(沢嶋)
緊迫の戦国時代。
決死の作戦が行われる
籠城する味方の軍勢
味方の命を救う道はただ一つ
城の人々の運命はたった一本の矢に託された。
その一部始終を記録する
え〜アブソリュートポジションN352W601E638S546。
ポジション確認。
アブソリュートタイムB1864537年31時55分29秒。
西暦変換しますと1552年5月17日7時3分18秒。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー834652これから記録を開始します。
沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて名もなき人々を記録していくタイムスクープハンターである。
山道を急ぐ一人の男がいる。
彼はある任務を託された武士である。
時は戦国。
各地で大小の紛争が繰り返され社会は混迷を深めていた。
危険と隣り合わせの戦闘地域。
敵地に乗り込む武士に私は密着取材を敢行した
この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっておりお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
男の名は島木三郎太。
若い武士はある重要な任務を任されていた
人目を避けながら目的地を目指す。
山に入ってから3時間がたとうとしている
ちょっとよろしいでしょうか。
何用かな?いや…
三郎太が仕えているのは山奈家。
半年前山奈家の同盟国である武永家と木戸家との間で戦が勃発した。
大軍で押し寄せた木戸軍に劣勢となった武永軍は後退。
城に立て籠もる。
籠城戦となって既に3か月。
敵に包囲されたまま完全に孤立している状態だった。
城が落ちるのは時間の問題と見られた。
武永家を救うため山奈家は三郎太に手紙を託していた
もうよいであろう。
あっはい。
城の周りは敵が支配している。
その間をかいくぐり城へ入り込むのは極めて難しい。
そこで三郎太は矢文を使う事にした。
矢に手紙を結び付け弓で射る。
遠く離れた相手に送り届ける方法である。
戦場で矢文を使った記録は数多く残っている。
関ヶ原の合戦における大垣城では籠城中の山田去暦一家に向けて脱出を促す矢文が届けられたという
茂みを抜ける。
すると三郎太の足が止まった
はい。
眼下には町があった。
城に近づくにはどうしてもこの町を通り抜けなければならない
三郎太は狩人に変装していく。
これならば弓矢を持っていても不審には思われない
はい。
斜面を下りて慎重に町へ近づいていく。
私はカムフラージュ機能を作動。
三郎太に同行する事にした。
至る所に敵兵の姿が。
更に兵士たちを商売相手にした行商人や遊女たちの姿もある。
町は完全に木戸軍に占領されている。
三郎太を不審に思う者はいない。
無事町の外れにさしかかった。
だがその時だった
兵士たちに呼び止められる
(三郎太)よろしければお安くしておきます。
お前は誰だ?何だこれは。
いや私は…。
執拗に絡んでくる兵士たち。
三郎太が必死に取り繕う
ここででございますか?
そして…
見破られた!
追い詰められた三郎太が強行突破
隙をついて路地裏に入る
一緒に空き家に逃げ込む
・
(木戸兵)どこへ行った!?
なんとか敵兵をやり過ごす。
だが…
三郎太は腕から大量の出血。
先ほどの乱闘によるものか腕を斬られていた
行くぞ。
はい。
痛みをこらえ空き家を出る。
まずは町を脱出する事が先決だった。
計画を切り替え城の裏側茂みの中から矢を放つ事にした。
城までは想定していたよりかなり距離がある。
だが選択の余地はなかった。
速やかに矢文の準備に入る。
その間にも腕からの出血は止まらない。
状況は芳しくない
手紙を矢に結び付ける
狙いを定めて弓を引いた。
がその時だった!
敵兵からの矢が頭の上を…。
身を低くしながら後退した
現在敵からの攻撃を受けてます。
木の陰に隠れて態勢を立て直す。
腕から流れ落ちる血で手が滑る。
手紙を結び直し再び矢文をセットする。
そして…
無念にも放たれた矢は木に阻まれてしまった。
敵兵が近づいてくる
三郎太の出血は止まらない。
苦しそうだ。
更にニューロ粒子が微弱で本部との通信も遮断。
カムフラージュ機能もダウンしてしまった。
最悪の状況!
大丈夫ですか?
前方に敵兵の姿が…
矢文が見つかってしまった
私はモスキートカメラを放って彼らの動向を探る事にした
敵に内容が知られれば全ては水の泡となる。
作戦は失敗に終わろうとしていた。
しかし…
手紙は血に染まり読めない。
血だらけの手で手紙を矢に結んでいた事で逆に救われる結果となった
(木戸兵たち)おう!
不意打ちを食らった。
とっさに三郎太は敵に飛びかかる
そして…
全速力で走り抜け敵兵をまく
その腕で…。
そんな事をしたら敵兵に見つかってしまいます。
それは決死の行動だった。
できるかぎり城に近づいて矢を放つつもりである
知らぬぞ。
私は危険を覚悟で彼の姿を最後まで見届ける事にした。
三郎太は森を抜け出た。
辺りを不気味な静けさが覆う
そして…。
午後5時36分。
矢は城の内部に吸い込まれていった。
果たして矢は無事武永軍に届いたのか?とその時だった
(木戸兵)おい!
私の存在に気付いた敵兵が襲いかかってくる。
本部に連絡を取るためニューロ粒子が検知できる場所を探し森の中を走り回る。
そして…
こちら沢嶋。
本部応答願います。
はいこちら本部古橋です。
沢嶋さんどうしました?緊急にワープを要請。
お願いします。
これから座標を入力します。
了解しました。
ワープ準備に入ります。
カムフラージュ機能をオフにします。
了解。
あっ!
