り鬼は怖いよ〜。
杢太郎の親分〜!よせやい。
俺は親分じゃねえよ。
杢太郎の親分…。
あんまりやり過ぎんなよ。
はい。
じゃあ頼んだぞ。
へい。
俺があんじょう引き受けた。
だからお前は少し休んでてくれ。
いいな?ああ〜ん!兄さ〜ん!怖かったんだよ〜!心配したんだよ〜!ああ〜ん!兄さん…。
お前の弟なんだってな?身内に心配かけんじゃねえよ。
弓太郎はな八丁堀の旦那と一緒に来たんだ。
お前の事が心配でよ〜。
弓太郎…。
ああ〜ん。
兄さん。
おいら井筒の旦那さんにくっついて来たんだよ。
大丈夫だよ。
井筒の旦那さんがなんとかしてくれるよ。
兄さ〜ん!ああ〜ん!分かったよ。
弓太郎。
兄さん思いなんだな〜。
おい湯冷まし持ってきてやんな!へい。
ありがとう。
杢太郎の親分。
だから親分じゃねえって。
(小声で)叔父上が戻られるまで今のまま黙ってて下さい。
ああ〜ん!兄さ〜ん!ほらほらほら…。
あっありがとう。
はあ〜。
親分兄さんにあげていい?けどな〜。
ああ〜ん!湯冷ましがおいしいよ!兄さんにも飲ましてあげたいよ!分かった分かった!少しだぞ。
おいしいだろう?兄さん。
ああ。
(おなかが鳴る音)何だお前腹減ってるのか?あ…おまんま食ってないから…。
そうか。
さっきもらったお握りがまだ残ってるはずだ。
人転がしの名人弓之助恐るべし
(小声で)お恵さんの事は大丈夫ですから。
おい!ごめん!おっと!旦那は一体…。
すまんな。
勝手に上がらせてもらった。
俺は本所深川方の井筒平四郎という者だ。
自身番に留め置かれてる植木職の佐吉は俺の知り合いでな。
事を聞いて驚き急ぎ駆けつけた次第だ。
あっ!ちょっと!井筒の旦那!それとここで殺められた葵という女の素性についてもよ〜く知っておる。
ならばいささか役に立てるかと思ってまかり越した次第だ。
亡骸はここだな?旦那!待って…!お前さんが八助親分だろう?杢太郎から聞いておる。
だがあれを叱ってもらっては困る。
杢太郎はちゃんと番をしておった。
うん。
あっちょっ…!邪魔をしてすまん。
私は亡くなった葵の知り合いだ。
仏の顔を拝ませてもらって構わんか?葵様の…?うん。
ついでながら葵を殺めたのではないかと疑いをかけられてる佐吉という若者も知り合いでな。
えっ。
ですからね旦那…。
まあそれについては話すと長くなる。
まずは手を合わさせてもらいたい。
心の声あんたが葵さんか…。
いっぺんあんたとは会いたいと思ってたんだ。
しかしこんな形で会うとはな。
絞められた痕だな。
手ではないようだが。
そうでしょうかね。
指の痕がないしひもや縄なら肌にもっと傷が残る。
得物は手拭いかな?はい。
おい!それは佐吉の手拭いだったのか?だとしたらあれも言い訳はできぬのでな。
だから教えてほしいのだ親分。
あの男の手拭いじゃござんせんでした。
そうか…。
なるほど。
そうかい。
あんたがこのうちの差配人だな?はい。
もう湊屋には知らせたのかい?えっ…いや…それは…その…。
旦那。
どうしてそれを?だから言ったろう。
俺は葵の素性をよ〜く知ってるんだってな。
あの…湊屋さんっていうのはもしかして旦那様の事でございますか?あんた何にも知らされてなかったのかい?お六さん。
お六ってんだ。
はい。
葵様のおそばで3年ほど働いてまいりました。
だがあんたは旦那が誰か知らなかった。
旦那。
旦那は定町廻りの佐伯様をご存じなんで?いや早晩挨拶はしなくちゃならねえが会った事はねえ。
実を言うとなこの葵の事も知ってはいたが会った事はねえ。
どこに住んでいたかも知らねえ。
…といって捜す事もねえ。
だが葵と湊屋さんの関わりは承知してる。
お前さんたち以上にこの間の事情には詳しいんだ。
どうだ?面白えだろ。
…で湊屋は来るってか?はい。
私は親分さんから急を聞いて慌てて久兵衛さんにお知らせしたんです。
おい!差配さん!久兵衛?えっ?そいつも佐吉と葵と湊屋のあれやこれやの事を大概知ってる御仁でな俺と因縁浅からぬ男だ。
どうだ?入り組んじまってこんがらがってくるだろう?めんくらう事ばっかりで。
あっしは何しろ湊屋さんと葵様がお知り合いだって事をついさっき佐伯の旦那から聞いたばかりでして。
なるほど。
佐伯の旦那は先から承知って訳か。
湊屋の事だからここに葵を住まわせる時にひとつよろしくぐらいの事はやってるかもしれん。
確かに佐伯の旦那は家の中には誰も入れずに他言無用。
騒ぎ立てず後の事は指図するまで手をつけるなとおっしゃってました。
となると…。
(総右衛門)これで何分よしなに。
明日。
ありがとう存じます。
えっ?もう知らせが届いてる?はい。
ですからお引き取り頂けますようにと旦那様が。
これはご足労頂いたお礼という事で。
ああさいですか。
それじゃごめんなすって。
はあ〜けど分からねえなあ。
何がですか?そういう事情があるなら何で佐吉をひっくくったりしたんだ?事が大きくなるだけだろう。
そうは言ってもしかたありませんや。
佐伯の旦那があの男を逃がすなっておっしゃいましたし。
第一佐吉はこの場にいたんですから。
あっ?えっ?えっ…いや…佐吉が死んでる葵を見つけたのか…。
そ…そういう事か。
そうですよ。
その時葵様の体はまだ温かかったそうで。
そうだよな?お六さん。
はい。
うん。
つまり絞め殺されたばかりだったんですよ。
そこで佐吉がひっくり返ってたんですからこれは杢太郎だってひっくくらない訳にはいかねえでしょうが。
旦那?そうか…そういう事か…。
この男久兵衛は1年前葵がらみの一件で平四郎や佐吉は言うに及ばずあのお徳まで欺いた湊屋総右衛門の片腕とも言うべき男である
(久兵衛)井筒様。
お久しぶりでございます。
ああ。
一別以来。
話は済んだ。
お許し下さい。
許す事なんざねえよ。
あんたには大切なお店のご主人じゃねえか。
尽くして当たり前。
俺に謝る事なんざねえよ。
…で今度は一体何をたくらんでやって来たんだい?葵を手にかけたのか?俺はやってません。
なら殺した下手人はほかにいる。
そいつを捜す。
お六。
余計な事はしゃべらないように。
本当の事を言ってほしいだけなの。
話があるなら言ってみたらいいだろう!どうしておふじさんは「葵さんは死んでいる」などと過去を蒸し返すような事を言ったのか…。
あ〜っ!ああ〜っ!葵の亡霊が…。
2015/10/27(火) 14:05〜14:50
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら2(1)[新]<全7回>「哀(かな)しき再会」[解][字][再]
宮部みゆきの時代劇ミステリー「ぼんくら」シリーズ第2弾。個性豊かなレギュラー陣に加え、新たなキャラクターも続々登場。ミステリー色も一層濃くなり、満足度倍増です。
詳細情報
番組内容
本所深川見回り方同心・井筒平四郎(岸谷五朗)のもとに、植木職人の佐吉(風間俊介)が尋ねてきた。何か言いたげな佐吉であったが、大したことも告げずに帰ってしまう。数日後、平四郎は人をあやめたとがで佐吉が捕まったという知らせを受ける。殺されたのは佐吉の実の母・葵(小西真奈美)。因縁浅からぬ二人の間に何があったのか。案じながら殺害現場の芋洗坂に駆けつける平四郎。そこで再会したのは久兵衛(志賀廣太朗)だった
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,秋野太作,志賀廣太郎,小西真奈美,遊井亮子,西尾まり,村川絵梨,黒川智花,螢雪次朗,嶋田久作,鶴見辰吾,大杉漣,松坂慶子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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