(五郎兵衛)おのれ何者だ!?沢嶋さん沢嶋さん応答願います。
はいこちら沢嶋。
そちら異常ありませんか?大丈夫です。
無事タイムワープできたようです。
沢嶋さん何度も言いますがむちゃな取材はやめて下さい。
すいません。
機材トラブルもありませんしこれから取材を続行します。
くれぐれも気をつけて下さい。
分かりました。
私がタイムワープした場所は4時間前の城の敷地内だった。
状況が変化し私は矢文を送る側受け取る側双方の視点から取材を行う事にした。
三郎太が矢文を放った瞬間から4時間前に遡り城の中の状況をカメラに収める。
長引く籠城戦で凄惨を極めていた。
村から逃げ込んだ村人や兵士たちケガのためか飢えのためだろうか生きているのか死体なのか見分けがつかない。
とその時…
ちょっと待って下さい。
城は味方からの救援を待っていた。
ところがこの城の城主武永経房は既に覚悟を決めているようだった
と言いますと?敵から…。
敵からの矢文が届いていたからだ。
降伏を勧告する最後の通告である
戦国時代城を包囲している軍から城内に降伏を勧告するために矢文を使う事はよくある事だった
となれば…
(兵庫)何たる仰せか。
ではいかがせよと申すのじゃ。
さような事はございませぬ!いかな事があろうと…とは申せ…
籠城して3か月。
既に限界がきていた。
これ以上籠城を続ければ家来たちそして城に逃げ込んだ村人たちが全滅となる
武永は覚悟を決めた
兵庫。
開城…。
御意。
僅かな食料が生き残った人々に振る舞われた。
戦国時代の城は軍事目的に造られた要塞である。
敗戦が濃厚になった時に籠城して味方の救援を待つ拠点でありまた地域の住民たちにとっては最後の避難場所になっていた
武永経房が兜を脱いだ。
自害する準備に入る
つつましやかに水杯を交わす武永と奥方
武永は開城の旨を矢文に託し射る事にした。
城内の人々を救うため自らの首を差し出す覚悟だ。
城主の夫に付き添う妻。
そして侍女たちも共に死を覚悟した
はい。
はい。
(兵庫)はっ。
武永から矢文を託された島木兵庫が本丸を出る。
私は彼らの最後の姿を見届けるべくマイクロカメラをセットした。
兵庫は弓組頭を伴って城壁に向かう
矢文が準備されていく。
殿と女性たちは一斉に刀を抜いた
この一本の矢文が放たれれば武永軍は全面降伏する事になる
しかし…
三郎太の矢文だ
殿!殿!殿!殿!なに?いかな事じゃ。
なんと…。
(武永)兵庫!さような事をされては…島木様!島木様!
兵庫は矢文を取るため屋根の上に上る事に。
だがそれは命懸けの行動となる。
屋根の上は敵の格好の標的となってしまうからだ
なんとか矢文を手にした
だが…
(武永兵1)島木様!
(武永)兵庫!兵庫!兵庫!兵庫…。
(武永兵2)島木様…。
(武永)しっかりしろ兵庫。
三郎太が放った矢文。
そこに書かれていたのは…
とその時だった
地面から顔を出した黒ずくめの男。
森から地面を掘り進んできた山奈軍からの特殊部隊だった
(兵庫)疾くお逃げ召されい…。
すぐに脱出を開始する
(山奈兵)急ぎましょうぞ!
(武永)急げ!急げ!急げ!皆急ぐのじゃ!兵庫!兵庫しっかりせい。
城の内部までトンネルを掘る作戦の記録は数多く残っている。
特に甲斐国武田の金堀衆は有名でありもぐらのように地下道を掘り進み城に攻め入ったという
殿…ならぬ!ならぬぞ兵庫。
(山奈兵)早く参りましょう。
兵庫…。
(山奈兵)武永殿!すまぬ…。
(山奈兵)武永殿。
生き残りの人々全ての脱出を完了させた。
そして…
それは忠義にあつい兵庫の最後の務めだった。
敵の総攻撃が迫っている。
日没まであと僅か
兵庫は最後の力を振り絞り一人誰もいなくなった城で穴を埋め続けていく。
たった一本の矢文。
それにはたくさんの人々の命が関わっていた。
今回の取材で命懸けで生命をつなごうとする人間の壮絶な姿を見た。
彼らが歴史の教科書に載る事はない。
だが名もなき人々の命が歴史を作っていったのは事実である
以上コードナンバー834652アウトします。
2015/10/28(水) 01:55〜02:25
NHK総合1・神戸
タイムスクープハンター セレクション「極秘任務 矢文を放て!」[字]
「タイムスクープハンター」のアンコール放送。時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤)は戦国時代、「矢文」密書を矢で射る一人の武士に密着取材を行う。
詳細情報
番組内容
戦国時代、情報伝達の手段として密書「矢文」が用いられる。敵方に城や陣地を包囲されている場合や遠方にいる味方に援軍を依頼する目的で使われた。もし、密書が敵方の手に落ちれば、作戦は筒抜けとなる。矢で射る一通の密書「矢文」が戦の死命を握る。山奈家の家臣、三郎太は同盟を結ぶ武永家を救うための矢文を主君から託されていた。狩人に化けて、敵の木戸軍が占領する町に侵入する。だが、正体が暴かれて、絶体絶命の危機。
出演者
【出演】要潤,杏
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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